「英語屋のニュース屋」を自認する加藤祐子さんが「gooニュース」にもつコラム「ニュースな英語」(一覧はこちら)は、英語メディアで「日本」がどう扱われているかを知るうえで重宝させてもらっています。また、こちらには分からない英語の微妙なニュアンスも教えていただき、マスメディア、おもに新聞の海外ニュースが伝える「日本ニュース」とのズレも楽しんでいます(楽しんでいるばあいではないことが多いのですが)。この方、英語のニュアンスが分かると言うことは、英語に堪能、というばかりではありません。まず日本語にすこぶる堪能なのです。

最近のコラムによると、民主党代表選挙についてと言うか、小沢候補について、米英メディアがさかんにさえずっているようです。菅は気にならないけど、小沢は気になる、ということでしょうか。気になるのではなく、癇に障る、と言ったほうが近いかも知れません。と言うことは、とくにアメリカは小沢さんの「アメリカとの対等の関係」「米軍のプレゼンスは第7艦隊だけでいい」そして「辺野古は無理、もう一度話し合う」などの発言に身構えている、反攻の牙を剥いている、ということでしょう。鳩山さんへの、虚実とり混ぜ誇張したボロクソ論調を思い出します。アメリカは、アジアやロシアにじわりと重心を移すこと(アメリカからはそれだけ離れる)、海兵隊基地を従来どおりには提供しないことを掲げた鳩山さんを、なんとしても潰したかったのでしょう。そして今、小沢は鳩山路線を継承するのかと、まだ候補でしかない小沢さん潰しにかかっている。よほど「小沢総理」は困るのでしょう。菅さんは、早々にアメリカへの恭順の意をしめしたので、「愛(う)いやつじゃ」というわけで、どんな失言失態があろうとも、今のところお目こぼしです。

その菅候補について、東京新聞ったら今この時に何を持ち出すやら。9月10日付朝刊の「こちら特報部」の「デスクメモ」を全文ご紹介します。

「菅首相は、女性運動に尽力した故市川房枝氏の薫陶を受けたと自負する。その市川氏は菅氏の衆院選初陣について『私の名前を至る所で使い、私の支援者にカンパや協力を求め、私が主張し、実践した理想の選挙とは違う』旨の苦言を呈したという。利用できる者は何でも使う。政治家はみな同じか。(立)」

私も晩年の市川さんの周辺にいた方から、市川さんは菅さんの推薦人にならなかったと記憶する、と聞いたことがあります。なのに、代表戦が始まった時、菅さんは市川さんのお墓に詣でたのですよね。政治家がメディアに知らせてお墓参りするのは、われこそは故人の後継者、ということを知らしめるパフォーマンスです。やれやれ。

権力のためなら手段を問わない人間性がどっちもどっち、政策でも原発、宇宙の軍事利用、国会議員削減、はては憲法改正などなど、菅と小沢、どちらに転んでもお先真っ暗なら、せめて従米の卑屈を脱するという一点に賭けて(もう一点、天皇制見直しも!)、ここまで米英がいやがる小沢という選択もありだ、お金にまつわる古い自民党的体質で築き上げた政治力ではあるけれど、それをここでおしげなく使ってアメリカ従属一辺倒という岩盤にくさびの一本も打ってもらおうじゃないか、もしもそれで小沢がアメリカの逆鱗に触れてなんらかのスキャンダル情報爆弾を投げつけられ、失脚したのなら、それは身から出た錆だ、とする「小沢、1回きりの劇薬療法」論(たとえば精神科医の斎藤学さんなど)にも一理あるのかなあ、と思うこの頃です。

以下に、加藤さんの記事「アメリカ人は単細胞だし、イギリス人は紳士面……そんな小沢氏の『逆襲』に」(8月31日)を貼りつけます(元は
こちら)。それにしても小沢さん、これでは米英が子どもっぽい喧嘩を売られたととっても無理ありません。米英の反応にしても、売られた喧嘩への子どもっぽい言い返しではあるものの、その裏には本気で小沢を回避したい米英、もしも万が一小沢総理が実現したらどんな情報テロを仕掛けてくるかも知れない米英の姿勢が透けて見えます。それらの論評を軽妙に料理する加藤さんというすぐれた日本語遣いの文章に、私は快哉を叫びました。


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アメリカ人は単細胞だしイギリス人は紳士面…そんな小沢氏の「逆襲」に

gooニュース・JAPANなニュース2010年8月31日(火)11:00

 

英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は民主党の小沢一郎氏についてです。英語メディアでは、小沢氏がアメリカ人を「単細胞」、イギリス人を「紳士面」と公言したことを大きく取り上げ、そんな人が「逆襲」に打って出てきたぞという論調です。なかには小沢氏が首相になるのは「とんでもない」と社説で断言する主要紙まで。(gooニュース 加藤祐子)

○それは大人になるための通過儀礼?

