September 01, 2012
『西洋美術史入門』

Blog中断中に出た著書の紹介その13。
(12で終わりと書いていましたが、こちらが最後でした)。
『西洋美術史入門』
池上英洋
筑摩書房(ちくまプリマー新書)、2012年2月、950円(税別)
「はじめに」にも書きましたが、美術史の良書は日本に沢山あります(巻末で、目的別に多くの本を紹介しています)。
自己引用します。「しかし、ゼロからスタートして、短く簡潔ながらもひととおり美術史のなんたるかが理解できるような導入書となると、その数は一気に減ります。(略) 本書は、美術史への「最初の導入書」となることを目的としています。もちろん、美術史を専門として学びたいという学生よりも、教養として一応知っておきたいという読者のほうがはるかに多いでしょうから、本書では、この学問がどのようなものなのか、そのさわりだけでもご紹介することで、美術史により親しみを感じていただきたいと考えています」
美術史の導入教育には、本書の冒頭で解説している「スケッチ」や「ディスクリプション」といったスキルが不可欠です。実際の講義ではどのようにおこなっているかも書いています。
第一章でのそうした“学習前手続き”を経て、第二章から始まる、“美術史を学ぶための基礎知識”→“具体的な検討例の紹介”→“美術史のさまざまな見方”へと読み進んでいただくうちに、そもそもなぜこのような学問が必要なのか、ということも自然とご理解いただけると思います。
自分で紹介するのがちょっと遅れたのは、このような本は、本来はその道を知り尽くした、もっと大御所が書くべきものだと自分では思っていたからです。自分が書くことにはややためらいがあったもので…
ただ、自分の西洋美術史の入門講座で使う教科書や副読本として、短く安価ながらもひととおりの美術史の基礎がおおよそ詰まっているような本が欲しいな、と思っていたので書きました。この四月からの講義でさっそく使っています。
でも、その後驚くほど数多くの好意的なご感想やご意見をいただきました。BlogやTwitterなどで採り上げてくださった皆様も、本当にありがとうございます。根気強く背中をおして下さった筑摩書房さんに感謝です。
August 29, 2012
「プロメテウス」
評価が大きく分かれるだろう作品。簡潔に言って、SFホラー映画としてはとってもよくできている。でも純粋なSF映画として評価するとなるとどうだろう。
そして「プロメテウス」の評価が分かれるだろうと危惧している最大の理由は、日本の映画配給会社が、「人類の起源」の謎云々を宣伝文句にしてしまっているところ。題名からしてギリシャ神話における人類の創造主の名だし、いやでもそういった「創造主」なり「デザイナー」の話を期待してしまう。でも率直に言って広告代理店の戦略は良くない。
というのも、「プロメテウス」はあくまで「エイリアン」の前日譚であって、「人類の起源」の謎解きを楽しむ映画では無いから。もともと人類の起源を太陽系外に求めるという話は、SFの中心的なテーマのひとつであり、これまでも数多くの作品が世に出ている。そのなかにあって「プロメテウス」は、題名から抱かせる期待感とは裏腹に、創造の動機も破壊の動機も明確ではないし、そこに至る学術的?推理もバッサリ省略されてる。
正しくは、「プロメテウス」は「エイリアン」初作に登場する”スペース・ジョッキー”の説明といって良い(だからコアなファンでも楽しめる)。
宣伝文句につられて「人類の起源」の謎解明を楽しもうと思って観た人は、最初の5分で肩透かしをくらうに違いない。それにあたる部分を最初に見せていること自体、この作品が人類の起源に重きを置いていないことは明白だ。
もともとエイリアンシリーズのひとつとして、2作目(複数形の「エイリアンズ」)の監督ジェームズ・キャメロンが撮ることになっていたけど、映画会社の意向と違ったために立ち消え。シガニー・ウィーヴァーも主演を外れちゃう。というわけで1作目を撮ったリドリー・スコットがやることに。だからもともとキャメロンのアイディアなのかな、前日譚は。
