〈はじめに〉
ミールスの食べ方にただ一つの正解があるわけではありません。
インドでも地域やコミニュティによってそれは変わりますし極端な話一人ひとりみな違います。
エリックサウスで紹介しているのはその中のそこそこオーソドックスな一つのパターンに過ぎませんし、ここで紹介するのもそれに個人的な好みをプラスしたものにすぎません。
ただミールスに限らず食事のマナーやルールといったものがその食べ物を最もおいしく食べるノウハウの集大成であるのと同じように、ここで紹介するのも、ミールスを最大限に楽しむためのひとつの方法であるという事は言えるんじゃないかなと思います。
では始めます。MEALS READY !

〈まず何を選ぶか〉
エリックミールスではサンバルやラッサムなどデフォルトで付いてくるアイテム以外に2種類のカレーを選べます。ほとんどのお客様は「チキンとキーマ」みたいな感じで2種類とも肉系のカレーを選ばれる事が多いようです。もちろんそれでもいいのですが、あえてここで言いたいのは「肉は1種類で充分」という事です。
ではもう一つは何を選ぶか。
ここはぜひ「本日の菜食」を選んで下さい。菜食は日替わりで基本常に2種類(以上)を用意しています。そのうち一つはデフォルトでミールスに付いてくるので、ここで菜食を選べば自動的に日替わりの2種類ともが楽しめる事になります。
ミールスはノンベジ(非菜食)であっても基本は菜食料理を楽しむ料理なのです!
肉カレーのどれを選ぶかは、これはほんとお好きになさって下さい。バターチキンだけは避けるべき、という意見もあろうかとは思いますが、食べたければバタチキでも構わないと思います。理由は後ほどお分かりになるでしょう。
ただし個人的には「エリックチキンカレー」を推奨します。

〈ミールス、到着!〉
さああなたの眼の前にミールスが到着しました。
まずやるべき事は「パパドの避難」です。パパドの初期配置はバスマティの真上ですが、このままだとパパドは米の湯気を吸ってしんなりしてしまう可能性があります。カトリのいくつかをターリーの外に出して空き地を確保し、パパドを大きく割ってそこに配置しましょう。(このパパドは合い間合い間にそのままかじったり、さらに粉々に砕いてライスにふりかけても良いのです。)
そして改めてミールスの全容を確認したら、私はまずラッサムを半分飲みます。ラッサムをどのタイミングで飲むか(あるいは米にかけるか)についてはインドでも諸説あるようですが、私はまずラッサムを、言うなれば食欲増進効果のあるスタータースープとして楽しみます。ここでひとつちょっとしたコツがあります。ラッサムはカトリのそこに豆のペーストやスパイスが沈殿しているのですが、最初はあまりそれを攪拌せず、上澄みだけを飲むイメージで。理由は後ほどわかります。

ミールスを召し上がるお客様の中には、ミールスが到着するやいなや全ての料理を最初から全部ライスにかけて全部丹念に混ぜてしまう方もいらっしゃるようです。間違いとまでは言い切れないのかもしれませんが、個人的にはあまりお勧めしません。

〈序盤はアペタイザータイム〉
先ほどカトリのいくつかをパパド避難のために外に出したかと思いますが、ここでさらにいくつかもしくは全てのカトリを外に出し、ターリーの手前にスペースを作ります。手前中央にはウプマとワダが初期配置されているはずです。このウプマとワダの上から、サンバルの半分をかけてしまいます。続いてココナツチャトニーもその上から全部かけてしまいます。そしたらワダにはその混合物をたっぷりつけて、あるいは染み込ませて食べます。ウプマの半分はそのままの味を楽しんだ後、のこりはサンバル、チャトニーとぐちゃぐちゃに混ぜて食べます。

〈前半戦の山場、ノンベジタイム〉
さて次に手を付けるべきは意外かもしれませんがひとつ選んだ肉系カレーです。これをターリー左手前に配置されたターメリックライス(日本米)に全部かけてしまいます。つまりこのタイミングでターリーの片隅である意味日本的な「カレーライス」を完成させてしまうのです。そしてまずはそれを食べ切ってしまいます。実はこれこそが私の意図した「エリックサウスのミールス」最大のオリジナリティなのです。先ほども書きましたが、ミールスは「基本は菜食料理」。しかし欲張りな(そしてタブーも無い)日本人の性としては肉もちょっとは食べたい。これを両立させるのが即ちこのプロセスという事です。
ミールスは「混ぜる料理である」という基本概念がありますが、私は肉カレーはこの概念の枠外であると考えます。(2種類以上の肉カレー同士をミックスする事も推奨しません。)
なので肉カレーはこのタイミングで、相性の良いターメリックライスと共に食べ切ってしまうのです。ただし淡白な野菜料理の前に濃い肉料理を食べる事に違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。これは前菜→メインと進む西欧的な概念からは確かにそう見えるかもしれませんが、むしろこれは和食の懐石をイメージした方がしっくり来るかもしれません。懐石だと、前半に刺身や焼魚などのテンション高めなノンベジが供され、後半は純粋なベジでは無いものの野菜料理中心の進行となります。これと全く同じイメージです。
先に「一つ選ぶカレーは別にバタチキでもかまわない」と言いましたが、その理由もお分かりいただけたかと思います。
ちなみに日本米ではなくチャパティ等の粉物と共に供されるミールスも、ターメリックライスをそれに置き換えれば同じ方法が応用できます。

