モテキ2恋愛下手な童貞男子の心理をリアルに描いた久保ミツロウの連載漫画『モテキ』がとにかく面白い。

主人公である藤本幸世は、派遣社員で眼鏡で半童貞の29歳。貯金も夢もなければ彼女もいない、そんな漆黒の20代を終えようとしていたある日、知り合いの女性たちから次々にお誘いの連絡がくる。モテ期の到来だ。

一人目の女性「土井亜紀」は、以前派遣先の会社で知り合った、一見地味な隠れ美人。当時一緒にフジロックに行っていいムードになったけれど、それっきり。その彼女から一年ぶりに連絡があり、久しぶりに会って話をしているうちに…。

二人目の女性「中柴いつか」は、二年前に飲み会で知り合った数少ない女友達。ボーイッシュなルックスと性格の22歳処女。そんな彼女が東北地方への日帰りグルメ旅行を持ちかけてくる。そこで思いがけず旅館に泊まることになり…。

三人目の女性「小宮山夏樹」は、三年前に偶然知り合った無理目な超絶美人OL。藤本が人生で一番好きだった人で、いろいろあって連絡を絶っていた。そんな彼女と三年ぶりに再会し、自分を振った理由を聞いてるうちに…。

四人目の女性「林田尚子」は、地元に住む高校時代の同級生。元ヤンキーでバツイチ子持ちの彼女に恋愛相談をしているうちに…。

さまざまな漫画を元ネタにして笑わせつつ、人間関係に不器用な若者たちのコミュニケーション不全と試行錯誤を描く、『ふぞろいの林檎たち』にも匹敵する赤裸々青春譚。この稀代の漫画はいったいどんな想いで描かれているのか? 作者である久保ミツロウ先生と奇跡的に知り合うことが出来たので、四時間以上にわたって話を伺った。

注:2巻の内容のネタばれがやや含まれています。
注:久保ミツロウ先生は女性です。

■『モテキ』は「自分の心の棚卸し」

---『モテキ』って良いタイトルですよね。

タイトルは福本伸行さんの『アカギ』を見ながら「『モテキ』でいいんじゃないですか?」って編集に言ったんですよ。だからロゴも『アカギ』みたいな書体でって(笑)。そういえば、今日は本物の久保ミツロウだという証しを持ってこなくちゃと思って、2巻の表紙を持ってきました。

---いつかちゃんだ! 1巻の表紙が藤本で、2巻がいつかちゃんだと、メインキャストが順番に表紙になって5巻で終わる、っていう感じなんですか?

悩んだんですよー。2巻をいつかちゃんにしたら5巻まで出さなきゃいけなくなるんだけど、予定じゃ4巻で終わらせたいんです。3巻で土井亜紀篇描いて、夏樹と林田をどうするか…。全部の女と決着つけなきゃいけないって面倒くさいんですよね(笑)。

---1巻のあとがきで、「仮に自分が男でも、マンガ描けてなかったらモテなかったろうな」と思ったのが『モテキ』を考えたきっかけだった、と描いてますよね。

男の人が共感してくれると思って描いたつもりはあんまりないんですよ。童貞の男を表現しようという気持ちではあまり描いてない。なんか、せっかく自分がモテない人生を送ってきたなら、それをネタにしたマンガを描こうかな、でもモテない女の子が主人公のマンガなんて絶対誰も読まないし。ということで、男と女を逆にして描いてみようと思ったんです。

だから、共感してくれる男の人が何故こんなにいるのか不思議でしょうがない。モテない気持ちは男女そんなに変わらないということなのかな。私が男側の役を演じた場合の受け手の女のリアクションとか、女側のディテールを描くのは得意だから、そこでたぶんリアリティが出たのかなと思うんですけど。

---じゃあ描く前に童貞男子の取材とかを沢山したというわけではないんですね。

『モテキ』って、自分の心の棚卸しを前提とした話なんです。週刊誌での次の長期連載に向けて、もっと自分の中のものをカラッポにしないと新しいものが仕入れられないな、と凄く感じていて。とりあえず自分の中の冷蔵庫を開いて、この材料残っているから何作ろうかな、っていうところで『モテキ』を描いてます。できるだけ自分の中のものを詰め込んでさらけだしている状態ですね。でも、全部自分の体験を描いてるのかって言われると、フィクションなんですけどね、ホント。

第1話の電話がいっぱいかかってくるシーンは実際にあったんですよ。昔、急にある日電話と携帯に3〜4件くらい同時に男の人からかかってきて、「これがモテ期か!」って思った。まあ指の隙間からこぼれおちる砂のように、結局全員となんにもなかったんですけど(笑)。このシーンをまず描きたかったんですよ。そこから先はそれから考えるかなって。

---えっ、その後のストーリーって決まってなかったんですか!?

