875 :N.W ◆0r0atwEaSo :2006/10/09(月) 05:01:54 ID:3wTW/+4p0
久しぶりにバイクを駆ってみた。

高原の秋は早い。
カルスト台地で知られる此処も、辺り一面、良く育ったススキで
覆われている。
真夏より幾分和らいだ空の青色の中、白い雲が流れて行く。
まだ少し赤みを帯びたススキの穂が、吹く風に順々となびいている。
あの中へ分け入れば、生い茂る緑の根元に、もうナンバンギセルが薄紫の花を付けているんだろう。

そんな事を思いながら、パーキングにバイクを入れた。
エンジンを止め、スタンドを出そうとして足元に目をやると、ちょうどお茶事の時に使うような、小さな扇子が落ちている。
気をつけてバイクを降り、そっと拾い上げてみると、白檀に似た優しい香りがする。
今、此処に停まっているのは俺のバイクだけ。
誰が落として行ったのか。

ふと、どんな扇面か見たくなり、開いてみようとしたその時、落ち着いたアルトの声がした。
「ぼうや」
(…俺か?)
顔を上げると、いつの間に現われたのか、肩までの艶やかな黒髪を垂らし、ベージュブラウンのシックなスーツを着た女性が一人、俺の目の前に立っていた。
「それ、私のなの。拾ってくれてありがとう」
落ち着いた物腰に、何となく気圧されて、言葉がはっきり出ない。
「あ、いや…」

差し出された手の上に扇子を返すと、その人は両手でそれを挟み込むようにして胸の前に持って行き、本当に嬉しそうに微笑んだ。
「良かった…」
きっと、大切なものだったのだろう。
ありがとう、と再び彼女は礼を言った。
いえ、別に。そう答えた俺の頬に冷たいものが当たった。
見上げれば、空は晴れているが、小雨がぽつぽつ降っている。
狐の嫁入りだ。

目を逸らしたのは一瞬なのに、その人の姿が消えていた。
後には、枯れた朴葉が一枚と、優しい香りだけが残っていた。

***


910 :本当にあった怖い名無し:2006/10/10(火) 05:16:42 ID:f089ENZfO
知人Hの話

Hの父親は若い頃から山好きだった。
父親の写真の殆どは山で撮ったもので、全身で喜んでいるのが一目でわかるような笑顔で溢れているそうだ。
写真の父親は、いつも同じ帽子を被っている。
それは彼が高校生の夏、初登山の際に知り合った同じ年の少年が、たまたま同じ物を被っていたので記念に交換した思い出の品だった。
暫くは手紙のやり取りもあったが、互いに忙しくなり途絶えてしまったという。
Hが高校に入ってすぐ父親が亡くなった。
遺影に使われたのは山で撮った素晴らしい笑顔の写真で、やはり、帽子を被っていた。

帽子は棺に納められた。
形見として残したかったが、これからは思う存分、登山を楽しんで欲しいという思いを優先したのだそうだ。
火葬場に到着すると、既に別の集団が待機し、自分たちと変わらぬ年齢の母子の泣く姿が見えた。
何げなく遺影に目を向けたHは固まった。
遺影には父親と同じ帽子を被って微笑む男性が写っていたそうだ。
ありふれた帽子なので、別人でも何らおかしくはないが、20年以上の歳月を経て再会した二人が、一緒に登山してるような気がしてならないとHは笑った。
俺もこんな偶然があってもいいんじゃないかと思えた。


***

948 :本当にあった怖い名無し:2006/10/12(木) 17:28:49 ID:nmUB3idS0
このスレとはちょっと主旨がズレるかもしれないけど、俺の爺ちゃんの話。
爺ちゃんが子供の時、まだ戦前の話で爺ちゃんはその当時長野県の田舎に住んでいたらしい。
ある秋の頃、山にキノコを採りにいってつい夢中になってかなり山奥まで入ってしまって
何とか引き返そうと思っていた時、なんとなく視線を感じて辺りを見回したら10m位離れたところに“オオカミ”がいたらしい。
当時爺ちゃんの家では10匹以上の犬を飼っていたので犬の特徴は大体分かっていたので
明らかに野犬ではないと思ったらしい。
早く下山しないと陽が落ちるので歩き出すとそのオオカミと思しき動物も一定の距離を取って付いてくる。

