2010年ヤフオクで村雨石硯などを落札したときの出品者が山本利雄氏でした。その連絡中、山本氏が山を歩き回って
和硯石や砥石を探す人、本当の意味での山師ということを知り、いろいろと情報をいただきました。その連絡真っ最中の
2010年9月、突然体調不良となり、そのまま逝去されました。
氏は長野の寂寞（じゃくまく）渓谷で、村雨石・寂寞石・黄雲石・霞ヶ石・普寛石の五種類を河原で採石し、硯に
加工しました。村雨石は硬く鋒鋩が無く、普寛石と霞ヶ石は吸水が強く、これらは観賞用と考えておりました。硯石と
して適切なのは、黄雲石と寂寞石とし、これから世に問うというところで逝去され、無念なことと思います。なかなか
入手できない硯石となってしまいましいた。ほぼ10年前に寂寞石の簡単な内容を紹介済ですが、今回詳しく整理しました。
なお氏の記録であるweb-siteは身内の方が現在も維持し、連絡先も開示しています。（若干リンクの位置ずれがあります。）
�〇核寨�雄氏について
最初に山本利雄氏の硯石探しの経緯は、氏のweb-site『寂寞硯のこと ― 和硯ふたたび―』表紙の巻頭言から一部引用
させていただきます。
足掛け三十年有余が経ちました（注：2005年のweb-site開設時）。きっかけは砥石探しです。『日本山海名産図会』
（寛政十一年・1799年）に、「諺に砥は王城五里を離れず。帝都に髄ひて産すと云ふも空ごとにもあらずし。・・・」と
あるのを知り、京都の『鳴滝砥』張りの砥石を探そうと思い立ったのが最初でした。江戸時代、当地（注：長野県）にも、
かつて松代藩（真田家）が擁した名硯 『村雨』 がありました。枯渇して久しいその硯石は、青黒色の石中に黒色の斑が満遍
なく入っており、まさにその名の通りの風情がありました。その村雨石と同じ地層より、新たに出土した寂寞石などの
硯石もまた雲・雨・星・霞・・・などの石紋を有する、たいへん景色の美しい石です。砥石探しの果てに見つけた
硯石ですが、硯石は砥石にならず、砥石もまた硯石にならず、石にもそれぞれ天命があることを知りました。私は今、
渓水に流れ出てきた石を拾い、天然形で作硯していますが、それらは水に揉まれて脆弱部が取れ、これ以上割れない
という最良の状態になったものです。手彫りのため、作業は遅々として進みませんが、時々こちらを覗いて、和硯の
魅力を楽しんで頂けたら幸いです。
��村雨石硯の作硯者 黒崎祐幸さんについて
山本利雄氏が当時ただ一人村雨石硯を製作していた黒崎祐幸氏を訪問した時の情報です。
「村雨」は、私も10年前に検索した時（注：2000年頃か）は、たった1件でした。水墨画のHPで、しかも「端渓に
磨れ具合がよく似ているといわれる村雨石」としか書かれていず、雲を掴むような存在でした。今は知りませんが、
当時真田宝物館にも展示されておらず（5年前に伺った時（2005年頃か）、ぜひ展示して欲しいとお願いしてきた
のですが、どうなったのか）、地元の方に聞いて歩いても知らない世代が多くなり、ほとんど忘れ去られた状態で
した。そんな時、偶然にも地元のTVで石特集を放映していて、最後の村雨硯職人として黒崎祐幸さんが紹介され
ていたのです。早速会いに行き、いろいろお話を伺っていると、本当にご苦労されたようです。松代町のある
長野市も、全然協力的ではなかったようです。奥さんは私にやめた方がいいとまで忠告してくれましたが・・・
でも、これが石の魅力なんでしょうか。
その時、黒崎さんは3度目の脳内出血の手術をされた後でした。「もう作硯はできないし、来年は娘夫婦と同居する
から、この石全部買ってくれ」なんて冗談を言われたのですが、残念なことに私にその財力がなくて、後ろ髪を
引かれる思いで帰って来ました。
黒崎さんはグラインダーを使っていました。あの硬い石なので、無理もありません。時間があれば、手彫りをされる
のも楽しいものです。ただ、本当に硬い石なので、鋼でないと歯が立たないかもしれません。よろしかったら
『村雨石のページ』のHPを参考にしていただけたら幸甚です。
www.jakumaku.com/murasamestone.html
➂山本利雄氏の硯石
➂-1村雨石硯
村雨石は斑点はきれいなものの、石が硬すぎ、鋒鋩が無く、石の仕上げの荒さで墨を磨ると言います。石は川で
揉まれたものばかりなので、石割りの必要がなく、大まかな整形は、別のノミ（タンガロイの）で木槌を使い荒取り
し、その後はこつこつと手彫りしたそうです。特に村雨石は他の石の数倍は時間がかかったそうです。
石の仕上げの粗さで墨を磨る村雨石硯 最長22cm
➂-2寂莫（じゃくまく）石硯
寂莫石は2000年代に寂莫渓谷で氏によって発見された硯材です。村雨石は大理石のような硬い鋒鋩のない石で、鑑賞硯・
鑑賞石にふさわしく、一方寂寞石のほうは、適度な硬度と鋒鋩を持ち、硯石としてふさわしいそうです。村雨石同様、
石は川から拾い、手彫りしています。特徴として、全体にまんべんなく金粉（超微粒子の黄鉄鉱）と絹雲母（超微粒子）
が混入しており、滑らかでしっとりと吸い付くような触感と表現しています。
寂莫石硯のページはこちら。
硯に適した寂莫石硯 最長21.5cm
➂-3霞ヶ石硯
霞ヶ石は2000年代に寂莫渓谷で氏によって発見された硯材です。
寂寞石や普寛石と同じ渓流で採取し、やわらかくザクザクと彫れます。薄紫色の霞がかった暈が入っているので、
『霞ヶ石』と名付けました。”霞”の成分は滑らかでしっとりとし、薄紫のような、薄墨のような、蝋のような、不思議な
色合いをしています。石紋が美しく、鋒鋩があるものの、給水性がやや強く、硯石よりは鑑賞石にふさわしいと思い
ました。
霞ヶ石硯のページはこちら。
吸水性がある霞ヶ石硯（小さな石片しかないようです。） 最長8.5cm
➂-4、➂-5黄雲石と普寛石
どちらもは2000年代に寂莫渓谷で氏によって発見された硯材です。この2種類の硯は持っておりません。やはり渓流から
拾ってきたそうです。氏のホームページから写真を借用しました。
黄雲石のページはこちら。
普寛石のページはこちら。
硯にふさわしいとされる黄雲石（最長10cm） 吸水性が強い普寛石（最長20cm）
