またもや「デマとしての」です。

ツイッターに、「国連で女子高生が『制服じゃなくて着ていく服の自由がほしい』というスピーチを特別にしたとき、ロシア代表から『あなた方は制服を着れるすばらしさを理解した方がいい。世界には着る服すらない国がたくさんあるのだから』という返答があったらしい」という書き込みが出まわっているそうです。ブログ「香港ボロ株ウォッチング」さんがこれを追跡して、どうも事実とは異なるようだとの興味深い記事を書いていらっしゃいます(もとは
こちら)。それによると、話は1998年にさかのぼります。ずいぶん息の長い都市伝説ということになります。

「子どもの権利条約」は、アメリカとソマリアをのぞく国連加盟国が批准していますが、締約国は国内の子どもの権利状況について、国連の「児童の権利に関する委員会」に報告し、勧告をうけることになっています(ユニセフのページがわかりやすくまとめています。こちら)。ツイッターの都市伝説は、その1998年の日本の予備審査で、政府とならんでNGO枠で出席していた高校生と委員のあいだのやりとりに端を発しているようです。

その直後、6月18日号(11日発売)の「週刊文春」がこれを取り上げた、これに荒巻・京都府知事が15日の府議会で言及しました。すこし長いのですが、知事の発言を「香港ボロ株ウォッチ」さんからたどって議事録から引用します。

ちなみにこの6月18日の週刊文春に載っておるわけでございますが(資料提示)、例の桂高校の制服の問題を国連の児童委員会に訴えに行った子供たちの話を聞きまして、国連の委員たちがみんなあっけにとられたと。そしてロシアのコロソフ委員は『我々の国では制服があっても貧しくて買えない子供がいる、それに比べたらあなた方は格段に幸せだ』と皮肉ったり、あるいはスウェーデンのパルメ委員長からは『スイスに来て意見が言えること自体が恵まれている。問題があるならまず親や周辺にアピールすることが重要ではないか』、このように言われたそうでございまして」(もとはこちら

知事の答弁は、この時知事が手にしていた週刊誌の記事をなぞっていると見ていいでしょう。この記事は、広島県議会でも取り上げられたそうです。そんなふうにこの話は広まり、今もなおツイッターなどを介してインターネットを飛び交っている、ということのようです。98年当時、国連の委員会で発言した高校生たちはずいぶん非難されたようで、その年の12月に来日した委員長は、「発言を改めて称讃し、『心ないメディアが彼らをおとしめた』ことに憤りを表明した」(読売新聞)そうです。

国連委員会でいったい何があったのか。「ボロ株ウォッチ」さんは国連のサイトをさぐり、「校則」についての日本政府の見解を見つけます。それによると、校則などの学校生活にかかわる決定権は学校にある、とされていて、これにたいして高校生たちは、意見表明だけで決定に影響を及ぼせないなら意味がないことの一例として、制服の問題を挙げたのではないか、と「ボロ株ウォッチ」さんは推測しています。

推測というのは、これは非公開の予備審査でのことだからです。そこで、委員からいろんな意見が出た。おそらく、制服が着られるのは幸せですね、というような意見も出たのでしょう。それを即刻、「週刊文春」にリークした何者かがいたということです。NGO側の出席者だとは、ちょっと想像できません。日弁連も入っているのですから。そして国連委員会の日本への所見は、「とくに学校生活において、一般の子どもたちが参加権を行使するうえで困難に直面していることを、とりわけ懸念するものである」としていて、委員たちは制服の例を持ち出した高校生たちのプレゼンテーションをもっともだと受けとめたことがわかります。

それが、日本にはまったく逆の意味で伝わり、その方向で地方議会で取り上げられ、来日した国連の委員長が不快感を表明するほどの騒ぎになったのです。たしなめられたのは高校生たちではなく、子どもたちの意見表明権、自己決定権を否定したいがために、国連委員会のお墨付きが出たとの間違った情報を流し、それをうのみにし、ふりかざしたおとなたちだったのです。「ボロ株ウォッチ」さんの言うように、立場を利用して情報を歪曲したうえでリークすること、それをメディアが広めることの弊害をまざまざと見せつけられる思いです。

意見表明権と自己決定権は、子どもの権利条約のなかでもきわめて重要な権利だと、私は思います。94年の日本での発効からすでに16年もたっているのに、子どもの権利など認めたくないおとなたちが子どもたちの頭を押さえつけている、そんな現実があるから、ツイッターの都市伝説は今もなおリアリティをもって流れ続けているのではないでしょうか。

ここに、子どもを取り巻く日本社会の病理があるのかもしれません。おとなはよく、日本の子どもの目は死んでいる、と言いたがりますが、もっと問題の根幹を見据えるべきです。ユニセフのインノチェンティ研究所が行った「金持ち国の子どもの幸せ度調査」で、日本の子どもたちがダントツに不幸だと感じているという結果が出たことは、また機会があったら取り上げます。

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