死者の魂が向かう先、それが“Shadowfell(シャドウフェル)”です。重苦しい空気が漂う、死の気配に満ちた領域。この世界は、命ある者たちが暮らす世界と対称をなしている世界で、片方の世界に「何か」がある場所には、もう一方の世界にも「何か」があるといった具合に、互いに鏡に映したかのような構造になっています。我々のような者たちが住む世界では「町」であるはずの場所が、“Shadowfell”では見渡す限りの寂れた墓地であったり、こちらの世界では英雄の彫像が建っている場所に、あちらの世界では巨大な墓標があったりと、なにかと沈鬱で死のにおいがつきまとう、薄暗闇の世界なのです。

 この対称的な2つの世界に加えて、先のエントリで紹介した“Feywild(フェイワイルド)”もまた、それぞれに対称を成していて、これらの世界がいわゆる「三つ子」の関係にあると言えます。我々の住む世界では水に恵まれて豊かな田園風景が広がる土地も、“Shadowfell”では魂がさまよう枯れ木ばかりの死者の沼地であったり、“Feywild”では手つかずの自然が残る妖精たちの聖域だったりするわけです。今回は“Feywild”からの流れを受けて、我々の世界と「並行して」存在する“Shadowfell”にも目を向けていきましょう。
HoS_Parallel
 『Heroes of Shadow』に掲載されている概念図。人間たちが住む“The Mortal World”と、妖精たちの世界である“Feywild”、そして死と闇の“Shadowfell”という3つの並行するプレーン(Plane=次元界)。



 なにはなくとも、まずはこの本から。“Shadowfell”を題材にしたサプリメントです。2011年5月に発売されました。
HoS_Cover


 今回はアプローチをちょっと変えて、駆け足で内容を紹介するのではなく、趣味英語の学習らしく、じっくりとバラしながら触れてみたいと思います。さすがに「中学英語レベル」というほどカンタンではありませんので、英語に苦手意識があると「お手上げ」「メンドーだ」「そもそもやる気がしない」など、いろいろな感想を抱くかもしれません。

 が、そこで「趣味」という側面が役に立つのです。楽器の習得にしろ、家庭用ゲームのコントロール習熟にしろ、およそ「趣味」というものは、よくよく振り返ってみるとけっこう高いハードルを乗り越えないと深く楽しめないものであります。ギターの演奏なんかも体が覚えるまでには相当な修練が必要ですし、「バーチャファイター」や「ストリートファイター」のような格闘ゲームでも複雑怪奇なコマンドを覚えて体得しないことには、まったく対戦で歯が立ちません。ところが、そうしたハードルを「苦痛な障害」と感じないのは、趣味に没頭しているからです。趣味そのものを楽しんでいるあいだに、知らず知らずのうちに身についていってしまうものだから「キツイ」と思わないわけです。「D&D」における英語も1つの手段と考えて、お気楽に「触れてみる」ところから始めてみてはどうでしょうか。マジメに文法書を持ち出してきたり、辞書を引きまくったりする必要はありません。まずは「見てみる」ところから始めましょう。



 というわけで、『Heroes of Shadow』を題材に趣味英語を「読んでみる」わけですが、実物の本のテキストだと全員が参照できないと思いますので、「D&D」公式HPからソースを引っ張ってきましょう。『Heroes of Shadow』の製品解説文です。実際の本の裏表紙にも、ほぼ同じ文面が載っています。
DnD_Product_HoS

 読むときの注意!
 「英字部分を飛ばさない」ようにしてください。ついつい、日本語を目で追ってしまいますが、ひとまず「英文が模様に見えなくなる」ところが最初の目標地点です。日本語を読みなれていると、「まとまった英字」が模様に見えてしまうというか、文字として「読もう」という気にならなくなります。今回は英字が主役ですので、スルーせずに読もうとしてあげてください。

ではいざ。


For heroes who bask in darkness.
The Shadowfell is a cold, grim place through which the spirits of the dead must pass on their way to... wherever. Dark, evil things live there, suffused with the power of shadow. Some mortals in the natural world learn how to tap into this source. Assassins. Necromancers. Hexblades. By all accounts, a ruthless lot. However, not all beings that draw strength from the Shadowfell are vile, blackhearted fiends. A few even dare to call themselves heroes, using the power of darkness to fight darkness. Are they evil? No. Deeply disturbed and hounded by their own dark demons? You bet.
 いわゆる「お勉強」としてではなく、実用で英語に触れるようになると、あまり文法というものを意識しなくなってきます。と言いますか、アタマの中で「翻訳」しなくなっていくのです。日本語を介在させることなく、そのまま英語を受け止められるようになっていく、ちょっと不思議な感じを味わうことができるようになります。ですが、最初のうちはそうはいきませんから、慣れるまでにはどうしても「文法」が必要になります。「文法」と聞くとウンザリする人もいるかもしれません。ですが、「文法」自体はあくまで「目安」「手がかり」でしかありませんので、わからなくても気に病む必要はありません。むしろ、「文法的には自信がないんだけど、なんとなく言わんとすることがわかる」ほうが趣味英語的に向いてます。我々は試験を受けるわけではありませんから、すべての修飾語句などをカンペキに読みこなす必要はありません。ですので、まずは軽く「骨子」をつかむところから始めるとよいのではないでしょうか。


 では、先頭の文から「おおまかに」つかんでいきましょう。英語は「動詞」でドライブします。ですので、極論を言うと、どんな文章であれ「動詞さがし」に終始するものだと個人的に思ってます。管理人は英語の専門家ではありませんので、本格的な見地からの解釈ではない旨、あらかじめご理解ください。「D&D」が趣味の「同好の士」による、1つの考え方と思ってご覧いただければと思います。

