運動した人に“健康ポイント”特典 地域経済の活性化にも効果
NHK 5月11日 5時32分
東京オリンピック・パラリンピックに向け、スポーツによる健康増進に取り組む自治体が増える中、運動した人に特典を与える「健康ポイント制度」について、医療費抑制に加えて、ポイントを利用した商店街での買い物などで地域経済の活性化に一定の効果もあることが、国などの調査でわかりました。
健康ポイント制度は、運動や検診を行った人がポイントを受け取って商品券などに交換する制度で、住民の健康増進と医療費削減を狙って導入する自治体が増えています。
この制度の効果を探るため、国や自治体、大学などが連携し、3年前から6つの市で調査を行っていて、すでに1年間の医療費を1人当たり5万円余り抑制する効果などが実証されています。
さらに、分析を進めた結果、昨年度1年間で、ポイントを利用した商店街での買い物や外食などの経済波及効果が、6つの市でおよそ8200万円に上ることがわかりました。商品券などのための費用を差し引いても1400万円余り上回り、費用対効果を示す数値は1.2で、基準を超えていたということで、健康ポイントが医療費抑制だけでなく、地域経済の活性化に一定の効果があることが実証されました。
この成果は11日、都内で開かれる報告会で発表されます。
サービス、人材、住まいの確保急げ
高齢者が住み慣れた地域で医療、介護、生活支援などのサービスを一体で受けられる地域包括ケアシステムの実現に向け、いよいよ取り組みを本格化させていきたい。
同システム構築への第一歩となる医療・介護総合確保推進法が18日、成立した。今後は同法に盛り込まれた財政支援制度などを活用し、各地域の実情を踏まえたシステムをどう具体化するか、自治体の取り組みが焦点になる。
いわゆる団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、高齢者が安心して暮らせる地域社会をつくり上げていかなければならない。
同法では、効率的で質の高い医療を行うための病床の機能分化・連携や、在宅医療・介護を推進する新たな基金が都道府県に設置される。財源は消費税の増税分である。
一部のマスコミは、同法成立までの過程で国民の負担増や制度のサービス低下を強調してきた。しかし、医療や介護の利用者が増え、その予算を確保するには、制度の見直しは必要だ。同法では一律の負担増を避けるために、低所得者の介護保険料の軽減措置を拡充する一方で、一定の収入がある高齢者は介護保険の自己負担割合を引き上げ、経済力に応じてメリハリをつけている。
高齢者の急増に対応するには、現在の「施設」中心から「在宅」中心のサービスに切り替えざるを得ない。在宅生活を支える定期巡回・随時対応サービスや小規模多機能型居宅介護サービス、訪問看護などの充実が不可欠だ。
ただ、都市部と山間部などでは高齢化の進み方や地域が抱える課題が大きく異なる。地域包括支援センターが運営する地域ケア会議などを通じて、その地域に適した効果的なサービス体系を組み立て、計画的に実行すべきである。
サービスを提供する人材の確保も大切だ。介護職員の処遇改善などに取り組まなければならない。
同法では、要支援者向けのサービスの一部を市町村事業に移行し、多様なサービスを実施できるようにする。担い手となるNPOや町内会などの支援・育成も欠かせない。
また、来年4月からは特別養護老人ホームへの入居者を原則、要介護3以上の高齢者に重点化する。要介護1、2でも、やむを得ない事情があれば入所可能だが、高齢者の住まいの確保は待ったなしの課題だ。サービス付き住宅の一層の普及とともに、空き家の活用などによって低所得者でも入居できる住居の整備を急ぐべきだ。
高齢になるとともに口やのどの力が衰えて、自分の力でものを食べることができなくなるお年寄りは少なくありません。
いったん食べる力を失うと、回復できないと考えてしまいがちですが、新しい取り組みによって多くのお年寄りが再び食べられるようになり、生きる意欲を取り戻しています。
報道局生活情報チームの山本未果記者が解説します。
90代で低栄養から回復
都内に住む中島清さん(92)は、現在は普通の食事を楽しんでいますが、実は1年前まで食べ物がうまく飲み込めず、体重も37キロまで落ちていました。
当時の日記には、食べられなくなった苦しさや不安な気持ちがつづられていて、中島さんは「食べようと思っても食べられないのだから、こんなに苦しいことはない」と、死ぬことさえ覚悟した当時の心境を話していました。
