日本国憲法の誕生-4/ポツダム宣言違反

「日本国憲法」無効論 小山常実著 草思社 1995円
GHQ案受け入れの閣議決定

「日本国憲法」無効論 小山常実著 草思社 1995円
GHQ案受け入れの閣議決定
それでも、日本側は、GHQ案の受け入れを渋り続けて、いろいろな工作をGHQに対して行なう。白洲は2月15日付で、ホイットニーに対して手紙を送り、松本甲案について理解を求めている。だが、ホイットニーは、白洲宛2月16日付手紙の中で、国際情勢からいって、天皇の一身だけでなく、天皇制そのものが存続の危機に直面していると述べ、GHQ案の受け入れを迫っている。2月18日、ホイットニーは、白洲との会談の中で、48時間以内にGHQ案を受け入れなければ、マッカーサー最高司令官がGHQ案を直接国民に提示することになろう、と宣言する。
この発言を聞いてようやく、2月19日の閣議で、GHQ案が13日に手交されたことが全閣僚に報告される。幣原首相は、21日のマッカーサーとの会談で、ソ連とオーストラリアが共和制論を唱えているけれども、自分自身は天皇制を守る決心であるとマッカーサーにいわれる。翌22日再び閣議が開かれるが、驚くべきことに、いまだGHQ案の日本文ができていない状態で、基本的にGHQ案を受け入れることが決定される。つまり、内容を正確に理解しないまま、ともかく天皇制を守るためだということで、GHQ案受け入れが決まったのである。
場面2 21.2.22 政府「GHQ案」受諾決定 / 13条行為 (6-3)
GHQ案の「押し付け」はポツダム宣言違反
場面2 21.2.22 政府「GHQ案」受諾決定 / 13条行為 (6-3)
GHQ案の「押し付け」はポツダム宣言違反
GHQ案の提示と日本政府の受け入れ過程をどうとらえればよいだろうか。ホイットニーやマッカーサーによればGHQは、日本国の利益に反してGHQ案を提示したのではない。天皇制の維持という日本国の利益を、連合国全体から守るために強硬な姿勢をとっただけなのである。
そこで、従来の通説は、GHQ案の提示はやむをえなかった行為であり、それゆえ、「押し付け」と簡単にはいえないとしてきたし、「日本国憲法」の有効性を阻害するものではない、と述べてきた。最近は「押し付け」を認めてきているが、それでも、GHQ案の提示はやむをえなかった行為なのだから「日本国憲法」の有効性は揺るがないとする。
ただし、飯塚滋雄は、マッカーサーは、日本国のためにではなくて、自己顕示欲を満たすために、大統領になるという野望を達成するために、GHQ案を提示したのだと説く。飯塚によれば、そもそも極東委員会は実質たいしたことはできない機関であったし、事を決する力は米国にあったからである。また、米国は、すでに1946年1月には天皇を戦犯として起訴しないようにマッカーサーに対して指令していたし、2月中旬までには不起訴について英国と合意していたからである(『日本国憲法の系譜----回顧と展望』八千代出版、1982年、54頁、83~85頁)。
飯塚説にしたがえば、GHQ案の提示はやむをえなかった行為であるとは到底いえなくなる。しかし、やむをえなかった行為だとしても、それは連合国の中の内部事情である。問題は、あくまで連合国対日本国としてある。日本国を占領管理する連合国が、ポツダム宣言などで形成された国際法に違反していないかどうか、にあるのである。連合国全体の天皇制廃止の世論を押さえるためにとった策であるとしても、結局、GHQは連合国の機関として、国体変革のGHQ案を作成して日本政府と与党に提示したのである。
なぜ、憲法学者は、このようなことに思いいたらないのか。とりわけ憲法学の通説は、米国側と日本側が対立する場面では、すべて米国側に立って、あるいは米国以上に米国側に立って、論理を組み立てる傾向がある。この場合も、まさしくそうである。
後述するように、ポツダム宣言などによって、連合国は、政体の民主化を要求するとともに、国体の継続を保障し、「日本国民の自由な意思」による統治体制の選択を約束していた。しかも、ポツダム宣言は、米国が起草し、主導してできあがったものである。米国には、ポツダム宣言を守るべき義務がひときわ存在したのである。
だが、GHQ案提示までの経過を見ると、ポツダム宣言などで保障していた「日本国民の自由な意思」はまったく尊重されていないことが知られる。後に見るように、「日本国民の自由な意思」には、二つの意義がある。一つは日本国側の自由意思、とりあえずは日本政府の自由意思であり、二つは狭義の日本国民の自由意思、とりあえずは各政党、世論などの自由意思、特に国民の代表としての議会の自由意思ということである。
