弘前大学医学部附属病院の内科外来は、受付を挟んで左と右に、長い廊下が奥へと延びている。廊下の両脇には、 それぞれ10を超す診察室等が連なっており、そのドアとドアの間の壁面には、長椅子が点々と置かれている。僕は、そこへ腰掛けて、静かに名前をよばれるのをを待った。
 しつこいくらい書いてきたが、僕は、入院をさせられるかどうかの瀬戸際に立たされていた。今日の医師の診断でそれが決る。
 僕は、この日に備えて、必死になって、血糖値を下げるべく努力と忍耐を重ねてきた。今月に入って、アルコールを口にしたのは、たった3日だけだ。この1週間の平均歩行数は一万歩を超える。
 きょうは、そういった、柄にも無い努力が報われるか否かの、審判の日であったのだ。
 名前が呼ばれた。おそるおそる診察室のドアを開ける。いつもの通り、生真面目な主治医が椅子に座っている。
 「どうでしたか?」
 「はい、頑張りました」
 「ふーん」
 どことなく、つれない返事だ。もう既に、あまり信用されていないみたいだ。
 医師は徐にコンピュータの画面を開いた。恐ろしいことにそこには、僕のこの2週間ほどの血糖値の測定結果が撮し出されている。
 IT技術の発達といおうか、それとも医学の進歩というのだろうか、簡単に全てがあからさまになってしまう。以前のように、口先だけでごまかすことが出来なくなってしまった。こんなに数字が明確に出るのなら、「どうでしたか?」なんて聞かなくてもいいのに、と臍を曲げてみたりする。
 が、実は、その数値は良かった。一日だけ、薬を忘れた翌日に、ちょっと高かった日はあったが、あとは概して低く抑えられていた。昨日の夜などは、逆に低血糖が心配になるくらい、極端に低い値であった。
 ここぞとばかり、僕は弁舌をふるった。
 「でしょ、でしょ。頑張ったんですよ。一生懸命歩いたし、お酒も控えたし、昼ご飯にも気を使って・・・」
 「どんなものを食べてたんだね?」
 「サンドイッチだけとか、ざる蕎麦だけとか。あとは、昨日ガ〇トで、糖質制限サラダうどんというものを見つけたりして・・・。全然味気ないんだけど、そんなものばかり食べてました。」
 「あまり食べないのも、栄養不足になるからねぇ」
 「・・・・・・」
 そうだったのか。もっと食べても良かったんだ。失敗した。
 いや、失敗ではない。そんな過剰とも言える節制が功を奏し、強制入院だけは免れることができた。だけどまだ、糖尿病の治療は続く。月に1度の検査は、これからも受けなければならない。
 あーあ、身から出た錆とはいえ、やっかいなものになってしまった。まぁ、取り敢えず、明日と明後日くらいは、昼にラーメンを食べて、夜は一杯ひっかけてみようかな。あっ、元の木阿弥か。(9436)