2012年06月17日

『ラ・ワン』

金曜日に『ラ・ワン』の1円試写会に行ってきた。
会場は30人ほど。しかし日本ではマイナーなインド映画の試写会初日ということならまずまずではなかろうか。
以下、ネタバレ要素満載なのでこれからご覧になる方はご注意下さい。
RA.One

□■□■□■□■□ネタバレあり□■□■□■□■□

バーチャルヒーローが現実世界に現れて、生身の人間とふれあい悪と戦う。
非常に単純明快だがなかなか面白いコンセプトを軸に、そこからストーリーをふくらましていったであろう作り方をしている。しかし脚本がいまいち雑なためにどこにフォーカスを当てたいのかよくわからない印象を持った。

『ロボット』で衝撃を受けた観客が同様の奇想天外なバカバカしさを期待していると、そういうジャンルではない。
昔ながらのインド映画のような泣いて笑って心がほっこりとするというにはストーリーが弱い。
かといってハリウッド的なクールでスマートな展開を狙っても、本家にはかなわない。
ただし、今後のインド映画の方向性としては間違っていない。CGを駆使しつつもインド映画らしさを残していくような融合作品は増えていくだろう。インド映画をあまり観ていない人なら「新しいジャンル」として目新しく映るかもしれない。カーアクションを始めとしたアクションシーンはスピード感があり見ごたえがあった。CGもなかなか良かった。ムンバイの象徴たるCST駅崩壊のシーンは圧巻。

だからこそもっと丁寧な脚本であったら面白さは倍増していたと思う。良質なインド映画にはきれいな伏線が隠されていることがある。今回のラストに向かっての謎解きは、今時のゲーム好きな小学生でもわかるレベル。ものすごく高度な技術を駆使しているのに、やってることは二次元戦闘ゲームとなんら変わりない。さっきまであれほど自由自在に飛び回っていたキャラクターが、なぜか最後だけ手動になってしまったり、これを含めて理由後付けでつじつま合わせをしている。ゲームというのが重要なファクターになるはずなのに、バーチャルヒーローありきで話を進めていきたいがために、なんとなくないがしろにしてしまっている気がする。ゲームのコンセプトを精密に描いたうえで、インド映画が最も得意とする人と人とのつながりにフォーカスを当てれば、最強のインドSFが完成するだろう。父、もしくはG.Oneと息子の心のふれあいは決して悪くはなかったのだから。

<シャールクの迷走>
これは本人というより起用する方の問題かもしれない。ボリウッドでは他の俳優に比べて頭2つも3つも抜け出して一人勝ちしてきたシャールクだが、どうも最近彼は演技の方向性に迷いがあるように思われる。サルマン・カーンがちょっとおバカでマッチョな善人キャラで再び生き生き演技しているのと対照的だ。インド映画ならアラ還暦のラジニだってスーパーヒーローになれるし、初めてシャールクを見た人であれば特に何も感じないかもしれない。だが昔から見てきた者にとって、もうすぐ50を迎えるシャールクが着ぐるみをまといカラーコンタクトで頑張っている姿を見た時、キムタクが宇宙戦艦ヤマトの実写版を演じた時のような何とも言えぬもの悲しさを感じてしまったのだ。まあかっこいいんだけどね。彼は軽い役柄は得意なのだが、コメディなストーリーラインにはあまり向かないと思う。そもそもこの脚本にここまで下ネタをたくさん含んだギャグ的要素が必要だったのか?もっと無機質な感じにしてもよかったのでは。ということであれば、いい意味で人間の泥臭さが少ないリティック・ローシャンの方がハマるような気もする。

<インド映画ファンならではのお楽しみ>
『ロボット』の1シーンをパロってラジニ・カーントの登場を始め、冒頭プリヤンカ・チョープラーで「Desi Girl」、サンジャイ・ダットで「Khal Nayak」、Kuch Kuch Hota Hai の歌のワンフレーズなど、知る人ぞ知るネタが密かに散りばめられている。ついでにいつまでたってもインド映画は日本と中国の区別がつかない。アルジュンはますますかっこよくなってきた。

冒頭シーンでは思わず口があんぐり・・でびっくりしたが、勢いと力技で最後まで引っ張ってきた。
基本的に冗長さも含めてインド映画だと思っているが、完全版の方が断然面白かった『ロボット』と対照的に、この作品に関してはカットした方がよりスピード感が出たような気がする。

