以前、私たちの命はうっすらと軽くなった、と書きました。その状況は変わりません。むしろ確実に悪化しています。福島第一原発から大気中に放出される放射性物質は、少なくなってきているとのことですが、地表に累積していることに変わりはありません。風がどう吹くか、雨が降るかによって、いつどこに降下するかもわかりません。私たちは、気がついたら望みもしないのにロシアンルーレットをやらされていたようなものです。

しかも、原発サイトの状況は予断を許さず、もしかしたらいまこの瞬間に最悪のゲームオーバーの瞬間が訪れているかも知れない、そんな時々刻々を私たちは過ごしています。それにたいして備えるには、唯一、今のうちに300キロ以上離れるしかないのですが、多くの人びと同様、私はその最善の選択をしていません。

突発事としてもっとも心配なのはさらなる地震です。スマトラ沖は、2004年12月に大地震が起きたあと、マグニチュード7以上だけでも去年まで7回も大地震に見舞われています。2回目は05年3月、1回目から3カ月後です。プレートの動きが活発化しているためですが、東日本大地震もプレート型の地震です。スマトラ沖のように、梅雨のころにも大きな地震がふたたび被災地を襲わないとは、誰も断言できません。1号機の「水棺」は、大量の水の震動に耐えきれるでしょうか。2号機3号機の圧力容器はさらなる破壊が進まないでしょうか。4号機の燃料プールはもちこたえるでしょうか。そしてどの機も爆発など起こさないでしょうか。私は東京に住んでいますが、少し揺れるだけでも、どきっとする毎日です。

万が一そうなったら、200キロ圏はどこであれ、原発事故を扱ったドイツ映画「みえない雲」さながらの阿鼻叫喚の巷と化すやも知れません。けれど、逃げまどう私たちはまだましです。その時福島第一の現場に入っていた人びとは、逃げることもかなわないかも知れないのですから。当然、津波も襲うでしょう。なのに東京電力は、いまだに仮の防波堤をつくろうとしません(土嚢で対処と言っていたのですが、仮設防波堤をつくることになったそうです。12:41加筆)。

前に、福島原発専属産業医の谷川先生の尽力で、ようやく作業にあたっている方がたの自己末梢血幹細胞採取が行われることになった、と書きました。ところが愕然とすることに、まだ行われていないのです。東電も政府も、いまだその必要を認めていません。大量被曝など、万が一にもないからだそうです。この人びとは、このたびの事故から、絶対はないということを学ばなかったのでしょうか。

谷川先生はこのプロジェクトについて、イギリスの臨床医学専門誌「ランセット」に意見書を送りました。すると、「編集部は尋常ならざる対応を取った。投稿の即日に論文を受理したばかりか、通常の掲載枠の3倍以上のスペースを用意したうえ、直ちに校正に入り、我々が返信を返すや否や同雑誌ウェブサイトのトップページに写真入りで掲載した。通常の医学論文の発表には数ヶ月から年単位の時間を要することを考えると、編集部の並々ならぬ意気込みが我々にも伝わった。おまけに全世界のメディアに向けたプレスリリースまで発信してくれた。

権威ある医学雑誌からのプレスリリースにより、我々の主張はまさに全世界のメディアで報道された。ロイター、AFP、ニューヨークタイムズ、ル・モンド、ガーディアン、LAタイムズなどなど欧米のメディアは勿論のこと、中国、韓国、インド、台湾、タイやブルネイからイスラム圏のメディアまで報道は広がった。雑誌タイムなどからの直接取材もあり、夜中にほろ酔い状態の中、覚束ない英語で電話インタビューまで受けるはめになった。世界随一のがん専門病院であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのチャンプリン博士や、移植治療の世界的権威であるイスラエルのスレイビン博士らも我々にメッセージを寄せてくれた。」(谷川修一)

