(前篇はこちら

注:2巻以降の内容のネタばれがやや含まれています。

夏樹■「リア充は絶対読んでくれないと思ってた」

---僕は久保先生の作品を読んだのは『モテキ』が初めてなんですけど、少年誌に描いていたとき頃に比べて『モテキ』で読者層は広がりました?

いやー、『モテキ』は連載を始めてからファンレターが三通しか来なかったんですよ(笑)。しかも全員女の子。

---マジっすか!?

しかも最初の一通目は『トッキュー!!』の感想だったりして。後の二通の女の子は幸世に共感してくれてて、自分もモテないって嘆いてて…。読みながら声出して励ましたくなりましたよ!あと雑誌のアンケートの書き込みは全部読ませてもらってます。それは毎号多くの方が答えてくれてて嬉しいですよ。

『モテキ』になってからは全部私の判断で描いてるから、面白くないって言われても平気だし、むしろ面白くないって言ってくれると安心する。十人中一人か二人が面白がってくれる漫画だと思うから。でもそんな漫画を皆こんなに感想書いてくれるんだ、っていう。

---童貞や非モテっていう枠を超えて『モテキ』は愛されてると思いますよ。

モテない男にしか読まれないってホントに思っていたから、結婚してる人とかカッコいい人とかでも「分かる分かる」と言ってくれると、いまだにピンとこない。ホントにリア充は絶対読んでくれないと思ってた。

---いま5刷ということで、結構売れてるということですよね。

これでも少年誌時代に比べると少ないくらいなんです。少年誌時代ってみんなが凄く売れていたから、その中では落ちこぼれ気分でした。青年誌に来て風向きは変わったけど、売れてる数はそんなに違うわけじゃないんですよ。

でも青年誌が向いているとかって言われると、私がいままで少年誌でやってきたことをなんだと思ってるんだ、ってちょっとイラっとくるんです。最終的には少年誌に戻ろうと思っていて。たぶん『モテキ』のほうが面白いって言う人もいるだろうけど、そことの戦いですね。『モテキ』って長く続けられる漫画じゃないと思っているので、一瞬の花火を見てもらいたいかな。これはたぶんこれっきりで、次はまたテーマを見つけて描きたいなって思います。自分のふり幅をもっと出さないと漫画って続けられないと思っているから。
■草食系男子について

---このマンガを描き始めたときって、いわゆる「草食系男子ブーム」って意識しました?

連載前に森岡正博さんの『草食系男子の恋愛学』っていう本を読んだんだけど、そんな草食男子に好かれる女にはなれん!という感想でした(笑)。男のこんなロマンチシズムに女がどうして平身低頭で接しなきゃいけないんだろう、と思いましたねー。でも「自分は草食男子だから」って言う人って大体女に不自由して無い人ばっかりで、ホントに草食男子ってなんなんだろうって思います。まあ読んでもらうきっかけとしてブームに便乗するのはいいかなとは思ってます。やっぱり多くの人に読んでもらいたくて描いているので。

---実際のところ、草食男子っていると思います?

「草食男子って言葉を作ったのはモテない女の妄想だろ」っていう言い方もあるじゃないですか。この男は魅力的な私がこんなにアプローチしているのに反応してくれない、あぁ草食男子だから仕方ないのか、っていう逃げのためだろ、言い訳だろ、っていう。そういう言い方をされると女の側もなにも言い返せないけど、実際に女の子と話をすると、こんだけ女側が土下座するくらいの勢いでアピールしてるのに男が全然動いてくれない、って言う話は山ほどありますね。

---雑誌『セブンティーン』の最新号もに草食男子特集とかありましたよ。高校生の段階からもう「こうやって草食男子を堕とせ!」みたいなことやってるんですよ。

でも高校生で既に肉食男子っていうほうがおかしいんじゃないですかね? まあでも草食男子にも好かれない女子側の気持ちしか分からないから、なんとも言いようがないんですけど。そういう女側の立場の話だと青年誌でネタにならないから、草食男子に「あなたたちこういう女好きなんでしょ?でもこういう女はいろいろ難しいんだぞ」っていう視点が一番描きやすかったから『モテキ』を描いてるんですよね。

