hikkai_kakuninsyo 事務所へのお問い合わせが多いご相談に「隣から筆界確認書に判を押せと言われたが、押しても大丈夫やろか?」というものがあります。
  確かに突然家に見知らぬ調査士が訪ねてきて、得体の知れない書類にハンコ、それも実印を押せとか言ってこられたら、ちょっとびっくりするし、不審に思われるのもしょうがないですよね。

 昨今では近隣の住民から不審がられないように、事前に挨拶したり、不在の場合は測量することを伝えたりするお知らせをポスティングするのですが、読んでいただけてないことも少なくなく、たまに突然の来訪、ってことになったりすることもあります。

 で、この筆界確認書という書類。
 前々回のブログでも筆界確認書の意義という項目で説明しましたが、もう少し突っ込んでご紹介したいと思います。

【2020年9月26日追加しました】

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◆ 筆界確認書の意義(おさらい)     
 詳細は前々回のブログを見てもらえればいいんだけど、ここで持筆界確認書の意義について軽くおさらいをしておこう。
  1. 法定添付書類ではない
  2. 土地登記行政の参考資料に過ぎない
  3. 筆界確認書の筆界は実は筆界ではない
  4. 筆界確認書は単なる有印私文書
    つまり、個人レベルの覚書き相当
 「筆界確認書」なんてたいそうな名称を付けておきながら、それ単体では筆界の確認はしていない、という出落ちのような話だ。

 その理由は「公法上の境界で土地所有者の合意によって動いたりしない」という原則(建前)があるからです。

◆ 土地所有者等の責務    
 そもそも、従来の法律では土地所有者の権利は書かれていても、義務について明文化された法律はあまりありませんでした。
 せいぜい固定資産税の納税義務ぐらいでしょうか?

 ところが、昨今の空き家・空き地問題にも挙がっているように、土地・建物の管理不足により近隣に迷惑が掛かったり、放火・犯罪の温床になる、といった実害も目立ってくるようになりました。

 そこで土地基本法が2020年(令和2年)3月31日に施行され、その第6条で「土地所有者等の責務」が規定されました。
 その第2項に「当該土地の所有権の境界の明確化のための措置を適切に講ずるように努めなければならない」という明文規定が定められたのです。
 努力規定、というところがちょっと弱いですが、一応土地家屋調査士が隣接地所有者に筆界の確認をお願いする根拠が生まれた、といえます。
 逆を言えば「それまでは規定がなかったのかよ!」ってことになりますよね…
 今まではそんなことを明文で決めなくても、土地の資産価値が高かったので自発的にしてたんですよね。その分、境界の争いも多かったですが…今も?
(土地所有者等の責務)
第六条 
土地所有者等は、第二条から前条までに定める土地についての基本理念(以下「土地についての基本理念」という。)にのっとり、土地の利用及び管理並びに取引を行う責務を有する。
2 土地の所有者は、前項の責務を遂行するに当たっては、その所有する土地に関する登記手続その他の権利関係の明確化のための措置及び当該土地の所有権の境界の明確化のための措置を適切に講ずるように努めなければならない。
3 土地所有者等は、国又は地方公共団体が実施する土地に関する施策に協力しなければならない。
◆ 筆界確認書の押印義務はあるのか?     
 そうなると、筆界確認の後、調査士が筆界確認書に押印してくれ、といわれた時に押印義務があるのか?ってことですが…


残念ながらありません!(´;ω;`)
 筆界確認の意義、のところでお話したように筆界確認書はあくまで私人間の覚書き
 つまり任意の文書です。タテマエは…

 しかも、土地基本法にもあるように、土地所有者等の責務であって義務ではありません。

◆ 義務と責任と責務            
 この3つの言葉はよく似ていますが微妙に違います。
 世間ではよく混同して使われますが、ここでは法律的な意味で説明します。

・義務
 法律的に義務は一番観念しやすく、義務を怠ると「義務違反」が問われます。
 安全運転義務違反とかひき逃げなどの救護義務違反とかね。
 義務は法定され、違反すると罰金などの罰則があります。

・責任
 責任については、みんな大好き自己責任!などでも使われているのでなんとなくイメージできると思うけど、わかりやすく言うと「自分のしたことは自分に跳ね返る」ってことで「自分のケツは自分で拭け」ってことです。
 民法に「過失責任の原則」というものがあり、「基本的に何をしてもいいけど、過失があった場合は責任を取りなさいよ」ってことです。
 私的自治の原則、と言い換えたりもします。

・責務
 ここまで書けばだいたい予想が付くと思いますが、責務とは責任+義務が合体した造語(?)で、法律でよく使われます。
 ただ、責任と義務の合わせ技か?というとそうでもなく、どちらかというと責任と義務の中間ぐらい、といった意味合いで使われることが多い印象です。
 しかも土地基本法ではこの責務は努力規定ですから、義務違反にも問われませんので義務の意味はかなり弱いですね。
 ただし、責任の部分についてはほぼ満額の意味で、「筆界確認をしなかった責任」は将来の自分に降りかかるといえます。

◆ 自助・共助・公助の筆界確認        
 最近、「自助・共助・公助」の言葉を時々聴きます。
 あんまりいい感じで使われてないですが(笑)、筆界確認にはまさにこの3つの要素が盛り込まれています。

1.自助
 一つ目の自助はまさに自分の土地の筆界を決めること
 それは自分の所有権が及ぶ範囲を決めるということで、自分の権利を守ることに繋がります。

2.共助
 では、共助の側面とは何か?
 それは自分の筆界が決まるということは、お隣の筆界も決まるということ。
 それは共助の意味合いも持つ、ということですよね。

3.公助
 では公助となる部分とは何か?
 それは筆界が決まっているということで、災害後の復興事業において、速やかに公的援助を受けやすい、ということです。
 東日本大震災でも境界や所有者が確定できないために何年も復興事業がとん挫・遅延したことは記憶に新しいです。

◆ まとめ ~筆界確認書とは?        
 これまではわりと筆界確認書をディスって来た私ですが、良い面を見ればこういった効果もあるのです。
 ただその運用や立ち位置があいまいな部分が多く、法務局のご都合主義的な部分が否めないのも事実ですが、自分の土地の筆界をお上任せにせず、自らが口を出せる余地がある、と考えれば悪くないのではないでしょうか?

 それに、お隣から筆界確認のお願いが来たということは、お隣の費用負担で自分の土地の筆界も決まるわけです。一部ではありますが…
 でも一部でも確定した部分があれば、残りの筆界確定の作業は大幅に低減することができ、費用を低く抑えることができます。

 ですので、調査士が「筆界確認書にハンコを押してね♡」とお願いに上がったとき、あまり邪険に扱わないでくださいね~

 でゎでゎ


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兵庫県神戸市中央区相生町二丁目3番13号
いもと登記測量事務所
土地家屋調査士・行政書士 井 本 秀 典
TEL 078-371-5000 FAX 078-371-0349
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