最後に細かいところと今回の宣伝の仕方について。
こういう作品で撮影の裏をばらすようなメイキングはなんとなく余韻を壊すような気がした。さらにエンディングで歌が終わってもテロップが流れ続けたため、観客は無音のままでじーっとスクリーンを眺めていた。DVDで確認しても同様だったのでどうしようもないことかもしれないしインド人はラストまでいないから問題ないだろうが、間を持て余してしまう。それから字幕担当者の名前がなかった。

1円試写会というアイデアは面白いと思ったが、上映回数が多いのはうれしいものの都内近郊のインド映画ファンなら皆見てしまうレベル。Facebookで「いいね」を押すと、前売りがもらえるというシステムは、今見た人にもう一度見ろということ?誰かにプレゼント?私はFacebookに登録だけはしているのだが、使い方がいまいちよくわかっておらず、結局もらえなかった。同じように戸惑っている人が何人かいたし、何となく差別的な感じとともに無理に「いいね」を押させるというのはヤラセっぽくてあまり好きになれない。キャッチコピー、ポスター、予告編決定まで観客にやらせるというのはアイデアというよりは観客に丸投げの他力本願な気が・・・。とは言え本国で公開されたばかりのシャールク作品を公開にこぎつけた努力は心から賞賛したい。

さんざん厳しいことを書いたが、愛あるがゆえのこと。全力で応援していくことに変わりはない。結論は「まず観てみよう。話はそれからだ。」明日のインド映画公開のためにも、まずは観ていただきたい。

『ラ・ワン』公式サイト

この記事へのコメント
★ネタバレねたばれネタバレねたばれネタバレねたばれネタバレねたばれ★

見てきました!!
ココで情報をいただかなければ、見られなかったことでしょう。
いつもお世話になっております〜〜。

で,映画。
おっしゃる通り、
なんだか「話が整理されぬまま、撮影始まっちゃった」的な、
脚本の未熟さがありますよね。
「悪」に憧れ、父親を疎ましく思う息子の気持ちと「正義」を諭す父親の思いなど
もう少し端的にクリアに説明できなかったのかなぁ。
「悪」って、結局なにを指していたのか?
Ra Oneは、いったい何をしたかったんでしょ?
世界征服? それともただゲームに勝ちたかっただけ??

で,あっけなく倒れちゃう。
あんなに冗長な展開だったのに(笑)。
思わず、えぇっ!って声が出ちゃいました。
影長すぎだろー。

そして、最大の難点。
バーチャルが実体化するくだり、
もう少し丁寧に説明が欲しかったのですが、
「・・・ま、そういうことで。」で強引に持ってかれた感じが,
最後まで違和感として残ってしまいました。


うーん、でも。
シャールクは、かっこ良かったです!
いつものくどーい「シャールク節」が、あまり好きでない私ですが、
筋肉スーツの「G oneシャールク」は、神々しくさえあり、
ある意味、ラジニカントの域に達した感がありました。
某木村さんと一緒にしちゃ、あまりにも・・・と思った私ですが、
今までシャールクを見つめていらっしゃった立場からすると、
「うーむ。」なのかも知れませんねー。

で,意外にも、カリーナがよかった。
好きでない女優さんですが、うまくなったなーなんて思いました。

あと、音楽もよかった!
新鮮味はないけれど、王道を行く感じで。

とにかく、ご紹介いただいて、感謝!感謝!です。





Posted by chicks at 2012年06月24日 23:22
今までのシャールク、インド映画のイメージとは異なる要素が多くて、
つい思いの丈を書き連ねてしまいましたが、まあ冷静になってみれば、
「こんなのもアリかな。」なんて気にもなったりして。

親子揃って見に行ける作品だとは思いますが、
それならなおさらコンドームネタはどうかと(笑)

ニコ生でもう一度見られそうなので、今一度楽しもうと思っています。
chicks さんも是非どうぞ。
Posted by 管理人 at 2012年06月25日 22:08
いつも欠かさずブログを拝見しています。
たまにコメントさせていただいている者です。

6月23日(土) 11:00〜の回に行きました。
100人くらい?いてびっくりしました。
ラジニ登場シーンで拍手が起きて、二度びっくり。

「マイ・ネーム・イズ・カーン」以来のシャールクだし、ストーリーも斬新な感じがしたので期待大だったのですが…、ちょっと私には向いていませんでした。
シャールクの良さが生かされてないと思ってしまいました。
ベタですが、「ラブネ」みたいなシャールクが好きです…。
あと、私も下ネタの多さに辟易しました。
もっと別の笑わせ方をしてほしかったです。

