2005年10月24日

サントリーのコーヒー戦略に見る「下流マーケティング」

BOSS『日経ビジネス』2005年10月3日号によると、サントリーの缶コーヒー「ボス」が期間限定で値引きキャンペーンを仕掛け、成功したそうだ。オマケをつける従来の飲料キャンペーンとは異なり、通常120円の小売価格を20円下げて100円で売ったところ、シェアが上がったらしい。

また、先週仕事で九州に行ったら、自動販売機でボスが100円で売られていた。九州限定で販売されている100円ボスは、普通の190g缶よりちょっと小さめで170gだった。ここでも値引き戦略を展開していたわけだ。

ふと思った。サントリーは缶コーヒーという飲み物に見切りをつけたのではないだろうか、と。

缶コーヒーは、かつては清涼飲料の花形カテゴリーだったけれど、最近は緑茶ブームにおされて存在感が薄くなっている。もともと糖分が高いため、健康意識が高まった消費者が離れ始めているからだろう。街にドトールやスターバックスが増えたことで、美味しいコーヒーが手軽に飲めるようになったという事情もある。

こうした状況でいまだに缶コーヒーを飲んでいる人は、健康意識も低くオシャレでもなくグルメでもない、金銭的にもあまり裕福ではない、社会的に下流の人間だ・・・サントリーはそう判断したような気がする。そう考えるといろいろ辻褄が合う。

まず広告。ボスの広告といえば、いつもアイディアを凝らした若々しくオシャレなCMで話題になったものだけれど、今年のボスはなにか違う。タモリを使った古臭いセンスのCMで、これまでの斬新さがまるでない。でも、下流の人間に合わせた分かりやすいベタな表現に敢えてした、ということなら理解できる。

次にキャンペーン。これまでボスジャンとかボス電とか、プレミアム感のある景品をボスは提供してきたイメージが強いのに、今年は総額2億円が当たるという即物的なギャンブル企画だ。これもギャンブル好きな低所得層を意識的に狙っているふしがある。

そしてポートフォリオ。サントリーは今年、スターバックス・ブランドのコンビニ向けチルドカップを発売した。200円と高額ながらいまだに売切れ御免状態が続いているこの商品は、コーヒーの好きな都市部高感度層をターゲットにしている。上流・中流はスタバ、下流はボス。そう住み分けてしまえば、サントリーのコーヒー・ポートフォリオが明解になってくる。

既に20万部売れたという三浦展の『下流社会』によると、これからは「上」が15%、「中」が45%、「下」が40%の階層別社会がやってくるという。サントリーのコーヒー戦略の変化にみられる「下流マーケティング」は、日本の階層化に競合より早く対応した結果だといえる。下流の人にはお徳感訴求とベタなコミュニケーション。考えてみれば、安価で買えるいわゆる「第三のビール」戦争で、本格感を演出しようとしたアサヒの「新生」が失敗し、ベタベタに庶民的なブランドにしたキリンの「のどごし生」が成功したように、アルコールの世界では既にこうした下流マーケティングは始まっていたといえる。

個人的に、下流マーケティングをいち早く検討すべきは民主党だと思う。小泉政権がアメリカ共和党を参考にして標榜する「小さな政府」とは、強者に優しく弱者に厳しい政府だと思うので、下流層は遅かれ早かれ不満が高まる。その不満をすくいとる党になれば、うまくいけば40%の支持は得られる。逆に自民党は、例えば杉村太蔵議員を下流代表みたいに演出して、下流の味方であることをアピールし続ければ磐石だ。

2005年という年は、トヨタ・レクサスの上流マーケティングとサントリー・ボスの下流マーケティングが開始された、日本階層化元年として記憶されるだろう。なーんて、考えすぎかも。