ホイットニーが軍事力を使ってでもGHQ案を「押し付け」ようとしていた事実からは、日本政府の意思をまったく尊重していないことが見てとれるし、第一の意義の「日本国民の自由な意思」をまったく尊重していないことがわかる。
また、第二の意義の「日本国民の自由な意思」も無視されていた。前述のように、ほんの一部の人だけが国民主権を考えていたし、戦争放棄を考えていた人はほとんどいなかった。日本側の民間草案の立場は、ひいては国民世論の立場は、松本乙案的なものだったのである。だが、民政局は、徹夜の連続で新憲法草案を起草し、国民主権と戦争および戦力の放棄とを規定する。
そして、GHQは、連合国の機関として、日本政府の憲法案を無視し、日本側民間案の多数派の立場をも無視して、国体変革のGHQ案を「押し付け」たのである。それゆえ、GHQ案の提示は「日本国民の自由な意思」を無視するものであり、ポツダム宣言等に違反する行為なのである。
二〇対一の対決
閣議で受け入れを決定すると、今度は、GHQ案をもとにした政府案の作成作業が開始する。日本側は、GHQ案をできるだけ日本側にとって望ましい形に改めようとして、政府案作成作業を進めていく。だが、GHQ側の矢のような催促を受けて、閣議にもかけず英文にも翻訳できないまま、3月4日朝、一応の完成案を提出することになる。「日本国憲法」初案である。
日本政府側としては、松本国務大臣と佐藤達夫法制局部長の二人がGHQに出かけていった。ところが、松本は、いろいろとケーディスと喧嘩をする。特に、両者が対立したのは、「日本国憲法」第3条「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ」の原案となったGHQ案第3条をめぐってであった。GHQ案第3条は、傍線部を「内閣の助言と同意」としていたが、「日本国憲法」初案は、consentの部分を無視してadviceの部分だけを取り上げて、「内閣の輔弼」と表現していたのである。そこで、「内閣の助言と承認」を主張するケーディスと、「内閣の輔弼」を主張する松本との間で、決定的な対立が生じたのである。
「助言と同意」とは、内閣と天皇とを対等な位置関係でとらえる表現である。これに対して、「輔弼」とは、天皇と内閣とを上下関係でとらえる表現である。天皇から君主性を奪おうとするケーディスと、君主性を少しでも残そうとする松本との間の対立であった。この論争により、腹を立てた松本は、午後二時半ごろに帰ってしまう。
午後六時過ぎになると、一人残された佐藤は、最高司令官の命令であるとして、今夜中に逐条的に確定案をつくれといわれる。当然ながら、佐藤は松本に連絡するが、病気と疲労を口実として出てこない。ついで入江法制局長官に連絡するが、入江も出てこない。佐藤は、二人が出てこなかったのは、「後日の交渉を留保するには、出席しないほうが有利であると考え」(佐藤達夫『日本国憲法成立史』第三巻、有斐閣、1994年、108頁)たからであろう、と推測している。
結局、佐藤達夫という一法制局部長が、GHQ側と議論し交渉しながら、確定案をつくっていったのである。終わったのは、翌日午後四時であった。佐藤は、多少とも憲法内容を「日本化」しようとして奮闘するが、いかんせん、多勢に無勢であった。一番多いときでは、佐藤はただ一人で二〇人を相手に議論を戦わせなければならなかった。日本側が修正していた部分は、もとのGHQ案の内容にほとんど戻ってしまうのである。
2月13日の「押し付け」はよく言及される。だが、この3月4日から5日にかけての「押し付け」のほうがはるかに強硬であったし、「日本国民の自由意思」をまったく尊重しないものであった。にもかかわらず、従来の研究は、あまりに、この日の出来事を軽く見過ぎているようである。
それはともかく、徹夜の交渉の終わった5日の日の閣議で、この案は基本的に了承される。そして、前文と95ヵ条にわたる「憲法改正草案要綱」は、政府案として、翌6日の閣議を経て国民に発表されるのである。
日本国憲法の誕生-5/GHQ統制帝国議会 へつづく
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もくじ
新無効論概略
新無効論概説・問答編
新無効論の目的・論理概略・現実対処法
新無効論と旧無効論
憲法違反と条約違反 ―― 新無効論と旧無効論
改正?破棄?廃止?無効確認?
