偉大なる魔術師の名を冠した書物Mordenkainen's Tome of Foes。D&D「5th Edition=第5版」の最新サプリメントが着弾しましたので、軽く雑談など交えながらアレコレ見ていきましょう。

MToF_Cover

カバーに描かれているのが「スキンヘッドのおっさん」だったり、なおつかつ日本では馴染みの薄い人物の名前を冠していたりと、日本市場ではあんまり訴求力がなさそうなパッケージングではあります。



ですが、その内容は秀逸極まるものでして、本は見た目で判断してはいけないという好例。



まずはカバーに描かれている「スキンヘッドのおっさん」のエクスキューズから始めてまいりましょう。

D&Dに馴染みの薄い人だと、そもそもにして「Mordenkainen=モルデンカイネン」ってなに? と思うかもしれませんが「人名」であり、冒頭にも書いたように偉大な魔術師なのです。

彼の「スゴさ」を伝えるには、その活躍ぶりや数値を示すよりも、もっと「メタな」表現をした方が手っ取り早いでしょう。

彼は「RPGの生みの親」であるゲイリー・ガイギャックス氏の持ちキャラなのです。
GreyhawkGazetteer
ゲイリー・ガイギャックス氏によるキャンペーン世界「World Greyhawk=ワールド・グレイホーク」を代表するパーソナリティであり、日本語環境では『Living Greyhawk Gazetteer(邦題:グレイホーク・ワールドガイド)』の表紙を飾っていたことでもおなじみ。



現在の最新版「5th Edition=第5版」の『Player's Handbook=プレイヤーズ・ハンドブック』にも彼の名を冠した呪文が掲載されいてるように、彼自身、いくつもの呪文を生み出してきた実績を持ち、D&Dを語るうえで欠くことのできないパーソナリティとなっています。
LivingGreyhawkJournal0
モルデンカイネンが主宰するウィザードたちの一派「Circle of Eight=サークル・オヴ・エイト」。写真は全員が集合している模様を描いた「Living Greyhawk Journal」(Vol.1 #0/2000)。 D&Dには「術者の名を冠した呪文」が多数ありますが、「Bigby=ビグビー」「Otto=オットー」「Nystul=ニィストゥル」など、現在も呪文に名を残す魔法使いたちも「Circle of Eight」の一員。



さてさて、そのようなモルデンカイネンが著した本書ですが、書名には「Tome of Foes」とあります。Tome=トウム」は以前にも触れたとおり「書物」。そして「Foe=敵」ですので、「宿敵」「仇敵」「怨敵」などなど、「敵」を扱った内容であることは推測できるかと思うのですが、では「誰にとって敵なのか」というところが本書のコンセプトの特徴的なポイントとなっています。



本書で題材となっているのは「モルデンカイネンにとっての敵」ではありません。もちろん「冒険者たちにとっての敵」でもありません。本書で扱われているのはD&D世界全般にまたがる「敵と敵の関係」です。

Dungeon Master's Guide=ダンジョン・マスターズ・ガイド』の序盤には

Conflict Shapes the World's History=争いがその世界の歴史を形作る

と書かれていますが、まさしく抗争こそが世界を形成しているのです。



そのことは本書の冒頭の「ABOUT THIS BOOK」でも明記されています。
This book explores some of the greatest conflicts in the D&D multiverse and delves into the cultures of the peoples and monsters involved in those conflicts. 
この本では、D&Dの多元宇宙における最大の抗争をいくつか考察し、そうした争いに関わる人々やモンスターが持つ文化的土壌について掘り下げていく。

Why do dwarves and duergar hate each other? 
なぜドワーフとドゥエルガルは相互に憎しみ合うのか?
Why are there so many kinds of elves? 
なぜこんなにもたくさんの種類のエルフが存在するのか?
What lies at the heart of the Blood War, the great cosmic struggle between demons and devils that threatens to destroy everything if either side were ever to emerge victorious? 
Blood War=ブラッド・ウォー=流血戦争」の核心には何があるのか? デーモンとデヴィルとによる、この壮大な宇宙規模の闘争は、もしいずれかが勝利を収めることになれば万物を破滅させる危険を孕んでいる。
This book provides answers to those questions and many more.
本書はこうした疑問の数々に答えて余りある。

D&Dの世界にはさまざまな「敵対関係」がありまして、それは「個人対個人」のレベルにとどまらず、「派閥対派閥」「国家対国家」、そして「神々対神々」に至るまで、あらゆる段階に及びます

