なのに、いつからこうなったのでしょう。かけてきた方はほぼ全員、「池田さんですか?」と切り出します。気味の悪い電話ではなくても、これは堪えます。固い声で、「どちらさまですか?」と聞き返すことになります。
かつてはかけた側が、「○○ですが、○○さんのお宅ですか?」というように、自分から名乗ったものだと記憶します。自分のつごうで相手がなにをしていようがそれを中断させ、いやおうなく電話口に出させるのですから、かける側がまず名乗るのが礼節というものだ、という感覚が、今より共有されていたように感じます。間違っていたらたいへん、という思いから、まず先方を確かめる、という気遣いはわかりますが、私のような古い人間は、こちらにまず名乗らせるなんて、と思ってしまいます。路上で突然、顔を隠した人から、「おいっ、池田!」と呼び止められたような気がして、どっと疲れてしまいます。
私は、こちらから電話をかける時は、「池田と申しますが、○○さんのお宅ですか?」と訊ね、「そうですが」というお答えをいただいてから、「いつどこでお目にかかった○○の池田です」と、やや詳しく自己紹介することにしています。のっけから自己紹介を長々とやるのも、相手をじらせてしまう、と思うからです。
外国の映画などでは、かかってきた電話にいきなり「○○です」と自分から名乗っています。このくにでも、事業所なら、かかってきた電話に「○○社です」と応えます。もしかしたら、今はそれが個人にも広がっているのでしょうか。かかってきた電話になんの抵抗もなくみずから名乗る人が主流を占めるなら、私の感覚がずれているのでしょうか。古い、あるいは狭量なのでしょうか。
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