その二人の後も、3人目がデヴィッド・フィンチャーで4人目なんてジャン=ピエール・ジュネ。「アメリ」の監督だもの。もちろんその時は「デリカテッセン」でのグロ面白さが評価されての起用だけど。これだけ監督が全作ともすごい顔ぶれのシリーズなんて、そうそうないです。外伝にあたるポール・アンダーソンの「エイリアンVSプレデター」も嫌いじゃないけど(笑
SFホラーの金字塔たる「エイリアン」の熱狂的なファンが、今回の前日譚の出来に満足かどうかは別にして、SFホラーとしては迫力充分。ただしグロい描写が苦手な人は注意。
だから、「プロメテウス」は純粋にSFホラーとして楽しもう。であればとても良くできてると思う。「エイリアン」さえ知らなくても良いかもしれない。「エイリアン」と比較するとずいぶん雰囲気が異なるし。同じリドリー・スコット監督がやってるのに、そしてH.R.ギーガーのデザインを踏襲しているのにこの違い。
今回も女性が頑張るのだが、シガニー・ウィーヴァーって「戦う女性」像としてはつくづく最高な女優さんでしたね。ちなみにエイリアンシリーズって、女性に対する性的暴力のメタファーとして、ジェンダー論の対象にもなっています。あと、お約束のアンドロイドも、いい感じで不気味な雰囲気を醸し出してます。
August 25, 2012
NHK CD 『まいにちイタリア語9月号』 発売のお知らせ
『まいにちイタリア語 9月号』 発売のお知らせ

来月号のテキストが、本屋さんに並んでいます。
最終月にはいる「イタリア:24の物語 L’Italia in 24 storie」は、南部イタリア編となります。
とりあげる8都市は、
Napoli, Pompei, Alberobello, Castel del Monte, Bari, Messina, Catania, Bagheria
です(Castel del Monte だけは都市名ではなく、お城自体の名前です)。
上記のうち、いくつご存知でしょうか。
どこもかしこも、美しいか、興味深いところばかりです。南イタリアは人も街も食べ物も気候も良いのです!
パートナーはこれまで通り、ボローニャの東洋美術研究所所長のアレッサンドロ・グイーディさんです。
NHK出版、380円(税込)
大崎さやのさんによる入門編(月火水)もあわせてお聴きください!
August 23, 2012
おもしろびじゅつワンダーランド展

美術展をいくつかえいやっと巡り、良いものにあたっては「これはBlogで紹介せねば」と思いつつ、たいてい記事にしないまま会期終了を迎えてしまう怠惰な私ですが、この展覧会はそろそろ記事にせねば。
というのも、この展覧会は子どものためのものなので、会期も夏休みあわせて9/2までなのです。あと一週間とちょっと。
で、美術史にたずさわる者としてよりも、むしろ二児の父として、お子さん連れの皆さんにこの展覧会を強くお勧めします。
動いたりしない美術作品は、激しく動くゲームやアニメを見慣れた現代っ子には退屈に映ってもしょうがない、となかばあきらめているのですが、この展覧会はそのような状況下でもなんとか美術の面白さを子供に味わってもらおう、という実に野心的な試みがなされています。
<洛中洛外図屏風>では、スクリーンをタッチするとそこだけ拡大されて、場所などの名前まででてきます。息子たちはひとしきりタッチスクリーンで遊んだあと、実物を覗きこんで「あれ、これは何が描かれてるんだろう」とあらたな疑問を得ては、またタッチスクリーンに戻ってその場面を探して拡大してみる、という楽しみ方をしていました。
とりわけ熱心に遊んでいたのが皿の絵付けシミュレーションのコーナー。皿の種類を選んで、モチーフを選んでサイズや配置などを決めてヴァーチャルな絵付けをするもの。次々と作っては、そばにある画面にアップして喜んでいました。皆、とても楽しそう。
お高くとまってる、なんだか堅苦しいもの、といった美術鑑賞のイメージがありますが、こうした展覧会で小さい頃に楽しい体験をしたら、きっと将来の美術に対するスタンスもかわってくると思います。
絵を借りて並べて、という展覧会もそれなりに大変な作業なのですが、今回の展覧会はアイデアが勝負であり、通常の展覧会よりもはるかに準備が大変だったことが容易に想像されます。学芸員の方や企画・制作スタッフの皆さんに拍手喝采!