下流社会 新たな階層集団の出現
三浦展




insighter at 00:05│Comments(9)TrackBack(13)この記事をクリップ!日本 | 商品

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1. サントリーのコーヒー戦略に見る「下流マーケティング」  [ 【800万PV】小ネタBlog〜純情派【ありがとう】 ]   2005年11月01日 22:05
「自動ニュース作成F」さんより。 「下流」っていう概念は別として、 下々のものからいかに上手に搾取するかってのは、 太古の昔から支配者たちの大きなテーマだったんだよなぁ。(’A`) >サントリーのコーヒー戦略に見る「下流マーケティング」  byよいこ
2. 中流から、下流へ・・・  [ FC2N:くぁくぁ@腹筋し大尉 ]   2005年11月03日 13:28
下流社会まっしぐらかも! 雑誌でチェックリストをみた 当てはまんないことも多かったけど 年収からみると、ばっちり! ネットにもあ ...
3. 中流から、下流へ・・・  [ FC2N:くぁくぁ@腹筋し大尉 ]   2005年11月03日 13:29
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4. 中流から、下流へ・・・  [ FC2N:くぁくぁ@腹筋し大尉 ]   2005年11月03日 13:30
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5. 「下流社会」誕生でなく「下流社会」ブランド誕生  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2005年11月05日 08:08
「下流社会 新たな階層集団の出現」光文社新書 三浦展著 ベストセラーにはキャッチコピーが必要だ。森永卓郎の「年収300万」とか山田昌弘の「パラサイト」「希望格差」のように、誰にも興味をそそらせ、簡潔で、説得力あるワンフレーズ・タイトルによる攻略は、ワンフレーズ...
6. 新商品用の宣伝、宣伝用の新商品?  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2005年11月05日 08:11
世にも愚かな競争は、ある面、手段と目的が逆様になり、たとい無意味と思われる新商品でも、開発そのものに意味があり、新商品を出し続けることそれ自体がを企業価値を維持する行動となっているようだ。
7. 下流社会読んで  [ いちごいちえ ]   2005年11月06日 18:33
インサイターさんのこのエントリで知ってからそれ以外でもここでもとりあげられていたから、結構話題になっていると勝手におもっているんだけど、下流社会 をこの前読み終えた。 ちなみに、この本でいう下流は、日々の生活にはそれほど困ることなく、そこそこの生活はできる...
8. 三浦展『下流社会』  [ タカマサのきまぐれ時評 ]   2005年11月11日 08:28
■三浦展『下流社会』(光文社新書)は、いまから ひとつきぐらいまえに 「「ジャスコ化」社会」で とりあげた、『ファスト風土化する日本―郊外化とその病理』の著者の新刊である。■「新たな階層集団の出現」という副題がしめすとおり、社会学的な階層論といえる。 
9. 下流社会  [ ハウスミュージックとかパソ日記とか ]   2005年11月14日 23:39
アマゾンの売上ランキングにも入っていて、面白そうだったので購入。 出版社 / 著者からの内容紹介 「いつかはクラウン」から「毎日100円ショップ」の時代へ  もはや「中流」ではな〈
10. 下流社会  [ ハウスミュージックとかパソ日記とか ]   2005年11月14日 23:40
アマゾンの売上ランキングにも入っていて、面白そうだったので購入。 出版社 / 著者からの内容紹介 「いつかはクラウン」から「毎日100円ショップ」の時代へ  もはや「中流」ではな〈
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12. 階層分化過程における広告表現の変遷について  [ qzmp blog ]   2006年02月02日 13:44
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13. 缶コーヒーのパーソナライズ戦略について  [ idea cloud blog ]   2008年08月01日 11:37
ふと自動販売機を見て、缶コーヒーと一口に言うけど 様々な物が販売されていて、今では「○○専用」とか「○○に合う」など 目的別から「無糖」「微糖」「深焙」など味覚別にも目的...

