泣くまいと思っていたのに、やっぱり涙がこぼれ落ちた。娘の結婚披露宴の席である。
 最初は、式のリハーサルの時だ。初めて娘のウェディングドレス姿をみた。我が子ながら綺麗だった。
その娘と腕を組み、バージンロードを歩くと練習をした。その時点ですでに涙腺は緩んで来ていたが、まだアルコールかわ入る前だ。理性が上回って、涙を堪えることが出来た。
 ウェディングドレスパーティーの椅子についた。「席札の裏に皆さんへのメッセージが書いてあります」と司会者が言うのでひっくり返してみた。そうしたら、直筆で「パパ、有難う」と書かれてある。それでもう、瞼の裏は涙で一杯になった。でも、ここでも何とか溢れることを抑えた。
 しかし、こういう演出は、どうにかして新郎の父を泣かせようとするものらしい。最後の最後に罠が仕掛けられていた。
 新郎新婦と両家の父親が向かい合って立たされた。何が始まるのかと思っていたら、娘が感謝の手紙を読み始めた。それでもうアウトである。溢れ落ちる涙を止めることは出来なかった。
 嬉しい。有り難い。こんな幸せなことはない。だけど、新婦の父などという配役は、一度でたくさんだ。
 当たり前か。一人娘が、そんなに何回も結婚するようなことにはなって欲しくない。末永く仲良く添い遂げてもらいたいと願うばかりだ。