この新しいサプリメントでは、まず「敵対構造」というものを中心に据え、その周辺を描いているわけです。そして、そうした抗争に関連する情報として

 ・プレイヤーキャラクターとして使える新種族
 ・大量のクリーチャー
 ・カスタマイズ・オプション(おもにDM向け)

といったものが掲載されています。



また、テーマが宇宙規模に壮大なこともあって

 ・掲載クリーチャーの「CR」が高め

というのも特徴的なポイントかと思ます。
Orcus
掲載されているクリーチャーのCRは「10以上」が過半数を超え、20以上の最上級クラスもゴロゴロいるほど。実質的にはパラゴン・ティアーやエピック・ティアー向けのモンスター・マニュアルとして機能するのではないでしょうか。

Orcus=オルクス」をはじめとする「Demon Prince=デーモン・プリンス」やドラウの「Matron Mother=メイトロン・マザー(慈母)」など、文字通り「別次元」のクリーチャーが雁首揃えているのです。「敵対構造」を軸に、世界のあり方そのものを解説しようというのですから、その中核に位置する存在について触れられているのも当然なのかもしれません。



なお本書は、そのようにさまざまな「敵」を大魔術師モルデンカイネンが有する認識をもとに描くわけですが、実際には本書の大半を執筆したのはモルデンカイネンに使役された「Bigby=ビグビー」だそうです。
(なお、このことを明らかにしているのは序文で語る「Shemeshka=シェムシュカ」。彼女は次元界の結節点にある都市「Sigil=シギル」で商売を営む「Arcanoloth=アルカナロス」。いわゆる狐の頭部を持つ「Yugoloth=ユーゴロス」です)。
MiniatureArcanaloth
さらなる余談ですが、今年に入ってリリースされたミニチュアである『D&D Icons of the Realms: Monster Menagerie III』で、Arcanolothが入っていました。羊皮紙の巻物を抱えて尻尾をあげた姿がカワイイ(注:悪魔です)。




さてさて、本書の内容を見ていきましょう。


第1章は「悪魔対悪魔」で争われる「Blood War=ブラッド・ウォー=流血戦争」について。
The_Blood_War
冒頭から「敵 vs. 敵」を描いているように、本書は「プレイヤーにとっての敵」を集めた単純な内容ではないことがわかります。もちろん、「Demon=デーモン」も「Devil=デヴィル」もプレイヤーの敵として立ちはだかる存在ではあるのですが、彼らを「倒されるべき敵」として二元構造で描くのではなく、「プレイヤーはひとまず置いといて」、彼ら同士の戦いを通じて描写することで「世界」そのものに深みを与え、彼らの存在を立体的に描き出しています。




第2章は「Race Divided=分かたれた種族」たるエルフについて。
Elves_A_Race_Devided

エルフの種族分裂と聞くと、まっさきに「ダークエルフ(ドラウ)」を思い浮かべますが、本書ではエルフという種族全体の離散と分離について語られています。

このパートで描かれているのは「種族の抗争」などではなく、もっと高次の「神格の抗争」であり、複数の次元界にまたがって分岐していくことになるエルフの歴史を「種族の分断」というテーマで描きます。


そもそも、エルフは種族全体が血を分けた「一族」です。
The most ancient tales speak of elves as the children of the god Corellon. Unlike many similar myths involving other races, these tales are true.
もっとも古い伝承によると、エルフは神たるコアロンの子供たちであると言う。他種族にも見られる同種のよくある神話とは異なり、この言い伝えは事実である。
にもかかわらず、エルフたちは多元宇宙の各地に散らばっていってしまいます。そうした種族の悲劇が描かれています。


 
Shadar-kai
3rd Edition=第3版」から導入された「Shadar-kai=シャダーカイ」の背景も整理されて、その起源がエルフであるという来歴が明らかに。また、これに絡めて「4th Edition=第4版」のオリジナル神格だった「Raven Queen=レイヴン・クィーン」にも従来の世界観と馴染じむ新たな「居場所」が与えられました。


Eladrin
Shadowfell=シャドウフェル」のエルフが「Shadar-kai=シャダーカイ」であるのに対して、「Feywild=フェイワイルド」に定住したエルフが「Eladrin=エラドリン」。四季を表した姿をとり、それぞれに異なる特性を発揮します。




第3章は「ドワーフ」について。エルフの闇の鏡像である「ダークエルフ」については詳しく語られることが多いのですが、いわゆる「ダークドワーフ(←こういう呼称はしませんが)」に相当する「Duergar=ドゥエルガル」のことが詳しく語られる機会はあんまりありません。
Dwarves_and_Duergar