そして、ヨーロッパ骨髄移植学会が、日本だけで無理ならヨーロッパの50施設が協力すると表明している、と伝えてきました。もちろん国内でも119の医療施設がつとに協力を申し出ています。そのくらい大きなプロジェクトであり、そのくらい国内外の医療関係者が憂慮する事態であり、だからかれらは手ぐすね引いて出番を待っているのです。

なのに管総理は3月25日、原子力安全委員会の言い分をうのみにして、自己末梢血幹細胞採取を却下しました。その言い分とは、作業員にこれ以上の精神的・身体的負担をかけないためであり、国際関連機関の合意がないからであり、国民の十分な理解がないからだそうです。いちいちにはらわたが煮えくりかえります。事実とまっこう反するからです。現実をまったく見ていないからです。

谷川先生によると、「累積被曝線量が100mSvを超える当たりから白血病発症リスクが上昇し始め、早い人では2年目頃から白血病が発症してくる」のだそうです。福島第一原発からは、現場ではない免震重要棟に詰めていた女性が限度を超えて被曝したとか、作業員21人の外部被曝が100mSvを越え、内部被曝を合わせると2人は上限の250mSvに迫っていたとか、背筋が凍るようなニュースが伝わってきます。

しかも、現実はもっとひどいらしいのです。新聞テレビしか見ていないと、すべての作業員にせめてきちんとした被曝管理だけは行き届いているかのような印象をうけるのですが、内実はそうではないらしい。今回、鋭く切り込んだ報道をしているのは週刊誌ですが、「フライデー」(5月13・20日号)にこんな記事がありました。

『福島第一原発で10年近く働く下請社員の話。「普段は…口うるさく注意するのに、事故が起きてから作業員は野放し状態です。…被曝量を測る保護官は『大丈夫ですよ』『少し高いかな』と言うばかり。俺たちは、自分たちが浴びた放射線量さえ教えてもらえないんです。」』

『福島第一原発で15年以上働く人の話。「4月上旬になって、ようやく『ホールボディカウンター』(体内の内部被曝量を計測する機器)が復旧しました。でも私たち作業員は、なかなか受けられない。東電や元請けの社員が優先され、順番が回ってこないんです。」』

これが事実としたら、許されないことです。長くこの原発で働いているということは、これは地元の方がたでしょう。つまり、被災者でもあるということです。最近、青山繁晴さんがサイトを映像取材したことが話題になっています。人びとを「モラル高く仕事している」「混乱はない、冗談を言い合い、励まし合っている」とほめ称え、所長を「かっこいい男の中の男」と賞賛しています(
こちらに25分の動画があります)。もちろん、そうなのでしょう。そして、驚くべき取材です。けれど、そこで働く人びとの本音やかれらの実情に分け入るという関心は、青山さんにはありません。まるで昔の従軍記者のような高揚からは、これを見た人が現場を美化し、人びとを英雄視して事足れりとしてしまう危うさを感じました。「フライデー」をかたわらに置かなければ、見方が一面的になってしまう、と思いました。

谷川先生は言います。「事故から40日以上経過したにもかかわらず、作業員の食事はいまだにレトルト食主体、入浴は介護用の拭き取りや水なし洗髪、休養、睡眠などの劣悪な生活環境に加えて、ずさんな累積被曝線量や内部被曝測定のwhole body counter検査が行われていなかった実態も既に国民は知っている。被曝量がわからないなら500mSy相当の被曝で起こりうる白血球減少に備えた血液検査は定期的に実施すべきだがこれも行われていない。被災者の生活支援に一瞬の遅延があってもならないことは当然として、放射能の恐怖と闘いながら原発事故収束のため日夜努力されている作業員の生活や健康管理が二の次だと思っている国民はもはやいまい」(もとの記事はいずれ
こちらに掲載されます)。

ほんとうにそうだと思います。まとまらない上、尻切れトンボになってしまいました。あした、できれば続きを書きたいと思います。

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