〈いよいよ本丸に到着〉
さて、アペタイザーとしてのウプマ・ワダを片付け、肉カレーを先に「なかった事」にしてしまえば目の前にはいよいよ純正ベジミールスという本性がその全貌をむき出しにしています。
まずは、半分残っているサンバルを全部バスマティにかけてしまいます。満遍なくかけるためにここで「サンバルおかわり」を敢行してもかまいません。ミールスは何度も言うように「混ぜる料理」ではありますが、基本的には「主役であるサンバルとその他」を混ぜる物と考えた方がより進行がスムーズになると思います。この「サンバル全掛け」のプロセスは、そのための土台を作る工程となります。
ただし!ここで少食の方、つまりバスマティお代わりまで到達する自信の無い方は注意が必要です。おかわりを前提としない場合はここでライスの一部を白いままで少し脇に避難させておいて下さい。理由は最後にわかります。
また、先ほど肉カレーを攻略した際にターメリックライスか一部残ってしまっている場合はそれをこの「サンバルライス」にミックスしてしまってもかまいません。というかバスマティに少し日本米が混ざった状態が実はミールスにはむしろ最適とも言えると思います。これはマニアの間でしばし取りざたされる「ミールスに最適なのは実はバスマティでは無い問題」にもつながる話なのですが長くなるので省略。ここで既にターメリックライスを食べ切ってしまっていた場合は少量おかわりをする手もありますし、もちろんこの後を純正バスマティオンリーで進行する事がダメなわけでは全くもってありません。

〈オーケー、ではパーティの始まりだ!〉
そしてここからがいよいよ本番。後は好きなものを好きなようにかけて本能の赴くままに楽しんで下さい。
好きなものを好きなようにかけて、混ぜて、シンプルにあるいはいろいろな味をミックスしてひと口ひと口違う味わいを楽しんだり、お好みのミックスを探し当てたりするのはミールスの醍醐味です。
クートゥのクリーミーな味わいをメインにまったり楽しんだり、ポリヤルの固形感を中心にした賑やかな一口を楽しんだり、時には握りつぶしたパパドをライスに振りかけクリスピー感を楽しみつつさらにそこに卓上のポディをふりかけ香ばしさをドーピングしたり、ウールガイをそこにアクセントとして加えたり。ただし同じく卓上のチリオイル(辛味)はここに参戦させない事を推奨します。このチリオイルは基本、ノンベジカレー専用アイテムとしてフレイバーが設計されていますので。
その代わりに重要になるのが先ほど上澄みを飲み干したラッサムです。すこしドロッと濃度のあるこれが、ミックスに辛味と酸味をプラスするアクセントとして抜群の働きをしてくれます。そして同じくらい重要なのがヨーグルトです。ミックスに少量加えるだけでそこには全くベクトルの違う深みが出現する事でしょう。ただしヨーグルトの半分は最後まで温存して下さい。理由はこれも最後にわかります。
実はエリックミールスではヨーグルトに替えてサラダを選択する事も出来るのですが、よほどの事が無い限りここでサラダを選択する事は非推奨である事も、これでお分かりいただけるかと思います。

〈フィニッシュはカードライスで華麗な着地〉
さて思うがままに食べ進め、フィニッシュを前にした理想的な状態は以下のものだけがターリー上に残った状態です。
・白いままのバスマティライス
・ヨーグルト
・ラッサム
・パパド
いずれも量はすこしづつあればオッケーです。ここまでの運用をミスって足りないものがあるときはおかわりして下さい。(がめついようで申し訳ないですがパパドやヨーグルトは有料で追加もできます。ライスとラッサムはもちろんフリーです。)
まずは、残ったバスマティに残ったヨーグルトを混ぜて「カードライス(つまりヨーグルトご飯)」を作成して下さい。そしてそこに残ったラッサムも混ぜ込んで下さい。これがまさに和食で言うところの「締めのお茶漬け」にあたります。お茶漬けにお新香を添えるのと同様、これには漬物(ウールガイ)は抜群の相性です。残ったパパド片は「ぶぶあられ」に相当するとお考え下さい。このフィニッシュこそが、私が「ミールスは一周回って日本人の感性にぴったりである」と考える最大の理由の一つなのです。食事の最後をサラっとシンプルに締める、という世界にあまり例の無い、しかし日本と南インドにはなぜか共通する華麗なフィニッシュです。
ちなみに私はこの後最後にラッサムをもう一杯おかわりして、懐石で言う所の「止め椀」に充てます。別にこれは真似しなくてもいいと思いますが。

長々とお付き合いありがとうございました。
それでは皆様、最高のミールスをお召し上がりください!

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