---この前『ヤングマガジン』を読んだら、草食系童貞眼鏡が主人公の漫画が4本もあって、小田原ドラゴンの『チェリーナイツ』とかも加えちゃうとヤンマガ掲載漫画の童貞率がすごく高くなってるんですよね。あのヤンキーイメージの強かったヤンマガが。

童貞漫画は確かに食傷気味で、『モテキ』を読みたくないっていう人の感想でも、もう眼鏡男子の漫画はおなかいっぱいだからっていう人がいて、それは分かるんですよね。モテキを『イブニング』で出来てつくづく良かったなって思うのは、『イブニング』って恋愛ものが無いんですよ。最後に載った恋愛漫画って『恋風』なんです。『恋風』以来恋愛漫画が無かった『イブニング』という恋愛不毛の地で凄く浮くことが出来るというのが新鮮で。ヤンマガからも誘いがあったけど、あそこだと「もっとエロくしないといけないんじゃないか」というスパイラルが自分の中で起きるんじゃないかと思って(笑)

---そしたら『暴想処女』と競わなきゃならなくなっちゃいますからね。

あれはあれで好きなんですけどね(笑)。わたしはヤってしまった向こう側を描きたいわけじゃなくて、付き合えるか付き合えないかっていう世の男性のモヤモヤしたところのディテールを描きたいわけだから、『イブニング』でよかったですよ。

■童貞と商業童貞

---みうらじゅんや伊集院光を中心とした童貞礼賛的なものって、どう捉えていたんですか?

最近「商業童貞」っていう言葉を聞いたんですよ。「バードと結婚したみうらじゅんは商業童貞だ」と。なるほどーと思いました。伊集院光さんも銀杏ボーイズもそうだけど、童貞を売りにして商業的に成功するためには童貞じゃ無い人でないといけない、本当の童貞は童貞を商売にすることが出来ないっていう。

「俺は童貞卒業したけどまだ気持ちは童貞だから童貞の味方だよ」っていうのに対しては私も「なんだかなー」って思う。伊集院光さんのラジオを聴いていると、自分を支えてくれる女の人との人間関係を作れているのに、童貞の気持ちを持たないと自分が自分じゃないということ語っていたりするから、不思議な気持ちになる。

でもラジオはずっと聴いてます!実はカミさんとの話とか結構好きです。あれで童貞男子にまとな女との付き合い方のイメージ操作をしてあげてるんじゃないかと。「商業童貞」の役割って、童貞マインドと社会とを繋ぐ代理店なんすかね。

---童貞マインドを称賛するみうらじゅんも、小説とか読むと結構いろんな女とヤっていたりするはずなんですよね。

そういえば、童貞ハートを持ってる男の知り合いから『アイデン&ティティ』の映画を勧められて観たんだけど、麻生久美子さんの演じる女のキャラ設定がとんでもなくゾっとした。「やっぱりお前らこういう女が好きなのか」って。童貞が好きな女子としては裏切られた気持ちが凄くあった。

---僕はあの映画は好きなんですけど、あの麻生久美子は非常に都合のいいキャラでしたね。主人公が浮気しまくっても家を出ても何も咎めない超美人っていう。

女の子で童貞の気持ちを分かりたいっていう人は沢山いるんですよ。童貞を理解したくて映画見たら、ああいう女が好きなの?って裏切られた気持ちになった。私だけなのかなあ。男にとっての都合のいい女像ってあるけれど、でも現実の女はこうだぞっていうのを『モテキ』では描きたいんですよね。

これだけは言いたい。モテないとか言ってる男性たちは女のレベルを下げろ、と。身近な女にレベルを下げよう、と。ムリめな女を好きになるからあなたたちのジレンマや悩みあるんだよ、っていう。

---あー、確かに童貞の頃は美人に幻想抱いてました。今でも抱いてるけど。

私は昔からどの恋愛漫画を読んでもなかなか身近に感じられなくて、童貞漫画のほうがよっぽど感性が合うので読むんですけど、童貞たちが好きになる女って美人ばっかりで、あーこういう男を好きになっても結局平行線なんだって、漫画でも挫折を味わったりしてます。

---そういえば、童貞漫画の傑作『チェリーボーイズ』を描いた古泉智浩まで、ファンの女の子と結構ヤったという話を最近『ブブカマックス(ブレークマックス?)』でのインタビューで語ってましたよ。

それ私にとって凄いガソリンですよ!(笑)その雑誌、買おうと思ったんだけど売ってなかったんですよね。古泉さんの『ワイルドナイツ』読んだときも「あー子供いるんだ」ってショックだったし。男の漫画家はみんな信じられない! 

