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「水瓶に目高と水草をお勧めします。睡蓮鉢に目高はいいですよお。朝、じつに花らしい花を咲かせます。まさに華、睡蓮鉢は最近、タイなどの東南アジア産のが、安くて、インテリアとしてもいいものが出回っています」
「庭友」から、先日こんなメールが届いた。
目高鉢ならやっている。若き魚類研究者の「金魚はでかくなっちゃいますよ」のひとことで、これに決めた。
近所の店で、様子のいい大きな鉢を驚くほど安く買ったためだ。白地に細かい唐草模様。焼きがやや甘く、アジアの産だろうとは思ったが、なるほど、今はこういう鉢がはやっているのか。
スイレンを「水蓮」と書いているのを見かけるが、正しくは「睡蓮」。蓮も水の中に咲くのだから、「水蓮」ではこの花の性質を表したことにはならないにもかかわらず、「水蓮」という漢字のイメージはいかにももっともらしい。
だからそれでもいいけれど、やはり「睡蓮」と書きたい。昼前に花を開き、夕方に閉じる。それで「睡り蓮」。美しい名前だ。
花の小さな一種は日本に野生して、古来、未草(ひつじぐさ)と呼ばれてきた。これも床しい名前だ。未の刻、つまり午後二時に花開く草というわけだが、実物はもっと早起きなので、花はこの命名を心外だと思うかもしれない。
水面(みなも)に映える陽光に花弁をすきとおらせる睡蓮は、その形も抽象的で、咲く場所も水面すれすれという現実離れしたところなので、物質ではなくて純粋な光のみでできているのかと思わせる。ラテン名がニンファエア、「妖精花」というのもうなずける。
けれども、水辺から乾いた大地へと進出した植物の仲で、水中に留まった睡蓮は原始的なのだそうだ。
睡蓮を買うことにした。そうすれば、遠い昔、しずしずと水から上がっていく他の花々を見送る睡蓮が夢に現れるだろうか。
(伏見文夫・絵)
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