欲望のままに鉱山を掘り進めて行ったら、掘り当てた先に待っていたのは豊かな金脈ではなく、マインド・フレイヤーの中枢頭脳である「Elder Brain=エルダー・ブレイン」だったという笑えない展開。
Elder_Brain
かくして「Clan Duergar=ドゥエルガル氏族」はマインド・フレイヤーの奴隷とされてしまったのでした。





第4章はD&Dで対立と言ったら定番の「Gith=ギス」たちについて。
Gith_and_Endless_War

圧制者であるマインド・フレイヤーを倒したら、今度は内部分裂を起きた……という現実でもよく見かけるパターンの「Gith=ギス」。女王を戴きアストラル・プレーンを拠点とする「Githyanki=ギスヤンキ」と、王を戴き「Limbo=リンボ」を拠点とする「Githzerai=ギスゼライ」。

第4版で採用されていた独自のプレーン構造が見直され「Great Wheel=グレート・ホイール=大いなる転輪」が復活したことで、ギスゼライの棲み処も再びリンボに戻ることに。


Menyar-ag
初代AD&Dでは「an undying wizard-king=不死のウィザードキング」と書かれていたギスゼライの指導者Menyar-Ag=メンヤーアグ」。これまたギスヤンキの女王がアンデッドの「Lich=リッチ」であるのとは対照的で、彼は「barely able to move a finger or lift his own eyelids=かろうじて指を動かしたり、瞼を上げることができる程度」というほどに「corpse-like entity=死体同然の存在」ではあるものの、今もなお生命を維持し続けています。



第5章は少しヒネリが加えられていて、ハーフリングとノームについて。
Halflings_and_Gnomes

D&D世界の中でも、もっとも争いと縁がなさそうな2種族が「なぜ本書に?」と思うかもしれませんが、あえて「争わない」というニッチ戦略を取っている種族として紹介されています。

Gnome
もっとも、両種族とも「争わない」という緻密に計算され抜いた戦略などではなく、きわめて自然体で暮らしているだけなのですが。とりわけノームの場合は、周囲のことなど意に介さず完璧なマイペース路線を歩んでいるだけのような気がします。私はそんなノームのことが嫌いではありません。





最後に、スタッツ部分をいくつか抜粋してご紹介。

掲載されているクリーチャーは約150種類モンスター解説本の『Volo's Guide to Monsterに匹敵する充実度。いずれのクリーチャーも各章のテーマと何らかの関連があります。

Zariel
Nine Hells=ナイン・ヘルズ=九層地獄」の第一層「Avernus=アヴェルヌス」の統治者に返り咲いたZariel=ザリエル」。前任の「Bel=ベル」は、その慎重な性格が不適格とされ、現在はザリエルの参謀に。




Leviathan
Elder Elemental=エルダー・エレメンタル」の一角、水の上位精霊「Leviathan=リヴァイアサン」。なお、写真の右側に名前だけ見切れていますが、火のエルダー・エレメンタルは「Phoenix=フェニックス」です。

このリヴァイアサンはCR20と強力な存在で、世界に破滅をもたらすとされていますが、フォーゴトン・レルムには別のリヴァイアサンも存在しています。たとえば、1つは「ムーンシェイ・サーガ」に登場した地母神の使いである巨大なクジラ。もう1つはv3.5=第3.5版」のエピック・レベル向けサプリメント『Elder Evilsに掲載されていた巨大なサーペントであり、今もフォーゴトン・レルム世界の海洋の奥底で眠っているものと思われます。



Astral_Dreadnought
左側のアンデッド「Allip=アリップ」は、ギスにまつわる存在として本書では言及されています。右側の「Astral Dreadnought=アストラル・ドレッドノート」は、アストラル・プレーンを語るうえで欠かせない存在。初代と第4版の『Manual of Planes=マニュアル・オヴ・プレーンズ=次元界の書』で表紙を飾ってきました。



全体としてはUnearthed Arcanaや既存のアドベンチャーからの再録が多くを占めますが、「Foe=敵」というD&Dらしいコンセプトをもとに、明確なテーマで丁寧にまとめられています。

とくに、読み物の部分は、これまでのエディションの情報を網羅しつつ、「4th Edition=第4版」で無茶な改変が加えられた部分もフォローしてあり、D&Dの歴史をすべて受け止めながら前に向かって進化していくという「5th Edition=第5版」らしい仕上がりになっていると感じました。

収録されているクリーチャーもD&Dになくてはならない必須の常連ばかりですし、モンスター・マニュアルの拡張版としても必須といっていい内容なのではないでしょうか。






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