サントリー美術館にて、9月2日まで。中学生以下は無料です。
August 19, 2012
「ベティ・ブルー」(デジタル・リマスター版)
この作品に触れるにあたっては、ヴァージョンが三つあることをまず説明しないといけない。
まずは88年のオリジナル版「ベティ・ブルー」。大学生だった時に観て、とっても切ない気分になった作品。
そして、その数年後、”完全版”と銘打たれた「ベティ・ブルー インテグラル」が公開された。と打とうとして”後悔された”と最初変換されたんだけど、そのままにしようかと思ったぐらい、観なきゃよかったかもという気持ちにさせられた作品。オリジナルが2時間、インテグラルはなんと3時間。
1.5倍になったんだけど、長くなった分はほとんど彼氏側のエピソード。ジャン=ユーグ・アングラードって優男系の雰囲気ある俳優で、リュック・ベッソンの「ニキータ」でも泣かせる役で出てくる。でもインテグラルはひとことでいうなら「説明過多」。彼があんまり能動的に動かなくていいよ、振り回されてよ
”完全版”とやらを観て「しまった」と思うことは少なくないんだけど、オリジナル版を好きな人はやっぱり観ちゃうだろうから危険な罠だわ。今まで観て一番後悔した”完全版(かディレクターズ・カット版)”は、「ニュー・シネマ・パラダイス」かな。大人になって再会しなくていいよ!ガッカリだよ
で、デジタル・リマスター版「ベティ・ブルー」は、オリジナル版のリマスターということで、皆の衆ご安心めされい(笑 恋の破局を経験したことのある人、恋に恋する状態の人だけでなく、作家や画家志望の人もグッときて下され。しっかし、前半に出てくる海岸沿いの家みたいなところに住みたいなぁ
残念だったのは、あいかわらず”ぼかし”だらけだったところ。無粋きわまりなし!オリジナル版公開当時すでに、ベネックス監督が抗議してるのに。それから四半世紀ぐらい経ったというのに、まだぼかし入れてるよ… ぼかさないと誰か困るの?画面にボーっと映ってると、いやでも観者の意識がそこに行くので、余計いやらしいような気がするのですが。
「トータル・リコール」 旧作&新作
まずは旧「トータル・リコール」。
「ロボ・コップ」ですでに残虐シーンてんこもりだったポール・ヴァーホーヴェン監督と、当時ムキムキ系アクション俳優として絶対的な存在だったアーノルド・シュワルツェネガーのコンビだったから、原作短編を遠く離れて”なんでもあり”のドタバタSFになっていた。火星に植民するような未来社会にもかかわらずドリルで穴を掘る肉体労働が主流のようだし、鏡像を映し出すホログラムが後半どうみても無茶苦茶な映写角度になってたり、はては真空状態に放り出されても目玉が飛び出そうになるぐらいで済んだり(笑 でも面白い!