なんか、批判ばかりですみません。

でも、近くにいた若い女の子が、「超〜おもしろかった!!」と言っていたので、救われました。

DON2やらないかなー。
Posted by jun at 2012年06月25日 23:41
これまでのシャールクを知っているとどうしても他のヒット作と比べてしまうのですが、
人によっては新しい彼の魅力の発見、もしくはインド人俳優のヒーローは
ラジニのようなタイプばかりでないということがわかってもらえるかも
しれませんね。

ボリウッドの久々の一般公開ということで、これまでのインド映画ファンのみならず、
一人でも多くの人に楽しんでもらいたいものです。
Posted by 管理人 at 2012年06月26日 23:36
iTunesで日本語吹き替え版があったので購入して見てみました。
仰るように、映像表現がとても良かっただけに、脚本がもっと練り込まれていたら、もっと面白かったかと。ラワンの強さが今ひとつ感じられませんでしたし。
一番要らなかったのは、ホモネタかな…。セキュリティチェックのときの。
特に最初のプラティクの夢の中のルシファーの世界観の表現がかっこよかったですね。インド映画もここまで来たかと。ブルースリーというより、逃亡者おりん的なものを感じましたが…。
シヤルクカーンさんの映画は、NASA職員役のをやった祖国しか知らなかったので、演技の幅広さに驚きました。コミカルな演技もできるのですね。ダンス、アクションもかっこよかったですね。
しかし、調べたら南インド映画でご活躍されてるプラカシュラージさんやスリハリさんよりもお年を召していらっしゃるとか…。そっちの方が驚きましたけどw。キムタクと比べては…(以下略)。どちらかといえばサラリーマン金太郎の高橋克典さん的な感じでしょうか。
日本語吹き替え版の声優さんはどなたを使っているのかわからなかったのが残念ですね。個人的にはもう少し、シヤルクカーンさんの声は軽めの声優さんが良かったかなぁと…。
でも、基本的には特撮ヒーローモノが好きなので、いろいろと日本の特撮ヒーローモノにはない表現などがあって楽しめました。駅を破壊しちゃうのが特に日本と違うなぁと。日本だったら駅破壊前に止めるんだろうなと…。ガネーシャ像の前で止まった時、G-ONEがガネーシャ像を見て頷いたのに何かインド的に意味があったのかがわからなかったですね。インド神話を勉強していかないと本当の面白さはわからないのでしょうね。
インド映画は伏線回収をちゃんとやるから、長くなるんだなぁと最近気がつきました。この作品では伏線回収が雑な気がしました。
面白い要素はいっぱいある映画だなと思いました。


Posted by ナン at 2013年07月15日 20:56
ボリウッドいちのスターを使って特撮ヒーローものにチャレンジしていく姿勢には今後のインド映画の将来性を感じます。ただこの作品の場合は良くも悪くもボリウッド色・・・つまり恋愛、家族愛、アクション、お笑いなどの色々な要素を入れ過ぎてしまって、おっしゃるように伏線回収に手間取ってヒーロー像がいまいちかすんでしまったというか。ハリウッドのマネをする必要はないと思いますが、ヒーローを引き立たせるためにはもっとシンプルな構成にした方が良かったかもしれません。

インド映画は文化や宗教、昔の映画の小ネタ、音楽などがあちこちに出てきます。知らなくても楽しめますが、知っているともっと楽しい。ということで、どんどんインドに対しての興味が広がってきてしまうのですよね。
Posted by ソニア at 2013年07月15日 23:25
良く比較されているロボットも日本語字幕付きがiTunesであったので見ました。
ロボットが何故納得行くかというと、チッティが起こした被害をきちんと清算してから物語が終わったことですね。
それに対して、ヒーローG-ONEが宿敵ラワンを倒すために街を破壊することに対して市民が納得出来る理由を提示していたかが明確でなかったんですよね。痴話喧嘩にロンドンやインドの街が巻き込まれた感があってその辺の処理がうまく脚本で解決されてなかったことが残念だったことのように思います。例えばラワンがテレビをハックして全世界に向けて、宣戦布告をしてみたいな場面が一瞬でもあれば、全世界が「G-ONE、ラワンを止めて!(そのためなら多少の被害は構わない)」見たいな場面も出来て納得がいったかと思います。
チッティは素直に生き残って欲しいと思ったのですが、G-ONEはこれからも人類に迷惑かけるのか?と不安にf^_^;。
あと余計だと思ったのは、シェカルの奥さんの罵り言葉研究の下り…かなぁ。ギャグとして機能していなかったですし。
南インド映画(トリウッド?)のNTRジュニアさんのシャクティも特撮ヒーローモノ風で面白かったです。私としては、シャクティが一番面白かったです。ただ、NTRジュニアさんがかぶり物を着ているわけではないので、特撮ヒーロー然とはしていませんがね。
今はインドではまだまだ特撮ヒーローモノ風のものは受け入れにくいのかも知れませんが、仰るようにその方向性はインド映画が新たな転換期の時期を迎えている証拠なのかもしれませんね。