 ともあれ、英語は「動詞」です。それ以外は「飾り文句」だと考えると、飾りをはぎ取った文章の「骨組み」はこんな感じになります。それぞれの文章を、以下最小限の要素まで絞っていってみます。


The Shadowfell is a cold, grim place through which the spirits of the dead must pass on their way to... wherever.
Shadowfell/is/place
「シャドウフェルってこんな場所です」

 最短で表現すると、こんなに短いのです。受験英語で言う「第2文型」ですね。【S=C】である、という分かりやすい形です。“This is a pen.”の場合、Thisはpenとイコール、同一のものだというアレです。

あとの単語はぜんぶ余計な飾りです。どんどん足していくと

a/cold,/grim/place
 
「冷たくて気味の悪い場所です」

through/which/the/spirits/must/pass 
「この場所を魂は通過していかねばならないのです」

spirits/of/the/dead 
「死者の魂」

on/their/way/to.../wherever. 
「いずこかへの道中」

 あんまり文法用語は使いたくないのですが(どうしてもムズカシク見えてしまいますので)、いわゆる「関係代名詞」も含めて、「後置修飾」があり、うしろ側から前の言葉を飾ってきます。ですから、アタマの中で「翻訳しながら」読んでいると、どうしても目が前後左右に動いてしまって、なかなか前に進むことができません。本当ならば、1つずつ単語を「受け止めて」いって、うしろに戻ることなく「前へ前へ」と踏みしめながら進むのが理想的なのですが、最初のうちはそれが不可能であることも経験上よく分かっています。ですので、これから趣味英語を始めたいと思う方は、「戻らずに読める」ことと「脳内で翻訳しない」ことが最初の一里塚であることだけは、頭の片隅にとどめておいてもらえるとよいのではないかと思います。


 この調子で骨格だけを抜き出します。

Dark, evil things live there, suffused with the power of shadow.
things/live 
「モノたちが暮らしている」
suffused以下は、すごく長い後置修飾でthingsを飾り立てています。
「影の力で満たされた存在たち」


Some mortals in the natural world learn how to tap into this source.
mortals/learn/how 
「定命の者たちはどうやるかを学ぶ」
「どうやってこの源を活用するか/取りだすか」


Assassins.
Necromancers.
Hexblades.
これはそのまんま。


By all accounts, a ruthless lot.
厳密に言うと、主語と動詞が省略されているものでしょうか。
補語がlotで「賭け」というか「くじ」。
「それはどう見ても情け容赦のないくじ引きだ」


However, not all beings that draw strength from the Shadowfell are vile, blackhearted fiends.
(not)/beings/are/fiends 「存在たちは悪魔(ではないよ)」
that以下は関係代名詞節(Shadowfellまで)。「シャドウフェルから力を引き出す存在たち」
not allですから、「そいつらが、みんながみんな悪魔なわけじゃないよ」と。
vileのあとにカンマがありますが、vileもblackheartedも同格でfiendsにかかります。「邪悪で黒い心を持った悪魔」


A few even dare to call themselves heroes, using the power of darkness to fight darkness.
few/call/themselves/heroes
いわゆる「第4文型」で、名詞が連続するので慣れないとやっかい。
「英雄を自称するわずかな者たち」=「自分たちのことを英雄と呼ぶ少数の輩」
念のため「few」=「themselves」です。「少数の輩」=「彼ら自身」です。
using以下は現在分詞でしょうか。「暗黒の力を以て、暗黒と戦う」


Are they evil?
そのまんま。「彼らは邪悪なのか?」


No.
「否」


Deeply disturbed and hounded by their own dark demons?
主語は省略されてますが
disturbed/hounded 「心の内なる悪魔に煽られ駆りたてられているのか?」
disturbedとhoundedは同格で、andで並べられています。

You bet.

「まさしく」


という感じです。


 言語はそれぞれに「完全対応」しませんので、日本語にきれいに収まらない英語表現もあります。プロの翻訳家などは、そこを「なじみやすい日本語表現」に巧みに置き換えるわけですが、英語学習においては「構造がきちんとわかる」ことが大事ですので、学習書に見られるように「おかたい表現」になりがちです。我々のような趣味英語の人間にとっては、どちらも縁のないもので、英語をそのまま自分のためだけに直感的に理解することが、もっとも実用的なスタイルです。今回は参考までに上記のように、できるだけ英語と日本語が対応するように分解してみました。


 最後に、今回の文章で特徴的なものとして「覚えたらいいんじゃないか単語リスト」をピックアップしてみます。なお、単語は「訳語」ではなく「イメージ」で覚えてしまったほうがよいと思いますので、正確な「訳語」ではなくて「雰囲気」を書いておきます。

mortal ……いつか死ぬ生き物。寿命のある生き物ですね。反対語のImmortalは「不死」「不老不死」などの意。ファンタジー用語の大定番で『指輪物語』における「死すべき運命の人の子に」のフレーズにも使われています。"Nine for Mortal Men doomed to die,"
grim ……心が「ゾッ」としたり、「ハッ」としたり、動くイメージ。
tap ……樽に差すタップ。水道の蛇口。「じょぼじょぼ」と出てくるもの。そうする行為。
source ……ニュースソースとか言われますよね。「もと」「みなもと」「根源」です。
vile ……邪悪。ファンタジー用語の定番。
disturb ……かき乱される感じ。平常心を失うイメージ。髪の毛とか気流にも使います。
hound ……ハウンドです。猟犬。「バウバウ」と疾走する。羊を追いたてたりします。