決まってなかったですね。第1話にあるこの「モテ神輿」も最初は無かったんですけど。

---この絵だけで、どんな漫画なのか分かりますよね。

ネームを描いた後に、「この漫画を読もう」って決めてもらえるようなフックになるページを作んなきゃと思っていて、たまたま飲み会で知り合った女の人が「昔電気グルーヴのラジオ聞いたよね、女神輿とか言ってたよねー、」みたいに盛り上がって、それだ!それを描こう!っていうことで描きました。


■形骸化したヒロイン像に対する違和感

---女性キャラにはそれぞれモデルはいるんですか?

いや、特にいないかな。私は1人の人にも10人以上のディテールをぶちこんでキャラを作るので、あんまり個人のモデルはいないですね。まあ幸世君のキャラも結構色んな友達から聞いた呟きをネタに入れたりしてるので、あんまり私が100%モデルというわけでもないし。1巻の段階だと、どの女の子が好きとかってあります?

---僕は小宮山夏樹ですね。こんなに雰囲気のある女性を漫画で見たのは初めてです。

あー、夏樹を好きな男は大体、ああいう女といろいろあったんだろ?っていう人ですね(笑)。夏樹みたいな女を知らない人が、ああいう女をいいとはあまり言わない。あのタイプと対戦経験がある人はだいたい夏樹が好きっていう。私の友達で、この女は怪物だって言った人がいます(笑)。好きになったら絶対辛い思いをするに決まっているって。

---あー、そうかも。

で、長く付き合っている彼女がいるか妻がいる人は林田尚子が好きで、文系男子が中柴いつかちゃんが好き。土井亜紀が案外薄かったところをいま連載で深堀りしていて、可愛く描いているから、あれだけいつかちゃんが可愛い可愛いって言ってた人が今は土井亜紀が可愛いって言ってたりするんですよ(笑)。

---まあでも女性キャラは全員とんでもなくキュートですよ。

少年誌で連載していた頃から、男の人が求める女性像というものに対していろいろ違和感を覚えることが多かったんですよね。特に少年漫画の女の子の描写で、「私ってご馳走でしょ」って言う顔をしている女が一番嫌いなんです。女としての完成度が凄く形骸化してる。

漫画の昔からの伝統で、女の子がお礼にほっぺにチューするっていう描写とかあるじゃないですか。もぉぉあれには烈火のごとく怒りたいんですよ!怒り心頭ですよ。ほっぺにチューするくらいならヤラせろよ、って気がしちゃって(笑)。「私のチューだけでも価値があるでしょ」って言う女のそぶりが信じられない、って昔から思ってたんです。

だから、そうじゃないところで女の子がもうちょっと男の子にしてあげられることってなんだろう、っていろいろ考えて、ヒロイン像の作り方は少年誌に描くようになってから結構試行錯誤してきたので、それがいま実になってるのかなーって。だから女の子が可愛いと言ってもらえると凄く嬉しい。

---しかも可愛いだけじゃなくてリアルですよね。女性の知り合いに聞いたんですけど、漫画として凄く好きだけど、好きな女キャラはいないって。女キャラがみんなリアル過ぎるからキツいそうです。

女性からの感想は結構キツいのがあって。『モテキ』は自分で読んで面白いと思うものを描いているから、男性から面白くないっていわれても「そういう人もいるよね」って割り切れるんですけど、女性から面白くないっていわれる時の拒否反応のほうが男の子よりも激しい。女から嫌われるのだけはツライので、つくづく私は女性誌には戻れないなーって思います。

---特にいつかちゃんの過去の話とかは、女性にはしんどいみたいですね。

重いとか言われますね。私はエロ漫画も好きなんですけど、寝取られ系の漫画の寝取られている女の言ってることがホントに大体同じで、もう「私は性欲に従順で私の身体をこんなふうにしてくれる太いアレが云々」とかってアヘアヘになっちゃって、とにかく女の頭が悪い(笑)。もうそれが許せなくて。そんなことねーよ!!って思って、いつかちゃんの過去は描いたんですよ。まあ寝取られっていうのも男のファンタジーだから、怒るほうがバカらしいんだけど。

■土井亜紀 〜非モテの男子にフラれる気持ち

---土井亜紀っていうのは、最初はあんまり思い入れの無いキャラなのかなーと思ったんですけど、連載を読んでいたら凄く愛おしくなってきました。怒るところがすごくカワイイ。

土井亜紀って誰とヤッても話になるから、一番エロいですよね。

---可愛いのに、なんで派遣先の会社では地味なんですか?