Posted by ナン at 2013年07月16日 20:03
(承前)

ロボットは、普通に面白かったのですが、歌の場面が多かった感じがしました。そこだけが、唯一残念な所でしょうか…。あと、気になったのは、蚊の軍団のリベンジはあったのかなかったのか?くらいかしら。
両映画の煽り文句のワケわからないと言うのはインド映画界に対して失礼だなぁと思いました。インド的超絶発想の新しいSF映画!とかそんな感じの言い回し出来ないのかなぁと。両作品ともインド映画の可能性を感じ、面白かっただけに…。
インド神話を少し知りたくて、ラワンを見る前にインドのアニメ映画でニコ動で日本語字幕付きのハヌマーンを見てみました。十面鬼羅刹も出てくるシーンがあったので、このネタを持ってきたか的な嬉しさを感じました。インド神話も少しずつ勉強して行こうと思います。
インド映画の日本上陸、これからもどんどんしてくれるといいなと思います。北インド映画やボリウッドだけでなく、トリウッド映画も…。トリウッド映画はニコ動でのシンクロムービーで需要はあると思います。映像の元ネタを知りたいのに、日本で公開されてないしBDやDVDなどの映像媒体も少なくなかなか見られないし仕方ないと諦めてしまっている人多いと思います。シャクティとかアショックとかブリンダヴァナムとか面白いのになぁ…。
Posted by ナン at 2013年07月16日 20:11
ナンさん、大変興味深いコメントありがとうございます。
どちらの作品もシャールクとラジニというスーパースターありきで、そこにいかにCGとヒーローものをコラボしていくかというのが根底にあるのだと思いました。ただそれが生きるかどうかはやはりストーリーの出来次第なのでしょう。

ちなみにヒーローものでボリウッドではリティック・ローシャン主演の『Krrish』という作品が比較的完成度が高かったと思います。ハリウッドのマネではなく、ボリウッドらしさがきっちり残ってました。機会があればご覧になってみて下さい。ヒロインは『Don』などで好演したプリヤンカ・チョープラーです。

インド映画とひとくくりに言っても地方によってテイストが異なるので、この秋公開のテルグ映画『マッキー』にも興味津々です。私も今度ナンさんおすすめの動画を是非見てみようと思います。
Posted by ソニア at 2013年07月16日 23:23
まずは訂正させてください。
シャルクカーンさんの年齢ですが、日本の学年基準で言えば、ご両人と同い年でしたね。すみません。

shaktiは脚本が練られていて面白い映画です。いろいろとツッコミ所がないわけではないですが…。雑な所もありますが、結構丁寧な作りだったと思います。NTRジュニアさんのアクションがやっぱり良いです。ただ、テルグ映画的なグロシーンがあるので…お覚悟を。

オススメ映画が増えてきて、追えないです。インド映画は長いから困りますf^_^;。短めでも2時間台ですからねー。見るのに覚悟が要りますね。英語字幕があればいい方で、ないものも多いので…。字幕なしで見ることも。時々出てくる知ってる英単語と場面とで、何を言っているのかを類推してます。アンマーはお母さん、ナーナ(と聞こえる)がお父さんくらいですかね?わかるテルグ語は。
最初に見たshaktiも最初はテルグ語のみで鑑賞しました。それでも面白いと感じられました。

Posted by ナン at 2013年07月17日 19:09
本当は全編通しで観るのが一番いいのでしょうが、長いためにどうしても分割して観ることになってしまいます。そうすると感動も何割減かしてしまうのでしょうが。でも本当にすばらしい映画は思わず一気に観ちゃうんですけどね。
Posted by ソニア at 2013年07月20日 22:32