一部で報道されているように、ルーアンの自然史博物館が所蔵品「マオリ戦士の首」をニュージーランドへ返還しようとしたところ、文化財流出となるためフランス政府がSTOPをかけたことが話題になっています。
難しい問題です。エジプトやギリシャのように文化財を「持っていかれた」国には同情しますが、現在の所有国に対して返還を求める権利を生産・製造地へいったん与えてしまうと、それこそメトロポリタンや大英博物館はすっからかんになってしまいます。また、むりやり持っていったのではなく、生産国がほとんど省みなかった文化財に価値を認めて収拾してきたような例も多く、現在の所有国にもそれなりの言い分があります。
今回の「マオリ戦士の首」に関しては、刺青のある頭部のコレクションが一時期欧州でブームとなり、そのためわざわざ頭部を切断して刺青を加えたような例もあったようです。ニュージーランドはそうした暗い歴史を精算するためにも収拾を呼びかけ、これまでにいくつかの国が返還に応じてきました。フランスは他国の文化財の一大所有国であるため、返還要求に応じる前例を作るはずはなく、一部を返還することはあっても、全面的な返還はおそらく今後もしないでしょう。
私は、美術品など文化財に関して「購入されたものは現所有国に、収奪されたものは原産国へ」を基本姿勢としています。今回のものは購入されたとはいえ犯罪がらみの背景があり、複雑です。例えば切断箇所の刺青の色素などの検査で、「死後になされたもの」がはっきりわかれば良いのですが。まあそれも難しそうですから、今回のようなケースは所有国側の裁量にまかせるしかないでしょうね。