原作はいわずとしれたフィリップ・K・ディック。本人はSF作品ばかりが評価されることに忸怩たる思いがあったそうだが、面白いんだからしょうがない。彼の原作を映画化したものには「ブレード・ランナー」「ペイチェック」「マイノリティ・リポート」などがあるけど、どれも”記憶”を主題にしたものばかり。
で、彼の「追憶売ります」が新旧「トータル・ルコール」の原作。短編なので邦訳も単独ではなく短編集に入ってます(つい最近、新作の映画公開にあわせて、『トータル・リコール』という短編集が出たんですね)。ちなみに原題は「We Can Remember It For You Wholesale」。原作は主人公がふたつの異なる記憶の間で混乱するけど、旧映画版はシュワちゃんだし…
で、新「トータル・リコール」。
役者が変わるとこうまで雰囲気かわるもんかいな。鼻から丸い発信機出したりするところで笑わせてくれたダグラス・クエイド(主人公の名)ではもはやない。にしても、原作と旧作は火星での活動が肝なのに、新作ではついぞ出てこない。というわけで、新作も原作の設定を大幅に変えてるわけね。
旧作ではミュータントの悲哀(裏切り運ちゃん含めて)とレジスタンスがサブテーマだったんだけど、新作は富裕層による支配に対する貧困層のレジスタンスに変わっていてちょっとびっくり。しかも貧困国がもろアジア。なんたる旧態依然の描き方。というか「ブレードランナー」の未来チャイナタウンそのまんま?
以下、ネタバレにより閲覧注意。
細かなストーリーは観ていただくとして、原作とも旧作とも別ものだと思ってくだされ。新作でやたらとしつこい妻ベッキンセールよりも、旧作のブレイク前のシャロン・ストーンの方が存在感はあります。あと、新作で一番不満なのは、「実は今の選択によって、クエイドはもう夢から覚めないんじゃあ…」といった葛藤の描写がほとんどなかったところ。旧作のほうがちゃんと描いてます。そしてなにより、その巨大エレベーターのようなものを壊すだけで革命が成功するのなら、最初っからそれを破壊しようとした方が良かったんじゃあ…
August 13, 2012
『世界の偉人博物館』(共同監修) 発売のお知らせ

週刊「世界の博物館」49
『世界の偉人博物館』
朝日新聞出版、2012年7月、580円(税込)
朝日新聞出版から毎週出ていた「世界の博物館」も、全50号をもって完結しました。そのオーラスにあたる第49号が、ガリレオ博物館とレオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館、ヘミングウェーの家をとりあげた「世界の偉人博物館」です。
私はその中の、レオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館(ミラノ)の監修を担当。おすすめ復元模型もかなり自由に選べたりと、かなり楽しみながら作業させていただきました。
その号の監修者が巻末によせる「私と博物館」というエッセーがあり、私もこの号で書かせていただいたのですが、たまたま書店でご覧になった方から、このエッセーが良かったよーというコメントをいただきました。想定外だったので驚きつつも、物書きとしてちょっと嬉しかったので、こうして厚かましくもそのことを書いてしまうのです(笑
August 11, 2012
「レオナルド 新たな発見と謎」(ワールド知求アカデミー)
やったことの覚え書き。
7月27日には、ワールド航空サービスの知求アカデミーで、地中海学会連携の講師をつとめてきました。
話題は、あるあらたな作品の帰属問題について。とくに、私たちがどのような方法を用いて、作品の年代特定や作者帰属問題を調査しているのかについて、具体的に進行中のあるケースを用いてご紹介してみました。
「レオナルド 女性と神秘思想」(獨協大単発講義)
やったことの覚え書き。
7月12日に、獨協大学の青山愛香先生にお招きいただいて、獨協大学で単発講義をしてきました。
話題は、レオナルドの女性観と、その裏にある神秘思想との関係について。彼の手稿にあるメモと女性肖像デッサンは、彼の女性観が当時の通念からはかなり乖離したものであったことを教えてくれます。そして、その原因として、彼が同性愛者であることももちろんですが、よくいわれるように幼少時に実母から引き離されていることと、さらには彼がどっぷりと影響を受けたに違いないメディチ家の文化サークルの思想が反映されているものと考えています。
「ヴェールを脱ぐレオナルド」(朝日カルチャーセンター)
やったことの覚え書き。
6月9日に朝日カルチャーセンターで、レオナルドについてお話してきました。