この記事へのコメント

1. Posted by ヰ   2005年10月24日 00:22
僕の住んでいる、景気回復とはまだほど遠い東北(の山奥)では、
サントリーと限らず、結構100円自販機を見ます。
やはり売れ行きは良いようです。
そして最近、ぼくの自宅の近くにて道路工事があったのですが、
工事現場近くの自販機のコーヒーがあっという間に売れきれてました。
この記事を見てふとこの事を思い出したのです。
2. Posted by 真実一郎   2005年10月24日 01:15
安売り自販機って、飲料全部が100円だったりするでしょう。
サントリーの場合、メーカー主導で缶コーヒーだけ値引きしてるんですよね。
だからそこにブランド戦略があるような気がしたのです。
3. Posted by tomo   2005年10月24日 21:15
下流マーケティングは、共産党がずうっと前からそれですよ。それである程度は成功はしてる。ちなみに似てそうなんだけど社民党は下流マーケティングじゃないんですよね。
さらにちなみに、缶コーヒーだけじゃなくて、下流マーケティングわりと増えてますよ、気をつけて見てると。
4. Posted by os   2005年11月01日 21:47
民主党がいわゆる下流の人をすくう(救う?)
と良いというのはその通りですね。
小泉=小さい政府=米が見本
前原=大きい政府=欧州が見本
という構図を打ち出すといいのかも。
5. Posted by 123   2005年11月03日 12:18
大きな政府は民主もやっちゃダメでしょ。
自民よりは大きな政府ならOK。
6. Posted by 真実一郎   2005年11月04日 00:33
このエントリーは反響が大きくてビックリです。
「下流」はすっかり流行語になりましたね。
7. Posted by うみゅ   2005年11月11日 11:33
缶コーヒーで、下層民向けの体に良くない飲み物としての需要は昔から根強いですよ。それが最近全国的に認識として広がっただけだと思います。だから、マックスコーヒーが千葉と茨城で売れているわけで。
ぜひとも、購入して飲まれる事をお勧めします。これが20年前から売っている事が全ての証明という感じです。

マックスコーヒー:千葉と茨城、栃木限定販売の缶コーヒー。製造は利根コカコーラボトラーズ。販売地域では昔から大きなシェアを誇る。材料にかかれた練乳の文字と100mlで49kcalという普通の缶コーヒーの2倍のカロリーがポイント。最近甘くなくなり、ファンが悲しんでいる。駅でも売っていますので、一度出られて飲んでみましょう。
8. Posted by 真実一郎   2005年11月12日 17:01
>それが最近全国的に認識として広がっただけだと思います。

実際はその逆で、250mg缶は既に過去の主流商品です。誤解されてるようなので、僕の仮説を補足します。

マックスコーヒーは、もともと「UCCコーヒー」や「ジョージアオリジナル」といった、かつての缶コーヒーの主流だった250ml缶の単なるローカルブランドに過ぎません。そのような甘ったるいキャラメルのような250ml缶から、豆や製法の本格感を訴える190mg缶に進化することで、缶コーヒーは市場を拡大したのです。この時点では缶コーヒーの商品戦略は「本格化」「品質向上」でした(従って、いまや250ml缶は店頭でも自販機でも圧倒的に少数派です)。

(つづく)
9. Posted by 真実一郎   2005年11月12日 17:02
それが奏功して缶コーヒー飲用者は増加し、市場は右肩上がりに成長して1998年-2000年あたりにピークを迎えます。しかしその後に緑茶ブームが起こり、市場は縮小し始めました。スターバックスの日本進出が本格化したのもこの頃です。健康や味、品質に目覚めた人々は徐々に缶コーヒーから離れていきました。

その結果、それでもまだ缶コーヒーを飲んでいるような人は下流である、とサントリーは判断して「値引き」という最終手段をとった、というのが僕の仮説です。流通ではなくメーカー側が定番商品の価格を下げるというのは結構な決断です。

缶コーヒーのキャンペーンとして、階層に関係なく日本中が共感できたのは「明日があるさ」が最後だったのかもしれません。あれも浜田課長とIT若社長の対立を描いたりしてましたが、当時皆が共感できたのは浜田課長のほうですよね。いまだったら反応は分かれるのでは。

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