2009年01月08日

「嘘喰い」に見る、「アカギ」仰木さんの存在意義

このブログの読者なら知らない人は居ないであろう、超人気麻雀漫画「アカギ」。
10年以上も続く長い長い勝負「鷲巣麻雀」がいまだ継続中だが、その勝負の観戦役としてアカギや鷲巣の打牌に一喜一憂している男がこの、暴力団稲田組若頭・仰木武司である。


福本伸行【アカギ】7巻より

アカギ二大脇役のもう一人・安岡刑事の方は、ニセアカギこと平山幸雄の仇を討つため(BL的視点)、そしてアカギをフォローするために一緒に麻雀を打っている。単行本14巻にて、鷲巣様の超人的な海底ツモを招く当たり牌チーをして一度だけアカギの足を引っ張ることもあったが、それ以外は概ね良い働きをしている。4枚目の一筒引きによる、鷲巣の親役満阻止はもはや伝説の域だ。その後に鷲巣様に牌を投げつけられることになるのも、言わば名誉の負傷。

一方、仰木である。具体的な活躍は何もしていないように見える。漫画的には「解説役」として重要な登場人物なのだが、稀に鷲巣と同じく、素っ頓狂な比喩で読者を失笑させるときすらある。アカギが 自分の血液=命を賭けているのと同じく、仰木はアカギが負けたら自分の腕を落とすことになっているので、そりゃ一喜一憂だってするってなもんだが、この勝負において何かしたかというと、何もしていない。むしろ、鷲巣がドラを12個も乗せれば神に祈り、アカギが不可解なリーチを賭ければ「バ…バカなっ……!」と驚いたり慌ててアカギの手牌を凝視したりする。たしかにアカギの国士無双ノーテンリーチは私も読者として全く予想していなかったが、下手すると仰木の反応によってアカギ側の狙いを見透かされてしまいそうだ。仰木があれだけのリアクション芸を見せておきながら、それでもアカギはノーテンリーチだと見破れなかった鷲巣サイドの眼力を問題視したくもなる。「フリー雀荘最強伝説ONE」のウィルは、ケン先輩の西切りダブリーに対して西の暗刻を落とした際のギャラリーの空気を読んで、そのリーチが単騎待ちであると看破したというのに…。


本そういち【フリー雀荘最強伝説ONE】9巻より

そんな一見役立たずに見えて二次創作でもドジっ子的なキャラとして扱われがちな仰木だが、直接勝負に関わりづらいところでは大いに役に立っているのだ。


迫稔雄【嘘喰い】3巻より

ギャンブルの世界でも暴力は重要な要素(ファクター)となる。対等な立場としての交渉…不正への抑止力として…。

賭ける物が大きければ大きいほど、一敗地に塗れれば男の約束や潔さなど噴霧のごとく消え去る。

そして、力無き勝者は消される。これが自然の摂理である。



麻雀漫画というのはこのような「暴力」の部分は意図的に排除されてきた。そもそも、何もかもを麻雀で勝負して決着させるのがおかしいのだ。しかし、そこを突っ込んで考えると麻雀以外の漫画としては余計な描写が増えるため、「そういうもの」と大前提としてしまい、ほとんどの麻雀漫画は暴力による争いを無視している。
具体的な例として「天牌」を挙げよう。黒流会と波城組による渋谷決戦は、波城側の10億の負けということで決着した。10億ウォンでも10億ペリカでも、ましてや10億ジンバブエドルでもない、日本円でキッチリ10億円である。この世界の新宿歌舞伎町を中心としたヤクザ社会で、いったいどれだけの金が動いているのかは知る由も無い。長野決戦では北岡の一任で波城組は2億の負債を被った。「代打ち」によってそれだけの金銭を軽々と扱えるフィクションの世界なので、10億なんて麻雀でいくらでも取り返せるのかもしれない。しかし10億は10億である。福沢諭吉先生を10万人も揃えるのにどれだけたいへんなことなのか分かっているのだろうか。

ここで出てくるべきなのが前述の引用部分のように「暴力」である。10億の負けも麻雀による敗北も、本来ならば「暴力」で全て反故に出来るものであり、「約束」に従って波城組一同で丁寧に土下座なんかしている方が異常な状況。ハッキリ言うと、「麻雀の負けなんか知ったことかボケ〜!!!」とマシンガンでも手榴弾でもダイナマイトでもいいから取り出して、黒流会側を皆殺しにしてしまえばいいのだw もちろん「麻雀で負けた」という現実はある。いや、「あった」と過去形にするべきか。そう、それを知る者も麻雀で勝った者もこの世から消し去ってしまえば関係無いのだ。「哲也」にて広まったはずの「負けても金を払わなければ負けではない」という考えは、フィクションの世界ではなかなか実践されていないものだ。もっとも、こういうヤクザの代打ち勝負などは、嘘喰いにおける「賭郎」のようなものである「立会人」という、両対局者をも上回る暴力を持つ中立の存在を用いることにより巧みに回避しているが。

