インサイター

insight : the ability to understand and realize what people or situations are really like

2009年02月

サラリーマン残酷物語 〜『妻をめとらば』柳沢きみお

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妻をめとらば 【コミックセット】
著者:柳沢 きみお
販売元:小学館
おすすめ度:5.0
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これは傑作でしょう。

1980年代後半の連載当時は「なんか辛気臭いサラリーマン漫画だなあ」という程度の印象しかなかった。それが今読むと、この作品に描かれていること全てが怖いくらいに身に沁みる。『妻をめとらば』は『課長島耕作』という同時代のサラリーマン賛歌と表裏一体を成す、世にも残酷なサラリーマン挽歌だ。

大手証券会社に就職した主人公の高根沢八一は、最高の女性を見つけて結婚することを夢見て社会人人生をスタートさせる。八一は最終的に10人以上に及ぶさまざまなタイプの女性と付き合うことになるものの、その優柔不断な態度によってことごとく破局。そうこうしているうちに残業の多い不規則な生活によって身も心もボロボロになっていく。

100%明るいラブコメとして始まる導入期(新入社員時代)のムードがじわりじわりと陰り始め、末期(30歳)には笑顔が全く無くなる鬱ワールド全開になるため、なんだか毒饅頭を食べさせられたような気分になる。全編を通して主人公は人間的に成長しないのに、その間に周囲の人間たちは男も女も成長し、彼のもとを去っていく。主人公はただただ若さと希望と輝きを失っていくだけ。そんな設定自体が、サラリーマンという存在のある一面を見事に象徴しているように思えてしまう。

この漫画には幸福なサラリーマンは一切登場しない。皆現状に不満を抱いているか、希望を失って諦めている。トップ営業マンに至っては、トップであることの代償に病を患い、日野日出志みたいなタッチで描かれる(あだ名は「死神様」)。そして主人公を襲う衝撃(笑撃)のラスト。

携帯電話もインターネットもない時代の物語なのに全く古びていない。全15巻、一気に読める。

宇宙大怪獣ギララが全米デビュー

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年収10万ドル以上の職種だけを扱って急成長中のアメリカのプレミアム・オンライン求人サイト「The Ladders」のテレビCMに、松竹が誇る宇宙大怪獣ギララが! 調べてみたら、以前紹介したガーミンマンのCMを作ったファロンという広告会社の作品だった。

今週のガセネタ

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■『とっとこハム太郎』は海外ではウケないらしい。

■『週刊新潮』09.2.26号によると、モンドセレクションは応募の8割が受賞、しかも受賞の半分は日本商品らしい。

今週のガセネタ

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■『とっとこハム太郎』は海外ではウケないらしい。

■『週刊新潮』09.2.26号によると、モンドセレクションは応募の8割が受賞、しかも受賞の半分は日本商品らしい。

R25と私 〜『「R25」のつくりかた』藤井大輔

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「R25」のつくりかた (日経プレミアシリーズ)「R25」のつくりかた (日経プレミアシリーズ)
著者:藤井 大輔
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2009-02
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2004年の3月に、「R25」というフリーペーパーの創刊準備号を自分のホームページで好意的に紹介したことがある(当時はまだブログじゃなかった)。

 好き嫌いは別として、これはなかなか出来がいい。あっさり薄味ながらスキが無い。扱うネタは芸能、映画、音楽、書籍から政治、経済、ビジネスまで浅いなりに幅広く、デザインも丁寧に作られていて読みやすい。一読した印象は『サイゾー』に近いけれどサブカル臭は抑え気味で、ひねくれていない。例えば第3号の目玉、高橋がなりインタビューは、既に他誌で語られている内容が多く鮮度に欠けるとはいえ、ターゲットに対するストレートなエールになっている。

 団塊ジュニア男性をターゲットとした「普通の」雑誌で成功した例は少ない。そういう意味ではこれは朝日新聞が数年前に発行して失敗し、二ヶ月で廃刊させた団塊ジュニア向けタブロイド誌『セブン』に対するリクルートからの回答、といったところか。この出来だったら、駅に置かれていたら僕は毎週手にとって読むと思う。

ほどなくして、R25の編集長を名乗る人物から「ホームページを読んだ、一度会って話を聞きたい」という旨のメールがきた。それが藤井大輔さんだった。どうやらもともと僕のホームページの読者だったらしい。面白そうなので会ってみたら、これがもうこちらの思考を全て先回りして読み取ってしまっているような人物で、僕が適当に提案するようなアイディアはすべて事前に検証済み。その検証の仕方も非常に丁寧で、通常の調査会社の調査では発見できないようなホンネまで掴んでいる。こういう人が本気で作っているのなら本創刊しても成功するんだろうな、と思った。