話題は、ルーヴルとナショナル・ギャラリーにある二作品以外の<岩窟の聖母子>について。もちろん、この春にBunkamuraで展示されていた作品も含めて。
レオナルド工房の弟子たちと、彼の様式の追随者をひっくるめてレオナルデスキやレオナルド派と呼びますが、彼らは非常に多くの「もともとはレオナルドの着想だった」作品群を残しています。なかには、本人の彩色作品が無いかわりに、レオナルド派の作品群のおかげで、レオナルドの着想がいかなるものだったかを再構築できるケースさえあります。
August 06, 2012
August 02, 2012
既刊本紹介 『暗黒の西洋史』(監修)

Blog中断中に出た著書の紹介その12(これで最後)。
『残酷絵で見る 暗黒の西洋史』
監修: 池上英洋
著: 川口清香、荒井咲紀
宝島社(別冊宝島1872)、2012年6月、1,200円(税込)
以前新書で出した『血みどろの西洋史』(河出書房新書)のヴィジュアル版、といった感じの本です。新書ではさすがに図版は白黒で小さくなりますし、点数にも限りがあります。そこで、図版をたっぷりとカラーでお見せしたいので、A4よりちょっと小さ目の判型の別冊宝島の一冊として出させていただきました。カラヴァッジョやゴヤなどの有名作もおさえながら、一般的な美術史や歴史、文化史などの本ではまず出てこないような図版が目白押しです。この点だけでも、貴重な出版機会となりました。
July 26, 2012
ベルリン国立美術館展

ベルリン国立美術館展、ただいま上野の国立西洋美術館で開催中です。
フェルメールの<真珠の首飾りの女>ばかりが話題になっていますが(<真珠の耳飾りの女>は同じ上野の都美術館。お間違いなく)、かなり良質な作品が多く来ている展覧会です。美しい作品ばかりでなく、かなり美術に詳しい方も楽しめるちょっと通向けな作品がゾロゾロあります。
左の画像は、ベルリン展で展示されているヤン・ダヴィッドゾーン・デ・ヘームの<果物、花、ワイングラスのある静物>。
グラスがまるで聖人像か聖母子のように中央に鎮座する変わった構図。もしかして聖杯のつもり?と思ったりしてます。
それにしても卓越した写実力。すばらしい…
で、いつもはこんな調子で思ったことを書いていくのですが、Twitterでいくつかつぶやいたものを、親切な方がtogetterでまとめ記事にしてくださいました。
というわけで、そちらのご紹介をさせていただきますね。
→togetterでのまとめ記事はこちら
こんなに専門的な内容なのに、閲覧数が1200を超えているのですね。twitterってすごいなぁ。
一部、説明が足りなくて誤解を与えそうな箇所があるので追記すると、エルコレ・デ・ロベルティによるベンティヴォリオ宮の失われた作品のすごさは、彼のこの断片からだけでも想像できる、という箇所で、掲載している断片は、もちろん失われたベンティヴォリオ作品ではなく、同じボローニャで、やはりダメージをうけたため断片として残された、彼のガルガネッリ礼拝堂壁画の断片です。
「まいにちイタリア語」、NHKのHPでのストリーミング放送
ラジオ講座を聴いてくださっている皆さま、ありがとうございます。
ラジオの機器自体をお持ちでない方もけっこういらっしゃると思います。
その時は、NHKのホームページでストリーミング放送をしているのでご利用ください。もちろん無料です。
→ストリーミング再生はこちら
電波を介してよりも、よほど良い音質で聴くことができます。
本放送より一週間遅れで番組をストリーミング再生することができます(ただ、再生可能期間は一週間のみです)。
月から金までが並んでいて、月火水が大崎さん、木金が僕です。
July 23, 2012
既刊本紹介 『キリスト教絵画入門』(編著)

Blog中断中に出た著書の紹介その11。
『知識ゼロからの キリスト教絵画入門』
編著: 池上英洋
著: 川口清香、荒井咲紀
幻冬舎、2012年5月、1,300円(税別)
この本はムック本ですが、じっくりと時間をかけて作りました。「旧約聖書の世界」、「新約聖書の世界」と「キリスト教のさらなる世界」という三部構成にしました。
第三部は、旧約と新約には無い(あとからできた)主題、たとえば「善き羊飼い」や「聖母子」、「無原罪の御宿り」「三位一体」「聖十字架伝説」「悪魔」「魔女」「神曲」「凱旋」といった主題をとりあげ、それから「洗礼者ヨハネ」や「四福音書記者」などの諸聖人図像を加えました。
フルカラーで160ページで1,300円。沢山部数が出る幻冬舎さんならではのスペックになりました。図版も自信を持って選んだものばかり。キレイで深い作品ばかりです!
