行きつけだった寿司屋から、「F町へ移転のため、当店は7月31日をもって閉店します。長らくのご愛顧有り難うございました」という葉書が届いたのは、8月上旬、まだねぷたまつりの最中だった。突然だった。というのも、僕は、7月下旬、土用丑の日に、その店から鰻を買ってきたばかりだったからだ。その時は、閉めるとも、移転するとも、一言も話はなかった。
移転先は書いてあったが、移転オープンの日は「決まり次第新店舗の店頭に張り出します」としか書かれていなかった。それ以来、ずーっと気になっていた。あまりに急だったので、マスターがどこか身体でも悪くしたのではと心配もした。
もう一つの心配は、葉書に書かれていた住所だ。僕は、まだ工事中だった頃、車で前を通ってみた。決して商売向きの立地とは思えなかった。F町の人にはともかく、弘前市内からだと、電車か車でなければ行けない。電車ったって、日に何本あるかのかもしれないローカル線だ。タクシーで往復でもしようものなら、飲み代以上に金がかかりそうだ。これでは、せっかく長い年月をかけて弘前のど真ん中で営業してつかんできた常連客が離れてしまうのではないか? なんて経営のことも気に掛けていた。
開店したのは先月の下旬だったらしい。心配はしていたが、なかなか行く機会が無かった。一ヶ月経った今日、念願叶って、取り敢えずランチタイムに行くことができた。
店には行って驚いた。広い。前の店は、2階に座敷と大広間はあったものの、普段はカウンターと、10人程度の小上がりだけで営業していた。それが今の店は、カウンターの他に、テーブル席が30席ほど。大きないろりを囲んだ8人ほどのテーブル。それに奥には、密談(?)もできそうな座敷もある。元会社経営者としては、益々、座席回転率のことが気になる。
だけど、それは杞憂だった。正午を廻った頃には、カウンターも、テーブル席も、ほぼ満席に近い状態になった。
移転に伴いランチの値段も上がっていた。売り上げ=客単価✕客数である。単価も上がり客数も増えていれば、当然売り上げも上がっているはずだ。安心した。
何より嬉しかったのは、マスターが元気そうだったことだ。弘前時代よりも若返った感じで、忙しそうに働いていた。
残念ながら今日は、ゆっくりと話すことができなかった。やっぱり、話し込むには、夜、カウンターで腰をすえて呑むしか無い。
今度は夕方に、酒を飲まない人を誘って、運転してもらって来よう。などと虫のいいことを考えた。(4155)