犬や猫を飼っていると、なかなか長期間家を空けることが難しい。
 犬は、毎日、一定時間散歩をしなければ、ストレスが溜って、体調に異常をきたすこともあるという。猫は、その点、散歩の手間が無い分楽かもしれないが、どっちにしても、餌をあげなきゃいけないし、水は取り替えなくちゃいけない。トイレの清掃も必須だ。
 ウチの猫たちの場合、1泊2日までならば、 今のところ問題はなさそうだ。出かける前にトイレ掃除を終え、餌と水を多目にやっておく。翌日帰って来てから、残り具合をみて餌を足して、トイレも片付けるというパターンだ。
 ところが2泊以上となると、やっぱり心配だ。そこで、保護猫仲間にお願いをする。勿論、有料だ。猫のトイレ掃除だけでなく、我が家の廊下も綺麗にしてくれるので、大いに助かっている。
 先週末、娘の結婚式で那須へ行ってきた。今年に入ってから初めての2泊の旅行だ。今回もまた、保護猫活動の先輩に、留守を頼んで行った。
 日曜の夜、家に帰ってきた。そうしたら大変なことが起こっていた。最も気が強い一匹が、洗面所の中に入っていたのだ。どうやら、留守に来てくれた人が、ドアをちゃんと閉めていなかったようだ。知らずに中に入ったら、猫はビックリしたかのように、もの凄いスピードで、洗濯機と壁の隙間に逃げ込んだ。隙間と言っても、幅30㎝くらいはある。そこに閉じこもったきり出て来ない。その晩は、遅かったし、諦めて寝た。
 昨日も、外出先からこまめに帰ってきては、あの手この手でおびき出そうとした。猫じゃらしを目の前で揺らしてみたり、おやつをぶら下げてみたり・・・。それでも駄目だった。手を差し伸べても「シャー」と威嚇してくるだけだ。
 そこで今日、とうとう強硬手段に出た。厚手のズボンに長靴を履いて、手には冬用の手袋をはめ、囓られても引っかかれてもいいような格好で、僕もその隙間に入ってみることにしたのだ。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」といった心境だ。(意味はちょっと違うか?)
 だって、土曜の午後からだとすれば、もう3日も何も食べていないことになる。餓死したりされれば可哀想だ。純粋に猫のためを思っての決断だった。
 おそるおそる片足を突っ込んだ。そこで反応があった。猫は、目にも止まらぬ速さで壁を駆け上がり、僕の手袋に一瞬だけ爪を立てたかと思うと、あっと言う間に洗濯機を飛び越えて、廊下に出て行った。まずは作戦成功だ。めでたし、めでたし。
 だけど気がかりは残る。決して、無理矢理掴んだり、持ち上げたりなど手荒なことはしなかったつもりだ。そんな間もなかった。でも、猫は相当怖かっただろう。もともと懐いていたわけではないが、益々距離が離れてしまうようで心配になった。
 良かれと思ってしたことが、逆に不信感や嫌悪感を持たれてしまう。これって、人間同士でもよくある話じゃないかなと、ふとそんなことが頭を過ぎった。(8244)