そんな藤井さんが語りおこした著書『「R25」のつくりかた』は、20−30代サラリーマンが何を考え何を求めているかを易しく解説した「現代若者論」であり、いかにして定性調査でホンネを引き出すかを具体的に教えてくれる「インサイトの指南書」であり、魅力的なブランドを作るためのヒントに満ちた「新商品開発のバイブル」でもある。

帰宅途中の電車内で週刊現代や日刊ゲンダイを読む団塊サラリーマンとは明らかに異なるゼロ年代のサラリーマンを、R25は東京圏に出現させた。でも最近なぜか、R25を手にするよりも週刊現代を買ってしまうことのほうが増えたのは、自分が年をとったせいなのか、それとも滅びゆく種に対する惜別の念ゆえなのか。それとも只野仁が連載されているせいなのか。



義理チョコと終身雇用

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今売りの『モーニング』に掲載されている『OL進化論』(秋月りす)の四コマ漫画中で交わされる会話が面白かった。

「うちの会社の女性は全員派遣か契約社員になったんだ。全員で話し合って決めたらしい。半年単位のお付き合いなのに義理はやめましょうだってさー」
「義理チョコって終身雇用制の疑似家族感が生み出したものだったのかー」

いかにしてサラリーマンは尊厳を取り戻せるか 〜 『闇金ウシジマくん(10〜12巻)』 真鍋昌平

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闇金ウシジマくん 10 (10) (ビッグコミックス)闇金ウシジマくん 10 (10) (ビッグコミックス)
著者:真鍋 昌平
販売元:小学館
発売日:2008-01-30
おすすめ度:5.0
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闇金ウシジマくん 11 (11) (ビッグコミックス)闇金ウシジマくん 11 (11) (ビッグコミックス)
著者:真鍋 昌平
販売元:小学館
発売日:2008-04-26
おすすめ度:3.5
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闇金ウシジマくん 12 (12) (ビッグコミックス)闇金ウシジマくん 12 (12) (ビッグコミックス)
著者:真鍋 昌平
販売元:小学館
発売日:2008-07-30
おすすめ度:4.0
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闇金で金を借りた人間の転落人生をオムニバス形式で描く下流社会漫画『闇金ウシジマくん』。10巻から12巻にかけて展開されるサラリーマン篇は、源氏鶏太のサラリーマン小説から島耕作サーガに至るまで連綿と続く「あったかもしれない最高の自分」を描く勧善懲悪の白ファンタジーとは対極をなす、「あったかもしれない最悪の自分」を描く究極の黒ファンタジーだ。

主人公の小堀豊は、専業主婦の妻と幼い二人の子供を養うために毎日深夜まで働く33歳の営業マン。会社では上司の執拗なパワハラに苦しみ、優秀な後輩の突き上げに悩み、仕事先では失敗して怒られて落ち込み、家庭では育児ストレスに苛立つ妻の視線に怯え、身も心もすり減っていく。唯一の友人である同期の窓際社員、板橋清に誘われるがままに、闇スロットや出会い系カフェといったダークスポットに行ってストレス解消をしようとするものの、借金地獄に嵌った自堕落な板橋の逆恨みにより、小堀はいつのまにか危険な闇金融詐欺に巻き込まれてしまう。

「どうせサラリ−マンなんて替えが利く存在だ。俺がいなくなっても誰も困らない存在だ・・・」

この漫画(サラリーマン篇)の真のテーマは貧困や下流や闇社会ではなく、現代のサラリーマンの「尊厳」だ。誰からも認められず「承認」を得られなくなった二人のサラリーマンは尊厳を失い、激しい孤独感に襲われる。小堀は「誰かに必要とされたい」という承認欲求を募らせるものの、満たされずに追い込まれ、自殺願望にとりつかれていく。板橋は承認が得られないのを「他者のせい」だと考え、小堀や商売女やフリーターを含めた世間への憎悪をブクブクと膨らませていく。

二人の運命の帰結は残酷なコントラストを描く。一人は周囲の協力もあって尊厳を回復し、一人は尊厳を取り戻すために絶望的な道を選ぶ。この対比表現は見事としか言いようがない。物語の完成度は芥川龍之介の『杜子春』や『蜘蛛の糸』の域に達している。古典として未来永劫読み継がれるだろう。

惜しむらくは、孤独感の表現が巧み過ぎるために、読後感として感動よりも恐怖が強く残ってしまうことだ。それがウシジマくんの醍醐味なので仕方のないことだけれど、板橋が公園でハトに餌をやる場面、板橋がオナニーをして呆けている場面、小堀が家族のいない部屋で嗚咽している場面などは、とにかく見ているだけで異様な孤独感に襲われる。精神が弱ってるときには読まないほうがいい。

「男のやすらぎ」とは何か 〜 『俺にはオレの唄がある』柳沢きみお

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俺にはオレの唄がある 【コミックセット】
著者:柳沢 きみお
販売元:双葉社
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かつて関川夏生が「柳沢きみおのマンガは、サラリーマンが日本社会の主軸である限り不滅だろう」と評したように、80年代以降の柳沢きみおの作品の多くは「滅私奉公するサラリーマンの日常的苦悩」を主題としている。その中でも、仕事と家庭に代わる「第三の居場所探し」を描いた本作『俺にはオレの唄がある』は、きみおマニアの間でも評価が高い良作だ。