土井亜紀は最初彼氏がいたし、会社で綺麗にしていてもなんの得も無いじゃないですか。面倒くさい人に好かれたって意味が無いというか。綺麗な子って、どこでも綺麗さをアピールする子だけじゃないんですよ。もてることを面倒くさいと感じる人もいるだろうし。

---なるほど。でも会社によっては女子トイレって競うように化粧して凄いことになってるって聞きますよ。いわゆる社内結婚の玉の輿狙いで。土井亜紀はそういう血気盛んな猛禽類じゃないんですか?

ではないですね。最初はそういう猛禽類キャラもちょっと考えたんですけど、でもそういう人だったら幸世君と関わる理由が無いですからね。

---土井亜紀はロックが好きということ以外は、4人の女性キャラの中では最も最大公約数的な存在ですよね。

ロックは好きだけど、サブカル過ぎてもいない。美人であることもそんなに鼻にかけてもいないし。1巻の土井亜紀のつぶやきで「女に対してどこまで受け身なんだよ!」っていうのがあるんですけど、女の子はみんな「分かる分かる」って言ってくれる。みんな同じこと思ってるんだなーって。

---藤本がフジロックで土井亜紀の彼氏を見た後に「オシャレなカップル同士でフェスに来る奴全員、絶滅しちゃえよおおお!」って叫ぶシーンはめちゃくちゃウケました。

ライブに行って、好きな男の子の彼女を紹介されるっていうのが嫌で、ライブが終わる前に逃げた、っていう経験が本当に私あったんですよ(笑)。二度も!だからそれをネタにしてこれ描いたんです。懐かしいなあ。

ちなみに1巻で土井亜紀が藤本を誘って行ったライブのアーティストはペンデュラムです。私は女友達に誘われて行ってみたら凄く良くって、ホントにみんな「先輩ついていきます!」っていう顔をしてたんですよ。

---土井亜紀は美人で料理も上手くて下ネタもOKで、他にも男が作れそうなのに、なんで藤本狙いなんでしょうね。

いままで顔がいい男で苦労してきたんだと思うんですよ。それに結構私の友達で、藤本みたいな男が実はタイプだって言う子は多いですよ。幸世君はサブカルが好きなんだけどサブカル好きって思われるのが嫌っていうひねくれ構造が入ってるんですけど、私はそういう、うまくいかないひねくれた男の子が大好きで。でもそういう男にもフラれるというか口説かれない女側からの視点というのが今のところの土井亜紀篇の根本にあるんですよね。

■中柴いつか 〜少女漫画と現実世界のギャップ

---いつかちゃんは人気ありますよね。

いつかちゃんがいいっていう人は多いですね。文系男子以外でもオヤジとかS気味の男はいつかちゃんがいいっていいますね。

---旅館で藤本の浴衣の帯をいつかちゃんが締めるところで藤本がドキっとする描写が生々しいです。

これも私が女友達と東北旅行に行ったときに、私が「浴衣の帯って分かんないんだよねー」って言ったら友達が結んでくれてドキっとしたっていう経験が元になってます。私が男だったらヤバいよ!!っていう。

---しかも脱いだらプロポーションが凄くいいんでビックリしました。

漫画ですから(笑)。でも第2話で、いつかちゃんが布団を上げて言う「いいよ」っていうのは、女がいつかは言ってみたいセリフなんですよ。女は「やむを得ず」が好きなんです。無人島で二人きりになるとか、やむを得ず抱き合うしかないって言う理由を作ってからじゃないと男を誘うことができないっていうのがあって。あーいや私だけか!?

---藤本といつかちゃんがおいしいものを食べた時に柏手を叩くっていうのは何が元ネタなんですか?