Blogを中断していた一年間にやったことを、覚え書きとして書いていますが、そろそろ終わりかな。
(さかのぼりメモ) 『美術の窓』での記事
Blog中断中に書いた雑文のメモ
「苦行の聖人とダンス!」
『美術の窓』、2012年5月号(通巻344号)、生活の友社、1,600円(税込)、p.130
<ほつれ髪の女>の展示にあわせて、Bunkamuraシネマほかで公開された映画「レオナルド・ダ・ヴィンチ in シアター」の紹介記事です。同映画では字幕監修をさせていただいたので、公開によせて。
ごく一部だけ自分で抜粋します。
「作品を語るのが、学芸員や修復家、画家や研究者はもちろん、その作品にふさわしい芸術分野の専門家であるところも面白い。たとえば<若い音楽家の肖像>には音楽家を、<聖ヒエロニムス>にはダンサー、<救世主キリスト>には役者をといった具合に」
聖ヒエロニムスとダンサーという組み合わせは僕も予想外で面白かったので、僕の記事タイトルもそれにあやかっています。
あと、レオナルドに必ずついてまわる帰属問題で、肯定的でない意見もあつかっていたのがフェアで良いな、と思いました。
July 20, 2012
NHK BSプレミアム「プロファイラー」出演のお知らせ
明日の夜、またちらりとテレビに出るので恥ずかしながら告知をば。
NHK BSプレミアム
7月21日(土) 21:00-21:59
「追跡者 プロファイラー: レオナルド・ダ・ヴィンチ 未完成の天才」
司会:岡田准一、出演:松井冬子、福岡伸一、池上英洋
よろしければぜひ。松井冬子さん、オーラが出てましたよ…。
ま、土曜のそんな時間に家にいないっていう人、多そうですね…
July 18, 2012
NHK CD 『まいにちイタリア語8月号』 発売のお知らせ
『まいにちイタリア語 8月号』 発売のお知らせ
July 15, 2012
(さかのぼりメモ) 『週刊読書人』での記事

Blog中断中に書いた雑文のメモ
「一神教のなかに多神教の名残りをみる」
『週刊 読書人』、2012年5月4日号(通巻2937号)、第6面
書評記事です。とりあげたのは
オットー・ヴィマー著、『図説 聖人事典』、八坂書房 です。
聖人たちの図像もあわせて掲載されている点が重要で、5,000円前後のこの価格帯で
図版付き聖人図像学事典というのは日本ではなかなかなく、それだけでも貴重です。
ただ、書評を書いてから思いましたが、Kaftalの聖人図像事典などを日常的に使用している身からすれば、ヴィマー本ではまだまだ不満です。ヴィマー本が現時点での日本語訳つき聖人図像事典で最良のものだというのは確かですが、まだまだ不満があります。
そのうち、Kaftal本やElecta版に匹敵するような、網羅的な聖人図像事典を日本でも出したい!と思っています。
出版社の方、いかがでしょう?ご協力いただける研究者の方々も募らないといけませんね。一緒にいかがですか?
