ウィキリークスのジュリアン・アサンジュ氏が、7日、イギリスで逮捕されました。出頭の意向が伝えられていましたから、もしかしたら出来レースの逮捕だったのかもしれません。これで一安心です。各国がアサンジュ・アサシン(刺客)を放っているからです。保護を求めるなら、スコットランドヤードのほうが、FBIなんかよりもちろんいいでしょう。

アサンジュ

容疑が性犯罪とは笑わせてくれます。と言うのも、身近に同様の経験をしたことがあるからです。2003年2月に星川淳さんたちと語らって、元国連イラク大量破壊兵器査察官スコット・リッターさんをアメリカからお呼びした時のことです。来日直前、リッターさんにCBSの「60minutes」という超メジャーな報道番組から急に出演依頼が来たのですが、そこで根掘り葉掘り聞かれたのも、とっくに決着がついている未成年にたいする性犯罪だったのです。この件には、「被害者」は警察の囮(おとり)で、未成年ではなかったという落ちもついています。リッターさんも脇が甘い、大甘なのですが、それでもアメリカの法律では犯罪になるらしく、リッターさんは、事件は公表しないという条件で司法取引に応じたのでした。テレビでも、事件については口外できない、と堂々と切り抜け、危ぶまれた訪日もスケジュールどおり実現しました。

S.リッターブッシュ政権は、イラク攻撃に「不都合な真実」を公言してはばからないスコット・リッターの社会的信用を失墜させ、あわよくば日本に行かせまいとして、三大ネットワークのひとつをつかって姑息な妨害を試みたのです。(これに引っかかったジャーナリストがいました。「こんな前歴の人の言うことは信用できない」と、シンポジウムへの賛同をとちゅうから断ってきました。今は議員バッジをつけておられます。)

イラクには世界をおびやかす大量破壊兵器はない、自分たちが工場ごと95%は破壊したから、とイラク開戦前夜に証言していたリッターさんは、当時のある週刊誌による「ブッシュが最も恐れる男」という表現が嘘ではないことを、このテレビ出演で思い知りました。そして来日中、リS.リッター本ッターさんが「不慮の事故」に遭遇するのでは、と震え上がりました。それで急遽、外国人VIP専門の警備会社に依頼して、アメリカ人ボディガードを2人つけました。おかげで、移動のためのレンタカーは大型のボックス型に変更するやら、思いの外費用がかさみましたが(100人村基金を充てました)、幸いなにごともなく、リッターさんは1週間、テレビ、新聞、週刊誌を席捲して日本をあとにしました。あの頃は、生身の人間が公開情報を自身の経験に基づいて分析し、事実をつきつける、という告発の仕方しかありませんでした。それがもはや無効というわけではまったくありませんが、ウィキリークスの登場した今、昔日の感があります。(一度だけ開いたシンポジウムの記事と写真はこちら。あまり中身はありませんが)。

あの時、私は、このくにの世論がおおきく動くのをその震央で感じていました。与党議員も合計50人ぐらいはリッターさんの話を聞いてくれたし、政府がアメリカにいい助言をしてくれるかもしれない、イラク戦争を回避できるかもしれないと、本気で思ったものです。私も悪い意味でナイーブでした……。

権力は、つごうの悪い人物の評判を貶めるために、性犯罪者のレッテルを貼るのです。政治的性犯罪です。小泉改革に疑義を呈して、エスカレーターでちいさな鏡を手にしたことで逮捕された評論家もいました。でももしかしたら、スウェーデン政府はアサンジュ氏保護のために、権力の常套手段である性犯罪容疑をわざとつかって、国際手配したのかもしれません。まあ、そんな可能性は低いと思いますが、もしもそうだとしたらチャーミングです。この容疑は冗談とすぐ分かりますので、世界中のウィキリークス支持者たちに受けるでしょうから。

ウィキリークスは、知る権利のために擁護されるべきジャーナリズムなのか、という議論があります。これは今後、検証していく必要があるでしょう。検証するのは私たち市民です。ついでにこの際、日本の調査捕鯨船関係者がクジラ肉を横領していることをあばくために現物を持ち出した、グリーンピースのクジラ肉裁判のことも思い出していただきたいものです。一審は有罪で、即刻控訴となりました。ウィキリークスがいいなら、あの「窃盗」も公益性の観点から、称讃されこそすれ、犯罪に問われるのはおかしいのではないでしょうか。