話を戻すが、「アカギ」ではその「暴力」をしっかりと扱っている。そもそも、こういう勝負に常に「立会人」のようなものがいる状況の方がなかなか無いものなのだから。


福本伸行【アカギ】13巻より
虚ろな目で「抜き」サービスを要求する鷲巣様

鷲巣はご覧のように、図々しくもアカギに血液の破棄のサービスを要求したり、自分が追い込まれれば安岡を買収しようとまでする「勝つためには手段を選ばない」男だ。手段を選ばないにしては麻雀牌や卓や屋敷にアカギの手牌を通すような仕掛けを施していなかったのはやや甘いが、そこまでしなくても多くの若者を苦労せずに殺せてきたのだから仕方の無いところか。

兎に角、そんな手段を選ばない鷲巣様のこと。アカギ側が勝利して何億円(現在の価値にして何十億円)を持ち「私の勝ちですね、御無礼でした」と普通に帰ろうとしても、そんなのがまかり通るわけが無い。普通に考えて、埋められる。じゃあなぜ鷲巣は隠し資金も尽きるまで負けてもそれを潔くアカギ側に渡し、しまいにゃ血まで抜いているのか? そこで、仰木さんと稲田組の皆様が出てくるわけですよ。鷲巣様が「ふざけるな!」と言おうとも、「約束しただろ、ああん!?」と従わせるだけの最低限の「暴力」。それが仰木さんの力なのだ。鷲巣側の私兵に対抗できるだけの均衡した「暴力」をアカギ側も備えているからこそ、世紀の麻雀勝負が勝負として成立しているのだ。今のまま勝負が進むと、最終的に血をギリギリまで抜かれた鷲巣が「どうせ死ぬならダメで元々」と「暴力」を振るってくる可能性もある。てゆーか、鷲巣様なら普通にやりそう。それによって、稲田組の黒服達に多少は犠牲が出るかもしれない。しかし、アカギの身と金銭を護り、勝ちを反故にされない程度の「暴力」を持っていることは、麻雀勝負をする前の段階で絶対に必要であり、福本伸行先生はそこもしっかりと描いているのだ。
(余談だが、「むこうぶち」の傀も「暴力」を持ち合わせていないため単行本1巻収録「賭場荒らし」の時はちょっと危なかったが、『勝ち客に手をだしてこの業界で生き残れるか!』と言う義侠心溢れるヤクザさんのおかげで無傷だった。このように、自分の身の安全と勝ち分を確保出来る場を嗅ぎつけられるのも含めて、傀の「強さ」なのだろう。)

このように、仰木さんはアカギの後ろをウロチョロしているただのパンチパーマのオッサンではないのだ。稲田組の武力の存在をつい忘れがちなので、我々読者は仰木さんを軽視してしまうのである。あの場に実際に居る者からしたら、仰木さんの存在はきっと父親のように心強いものだろう(言い過ぎかw)。そもそも、ヤクザ組織という縦社会の中で若頭に登りつめる事がどれだけ大変なことか。仰木さんが頭を下げれば、倉田組の賭場でムチャをしたアカギも殺されずに済むくらいの権力を持っているのだ。だから、これからも仰木さんと一緒にアカギを応援しよう。そして、仰木さんのファンは、勝負後に訪れるかもしれない鷲巣側との「暴力」による駆け引きでの活躍を期待しようではないか。

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初出:C75発行の近代麻雀漫画生活無料配布本。

「仰木さんを持ち上げてみよう」「嘘喰いが面白い」の2つの動機から考えてみたらこんなコラムになりました。いかがだったでしょうか。
とりあえずね、【嘘喰い】はガチで面白いですよ。ギャンブル漫画・頭脳バトル漫画が好きなら読んでおいて損は無いと断言出来ます。

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この記事へのコメント

1. Posted by コキュウ   2009年01月17日 18:07
思わず熟読してしまいました。
仰木さんといえば「西が敵に・・・敵に・・・!」
とオロオロしてるシーンが一番印象に残っているのですが
彼の存在が鷲巣麻雀を成立させていたのですねぇ。

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