インサイター

insight : the ability to understand and realize what people or situations are really like

2012年09月

『ビバ!キャバクラ』の頃

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・Only You ビバ!キャバクラ セル画 No.2615
・Only You ビバ!キャバクラ セル画 No.2615
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「外車とティファニーの良さを知らない今の若い世代は可哀想」…コラムニスト木村和久


この記事で久しぶりに木村和久の名前を見て、木村和久だったら「キャバクラの良さを知らない今の若い世代は可哀想」というタイトルの方がハマるなどと思いつつ、サラリーマン漫画『Only You ビバ!キャバクラ』のことを思い出していた。

草食男子世代には信じられないかもしれないけれど、かつてキャバクラは一部の若いサラリーマンの必須カルチャーだった。全盛期は90年代後半くらいだったと思う。その頃は『SPA!』でもキャバクラに関する記事や特集が多かったという記憶がある。その代表が木村和久のコラムであり、そして藤波俊彦の連載『Only You ビバ!キャバクラ』だった。大げさなリアクションで笑わせるアメコミ調の絵が記憶に残っている当時の読者も多いだろう。

主人公の小金井武史は経理課勤務の27歳。キャバ嬢の沙理奈が大好きで、仕事はいつも定時で切り上げてダッシュでキャバクラに向かう。同伴出勤やプレゼントなどで出費を重ねても、決して美味しい思いが出来るわけではない。想いが叶わず、ここはもう秘書課の美人・涼崎ミチルのほうがいいかも、と思った矢先にキャバ嬢として働くミチルに遭遇…。

こんなストーリー展開の中で、キャバクラの遊び方が面白おかしくマニュアル的に紹介されていく。単行本には当時のキャバ嬢たちのプロフィールや店舗マップ、さらには実際の店舗で使えるキャバクラ無料指名券まで収録されていて、実用書として編集されていたことが分かる。

この漫画の連載が開始されたのは『SPA!』97年1月15日号。バブルがとっくに崩壊していた当時、高級クラブに行くお金が無くなったサラリーマンたちの受け皿として、比較的安く気軽に遊べるキャバクラはブームとなり、平成のサラリーマン文化として定着した。『Only You ビバ!キャバクラ』はアニメ化もされたくらいだから、結構人気はあったはず。

しかしデフレ不況の昨今、キャバクラはサラリーマン文化としてよりもギャル文化、下流文化として語られることが中心になっているように思う。『SPA!』の連載漫画も『新ナニワ金融道』だ。木村和久のコラムもいつしか見なくなっていた。

「サラリーマンの癒し」から「アゲ嬢の自己実現」へ、というキャバクラ観の変遷。それはサラリーマンという存在が時代の主役から降りたことを象徴しているのかもしれない。

名も無きサラリーマンの自伝本が面白かった件

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普通のサラリーマンが自費出版する「自分史」を趣味で集めはじめていたところ、広告代理店「電通」を定年退職した方が書いた自分史を、先日偶然お借りすることができた。当然非売品だけど、これがすこぶる面白い。

これは著者が2002年の定年時に書いたもので、タイトルは『気分は面白半分 〜昭和40年代という時代』。300ページ以上に及ぶ大作だ。20代だった頃の思い出話が中心なので、もうほとんど青春小説のノリ。しかも広告代理店が舞台ということで、昭和40年代の貴重な世相風俗史にもなっている。開高健の影響を受けたとおぼしき文体もいい。冒頭の書き出しからしてこんな感じに情感たっぷりでワクワクさせられる。

「人は記憶を書きかえ書きかえ生きる動物だという。そして、記憶はしばしば嘘をつくらしい。まして、白昼夢のなかで歌い、踊り、スウィングしていた僕たちのベル・エポック、あの「昭和40年代」を語るとなれば……。」

上智大学野球部に所属していた著者は、昭和40年に電通に入社。「新聞雑誌局」の雑誌担当に任命され、雑誌の運搬と校正作業に従事。電通特有の体育会的モーレツ主義と、広告業界が本来的に持っていた自由闊達さがモザイクのように交じり合う環境に、すっかり馴染んでいく。「一物にリボンを結んだ新入社員が先輩社員のまえで裸踊りを演じさせられる、という伝統行事があった」という記述もあったりして、都市伝説と思われた『気まぐれコンセプト』(ホイチョイプロダクションズ)の広告代理店描写が事実であることが伝わってくる。

著者は入社2年目になると、当時まだ社員数が200人ほどだった集英社を担当することになり、さまざまな若者雑誌の創刊に立ち会うことになる。『週刊プレイボーイ』では、東芝のブラウン管テレビの広告で池玲子や宮下順子を起用した「おっぱい当てクイズ」を実施。『ノンノ』の創刊にあたっては女子大生読者を50人集めてヨーロッパツアーを開催。『少年ジャンプ』の創刊にも立ち会い、東芝がスポンサードするタイアップ漫画『光速エスパー』(松本零士)にかかわっている。

企業とメディアに遊び心が横溢し、社会を取り巻くさまざまな状況が束縛から解き放たれつつあった、昭和40年代の浮き立つような気分が鮮やかに描かれる。そんな眩しい時代の中、著者はイベントを企画し、新聞広告のコピーを書き、石原慎太郎など著名人の代筆をし、社内外の宴会の司会を行い、仕事と遊びをコインの表裏のようにして青春を謳歌する。まるで夏の日の花火のように、儚くも鮮やかに。