体がふたつほしい。もしくは、一日が48時間ならいいのに…
July 07, 2012
既刊本紹介 『レオナルド・ダ・ヴィンチ ルネサンス「万能人」の生涯』(編著)

Blog中断中に出た著書の紹介その10。
『レオナルド・ダ・ヴィンチ ルネサンス「万能人」の生涯』
編著: 池上英洋
著: 川口清香、荒井咲紀
新人物往来社、2012年4月、1,800円(税別)
レオナルドの本を出す度に、新たなニュースが加わっていることに気がつきます。カラヴァッジョやフェルメールもそうですが、高い関心を集める画家は、それだけあらたなニュースが発掘されやすく、またあらたな作品の帰属問題が提起されては、論争の種が増えていきます。
この本でも、その前に出した本以降のニュースを巻頭と巻末でとりあげました。ただ、すぐに大騒ぎすることなく、じっくりと検討を重ねてから判断するスタンスを続けたいと思います。
(さかのぼりメモ) 講演 「レオナルド 女と神秘思想」
July 04, 2012
NHKラジオ「まいにちイタリア語」応用編のお知らせ(講師として)

イタリア語はいらんかね〜
明日7月5日(木)から、NHKラジオ「まいにちイタリア語」の放送が始まります。
僕は木曜と金曜の「応用編」の講師として登場します。
応用編: 毎週木・金 7:45〜8:00、再放送は同日の 16:45〜17:00
「イタリア 24の物語」という三か月間のシリーズです。僕は、『イタリア 24の都市の物語』という良く似たタイトルの本を光文社から出していますが、そこで扱った24都市と、今回とりあげる24都市はまったく異なります。いわば続編のようなものです。
講師は僕(池上英洋)、パートナーはボローニャにあるCentro Studi d’Arte Estremo-Orientale所長のアレッサンドロ・グイーディさんです。
CDも毎月出ますが、放送をかなりカットしたものが収録されています。ぜひ本放送をお楽しみください!
ちょっと残念なのは、僕が所属する國學院大學には、かなり大きな大学で外国語文化学科さえあるのに(僕は哲学科の所属)、第二外国語にまだイタリア語がないことです。自分の大学に、ほとんど聴いてくれる学生がいない悲しさ…
July 02, 2012
マウリッツハイス美術館展

マウリッツハイス美術館の改装にあわせて世界巡回中の「マウリッツハイス美術館展」が、上野の都美術館で始まりました。
都美館とそのまわりもずいぶんきれいになりましたね。現在は東博の前にある大噴水が改装中。東京芸大で大学生をして、そのまま大学院、助手とずっと通った上野公園も、ずいぶん変わってしまうのですね。
さてマウリッツハイスですが、改装中とはいえ、よくあんなに良い作品ばかり出しましたね。
なかでも話題はフェルメールの<真珠の耳飾りの少女>。かつて1984年に、やはり上野の国立西洋美術館で開かれた「マウリッツハイス王立美術館展」でも来日しており、僕もその時に観ています。大阪にも2000年に来たはずですが、その時はイタリア留学中で観ていません。
1984年のカタログと、今回のカタログの表紙を比べるだけでも、1994年におこなわれた修復によって、ニスの黄変が除去され、絵具層のひび割れと剥離もかなりおさえられたことが一目瞭然です。以前は今よりもっと暗い顔だったわけです。とくに、かつて鼻筋にあった強い影が薄くなったため、眉毛を失ったように見えるのが印象的です。
さてフェルメールも確かに良いのですが、この展覧会、実は「レンブラント展」でもおかしくないようなラインナップです。<シメオンの賛歌>はまだ二十代の作品ですが、明るい色を好んだ師匠に似ず、真っ暗な背景に強いスポットライトがあたっていて、すでに後のレンブラントらしさが出ています。
また、肖像画の達人たちの筆致の違いを見るのも楽しいです。フェルメールの、あの独特なピントの外し方。ファン・ダイクの精緻な描写。晩年のレンブラントによる、なかば抽象がかった省略の仕方。そして圧巻はハルス。注文作に対しては細密画的な描法を用い、一方、<笑う少年>のような私的な作品では、大胆な早描きを披露しています。形態把握能力に優れた画家の真骨頂といった感じです(掲載図版)。