大日本帝国憲法75条違反
法律論議以前!事実関係からの無効
日本国憲法の死亡 ―― 有効論への即効解毒剤
日本国憲法の誕生 ―― 日本国憲法は講和条約の限度で有効
日本国憲法改正論の欺瞞
憲法業者のペテンにひっかかるな!
法定追認有効説の論理破綻
追認有効説の変形――事実の規範力
保守の思想と保身の欲望
追認有効説の破綻と自画自賛
改憲派は「保守」派ではない!小山常実
4月28日問題!大東亜戦争はどうやって戦争終結できたの?
護憲派改正論者に告ぐ!
護憲派護憲論と護憲派改正論は蚤の曲芸!
憲法改正とは祖先との協同作業のことである
憲法学者の騙しテクニック
元凶は東大法学部
(1)「君主殺し」を叫ぶ国立国会図書館HP監修者
(2)「君主殺し」を叫ぶ国立国会図書館HP監修者
大日本帝国憲法に殉死・清水澄博士
「祓庭復憲」現行憲法無効宣言
「憲法無効宣言」南出喜久治講演録
橿原の宮のおきて
神聖をもとめる心 ──祭祀の統治への影響──
神の差し替え工作(2-1) 神道神学論考
神の差し替え工作(2-2) 神道神学論考
史上最悪宗教「利を権ることを尊べ!」
「生きていく」と「生かされている」
欽定憲法とは76箇条の御誓文
(動画)大日本帝国憲法とは?
大日本帝国憲法とは何か 3-1 小山常実
大日本帝国憲法とは何か 3-2 小山常実
大日本帝国憲法とは何か 3-3 小山常実
國體の下に 序章
國體の下に 1-1 何が私たちを決めるのか
國體の下に 1-2 何が私たちを決めるのか
國體の下に 2 生きている者だけの天国
國體の下に 3 命と人権を越えるもの
國體の下に 4 憲法の向こうにあるもの
國體の下に 5 すべては國體の下に
戦後の「疚しさ」(1)
戦後の「疚しさ」(2)
再考 皇室典範改正 議論すべき五つの論点 (2-1) 小山常実
再考 皇室典範改正 議論すべき五つの論点 (2-2) 小山常実
チャンネル桜 渡部昇一の大道無門 ゲスト:小山常実(3-1)
チャンネル桜 渡部昇一の大道無門 ゲスト:小山常実(3-2)
チャンネル桜 渡部昇一の大道無門 ゲスト:小山常実(3-3)
日本国憲法の誕生-1/政府草案/松本乙案
日本国憲法の誕生-2/松本乙案≒民間草案
日本国憲法の誕生-3/GHQ案押付プロセス
日本国憲法の誕生-4/ポツダム宣言違反
日本国憲法の誕生-5/GHQ統制帝国議会
日本国憲法の誕生-6/其ノ筋ノ意向「国民主権」
日本国憲法の誕生-7/皇室自治・職能代表制
日本国憲法の誕生-8/第9条修正ドタバタ劇
日本国憲法の誕生-9/占領軍制定無効憲法

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