こうしたなか、中島さんがかかりつけの医師の紹介で受診したのが、食べる力の回復を専門に行う全国でも珍しい医療機関、日本歯科大学の口腔リハビリテーション多摩クリニックでした。
ここで、かんだり飲み込んだりする力を徹底的に分析した結果、中島さんは食べ物をかむことは十分にできたほか、なんとか飲み込むこともできていました。
食べる力が衰えた不安から食べなくなってしまったことで栄養状態が悪化し、そのために筋力が低下して、ますます食べられなくなるという悪循環に陥っていたのです。
でも、食べる力はまだ残っていました。
クリニックでは、訓練などによって回復は可能だと診断し、口やのどの筋力を鍛えるために声を出したりほおを膨らませたりするほか、軽い腹筋など10分ほどの運動を1日3回続けるよう指導しました。
その結果、徐々に食べる力が戻り、1年で体重は7キロも回復したのです。
中島さんは「自分でかんで味わってのみ込める、それも箸を使って食べられることがやはり幸せだよね」と話していました。
食べる力の診断が重要
国の調査では、自宅で暮らす65歳以上のお年寄りのうち、かんだり飲み込んだりする力に何らかの支障がある人は45%にも上り、多くの人が低栄養、つまり栄養失調の状態に陥っていると指摘されています。
このクリニックは、こうした状況を受けて1年余り前に開院し、うまく食べることができなくなったおよそ2000人の食べる力の回復に当たってきました。
食べる力の衰えと一口に言っても状態は千差万別です。
内視鏡やレントゲンなどさまざまな機器を使って口やのどに残された力を一人一人分析することと並んで、大切なのがトレーニングです。
例えばあおむけになって首を持ち上げる運動でのどを動かす筋肉を鍛えたり、全身運動をしたりして、食べる力を高めていきます。
院長の菊谷武さんは「食べることは総合力です。私たちはご本人の食べたい意欲、家族の食べてもらいたい思い、それを最大限実現できるように支援することが仕事です」と話していました。
在宅患者への支援
こうした外来の治療だけでなく、菊谷院長が特に重視しているのが、クリニックに来られない在宅の患者の訪問診療です。
三富利雄さん(82)は1年前から、おなかの外から胃に管を通して栄養を送り込む「胃ろう」をしていて、一日の大半をベッドで過ごしています。
それでも、再び口からものを食べたいと願い続けていました。
家族もその思いをかなえたいと自己流でいろいろ試しましたが、煮物などを食べてもらい、かえって肺炎になってしまったこともあり、口から食べることは諦めていたと言います。
菊谷院長は、家族や介護担当者の話を聞くなどして自宅での実際の暮らしぶりを踏まえた指導に取り組んでいます。
最初に指導したのは食べる姿勢でした。
以前はベッドをほぼ直角に起こしていましたが、三富さんの場合、傾きがあるほうが飲み込みやすいことが分かりました。
また、何を食べるかも重要です。菊谷院長が勧めたのは「まぐろのたたき」でした。
のどの力が弱い三富さんにとって、油が含まれているほうが飲み込みやすいからです。
さらに食べ方についても、とろみのあるゼリーと交互に食べることでのどの中の食べ物を押し流し、確実に飲み込めるようアドバイスしたうえで、のどに聴診器を当てて飲み込む時の音などを慎重に確認していました。
およそ1年ぶりに好物のまぐろを食べた三富さんの口から出たことばは「もっと食べたい」という喜びの声でした。
三富さんの長男も「以前より顔つきも明るくなってきたと思います」と喜びを隠せない様子でした。
食べる力の回復は本人だけでなく、介護する人の喜びにもつながるのです。
取材を通して
クリニックでは、どういった食べ物なら食べられるかを考える参考にしてほしいと、介護食品の試食会を開くなど積極的に情報提供を行っています。
試食会に訪れた人からは、「なんでもミキサーにかけて食べさせているが、栄養が十分とれないだけでなく食べる満足も得られずに困っている」という声も多く聞かれました。
お年寄りの食べる力を支えていくためには、三富さんのケースのように地域のケアマネージャーやヘルパーなどと連携することが不可欠ですが、全国的にはこうしたネットワーク作りは進んでいません。
その一方で、まだまだ不十分とはいえ、お年寄りの食べる力を回復させる取り組みは医師や歯科医師の間で少しずつ広がり始めています。
食べることは生きる意欲につながります。
悩みを抱えている人は「もう食べられない」と諦めずに、かかりつけ医、もしくは地域の包括支援センターに相談してほしいと思います。