静物画のこれでもか!というほどの写実の技術も驚異的です。ピーテル・クラース(クラースゾーン)の<ヴァニタス>は『西洋美術史入門』にも載せた僕のお気に入りです。消えたばかりの蝋燭の炎。死へと近づいていることを教える懐中時計… 時のうつろいを示す時計ですが、かつては砂時計だったものが、17世紀ともなると懐中時計になっているのが面白いですね。
ほかにも、17世紀後半の静物画家の代表的存在である、ベイエレンの作品も注目です。水差しの表面を、とくとご覧あれ。
マウリッツハイスにはありませんが、ベイエレンには風景画もあります。ただ、静物画家としては卓越した存在であるベイエレンも、風景画家としてはそれほどでもないことがわかります(ブダペスト西洋美術館の<荒れる海>など)。しかし、当時の画家たちが、まずは静物・肖像・風景・風俗など複数ジャンルにひととおり手を出してから、得意ジャンルに絞っていったことがわかるのは興味深いです。
僕は、西洋美術史の通史の講義でも、17世紀オランダだけは他のバロックから切り離して扱ってます。それほどに特殊な社会。これで混雑がなければ、良い学外授業の場になるのですが。贅沢な悩みですね。
2012年6月30日〜9月17日、東京都美術館(東京・上野公園)
既刊本紹介 『世界遺産大事典』(上・下)(監修協力)
(さかのぼりメモ) 『美術の窓』での記事
July 01, 2012
既刊本紹介 『西洋美術を知りたい。』(監修)

Blog中断中に出た著書の紹介その8。
『西洋美術を知りたい。』
監修: 池上英洋
執筆: 松田和也、川口清香、荒井咲紀
学研、2012年3月、580円(税込)
画家別の作品レファランスとして、フルカラーでとっつきやすく、小型でとにかく入手しやすいものを、ということで作られた本です。
なんとコンビニ売りが中心です。コンビニにはセブンイレブンと、それ以外というふたつの大きなグループがあるそうで、これはセブンイレブンのほう。書店にも置いてありますが、なにしろ全国のセブンイレブンに入るので、こちらがたじろぐような部数で初めから刷られてます(だからやたらと安いのです)。
企画会議の段階からセブンイレブンのスタッフが加わっているとのことで、そこで決められたフォーマットをベースに、図版と文を落とし込みました。いつもとまたちょっと違う本作りを楽しませていただきました。
著作権の関係で泣く泣くカットした画家が二人。無念…(さて誰と誰でしょう?)
(さかのぼりメモ)如水会フォーラム
June 30, 2012
既刊本紹介 『マンガ世界の偉人3 レオナルド・ダ・ヴィンチ』(共同監修)

Blog中断中に出た著書の紹介その7。
『マンガ世界の偉人3 レオナルド・ダ・ヴィンチ』
藤原カムイ
監修: 山口正、池上英洋
朝日新聞出版、2012年2月、490円(税込)
以前、小学館の学習マンガ人物館でも監修させていただきましたが、息子が小学校に通うようになって、実際に図書室で子どもたちが読んでいるのを見たら、こういう子供向けの仕事もおろそかにできないなあと思った次第。
今回は藤原カムイさんということで、かなり大人向けのトーンになっています。あらためて、カムイさんの画力には驚かされます。ちなみに、同じ朝日新聞出版で、「マンガ世界の偉人」シリーズの前に刊行されていた「マンガ日本史」というシリーズがあるのですが、その第16号の『雪舟』は圧巻です。藤原カムイさんが、実際に筆と墨だけで作画したもの。雪舟への挑戦にも映る力作、どこかの児童図書館で大人の方にもぜひ見ていただきたいです。
このふたつのシリーズで作画を担当されている漫画家には、僕たちの年代にとってもお馴染みの方々が大勢いらっしゃいます。里中満智子、高見まこ、六田登、村上もとか、尾瀬あきら、さらには安彦良和まで!「子供向けか」と敬遠するにはもったいない面子です。