『将太の寿司』ですね。知り合いの男の子が高校生の頃に『将太の寿司』が大好きで、うまいもの喰ったらしょっちゅう拍手を打つ「柏手のヤス」っていうキャラがいて。「うまし!」っていうのは『将太の寿司』を描いている寺沢大介さんの『食わせモン!』に出てくるキャラの決めセリフです。

---2巻に収録される第13話はもの凄い爽快感があって大好きな話です。カラオケのシーンで歌われるあの歌は、この漫画を読んでから聴いてみて好きになりました。

この曲は女の子の友達がカラオケで歌ってくれたことがあるんですけど、女の子が歌うと凄くいいんですよ。この話ではいつかちゃんと幸世君が激しく言い争いをするんですけど、女の子との付き合い方でもチヤホヤするだけじゃない、こういう関係を作っちゃえばいいのになーって思うんです。

この回は私が少年誌に7〜8年いたから描けた話なんです。最後は気持ちよく終わらせなきゃ、爽快感がなきゃ、というところをずーっと教えこまれていたので。青年誌って、結構ブルーな感覚のまま終わってもアリだと聞きますが、私は爽快感とか笑えるところがないと、って思ってます。1巻を読んだ感想で、このままずっと鬱っぽい話が続くのかと思われることも多いけど、ダメな気持ちを受け入れた上での行動とかでカタルシスを描けるようにならなきゃみんなに還元できないな、と思ってて。

---この話の前にいつかちゃんのキツイ過去が語らていたからこそ、爽快感がハンパないんですよね。まあキツイ過去といっても、いろんな少女漫画の意匠が出て来て笑えるようにも描かれていたから面白かったんですけど。

子供の頃から女性漫画誌も大好きで読んでいて、少女漫画の世界と自分がシンクロするのかなと思っていたら、ビックリするほどシンクロしなかったので、そのギャップを描きたかったんです。西村しのぶさんの世界観と私は全然シンクロすることがなかったんだな!!って。アップトゥデイトな恋の会話ってどこにいったらあるんだろうって(笑)。六本木とか西麻布とか、東京に10年以上いても全然行って無いし。

---藤本がいつかちゃんに言うセリフも面白いです。決断しないまま、中途半端なままでも先に進めちゃおうっていう。こういうやり方もあるんだーって。

これくらい言えよーっていう感じなんですよ。100%好きっていうこともあまり無いだろうし。

---ちなみに藤本がいつかちゃんに新井英樹の漫画『宮本から君へ』を勧めてるけど、久保先生もこの漫画をお好きなんですか?

トラウマ漫画です。高校生の頃にあれ読んだら「セックス怖い」って絶対思いますって。最近愛蔵版が出たけれど、そのちょっと前に、もう一回この漫画と向かい合おうと思って読んでみたら、昔と同じくらいインパクトが強くて、新井英樹スゲーってつくづく思った。

大人になってから読むと、たぶん作者がこういう女と付き合っていろいろあったんだろうなーっていうのが凄くビンビンきます。あのケラケラ笑う女が当時もホントにムカついたんだけど、大人になって読んでもやっぱりムカついた(笑)。新井英樹さんの初期の短編集でも必ずケラケラ笑う頭の悪い女がでてきて、ああいう女が好きなのか嫌いなのかどっちなんだろう。

■小宮山夏樹 〜「自分と一番密着度が高いのが夏樹篇」

--- 僕は小宮山夏樹が初登場する第4話も凄く好きなんです。痛々しい話なんだけど。藤本がいきなりタイムマシンに乗ってますよね。このタイムマシンネタって偉い人から怒られたりしないんですか?(笑)

藤本が出てくる引き出しは下の段ですから(笑)。そのあとで藤本がサイボーグ化するのは『メタルK』あたりが元ネタです。

---15歳の藤本が、また屈託が無くていいんですよね。

高校生の頃ってなにげに鬱屈してなくて、自分のことをそんな卑下してなかったんです。高校時代って、自分はいろいろ詳しくて他の人とは違うっていうところで自信があったから。東京に来てからしょっぱい思いをして、死にたいとか言い始めたのは20歳過ぎからですね。そこらへんの話を今度マガジンスペシャルで番外編で描く予定です。

---夏樹と初めてデートするシーンも凄くリアルです。ブログを褒められて舞い上がるんだけど、こんな美人が自分のことを好きになってくれるわけがないっていう気持ち、凄く分かります。

男性作家さんだったら、夏樹みたいな女を「こいつなに考えてんだろう」っていう感じの微妙に嫌な女にするの上手いんだろうなーって思うんですけど、私はこういう感じの女の子でも嫌みなく描くのは得意なんです。でもこのデート場面はねえ、新宿の鳥料理の美味しい店で、全く同じシチュエーションを男女逆で経験したんです(笑)。

---マジですか!?

