言葉に思いを込めて、人と人とつなぎたい
(いのちびと2018.9より)

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Sさんは、テレビ局にアナウンサーとして入社した。

その日、突然、大激震が走った。阪神淡路大震災だった。
「直ぐにヘリに飛び乗り、取材応援に駆け付けました」
神戸上空で、十一時から二時間、生レポートを全国に届け続けた。
惨状だった。燃え盛る街、消防車が入れない、人命が危うい、人や物が燃える強烈な臭い…。
「私は西宮市出身です。故郷が壊れて燃え続けるのに誰も助けられない。
ただ声を絞り続けることしかできなかったと、後悔の念がずっと消えませんでした」

昨年、自宅の道路向いの隣家が火事になった。
隣家には、八十歳の寝たきりで一人住まいの人がいた。
一人で隣家に飛び込み、助け出した。
「震災の後、防災士の資格をとっていました。やっと一人の命を救えたと嬉しかったです」
これまでに、夕方のニュースキャスターなども務め、数々の現場や人を取材した。
「人と出会いさせてもらう仕事でした。みんなが自分の弱みを出して、助け合う大切さを思います」

家族を通じても、いのち・生きる現実に向き合い続けている。
長女は知的障がいをもって生まれた。
次女は小学校で不登校・拒食症になった。
「生死に向き合いました。私が多忙で、子育ては家内に任せっきりでした。親亡き後を思います。世代や家族を越えて支え合う社会になればと願います」

今、会社の社会貢献推進として、学校や高齢者施設などで「話し方授業」もしている。
発声方法、コミュニケーションの大切さを一緒に体験して考えるものだ。また新聞音読コーナーも担っている。
「子どもたちの言葉が一文字化・スタンプ化しています。この子が大人に親になったらどうなるのか?おしゃべりの楽しさをまず体験してほしい。子どもから手紙が届くと嬉しいものですね」

笑顔で少し照れながら語ってくれた。
「人の思いを言葉にして話すとお互いの心に響き合います。話す・伝えることで、人と人をつなぐことをライフワークとして続けていきます」
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