当時10歳の爺ちゃんだったけど不思議と恐怖心は無く逆に一緒に居てくれることが心強かったらしい。
そして「道に迷ったみたいなんだけどどうしたら帰れる?」と話しかけたらオオカミが先に進んで歩き始めて
30分位付いていったら、村が見える丘の上に着いてそのまま無事に帰れたらしい。
どう考えても最後の日本オオカミが確認されてから大分年月が経っている時の話なんだけど
あれは間違いなくオオカミだったって未だに信じてるみたい。


***

198 :ヘタレハンター ◆aoV/Y6e0aY :2006/08/08(火) 00:18:54 ID:FtIyjvcI0
皆さんどうもです。新スレおめでとうございます。
先スレで生存報告をしたあと、ご挨拶したかったのですがスレが荒んでしまっていましたので改めて。

まあそれだけではなんなので。

先輩ハンターから聞いた話です。

シロという猟犬を相棒にして、何猟期も山を駆け回った。
よくできた犬で、一人一狗の猟をしていても、まったく不便がない。
俺のいる位置を察知して、獲物を追い出してきてくれる。

あるとき、せっかくシロが追い出してくれたイノシシを失中で逃がしてしまった。
後から出てきたシロ、尻尾を振って獲物は何処?と先輩の顔を見ていたがすぐに事の次第に気づいたらしい。
『ヘタクソ』
確かにそういった。間違いなくそういった。
『ごめんな』としかいえなかったそうです。


其のシロ君、16歳で天寿を全うしました。
最後の二年はその人の庭で余命を悠々と。
其の最中に二度頭をなでたのもいい思い出です。
今は思い出の山中に葬られているそうで。

***

9 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/07(月) 00:43:49 ID:hUd7sg6j0
後輩の話。

学生時代に山の中、一人で藪漕ぎをしている時のことだ。
いつの間にか、すぐ近くからおかしな音が聞こえ始めた。
「ガツ・・・ムシャムシャ・・・」と、まるで何かを食べているかのような咀嚼音。

気になって周囲を見回したが、どう見ても藪の中には彼しかいない。
出来るだけ早く藪を抜けることにした。
そのうちに「ガリッ!」と固い物を齧り砕く音や、「ペチャ・・・ズズッ・・・」と汁気を啜るような音まで聞こえ出す。
しかし相変わらず、何の姿も確認出来ない。

やっとの思いで藪を抜けると、背後から一際大きな音が投げられた。
「ゲェッッップ!」と、やけに下品な音だった。

それを最後に、怪しい音は聞こえなくなったという。
「無茶苦茶怖かったですよ、本当に」
彼はそう言って口元を歪めていた。

***

10 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/07(月) 00:44:54 ID:hUd7sg6j0
友人の話。

彼の実家がある山村には、一寸変わった物の怪が出たという。
「舌盗み」とか「舌盗り」と呼ばれるそれに取り憑かれると、食べ物の味が全然わからなくなってしまうそうだ。
山の主が他人の舌を借り、様々な味覚を楽しんでいるのだろうと言われていた。

姿形がない存在なので、力ずくでは追い払えない。
これに憑かれると、とにかく好き嫌いをせずに、何でも食べなければいけないと伝えられていた。
色々な食べ物の味を堪能すると、舌盗みは満足して山に戻るからだとか。
なぜか胡麻の味は嫌いらしく、胡麻を沢山摂れば早く開放されるとも伝わる。

何とかして舌盗みを山に帰すと、元通りの味覚が戻ってくる。
生命に別状はないということだが、秋の収穫期にはとにかく怖れられ、そして嫌がられた存在だったそうだ。

偏食はいけないっていう教訓が、化け物になったのかもしれない。
彼自身はそう考えているのだとか。

***

11 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/07(月) 00:45:48 ID:hUd7sg6j0
同級生の話。

彼の住んでいる地方の山には、「蛇の池」と呼ばれる池がある。
大蛇が潜んでいるという伝説があって、一昔前には目撃者も結構居たそうだ。

池の上には、切り出した材木を運ぶためのモッコが走っていた。
モッコとは綱で編んだ籠のことで、これを滑車で吊るして動かしていたとか。
時折その籠から池に落ちる物があった。木っ端とか道具とか、その他諸々。

