October 28, 2007

返すべきか、返さざるべきか

一部で報道されているように、ルーアンの自然史博物館が所蔵品「マオリ戦士の首」をニュージーランドへ返還しようとしたところ、文化財流出となるためフランス政府がSTOPをかけたことが話題になっています。

 

難しい問題です。エジプトやギリシャのように文化財を「持っていかれた」国には同情しますが、現在の所有国に対して返還を求める権利を生産・製造地へいったん与えてしまうと、それこそメトロポリタンや大英博物館はすっからかんになってしまいます。また、むりやり持っていったのではなく、生産国がほとんど省みなかった文化財に価値を認めて収拾してきたような例も多く、現在の所有国にもそれなりの言い分があります。

 

今回の「マオリ戦士の首」に関しては、刺青のある頭部のコレクションが一時期欧州でブームとなり、そのためわざわざ頭部を切断して刺青を加えたような例もあったようです。ニュージーランドはそうした暗い歴史を精算するためにも収拾を呼びかけ、これまでにいくつかの国が返還に応じてきました。フランスは他国の文化財の一大所有国であるため、返還要求に応じる前例を作るはずはなく、一部を返還することはあっても、全面的な返還はおそらく今後もしないでしょう。

 

私は、美術品など文化財に関して「購入されたものは現所有国に、収奪されたものは原産国へ」を基本姿勢としています。今回のものは購入されたとはいえ犯罪がらみの背景があり、複雑です。例えば切断箇所の刺青の色素などの検査で、「死後になされたもの」がはっきりわかれば良いのですが。まあそれも難しそうですから、今回のようなケースは所有国側の裁量にまかせるしかないでしょうね。

  

Posted by ikedesu at 23:12Comments(2)TrackBack(0)

October 24, 2007

科研「比較デザイン論研究」 公開シンポジウムのお知らせ

1030日(火)、13:0017:00

大阪大学待兼山会館2階会議室にて

 

13:00-, Opening Remark,

Haruhiko FUJITA (Osaka University)

13:15-14:15, Meanings of Gestaltung in the Modern Design Movement,

Keisuke TAKAYASU (Ehime University)

14:30-15:30, Disegno as a Principle of Aesthetics,

Raffaele MILANI (Bologna University)

15:45-17:00, Roundtable “Disegno, Dessin, Gestaltung, etc: Another Name of Design”,

Tsuneyuki KAMIMURA (Osaka University)

Tsugunobu UCHIDA (Osaka University)

Tatsuaki DATE (Doshisha University)

Angus LOCKYER (London University)

Hidehiro IKEGAMI (Keisen University)

 

今回はデザインの定義に関する話題が中心となります。例えばイタリアでは、デザインのもととなった「Disegno」の語を生んだ地でありながら、「Design」という語が逆流入してきたときには別のものになっていた、という感覚です。けっこう面白いものです。

 

参加自由です(本シンポはすべて英語によるものです)。ぜひどうぞ。

  
Posted by ikedesu at 23:13Comments(2)TrackBack(0)

October 21, 2007

「La forma dell’Anima」展カタログ 発刊のお知らせ

0ad7197a.jpg

イタリア在住の画家KANO氏の「La forma dell’Anima」展カタログに寄稿しました。

 

同展はボローニャの中心部マッジョーレ広場にあるGalleria d'Accursioにて、11/418まで。

 

同カタログには、残念ながら故人となった国際的な家具デザイナーDino Gavinaをはじめ、イタリアからはFabriano Fabbri(ボローニャ大学教授)や詩人のAlessandra Berardiといった執筆陣が参加しています。日本からはほかに諸川春樹(多摩美術大学教授)、高田康成(東京大学教授)、建畠哲(国立国際美術館館長)が寄稿しています。

 

通常の書籍販売ルートには乗らない本ですが、KANO氏の作品の美しさをよく伝えるカタログになりました。

  
Posted by ikedesu at 23:28Comments(2)TrackBack(0)

October 17, 2007

二紀展・美術講演会(新国立美術館・六本木)のお知らせ

今週の土曜日におこなう講演会のお知らせです。

 

1020日(土)、14:0015:40

国立新美術館(六本木)講堂

「レオナルド・ダ・ヴィンチの主題と技法について」

講師 池上英洋(恵泉女学園大学准教授)

聴講無料・一般開放

 

61回を迎える二紀展の開催期間中におこなわれる講演会です。二紀展の隣がフェルメール展です。お時間がありましたらどうぞ。

  
Posted by ikedesu at 21:45Comments(6)TrackBack(2)

