ウィキリークス(WL)の出現によって、メディア状況も政治状況も、官僚機構や企業経営のあり方も、一変せざるを得なくなりました。公表の時期を見計らわなければならない情報や、ぜったい表沙汰にはできない情報はつねに存在しますが、それがいつ暴露されるか、わからなくなったのです。そうである以上、あらゆる組織には、いつどんな機密がリークされても被害を最小限に食いとどめ得る備えが求められるようになりました。これからは、情報リークのダメージが少ない組織、すなわちできるだけガラス張りの運営ができる組織が有利になる、ということです。また、バレても、隠していたことを含めて、納得をとりつけられるようなことしかできなくなった、ということでもあります。

いっぽうで、機密がバレた時、それを機密扱いにしたことを許容するか、どのようなものが許せない機密であり、許容の範囲はどうあるべきかといった、新しい機密リテラシーとでもいう素養が、私たちに求められることにもなります。ともあれ、この前代未聞の状況では、情報を機密化することによる少数者の多数支配(官僚支配)や人心操作(マスメディアによる世論のミスリード)はますますやりにくくなる、沖縄返還交渉のようなことも、謀略による戦争開始も、これまでよりはやりにくくなる、と希望的観測をしておきます。

WLが分派し、また同様のリーク・ジャーナリズムが世界中に雨後の竹の子のように出現するのも、時間の問題になりました。これはいいことです。それを説明するのに、ちょうどいい例があります。「Veterans Today」紙は、アメリカの退役軍人対象のネット新聞です(同じようなネット新聞は、ほかにもたくさんあるのでしょう)。同紙は、911にはアメリカ政府に入り込んだユダヤ勢力が一枚噛んでいるが、WLはそうした情報は出さない、なぜならアサンジュ氏の背後にはイスラエルがいるからだ、との論陣を張っています(こちら

もしもそうだとしたら、いくらWLが隠しても、ほかにいくつもリーク・ジャーナリズムがあれば、どこかがその情報を出すはずです。まさか、リーク・ジャーナリズムのすべてにイスラエルの息がかかっている、なんてことはないでしょうから。これが、リーク・ジャーナリズムが複数あることの利点です。そのうちのどこが信頼をかちとるか、それなりの数が出そろったところで淘汰が始まるでしょう。その過程では、いわゆるガセネタがジャーナリズム空間を騒がせることもあるでしょう。新聞ジャーナリズムが発足当時、あることないこと書き立てたのと同じです。WLが、信頼できると判断した各国の高級紙と協力する体制で出発したことは、ですから賢い選択でした。

リーク・ジャーナリズムは、機密をめぐる市民の論争に、証拠や傍証や状況証拠を提供する可能性もあります。たとえば、先に挙げた911です。これにかんするアメリカ政府の調査は根本的におかしい、と主張する人びとは、「INSIDE JOB」というロゴを配したTシャツを販売していることからすると、911をアメリカ政府の内部犯行とする見方に傾いているようです。もしもその主張が正しければ、この「陰謀」にはそれこそおびただしい人びとが関わっているでしょうから、晩かれ早かれ情報がリーク・ジャーナリズムに持ち込まれずにはいないでしょう。あの事件をきっかけに始まった戦争に疑問や苦痛や怒りを覚え、いたたまれなくなるインサイダー、内部関係者がひとりでもいるという蓋然性のほうが、そういう人がたったのひとりもいないという蓋然性より高いと推測できるからです。

WLが知られるようになって以来、いつまでたっても911内部犯行説を裏付ける機密情報の片鱗たりと出てこなかったら、この論争は終息に向かうだろうと注視していました。そして、そろそろその時がきたかな、と思っていたら、北アイルランドの「ベルファストテレグラフ」紙に、「CIAのお尋ね者ジュリアン・アサンジュ ウィキリークス創始者」というインタビュー記事(
こちら。2010年7月19日付)が載っていて、そこでアサンジュ氏が911について語っている、と大阪大学の菊池誠さんが教えてくださいました。記事によると、アサンジュ氏は、911陰謀説を false と即座に否定した、というのです。false は、「誤った、誤解に基づいた、虚偽の、不誠実な、根拠のない……」といった意味です。「トンデモ」と訳すのがぴったりくるでしょう。ご参考までに、記事の当該のところを訳しておきます(ニュアンスを含めて、間違いもあるかも知れません)。

『人の秘密に手を伸ばし、自身は秘密のベールに包む。秘密にこだわるアサンジュ氏には、陰謀論者の雰囲気がただよう。かれは陰謀論者か。「じっさい、陰謀はいろいろあると思う」アサンジュ氏は、ゆっくりと言葉を選ぶ。「権力者たちは、四六時中、秘密裡に計画を練っている。陰謀をあやつっているということだ。世界は陰謀だらけだが、正気とは思えない陰謀論もあって、このふたつを混同しないことが重要だ。一般に、陰謀のじゅうぶんな証拠があれば、それは即、ニュースになる」
911はどうか。「人びとが911のようなトンデモ陰謀説ですったもんだしていることに、ずっといらいらしている。戦争や経済的不正行為のほんものの陰謀をしめす証拠なら、私たちが山ほど公表しているというのに」ビルダーバーグ会議はどうか。「人脈から、なんとなく陰謀のにおいがする。私たちは、かれらの議事録を表に出した」』

いかがでしょうか。あなたはアサンジュ氏の言葉から、911陰謀説に引導を渡す潮時だと判断した、あるいは判断を再確認しましたか。それとも、「Veterans Today」紙の「911・WL、イスラエル黒幕説」はひとつの興味ある視点だと思いましたか。これは、私たち一人ひとりが見極めをつけなければなりません。いやはや、政府や大企業だけでなく、私たちのメディア・リテラシーにとっても、なにかとしんどい時代になったものです。でも、それは民主主義を担保するコストです。組織も私たちも、タフになるしかありません。


     ******911討論会関連企画のご案内******   
       ****詳細はわかり次第、お知らせします****
        *****変更の可能性もあります******


2月6日(日) 
『映画「ZERO」(公式サイトはこちら)鑑賞会』(詳細未定)
【上映館】 テアトル梅田(こちら) 上映後、交流会の予定あり
【主催】 市民社会フォーラムcivilesocietyforum@gmail.com

3月13日(日)
『講演会』(詳細未定)
【講演者】 磯部大吾郎(筑波大学、構造エネルギー工学専攻。論文概要はこちら
【会場】 関西学院大学梅田キャンパス(こちら
【主催】 磯部大吾郎先生講演会実行委員会・市民社会フォーラムcivilesocietyforum@gmail.com

3月19日(土)
『(仮称)911事件を検証する公開討論会
             ―WTCタワー崩壊とペンタゴン攻撃を中心に―』(詳細未定)
【会場】 阿倍野市民学習センター講堂(こちら
【主催】 市民社会フォーラムcivilesocietyforum@gmail.com  
【プレゼンテーター】 きくちゆみ(ジャーナリスト、翻訳家、「ハーモニクスライフ」主宰者)、西牟田祐二(京都大学、経営史・経済史専攻、「911の真実を求める日本の科学者の会」共同設立者)、菊池誠(大阪大学、学際計算統計物理学専攻、「ニセ科学フォーラム」実行委員)
【コーディネーター】 西谷文和(ジャーナリスト)、池田香代子(翻訳家)
  
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