昭和50年代となる入社10年目以降の会社人生は、ほとんど書かれていない。著者は結婚し、家庭を持ち、平凡な広告マンへと身を落ち着かせていったようだ。「所詮、あたりまえの男が、時代の放射するおびただしい光の乱舞に幻惑され、快楽主義のまねごとを演じていたに過ぎなかったのだ」…。著者はその後、出向先の会社でサラリーマン人生を終えている。

こうした「自分史」の自費出版は1990年代から本格的なブームとなり、いまは会社を定年退職した団塊世代を中心に「自分史」ブームが静かに再燃しているという。サラリーマンの仕事内容は家族からは見えにくいために、「なにをやっているか分からない」と思われがちなので、家族に対する「仕事の報告書」という意味合いもあって書かれることが多いらしい。

現在進行形で公開されるブログやSNSといったライフログとは異なり、ドラマチックに「書き換えられた」無名のサラリーマンの記憶は、正史にのらない裏現代史として面白い。この面白さは、Youtubeで「岬めぐり」や「心の旅」といった過去の名曲のコメント欄に多く書きこまれている、美化された思い出話の面白さに通じるものがある。「自分史」だけを集めた図書館があればいいのに、と思う。

いま一番面白いサラリーマン4コマ漫画は『光の大社員』かもしれない

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光の大社員(4) (アクションコミックス)
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『月刊まんがタウン』に2005年から連載されている新世代サラリーマン4コマ漫画。「たくさんの社員の中において、ひときわ大きく輝く社員」を志す熱血新入社員の輝戸光が、玩具会社を舞台に奮闘する。光通信の社員の話では無い。

3巻の巻末に『かりあげクン』の秀逸なトリビュート漫画が収録されていることからも分かるように、これは日本の正統なサラリーマン4コマの系譜に位置づけられる作品だ。ただし、硬直したサラリーマン生活に主人公が一人でボケをかまして一石を投じる『かりあげクン』とは異なり、『光の大社員』では主人公もライバルも上司も社長も全てボケ。斜に構えたような批評性も無く、ひたすらボケとボケの連鎖爆発がハイテンションで繰り返されるので、その読後感は奇妙にフレッシュで清々しい。

年功序列型組織が崩れ、出世願望も希薄化している今、「うるさい上司」や「上昇志向の同期」を仮想敵にしてもギャグの起爆剤にはなりにくい。だからこの漫画は潔く職場そのものをボケのワンダーランドにしたというわけだ。そしてその試みは成功している。たぶん今いちばん面白いサラリーマン漫画のひとつ。

喪黒福造とは「大人のドラえもん」である

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笑ゥせぇるすまん プラットホームの女 (Chuko コミック Lite Special 9)
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水嶋ヒロ改め齋藤智裕の話題作『KAGEROU』に似ている、ということで数年前に再び脚光を浴びた『笑ゥせぇるすまん』。悩みを抱える人に声をかける黒服の男、という設定だけで喪黒福造を連想してしまう、それくらい喪黒のイメージが国民の意識に深く浸透しているということを再認識させられた一件だった。いまや内館牧子や小沢一郎を見ても喪黒福造にしか見えない人も多いはずだ。

『笑ゥせぇるすまん』は、もともとは『黒ィせぇるすまん』というタイトルで、高度経済成長末期の1968年に連載が開始された。安逸と惰眠を貪る現代人の心のスキに付け込み、堕落させてしまう喪黒のターゲットは、多くの場合、安定社会の象徴であるマジメなサラリーマンだった。モテたい、逃げたい、儲けたい、ラクをしたい。誰もが抱える、のび太のようなそんな気持ちを狙い撃ちして、束の間の甘い夢を見せる。そんな喪黒のやり口は、現在の自己啓発本やスピリチュアル本のブームにも通じるものがあり、40年以上経つ今も古さを感じさせない。だからこそ今も、喪黒は中年サラリーマンのダイエット願望につけこんで、健康茶のセールス広告に出演したりしている。

サラリーマンの願望を喰いものにする喪黒福造は、子供の願望を叶えるドラえもんと表裏一体をなす国民的な藤子不二雄キャラクターとして、今後も半永久的に日本人の集合的無意識に共有されていくに違いない。

2012夏のパチ怪獣まつり 「ワニギラス」

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ワニギラス


トミーが1971年頃に発売した電動玩具「怪獣大回転シリーズ」のひとつ、ワニギラス。プラスチック製。腕を振り回しながら歩き、転んでも自分で起き上がる。もともとは「スーパーロボット大回転」というロボット玩具だったものを、怪獣ブームに合わせて怪獣デザインに変えたものらしく、そのせいか怪獣としてのセクシーさにやや欠ける。同シリーズからはガマラという緑色のライバル怪獣も発売された。

ではでは、今年のパチ怪獣まつりはこれにて終了。また来年!

Profile
真実一郎
心に茨を持つリーマン。吐き気がするほどロマンチスト。好きな言葉は「巨悪も美女も眠らせない!」。

サラリーマン漫画の戦後史 (新書y 240)
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