October 14, 2007

宮下規久朗 『カラヴァッジョへの旅』

890aa344.jpg

出る本がすべて高水準なのでいつもご紹介している宮下氏が、またまた本を出されました。すごいエネルギーですね。

 

氏のカラヴァッジョものとして、画集は小学館から出されたものが、美術史論考としては名大出版局から出された素晴らしいものがありましたが、そういえば評伝中心のモノグラフはまだ出されていませんでした。日本語で読めるカラヴァッジョ伝として、スアードの訳本がほとんど唯一のまともなものでしたが、これからは宮下版の本書がその役を担うことになるでしょう。

 

同書はよくある普通の伝記ものにとどまらず、第一線の研究者ならではの、新しく刺激的な見方が随所にちりばめられています。

「(マルタでの)大作の完成直後に無謀な暴行事件を起こしたのは、(フレスコ画の制作を苦手としていたために、)続いて大聖堂のフレスコの天井画制作を期待されているという状況にいらだったためであったというのは考えすぎだろうか」(カッコ内は引用者補足)―これはほんの一例ですが、面白いですね!

 

 → 宮下規久朗 『カラヴァッジョへの旅』 角川書店 1,700

 

私たち研究者にとっても、巻末のコメントつき文献リストは役立ちます。その中にも挙げられていますが、Rizzoliから出たCaravaggio e il genio di Roma: 1592-1623は、VanniBrilといった一風変わった画家たちを採り上げた興味深いものでした。ほぼ同時期に同じRizzoliから出たIl Genio di Roma: 1592-1623も、更に詳細な良書でした。ついでにお奨めします。

  
Posted by ikedesu at 22:33Comments(0)TrackBack(0)

October 10, 2007

森田学 『音楽用語のイタリア語』

3747d521.jpg

友人の新刊本が出たのでご紹介しておきます。

ふつうの単語帳からうけるイメージからはかけ離れて、読み物として面白いのですぐに読んでしまいました。「stretta」のように普段見慣れているイタリア語にも、音楽用語としての意味があるなど勉強になりました。

 

著者森田学さんはオペラ歌手で、国立音楽大学や恵泉女学園大学、早稲田大学ECなどでも教鞭をとっておられます。

イタリア語の専門家でもあり、これまでにも『歌うイタリア語ハンドブック』をショパン社から出されています。

音楽理論や音楽史などなんでもできるので、『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界―All about Leonardo』(東京堂出版)にも書いていただきました。

 

同じ芸大出身ですが日本では接点が無く、イタリアで知り合いました。留学中に現地でできた数少ない日本人の友人のひとりです。Complimenti!

 

 → 森田学 『音楽用語のイタリア語』 三修社 1,700

  
Posted by ikedesu at 19:57Comments(2)TrackBack(1)

October 06, 2007

若桑先生

享年71歳。いつもエネルギッシュな方の突然の死でした。

昨夜のお通夜では、ご子息で喪主の作曲家比織さんが歌を捧げられ、今日の告別式では森洋子先生が、弔辞で故人の膨大なご業績と精力的なご活動の軌跡を紹介なさっていました。

 

芸大芸学の大先輩ですが、学部に入学したときには若桑先生は音楽学部で美術史を教えていらっしゃいました。先輩たちが絶賛していたので潜り込んでみると、本当にたまげるほど面白い講義でした。

芸大との確執ゆえに、たいてい芸学出身者とは距離を最初はおかれるのですが、一度うちとけてからは実に気さくな方で、「これあなたの役に立つわよ」と論文を送ってきてくださったり、図版データを貸してくださったりしました。

 

その鋭い舌鋒は、各種学会・研究会の華でした。得がたいキャラクター、桁違いのスケール。日本の美術史界にとって大きな損失となりました。合掌

  
Posted by ikedesu at 23:20Comments(2)TrackBack(1)

October 03, 2007

イタリア出張

c586e10e.jpg

文科省科研費(基盤B)のグループ研究(拠点:大阪大学、代表者:藤田治彦)で、イタリアへ行っていました。

その間、ボローニャ大学で開かれた研究会でも発表してきました。

 

今年はレオナルド展や研修引率があったおかげで、すでに何度かイタリアへ行っていますが、今回はフィレンツェ中心にわりとじっくり活動できる時間を数日いただいたので、美術史研究者にとっての天国「ドイツ研」をしばし堪能してきました。

 

機会をいただいた、文科省、大阪大学(特に藤田先生)、ボローニャ大学(特にミラーニ先生とフランチ先生)に感謝いたします。

後期第一週を休講にさせていただいた本務校と非常勤先大学にも感謝しております。

  
Posted by ikedesu at 20:23Comments(2)TrackBack(0)