太宰治まなびの家常駐解説員のKa君は、最近,俳優として売れっ子になっている。今日も、劇団弘演の定期公演「袖ふりあうも」に出演している。そこで、僕がまた、学びの家解説員のピンチヒッターを買って出た。
 朝、出勤(?)して驚いた。まなびの家の前の道路で渋滞が発生している。見ると、向いの厚生学院前には、親子連れの長蛇の列が。そうか、今日は、みらいねっと弘前主催の「おさがり会」の日だ。それで会場の偕行社前が混み合っていたのだ。
 お陰で、その帰りに立ち寄ってくれる人もいて、悪天候にもかかわらず、まなびの家も午前中はいつになく賑わった。僕も張り切って接客に励んだ。
 朝一番で、男の子2人を連れたお父さんがやってきた。解説しようとしても、あまり興味がなさそうだ。聞けば、おさがり会場に奥さん一人で入っていったので、子どもを連れて時間つぶしをしているのだそうだ。逆に「太宰は好きですか?」と訊かれた。「いえ、あんまり」と正直に答えると、「僕もそうなんです」と嬉しそうに頷いた。
 かと思うと、千葉県から来たという女性客は、館内に飾ってある太宰の学生時代の写真を見て、「可愛いわねぇ」とうっとりしている。中学時代に初めて読んで以来の熱烈な太宰ファンとのことだ。
 弘前には初めて来たというお客様もいた。斜陽館には以前行ったことがあるという。「ここも趣があって素晴らしい。もっと宣伝すればいいのに」とおっしゃってくれた。これから弘前公園に向かうというので、僕は市立郷土文学館を宣伝しておいた。  
 若い女性の2人組に話しかけられた。弘前大学教育学部の2年生だという。この地域のことを色々
調べて、授業で発表するのに、まなびの家を採り上げてくれるのだそうだ。  
 ひとしきり館内を見学したあと、改まって質問をしてきた。
 「ここで、どんなお仕事をしてるんですか?」
 「このお仕事でどんな点にやりがいを感じてますか?」
 いや、そんなことを訊かれても困る。僕は単なるピンチヒッターなのだ。
 でも、管理する弘前ペンクラブの役員としては言っておきたいことがある。それは、この家の持つ価値のことだ。太宰治が旧制弘前大学時代、ここに下宿をしていたこと。この家で作家になろうとする具体的な夢を膨らませていったこと。道路拡張工事にかかり取り壊されそうになったのを、多くの弘前市民・全国の太宰ファンの力で、移築保存できたこと、平成25年からは弘前ペンクラブが指定管理を行なっていること等々だ。そういった経緯を、太宰の作品と同時に、後世の人に伝えていくというのが、この仕事のモチベーションとなりやりがいでもある、と僕は答えた。  
 最後に、教育学部の学生さんらしい質問がきた。
 「太宰作品の中で子どもたちに薦めるとしたら何ですか?」
 そりゃぁ、やっぱり「走れメロス」だろう。まさか小学生に「人間失格」を薦めるわけにはいかない。(7057)