そういった落下物は翌朝、必ず池端の土手の上に、投げ出されていた。
大きい物も小さい物も区別なく、池に落ちた物は水の外へ。
大体がちょこんと優しく置かれているのだが、金物の類いが落ちた場合は別で、
池から随分と離れた場所に突き刺さっているのだという。
まるで力任せにブン投げられたような感じで。
卵が落ちた場合は真逆で、絶対に殻一つさえ浮いてこないのだとか。

「蛇さんは 金物が大嫌いで 卵が大好き」
蛇の池のためか、彼の地元ではそういう認識が当たり前だったそうだ。

***

352 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/09(水) 23:24:52 ID:N+fh+Xqp0
同級生の話。

彼は学生時代にフィールドワークをしていた山里で、何度か奇妙な体験をしたのだという。

朝一で雪野原に踏み込むと、外れの方にゴム長靴が一足落ちていた。
誰かが揃えて置いたかのように、きちんと上を向いて立っている。
そのまま気にも留めず、雪上で作業に取り掛かった。
しばらく経ってから手を休め、大きく伸びをしながら辺りを見回す。
「あ?」どこかおかしい。記憶にある景色と何かが違う。

「あ!」・・・足跡だ。
一体いつ刻まれたのか、彼のいる反対側、まだ誰も足を踏み入れていない
筈の雪面に、足跡が一列残されていた。
野原を半分くらい横切った辺りで、足跡は途切れている。
丁度そこに、先ほど見かけた黒い長靴があった。
ポツンと半ば雪に埋もれて。

不意に幻視に襲われた。
空っぽの長靴だけが、必死に雪野原を横切ろうとしている、そんな光景。
頭を大きく振って、その想像を打ち消した。
その日はまだまだその野原ですることが沢山あったのだ。
おかしな絵を連想してしまうと、どうにも落ち着かなくなる。
全力をあげて無視することにした。

すべての作業が終わる頃、もう一度だけ件の方向を眺めやった。
いつの間にか足跡は森の中へ続いており、あの長靴はもうどこにも見当たらなかった。


***

353 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/09(水) 23:26:10 ID:N+fh+Xqp0
知り合いの話。

彼の地元の山森には、変わった言い伝えがある。
横倒しになった木の下を、潜って通ってはいけないというのだ。
そういう倒木には物の怪が棲み付いていて、下を潜った者の背に飛び移ると
言われている。

物の怪の姿は目に見えず、いつ背に乗られたのかもわからない。
ただ足を進める毎にどんどん身体が重くなるので、それと知れるそうだ。
重さに挫けず森を抜けると、諦めて背から離れてくれるので助かる。
しかし、暗い森の中でへたり込んでしまうと、二度と腰を上げることは適わず、
一歩も動けないままそこで息絶えてしまうのだと。

地元ではオブサリと呼んでいたという。
それほど深くもない森なのに、なぜか遭難者が多いのは、このオブサリの所為だと皆が信じていた。

誰か他の者の手助けがあれば、オブサリはすぐに退散するらしい。
「森に入る時は一人では入らんようにな」という祖父の注意を、彼は今も覚えているそうだ。

***

354 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/09(水) 23:28:05 ID:N+fh+Xqp0
友人の話。

釣り仲間と二人で、鮎釣りに出かけた。泊まり込みだ。
夜になり、釣った鮎を塩焼きにして楽しんでいると。
河原の下の方から、タタタッと何かが走ってきた。

身構えた二人の前に現れたのは、首を落とされた鶏だった。
切断面からピュゥと血を吹き上げながら、哀れな鳥は闇に消え去る。
「誰かが鶏をつぶそうとして、逃げられたんだろう」
相棒がそう口にした。自分でもあまり信じてはいない様子に見えた。
いつまで経っても、鳥を探しに来る者など居なかった。

それから帰途につくまでの毎晩、首切れ鳥は彼らの横を走り抜けた。
「多分、同じ鶏だったと思う。確認はしてないけど。
 特に害はなかったんで、二人とも無視したさね」

「気味は悪かったけどな」
彼は最後にそう付け加えた。



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