バレンタインデーなのである。何やら世の男性どもはそわそわし始める。チョコレートを何個貰ったかが、人間を測るバロメーターになるようなそんな日だ。
 僕は、自慢じゃないが、20代までは、”バレンタイン”と言えば、金髪の妖鬼と怖れられたプロレスラー、ジョニー・バレンタインしか思い浮かべることのない純情な青年だった。それくらい男女関係には疎かった。早い話が縁が無かった。
 それが長ずるにつれて、段々と世の中に毒されてきたようだ。 議員時代は、定例議会終了毎に開催していた議会報告会を、わざとこの日にぶつけ、来場してくれた女性からチョコをせしめたりもしていた。究極の義理チョコである。何とさもしいことをしていたんだろう。
 議員を辞めたので、今年から、そんな真似もできなくなった。そこで今日、関係している団体の事務局に行って。居合わせた女性に、思わず催促をしてしまった。あー、去年まで以上にみっともないことをしてしまった。
 帰りに、行きつけの居酒屋に寄った。80歳を過ぎた女性が一人でやっているお店である。最初は飲むつもりはなかった。土曜日に予約していたペンクラブの参加人数を伝えて、それで退散しようと思っていた。
 ところが、驚いたことに、いつもは常連客でひしめきあっているカウンターに、今日に限って誰一人座っていない。「きっとチョコレート欲しさに、みんな若い娘のいるお店に行っているんだろう」と冗談を言いながら、カウンターに座った。何も飲まずに帰るのが申し訳ないような気がしてきたからだ。
 ビール2杯と焼き魚をつまんだ。お会計と言って立ち上がったら、おかみが、小さなチョコレートを一つまみ、紙袋に入れて持たせてくれた。あぁ、こんな場末(失礼!)の居酒屋にも、バレンタインデーという風習が根付いているのかと、驚いた次第だ。
 ことほど左様に、バレンタインデーは、いまや日本人の生活に馴染みきっている。もともとは、女性が愛する男性にチョコレートを贈るという、女性のために考案されたチョコレート業界の販売戦略に過ぎなかったのだが、今や、もてない男がチョコの数を競い合うという、男性のためのイベントに様変わりしているようにも思う。
 何と嘆かわしい。って他人のことは言えない。早速、もらってきたチョコレートを一粒、口に含んだ。(7100)