民主党代表選がトロイカだとかトロイカプラスワンだとかいう言葉が飛び交う流動的情勢なので、以下は31日午前現在の話ということでお含み置き下さい。

それにしてもです。そもそも、いくら「もうお前たちの言いなりにはならないぞ」と言いたいからといって「だってお前の母ちゃんでべそだからさー」と言うのは、あまりにガキっぽいことだと思うのです。唐突ですが。だとするならば、「もうお前たちの言いなりにはならない」と言うために「だってあいつら単細胞だからさー」と言うのはどうでしょう?

子供が親から独立する時に、過剰なまでに親に反発したり否定したりしてみせる様子をも連想します。心理学で言うところの、いわゆる通過儀礼としての精神的な「親殺し」でしょうか。オイディプス的というか。

小沢一郎氏がどういう思惑でもって25日の「小沢一郎政治塾」で、「アメリカ人は好きだが、どうも単細胞なところがあってだめだ」と言い、イギリスを「さんざん悪いことをして紳士面しているから好きではない」と言ったのか、真意のほどは分かりかねます(またそういう、国民に真意を伝達することなどどうでもいいと思っているらしいところが小沢氏の政治家として厄介なところです)。けれどもまさかそんな、「もうアメリカの言いなりにはならない」と言いたいがためのパフォーマンスなどではなかったはずです……よね? 日本の総理大臣になろうという人が。

小沢氏の「単細胞」発言を25日のAP通信は「monocellular」とまず直訳した上で、それは「simple-minded(単純)」という意味だと。「なぜそんなことを言い出したのか不明だ」とも。

米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の記者ブログは同日、読者に向かって、小沢氏によると「アメリカ人は……覚悟はいい? 単純なんだそうだ。『単細胞(monocellular)』という意味の表現を比喩的に使って、小沢氏はそう講演した」と書いています。「決してアメリカ人は利口だと思っていないが、国民の意思による選択がきちんと実行されていることを非常に高く評価している」と、褒められているのか何なのかよく分からない発言もあったのだと。

イギリスの保守系『デイリー・テレグラフ』紙は25日、「未来の日本首相とみなされる」小沢氏が「イギリス人はきらいだ」と言ったと見出しにとり、「映画『戦場にかける橋』のイギリス人捕虜たちが整然と行進する姿は、イギリス人の最も優れた資質を表していると述べた」と書いています。

さらに、よほど腹に据えかねたのかそれとも面白がっているのか、続く26日には「『戦場にかける橋』のイギリス人しか好きじゃない日本人が代表選に出馬」と続報を書いています。「なにかと物議を醸すこの政治家は(中略)過去には仏教と比較して『キリスト教は排他的で独善的な宗教』とも発言している」と小沢氏情報を追加しつつ。<おいおい、そんな男が首相になるのか?>という呆れもしくは失笑が行間からにじみでてくるようです。

○小沢氏に比べれば単純で結構?

英『エコノミスト』誌は「機能不全な日本政治、小沢一郎の逆襲、壊し屋の再来」という見出しの26日付記事で、こう書き出しています(「strikes back」を「逆襲」と訳したのはもちろん、『スター・ウォーズ』にちなんでいるはずだと思うからです)。

「日本で最もマキャベリストな政治家の小沢一郎は先日、アメリカ人を『単細胞(monocellular)』と切って捨てた。これは日本語で『単純』という意味の表現だ。権謀術数に充ち満ちた小沢氏の頭の中と比べて『単純』と言われたなら、それはアメリカ人にとって褒め言葉と言えるだろう」と。そして小沢氏が民主党の代表選に出馬することで、民主党は政権を失うかもしれないとも。

小沢氏がこれで総理大臣になれば「驚異的なカムバックだ」としつつ、同誌は「なぜ与党・民主党が小沢氏を要職に戻したいのか、よく分からない」と。小沢氏は「foul-smelling(いやな臭いのする)」政治資金問題で訴追される可能性も残しているし、新聞世論調査では国民の約8割が小沢氏の政権要職復帰に反対しているのに。小沢氏自身が勝てると思っているかどうかはともかく、菅政権で冷遇されている小沢派議員たちの復権をねらってのことかもしれないし、そのために鳩山派の支持をとりつけるため鳩山氏に外務大臣のポストを約束したとも噂されていると、記事は書きます。

そして『エコノミスト』は、そんなことをしている場合かと。「円の高騰と株価急落で経済に対する信頼性が傷ついている」のに、「デフレが居座っている」この状況で与党が分裂し、総理大臣が「たえまないメリーゴーラウンド(constant merry-go-round)」でくるくる変わっている場合か、と。