面白いことに、ウィキリークスは内部にかつて世界の高級紙で仕事をしていたジャーナリストを擁するだけでなく、入手した情報を信頼できる外部のメディアに検証してもらってから公開するのだそうです。アメリカはニューヨークタイムス紙です。それで、ニューヨークタイムス紙は米政府から、ウィキリークスとの関係を疑われています。政府ときちんと距離を保っているジャーナリズムだと、ウィキリークスが認定しただけなのに。イギリスはガーディアン紙です。あと、ドイツのデア・シュピーゲル誌、フランスのル・モンド紙、スペインのエル・パイス紙が、ウィキリークス認定ジャーナリズムです。

日本情報がまとまったかたちではなく、アメリカ情報のついでのようにしか出てこないのは、日本には検証を任せられる信頼性の高いジャーナリズムはないと、ウィキリークスが判断しているからだ、という噂には笑えません。日本には御用ジャーナリズムしかないと見られている、ということだからです。「東京新聞いかがでしょうか、琉球新報と沖縄タイムスもありますけど。ニューヨークタイムスだって地方紙でしょう」とウィキリークスに言えたらなあ、と思います。ともあれ、ウィキリークスの登場によって引導を渡されると思われていた現存ジャーナリズムですが、むしろウィキリークスは信頼できる新聞による検証なしには活動しないし、できないのだ、ウィキリークスはテレビではなくやはり新聞を選んだのだとわかって、面白いと思いました。

私は、ウィキリークスにはじゅうぶん公益性があると思います。スティーヴン・クレモンスさんは、リーク情報は周知のものばかり、たいしたことではない、と言います(こちら)。専門家はそうかもしれないけれど、一般市民はそうではありません。たとえば、IAEA(国際原子力機関)の事務局長に日本の人が就任した時、私が世界平和七人委員会で「よかったですね」と言ったら、しらっとした反応が返ってきました。天野之弥氏がいかなる人物か、長年、反核のために活動してきた核物理学の専門家には知れ渡っていても、私のような生活者までは伝わらないのです。また、ウィキリークス情報は誰でも閲覧できるとは言え、それをしようとするとなかなかたいへんです。おおかたは新聞によって知ることになり、ここでも新聞はおおきな役割をもっていることになります。各紙に「ウィキリークス部」ができるかもしれません。

ウィキリークスと、検証や調査報道を得意とする(はずの)新聞ジャーナリズムは、持ちつ持たれつのうちに緊張関係を維持して、新しい情報空間を開いていくのでしょうか。ウィキリークスがんばれ、新聞がんばれ、と言いたいと思います。そして、いくつもの新聞を比較することで、ウィキリークスが、そしてウィキリークスを巡って新聞ジャーナリズムがちゃんと公益のために仕事をしているかを点検し、判断するのは、しつこいようですが、私たち市民です。



おとといの記事「トイレにはそれはそれはイケメンの神様がいるんやで♪」はなぜ「音楽」にカテゴライズされていないのか、というDMをいただきました。ほんとだ、気づかないままに、「社会・世界情勢」のカテゴリに入れていました。私はあれを音楽耳では聞いていなかった、ということです。「音楽」のカテゴリを覗いてみたら、オペラのほかにはマイケル・ジャクソン、中島みゆき、知久寿焼、COCCO、スコット・マーフィー、ジョン・レノンが入っていました。そう、こういうのを歌というんですっ! 私の音楽耳の周波数帯はかなり偏っていると自覚はしていますが、それがとらえる音楽は、もちろんこれだけではありません。XTCやビーチ・ボーイズやケイト・ブッシュやフレディー・マーキュリーやビリー・ホリディについても、追い追い書ければと思っています。名前を挙げただけでよよと泣き崩れてしまう私は、やはりかなり偏向しています。

久しぶりにスコットの「ドラえもんのうた」を聴こうと思ったら、youtube から抹消されていました。まあね、仕方ありません。ほかのはまだ聞けます。「どんなときも。」は、何度聴いてもやっぱり本家よりいいと、私は思います(こちら)。

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