ライバルとの出世競争と家族サービスに追われる毎日に虚しさを覚えた35歳の主人公は、周囲に内緒でボロアパートの一室を借り、週末だけ「もう一人の俺」として生活するようになる。そして真の「男のやすらぎ」を手に入れるために出世も家庭も不倫相手も捨て、理想の美女にアプローチを始めるが、いつしか女性ではやすらげない自分に気づく。それでは一体「男のやすらぎ」は何処にあるのか?

その答えを知っているのは素性の分らない隣人と副社長の二人だけ。そして答えは最後まで教えてくれない。主人公は最後のページでようやく自ら答えを見つけることになる。この推理小説のような丁寧な物語構成は、近年のある種開き直ったトンデモきみお作品しか知らない人にとっては驚きだろう。僕は驚いた。絵も今よりは真面目に描いている。

この漫画が描かれた1987年はバブル景気の真っ只中。派閥争いや出世競争といった会社共同体時代の旧来的価値観が誇張されているあたりは今となっては若干懐かしくもあるけれど、真にやすらぐ居場所を求めて悶々とする中年男の悩みは全く古さを感じさせない。つげ義春の漫画にも、妻に内緒で借りた安アパートで孤独を楽しむ男を描いた『退屈な部屋』という佳作があるけれど、妻の闖入によってすぐに非日常の結界を冒される『退屈な部屋』とは異なり、『俺唄』での隠れ家は独りで悩んだり隣人と禅問答をしたりする修行場のように機能する。読者はそこで、サラリーマンの抱える息苦しさを主人公とともに追体験することになる。会社に翻弄されずに生きるために必要な「男のやすらぎ」とは結局何なのか。きみおが提示する答えは平凡だけれど、それゆえに普遍的だ。こんなきみおがまた読みたい。

それなのに、ああそれなのに。この『俺唄』で提示された「もう一人の俺」というプロットは、現在連載中の『夜に蠢く』という出版史上に残る怪作に姿を変えて我々の前に現れてしまうことになる。

ちなみに本当にどうでもいいことだけれど、巨乳ブーム前夜だったこの時期のきみおが描く女性のおっぱいは、いまのきみおが描くおっぱいの半分くらいの大きさで、こんなところに時代を感じる。

もう『明日があるさ』は歌えない? 〜 『君たちに明日はない(1)』原作:垣根涼介、画:笠原倫

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君たちに明日はない (1) (マンサンコミックス) (マンサンコミックス)君たちに明日はない (1) (マンサンコミックス) (マンサンコミックス)
著者:垣根 涼介
販売元:実業之日本社
発売日:2008-12-25
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企業の人事部の代わりに人員整理や指名解雇を行う「リストラ請負会社」に勤める33歳の主人公は、ストレスを感じつつも与えられた職務を冷徹にこなす日々を送る。自主退職の督促をする面談相手は、建材会社のパワハラ支店長や玩具メーカーのオタク開発者、私立学校の教師、高校時代の同期銀行マンと多種多様。そうしたリストラ候補の一人だった40代の独身営業ウーマンと恋に落ちたことをきっかけに、主人公は自らの人生を回顧しはじめる。

2005年の山本周五郎賞を受賞した垣根涼介の小説『君たちに明日はない』の漫画化作品。昨年末にコンビニで購入。現在も週刊漫画サンデーに連載中で、この第一巻は小説のほぼ前半部分に相当するようだ。原作は未読。

リストラ対象者本人の葛藤と、他人のサラリーマン人生に引導を渡す主人公自身の葛藤。この二つの視点を通して、サラリーマンという職業が抱える諸問題が浮き彫りにされる。リストラされる側の心理描写が人によっては物足らなかったり、主人公が熟女フェチであるとか元レーサーであるとかという設定が唐突に出てきたり、柳沢きみおの漫画のようなセックスシーンが挿入されたりして、緊迫感はあまりないけれど、テーマ自体がタイムリーなので一気に読ませるパワーはある。少なくともこれからの数年間は、リストラ(クビ切り)とまったく縁が無いサラリーマンはいないだろう。いまでも我々は『明日があるさ』をあの頃と同じ気持ちで歌えるんだろうか。

いまや漫画読者の多くはサラリーマンなのに、サラリーマンという存在に真正面から取り組んだ漫画は多くない。だから取材に基づいたサラリーマン小説を原作とするこうした漫画がもっとあっていいはずだ。
Profile
真実一郎
心に茨を持つリーマン。吐き気がするほどロマンチスト。好きな言葉は「巨悪も美女も眠らせない!」。

サラリーマン漫画の戦後史 (新書y 240)
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