そんなことをしている場合か、というのは、たとえば
英『フィナンシャル・タイムズ』紙のグウェン・ロビンソン記者も26日付の記者ブログで指摘。

いわく、民主党の党内権力闘争は「まるで果てしなく繰り返される歌舞伎のようだ」と(なぜここでことさらに「歌舞伎」と言うのかと歌舞伎好きな私は思うのですが、要するに「日本的なお芝居」という意味での比喩でしょうか)。「内閣が変わって2カ月そこそこしかたっていないし、7月には(またしても)政治的膠着を経験したばかりなのに、日本は例によって相変わらずのていたらくだ」と。

「一方で、菅直人政権で全体状況が見えている人は少なく、その一人が民主党の玄葉光一郎政調会長(公務員制度改革担当相)のようだ」とも。その玄葉氏が「一刻も早く」経済対策を推進するよう首相や日銀に訴えかけているのに、「誰か聞いている人はいるのか?(But, is anybody listening?)」とロビンソン記者。

フィナンシャル・タイムズは(多くの英語メディアの先陣を切るように)昨年春ごろから「民主党にとってチャンスだ」「政権交代を」と論を張り続けた新聞です。そのFTが民主党政権に落胆を示して「日本の夜明けは勘違いだった」と書いたのは今年の3月30日。

そしてFTは今回、もしこのまま小沢氏が総理大臣になるようなら「とんでもないことになる」と民主党にサジを投げかけています。社説で。「The wrong man for Japan」という見出しのこの社説は、「日本が選ぶべきでない人」としてこちらで訳出しました。

そこでFTは「つい先日、アメリカ人のことを『単細胞』と呼んだ小沢氏がもし総理大臣になるなら、小泉純一郎が2006年に辞めて以来の、最も興味深い首相となるだろう。かつ、とんでもないことになるだろう」と書きます。「とんでもないことになるだろう」と訳したのは、「He would also be a disaster」という表現。直訳すれば、「小沢首相」は日本にとって「大惨事、とんでもない事態、厄災」となるだろうというのです。

まあ、なんというか……。外国の総理大臣選びに対してよくもそこまではっきりキッパリと……とは私も思います。日本の行方がそれだけ世界にとって大事で、日本のこれまでのていたらくからして心配してくれているのだ……ともとれるし、幕末時代から続く上から目線なお節介気質は変わっていないなあ……ともとれるし、それは日本政治の質が黒船来航のころから大して進歩していないからかなあ……とも。

FT社説はさらにこうも書きます。

「もし民主党が小沢氏を党首に選び、よって総理大臣にするならば、日本に新しい政治をもたらすというそもそもの公約を裏切ることになる。もし民主党が敗れて権力を手放すことになれば、それはひとえにほかの何者でもない民主党自身のせいだ」

民主党、いよいよ引導を渡されています。

○言葉遣いには気をつけて

ところでFTの社説はわざと「単細胞」に「single-celled organisms(単細胞生物)」という直訳をあてているのではないかと思います。ほかのメディアのように「単細胞」は「単純(simple-minded)」の比喩だと解説を、あえてしていないのだろうと(もっとも「simple-minded」には、「頭が弱い」とか「知的障害」の意味もあるので、それはそれで困りものですが)。

そこからにじみ出るのは、「小沢一郎とはこういう言葉遣いをする人なのだ」という評価です。確かに、日本の総理大臣になろうという人ならば、自分の発言が翻訳されて世界中に伝えられることくらい承知していて然るべきなのですから。「アメリカ人は単細胞生物だ」と言ったかのように訳されてしまう表現を使う方が悪いです。それ以前に、「アメリカ人は単純だ」と公の場で十把一絡げに切って捨てるのだってどうかと思いますが。

そして、こちらも十把一絡げに断定しますが、そもそも「○○人は▽▽だ」などと単細胞に断定するのは得てして、その相手の国や人々をよく知らない人がやることだと思います。相手を人間として理解し、一つの国の中に当然ある多様性を経験すればするほど、そんな乱暴で単純な十把一絡げはできなくなるものです。

日本はアメリカの言いなりにならない、対等な関係を築くのだと頑張るのと、そんなくだらない言葉遣いで相手を不快にしてどうするかというのは、次元の違う話だと思います。

繰り返しますが以上は、小沢・菅会談が実現する前の、トロイカとかトロイカプラスワンなどと言っている段階での話です(それにしても「トロイカ」という言葉を聞くたびに私は、お寿司が食べたくなるし、同時に見たこともないロシアの雪景色を思い浮かべます。走〜れトロイカ、ほーがらーかに♪)。



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