女房の名前宛てで、某金融機関から簡易書留が届いた。「親展」となっている。
 「親展」と言われても、女房はもう10年前に死んでいる。僕は、何か悪い胸騒ぎがして、おそるおそる開封した。
 果たして、真っ先に目に飛び込んできたのが「カードローン云々」という文字だ。30万円の貸越し限度が設定された契約書まで同封されている。ひょっとして、僕の知らないところで借金をしていて、それが今さら請求・・・? 一瞬、怯んだ。
 過去にも同じようなことがあった。女房が亡くなってまだ間もない頃だ。
 「奥様のローンのことで」と、今回とはまた別の金融機関から連絡が入った。すぐに融資窓口に行ってみたら、30万円弱のローンが残っているという。僕は、全く聞かされていなかった。
 代わって返そうにも、自分の選挙を間近に控えていた。 だから僕は、名刺を差し出して、「近々選挙があって、その供託金が返ってきたら、それで弁済します」とお願いしてみた。
 担当者は「少々お待ち下さい」と席を離れ、上司らしき人のところへ行って、何やらもじょもじょと話している。怪しい人が来たとでも言っているんだろうか?
 しばらくして、担当者が帰ってきた。「それでOKです」という。
 いやぁ、嬉しかった。今だから正直に言おう。その時僕は、選挙での当選を確信した。少なくとも、箸にも棒にもかからないとは思われていなかったということだ。勿論、選挙が終了して、供託金返還の手続きが終わってすぐ、その銀行に持参した。
 などということを思い出しながら、手紙を送ってきた金融機関を訪ねた。そうしたら、契約から一定期間が過ぎたので解約の手続きをするとのことだった。よく見れば、契約したのが平成1年とある。30年以上も眠っていたのだ。
 ローンの残も無いという。その代わり、口座に1000円の預金が残っている。さぁ、どうしようう?
 この1000円をおろすためには、僕が僕であることを証明するために、謄本やら印鑑証明が必要になりそうだ。なんやかんやと、足が出るかもしれない。
 そんなわけで、今日は、何もしないで引き上げてきた。当分は放って置こうと思う。
 家に帰ってから、書面をよく見れば、休眠口座として預金保険機構に移管されると書いてある。そうなると、女房のなけなしの1000円は、どうなってしまうんだろう? 1000円あれば、馴染みの居酒屋で、ビール一杯とおつまみ1品を頼めるのに・・・。(5351)