「抱きついていいですか」っていうのも私が実際に言った言葉なんです。男女逆転のストーリーという部分では、自分と一番密着度が高いのがこの話かもしれないですね。

私をフった人と後になって久しぶりに会って飲み屋に行ったとき、「あのときはさー久保さんがさー」みたいな感じでバーって、あのときの私がなぜダメだったのかをその人がいろいろ言ってきたことがあるんだけど、全然頭に入らなくて。あー私聞くのを拒否してる、びっくりするほど耳に入ってこないよ、って。なにか言ってたんだけど、ホント聞きたくなくて。

---それに近い場面も描かれてますよね。リアルなわけだ…。

■林田尚子 〜すべては短編漫画『リンダリンダ』から始まった

---林田尚子が出てきてから物語世界が広がった感じがします。

恋愛関係というよりは友人関係、でも友人だからって全く手を出さないって言うのも変な話しだし、っていう存在ですね。

---コミュニケーションの師匠みたいな感じですよね。

そうそう。同じくらいの年の友人でもいろいろ経験してる人っているから。それに比べて私は自分どんだけなんも無かったんだろうっていう、ホントに幸世君の気持ちのままですけどね。

---1巻の最後に収録されている、過去に描かれた読み切り漫画(高校時代の藤本が主人公)に林田が登場してるんですが、この読み切り漫画が『モテキ』の原点になっているんですよね。

これは、いろんな作家が楽曲をモチーフにした読み切りを描く「平成歌謡大全」っていう企画で描いたんです。曲のタイトルをマンガのタイトルにするのは昔から漫画家が良くやってることで、私も一回堂々と曲をモチーフにしたものを描きたいなと思って、それであの漫画を描いて、評判も良かったんです。

もともと短編集を出すのが夢だったんですよ。でも連載の話しか描いたことがなくて、男性誌で描いた読み切りが『リンダリンダ』しかないし、女性誌にいた頃もひとつしかなくて。雫を溜めるみたいに読み切りを描いても短編集なんていつ出るんだろうって思っていたんです。私は不器用で、読み切りは連載と連載の合間にしかできないから、読み切りをいくつかまとめて描かせてもらって一気に短編集を出しちゃおうと思って、私のほうから『イブニング』にお願いして描き始めたのが『モテキ』なんです。

でも結局読み切りじゃなくなってきて、じゃあ単行本1巻分だけ描かせてくださいってお願いして。でも描いていたらちょっと話が増えてきたっていうのと、『リンダリンダ』の世界観とリンクさせようと思って林田さんを絡めてみたら、また話が増えていって。

---『リンダリンダ』で、高校時代の藤本が描いていたエロマンガの主役の「リンダ」っていう女の子キャラが宇宙に消えていくシーンがあるんですが、なぜかあそこで涙が出そうになりましたよ。

これはたぶん今後の幸世君の死生観に繋がってくる、結構大事なシーンになってくると思います。

---えっ?じゃあこの「リンダ」っていう女の子キャラもまた出てくるんですか?

うーん、出てくるのかなあ? 私は「誰もがいつかは死ぬんだから今を一生懸命生きなきゃ」と脅しても人はなかなか死ぬ気ではやれないって思うんです。私はたまに、人が死ぬってどういうことなんだろうって考えるんですけど、世界が消滅しちゃうこと、自分以外の世界がなくなることなんじゃないかなあと。だから『リンダリンダ』で女の子が消えちゃうシーンは、これは藤本が彼女のことを忘れることで、彼女以外の世界が消滅しちゃうっていうイメージになるのかなって。まあこれは無意識に描いていたんですけど。

みうらじゅんさんが「思春期の悩みのほとんどは、人生が永遠に続くと思っていることで発生するから、どうせ人は死ぬんだ、と思わなきゃいけない」みたいなことを言ってるんですけど、でもそう思っているけど無駄に生きてしまっている、っていうパラドックスで大体みんな悩んで生きているんじゃないの?っていうところの落とし前をつけたいんですよね。

幸世君が不治の病に罹って、死を前提にしたら皆のことを愛してると言えるようになったとか、そんな話絶対描いちゃいけないなと思ってます。だって死とか強迫観念じゃないところで変われる要素を私が描いてあげないと、皆も変われないんじゃないかなと思って。でもどうやったら変われるのかといったら私もまだ分からないんですけど。描けるのかなー。こうして口で言うのと描くのって、結構私は違うんで。

---4巻で本当に終わるんですかね?(笑)


モテキ (1) (イブニングKC)モテキ (1) (イブニングKC)
著者:久保 ミツロウ
販売元:講談社
発売日:2009-03-23
おすすめ度:4.0
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続く 後編