吉原幸子という詩人をある方に教えて頂いて、
どハマりしました。
『ブラックバードを見た日』より
現代詩の実験
肌をなでる 青い風は去った
信じられる唯一つの事実のために
深夜 にじむ脂汗をぬぐひ
うつくしい匕首を研いであそぶ
いちまいの皮膚の下に息づく死を
はらわたのやうにとり出して 煮る
(オーヴンに顔を突込んで死んだ
アメリカの女詩人は 三十歳だった)
(中略)
ジョニイは戦場へ行った
手足と五感を失った彼は
胸にさす 太陽のぬくみだけを感じた
彼の苦しみは 誰にも見えなかった
だがもし
愛するひとが 目の前で叫んでゐたら
もし アジのやうにはねてゐたら?
夏になったら死なう と
春には思はなかった
秋には 思った
冬になった死なう と
冬には 思ふだらうか
次の春まで待たう と
(略)
『新選 吉原幸子詩集』より
死に方について
*
目覚めて しばらくは
夢の出口をふさいでゐる
夢は 魚のやうにはねてゐる
(中略)
泣いてくれるひとがゐる といふのは
うれしい くるしい不自由だ
失ひたくないひとがゐる のも――――
ある場合には
<死ぬのをみる>ことのはうが
<死ぬ>ことよりもおそろしい
だが<死ぬ>ことが
<死ぬのをみる>のを<みる>ことなら
ある場合には
深いかなしみをみる ことが
深くかなしむ よりおそろしいなら
唇かんで つらいはうを引きうけようと思っても
どれを引きうけていいのか ほんたうにわからない
だから もし
わたしが間違って選んでしまっても
どうか泣かないで
いいえ やっぱり泣いて
(中略)
<死>について考へるとき
生きてゐるあらゆるものに
人はやさしくなる
肩をさする
だからあれは 死そのものの音ではない
いのちが 炎えながら言ひ遺す音だ
そして いのちが何かを言ひ遺すとしたら
<愛>しかない
かげるとき はじめて
ほほゑみは 愛だ
(略)
----------------------------------
これほどの孤独さと優しさと、苦しさを感じた詩はありませんでした。
すごい方。
この詩を書かれた時に、どうか幸せを少なからず感じていてほしい、感じていたはず、と思うのですが、それは私には全然伝わっていないのかもしれません。そうしたら、ごめんなさい。
近々、作品の発表の機会が無いので、今は言葉探しをしたり
いつかの展示会に向けて少しずつ準備をしています。
この言葉探しだったり、物語の世界に触れたりする時間が
今の私の特別な時間です。
全然知らない世界がたくさんあることに改めて気づきます。
外国文学が好きですが、それも知らない世界をはっと気づかせてくれるからです。
日本のSFも大好きです。
小説がもともと苦手でしたが、少しずつ克服しようと思っています。
「物語」って不思議だなと思います。
その話はまたこんど。
吉原さんの詩は日記のようで、俯瞰しているようで
それなのにあまりにも孤独で、勇ましくて
大好きになりました。
いつか、書いてみたいなと思います。
どハマりしました。
『ブラックバードを見た日』より
現代詩の実験
肌をなでる 青い風は去った
信じられる唯一つの事実のために
深夜 にじむ脂汗をぬぐひ
うつくしい匕首を研いであそぶ
いちまいの皮膚の下に息づく死を
はらわたのやうにとり出して 煮る
(オーヴンに顔を突込んで死んだ
アメリカの女詩人は 三十歳だった)
(中略)
ジョニイは戦場へ行った
手足と五感を失った彼は
胸にさす 太陽のぬくみだけを感じた
彼の苦しみは 誰にも見えなかった
だがもし
愛するひとが 目の前で叫んでゐたら
もし アジのやうにはねてゐたら?
夏になったら死なう と
春には思はなかった
秋には 思った
冬になった死なう と
冬には 思ふだらうか
次の春まで待たう と
(略)
『新選 吉原幸子詩集』より
死に方について
*
目覚めて しばらくは
夢の出口をふさいでゐる
夢は 魚のやうにはねてゐる
(中略)
泣いてくれるひとがゐる といふのは
うれしい くるしい不自由だ
失ひたくないひとがゐる のも――――
ある場合には
<死ぬのをみる>ことのはうが
<死ぬ>ことよりもおそろしい
だが<死ぬ>ことが
<死ぬのをみる>のを<みる>ことなら
ある場合には
深いかなしみをみる ことが
深くかなしむ よりおそろしいなら
唇かんで つらいはうを引きうけようと思っても
どれを引きうけていいのか ほんたうにわからない
だから もし
わたしが間違って選んでしまっても
どうか泣かないで
いいえ やっぱり泣いて
(中略)
<死>について考へるとき
生きてゐるあらゆるものに
人はやさしくなる
肩をさする
だからあれは 死そのものの音ではない
いのちが 炎えながら言ひ遺す音だ
そして いのちが何かを言ひ遺すとしたら
<愛>しかない
かげるとき はじめて
ほほゑみは 愛だ
(略)
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これほどの孤独さと優しさと、苦しさを感じた詩はありませんでした。
すごい方。
この詩を書かれた時に、どうか幸せを少なからず感じていてほしい、感じていたはず、と思うのですが、それは私には全然伝わっていないのかもしれません。そうしたら、ごめんなさい。
近々、作品の発表の機会が無いので、今は言葉探しをしたり
いつかの展示会に向けて少しずつ準備をしています。
この言葉探しだったり、物語の世界に触れたりする時間が
今の私の特別な時間です。
全然知らない世界がたくさんあることに改めて気づきます。
外国文学が好きですが、それも知らない世界をはっと気づかせてくれるからです。
日本のSFも大好きです。
小説がもともと苦手でしたが、少しずつ克服しようと思っています。
「物語」って不思議だなと思います。
その話はまたこんど。
吉原さんの詩は日記のようで、俯瞰しているようで
それなのにあまりにも孤独で、勇ましくて
大好きになりました。
いつか、書いてみたいなと思います。