インサイター

insight : the ability to understand and realize what people or situations are really like

2014年12月

【サラリーマンガ四季報】 中年漫画の巨匠によるスリリングな愛憎奇譚/「終のすみか」村生ミオ

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三井物産勤務の作家、磯崎憲一郎が書いた芥川賞受賞作「終の住処」を読んだことがあるけれど、どんな内容だったのかさっぱり覚えていない。その小説と同タイトルであるこの村生ミオの漫画は、小説と全く関係が無いけれど、こっちは嫌だといっても記憶に残る。

大手商社勤務の課長を務める田島修一、42歳。家庭を顧みずにがむしゃらに働き続け、住宅ローンを返済し終わった途端、妻から離婚を切り出され、子供と共に去られてしまう。田島は失意のうちに、運命の女を探して女遍歴を重ねることになる。職場のマドンナ的存在の後輩社員、出会い系サイトで出会った出版社編集長、DVに悩む人妻、コンビニ店員の女子高生。田島とかかわる女性たちも皆、それぞれ悩みや心の傷を抱えていて、傷をさらけ出すことで互いに救われていく。

エロ描写の多さは相変わらずだけれど、本作は近年の村生ミオ作品にしてはギャグが控えめで、サスペンス色が強いのが特徴だ。特に4巻の「はめる女」篇で、ファミレスのトイレで田島が人妻とファックしているところをそのDV夫に見つかるまでのスリルは圧巻。1話まるごとセリフを完全に排除して、のどかなファミレスの食事場面から始まり、徐々に夫がそこに向かい、最後にトイレで見つかる場面が見開きでドーン! スラムダンクの山王戦残り一分の描写に匹敵する緊迫感、という書き込みがネットにあるほどだ。

悔しいけれど面白い。中年煩悩漫画の第一人者である柳沢きみおが新作を発表しなくなってしまった今、村生ミオには本作を最後の代表作=終のすみかにするくらいの意気込みで、 是非このテンションを維持して欲しい。

【サラリーマンガ四季報】 実は部長にこそ注目すべき/「サラリーマン山崎シゲル」田中光

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 ピン芸人の田中光が描く一コマ漫画『サラリーマン山崎シゲル』が話題だ。山崎シゲルという若手社員がシュールすぎるボケをかまし、それを上司である部長が冷静に淡々と突っ込むというフォーマットで、もともとネットで公開されていたものが書籍化されたことで人気が拡大。発売一ヶ月で10万部に達するスマッシュヒットになった。いまや公式ツイッターのフォロワー数も17万人を超え、企業のコラボ案件も増えている。『かりあげクン』以来の新しいボケサラリーマン・アイコンの誕生といえる。

 しかしここで注目したいのは、むしろ部長のキャラクターだ。

 小太りで眼鏡で頭髪が薄く、くたびれたスーツを着た、いかにも冴えない中年サラリーマンである部長は、とにかく怒らない。かりあげクンの上司であれば部下のボケに嫌な顔をしたり嫌みを言ったり無視したりするところを、この部長はいつも温和に諭すばかり。それどころか山崎をかばって役員に頭を下げてくれたりする。

 そんな部長に対して愛憎入り交じった挑発をエスカレートさせる山崎は、どこまで刺激すれば相手が怒るのか許容限度を試す被虐待児童のようでもある。それでも部長は耐え続けている。

 終身雇用や年功序列といった昭和のサラリーマン神話が崩壊し、正社員比率が減少を続け、管理職のポストも空きはない。もはやサラリーマンに明るい未来をイメージする事は難しい。その存在自体を揺るがされる不条理な挑発を受けても怒るだけのエネルギーも無く、どこか諦めたように淡々と働き続ける部長の姿は、ゆっくりと滅びていくサラリーマンの美しい末路なのかもしれない。
Profile
真実一郎
心に茨を持つリーマン。吐き気がするほどロマンチスト。好きな言葉は「巨悪も美女も眠らせない!」。

サラリーマン漫画の戦後史 (新書y 240)
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