昨日に引き続き、基本は自宅療養である。午前中に外科医に行き、顔面に貼ってある絆創膏を取り替えてもらい、あとは家でゆっくり昼食を摂っていた。
と、家の固定電話がなった。僕は普段の日中は、ほとんど外出しているせいか、家電の着信音に驚いた。おそるおそる受話器をとると、先方は稚内市の食品市場だという。
「以前ごお買い上げいただきました、稚内の〇〇会社です」
「はぁ?」
「平成23年、一度だけご来店いただきまして、メロンをお買い上げいただいたんですが、覚えていらっしゃいますか?」
「はぁ?」
確かに、稚内へは一度行ったことはあるが、それが何年前だったか、どんな店に寄ったのかさえうろ覚えだ。ましてメロンを買ったなんて記憶はない。
「実は今、稚内の観光もかなり厳しい状態でして、今年のメロンが大量に余ってしまいそうなんです。そこで、お買い上げいただいたお客様ガタに、こうして電話をかけてお願いしているんです」
「それはそれは」
「稚内のメロンは、夕張並に高い評価を受けてまして、それを今回は、特別価格で提供いたします」
「おいくらですか?」
僕も聞かなくてもいいことを訊いてしまった。
「通常ですと1個1万円ほどのメロンが3個と、それに日本一と言われる帆立の貝柱をつけて1万円です。貝柱は赤ちゃんの拳くらいの大きさの物を500g・・・」
電話の向こうで、懸命に売り込もうとしている姿が浮かんでくる。だけど、独り暮らしの、それもめったに家で食事を摂ることのない人間に、そんなにたくさん送ってもらっても、結局余してしまうだけだ。今回は丁重にお断りをした。
が、この積極性には感服した。もう10年も前の宅急便か何かの控えを見て、以前の客に電話をかけまくっているのであろう。頭が下がる思いだ。
それで思い出した。若い頃、神戸で一度だけ行ったクラブのママから、数ヶ月後、電話をもらったことがある。素直に感激した。でも、「また来てね」と言われても、弘前から神戸まで、そう簡単にいけるはずもない。それっきりになった。
コロナで今は、どの業界もダメージを被っている。緊急事態宣言が解除と言っても、冷え込んでしまった消費マインドが回復するには時間がかかるであろう。
そんな中、皆が大変な苦労をしている。それぞれに経営努力をしていることと思う。でも、やれ補助金だ、やれ休業協力金だと、行政からの支援を求めるだけでなく、こうした積極的な売り込みを行なっている事業者は、どれほどあるのだろう?(6273)