
前にグラゼニ感想でふれた『マネーボール』について雑感です。
の内容をざっくり説明すると「の手法をもちいて大躍進した2002年アスレチックスを取材した本」です。
『マネーボール』の主役はゼネラルマネージャー(GM)のビリー・ビーンである。
ビーンは歴史的な逸材と言われ高校卒業後にドラフト1巡目でプロになる。
だが、逸材すぎたため指導も挫折もほとんど受けなかったビーンはささいなスランプから立ち直れず、三流の選手として引退することになる。
なぜ逸材と言われた自分が名選手になれなかったのか?
自問したビーン(この人は頭も良い)はセイバーメトリクスを知り野球選手に必要な能力に新たな知見をえる。
1997年にアスレチックスのGMになったビーンはセイバーメトリクスを元に「能力はあるけど野球界の常識では評価の低い選手」を安い年俸でスカウトし、貧乏球団アスレチックスを勝利に導いていく。
2002年のアスレチックスは球団別年俸総額が30球団中28位だったが、勝利数が30球団中1位と効率よく戦えた。
と言う話だが、セイバーメトリクスは万能の必勝法じゃない。
アスレチックスもセイバーメトリクス至上主義ではなく、自分たちで分析解析をしている。
GMビーンとアスレチックスが勝ったのはセイバーメトリクス+ビーンのトレード手腕だろう。
でも、話がややこしいので、アスレチックスの手法もセイバーメトリクスと言っておきます。
この本を読むまで米国人は合理的でデータ分析をちゃんとやるものだと思っていた。
しかし大リーグは閉鎖的な大リーグ村の住人が自分たちの風習にしがみついている。
1970年代に原型ができたセイバーメトリクスは野球のシロウトの理論として、大リーグから無視されていた。
GMビーンも内部反抗にあいながら、改革をすすめ年俸総額が低いのに勝率の高い球団を作っていく。
アスレチックスの費用対効果が高すぎると周囲も気が付いているのだが、GMビーンは「たまたま運が良かった」と言って3年ぐらいゴマカしている。
セイバーメトリクスが重要視されていないから、ごまかせていたのだ。
もっとも2002年の時点で、ゴマカしが効かなくなってきている。
ビーンが目を付けた選手は他球団も気にするようになり、安く買えなりはじめた。
さらに、ビーン自身がヘッドハンティングの対象になる。
金に目が眩んでプロ入りした過去を思いだし、土壇場で断るのだが。
『マネーボール』は2002年で終わっているが、ネタがバレたアスレチックスはこの年を頂点に落ちていくことが容易に想像できる。
さらに言えば、セイバーメトリクスは万能じゃない。
打者にとって重要な能力は出塁率と長打率である。この理論は正しいようだ。
だが、それ以外はまだ分析が足りない。
選手の守備力をどう評価すれば良いのかが難しい。
守備範囲の広い選手は難しい打球にも追いつくのでエラーも出すことがある。
楽にとれる球しか取ろうとしない選手はエラーがゼロになるが、守備が良いと言えない。
アスレチックスでは、新理論を見つけてピッチャーの評価は奪三振・被本塁打・四死球・被長打率にかぎると考える。
被安打とかは、守備や運に左右されるのでピッチャーの評価としてノイズが多い。
なので野球統計学は、守備力の評価と、統合的な戦力評価方法であと二回革命が起きるだろう。
AIによる学習で、防御力の評価を飛ばして統合評価が先に完成するかもしれないが。
それとセイバーメトリクスが広まることの弊害がある。
具体的には、四球の重要性が上がることで自然と試合時間が長くなるハズだ。
今年の大リーグが敬遠を省略したのも、この影響じゃなかろうか。
以前から野球は試合時間が長すぎると言われていた。
勝つために四球を選ぶのは必要だろうが、はっきりいって四球じゃ試合は盛りあがらない。
試合を面白くして、時間を短縮するため、野球はなんらかのルール変更が必要になるかも。
それと、閉鎖的な大リーグ村みたいな組織はどこにでもある。
ボクシングなどの格闘技にも統計学を利用した勝率の高い戦いかたが見つかるかもしれない。
そして、それを取りいれることで優位に戦えるようになるだろう。
「たまたま運が良かった」と言ってゴマカしちゃえば、3年は優位性を保てるぞ。
守備に関しての指標で改革を起こして20年連続負け越しからプレーオフまで進出したパイレーツを扱った
「ビッグデータ・ベースボール」がおすすめですよ
ある意味でマネーボールの続編とも言える内容です