---童貞といえば『童貞をプロデュース』という映画はご覧になりました?

凄く感動しました。あんなに映画館で皆で笑うことが出来た映画なんてそんなないですよね。あの映画に出ている童貞一号と知り合って仲良くなることが出来たんですよ。彼の高校時代の童貞話が本当に濃くて。そのときに彼が言った、中学時代まで女には性欲が無いと思っていたけど高校生になって「女にも性欲があるらしい」と友達と話題になったという話を、『モテキ』の中で使わせてもらってます。

---映画では童貞一号の話のラストが良かったですよね。

私は逆に、やっぱり男はこういう女が好きなんだって凄く落ち込んだんですよ。だから本当は、モテてないって言っている女の子に陽の当たる話を描いてあげたいっていう気持ちもあるんだけど、でも難しいなあ。

---『童貞をプロデュース』は僕もいろんな人に勧めたんだけど、いかんせんDVD化されてないから見せてあげることが出来ないんですよね。

DVDに出来ないって聞きましたよ。中で使われている番組映像とかの権利関係で出せないらしいんです。そういえば松江監督も『モテキ』を読んでくれてたんですよ。

■<他者>をどう受け入れていくか

---そんな童貞や草食男子とは対極に位置する存在が二巻に登場する、藤本とそっくりのルックスなのに肉食でやる気まんまんの40歳のオジサン、墨田さんなんですよね。

自分と同じスペックなのに全く違う生き方をしてるって存在に出会うのが一番不安だと思うんですよ。

---面白いですよね。ルックスのせいに出来なくなるっていう。

そうそう、「どうせこいつイケメンだし」とかじゃないんだっていうところで、同じようなビジュアルなんだけど違う生き方をしている人を出そうって考えていたんです。

---墨田さんみたいな人って僕の身近にもいますよ。昔は苦手なタイプだったけど、今は自分が墨田さんに近いかも(笑)。

いますよね、ああいう人。アレが東京に来て遭遇した中で一番衝撃を受けた生き物なんです(笑)。でも最終的には嫌いになれないキャラとして描きたくて。あれを敵だと思って生きていく生き方もあるだろうけど、しょうがねー人だけどそういう生き方もいいじゃん、っていう手本でもあるんですよね。ああなりたいかと言われるとよく分からないけど、楽しそうではあるっていう。女の子もああいう分かりやすい人が付き合い易かったりするんですよね。

---墨田さん、いつかちゃんには酷いことしましたたけどね。

でも、いつか誰かがやることだから、実はそんな酷くもないのかなって。しょうがねえなって思うことは女の側には多いので。あれを男の側から描ける人ってあんまりいないだろうから、そこのさじ加減が自分の今やれることかなって思います。

やっぱり現実世界でこういう人もいるんだなーって直接会って知ると、漫画の世界で活きてくる。こういう奴を許せないっ思って描くんじゃなくて、自分が苦手だって勝手に思い込んでいた人をどう受け入れていくかっていう話のほうが、描いていて気持ちがいい。

自分はホントに考え方が狭くて出会いも狭くて人を決め付けるところがあるから、実際に知り合ってから自分がどう変わるのかなっていうのを見たい気がするし、それが課題で今回このインタビューを受けたように、いろんな方と話すようにしてます。

■ありふれた奇跡 (ネタばれ注意)

---ストーリーはこの先どのくらいまで決まってるんですか?

結末は決まって無いんですよ。

---いつも結末を決めずに描いてるんですか?

『モテキ』の描き方は独特なんですよ。少年誌時代とは違います。打ち合わせしないでネーム書いて、編集者にFAXで送って電話で意見聞いて、あとは原稿上がるギリギリまで何度も自分内ネーム直し。例えば「こういう表情の次はこういう絵が見たい」みたいに、そのときのアドリブ感、ライブ感で描いてるんです。原稿を描きながら答えが見えてくることが多いので、ネームが書けなくても最初の1〜2ページを先に書いちゃって、それから「あ、こうしよう」とかあるんで。

---個人的には藤本が自分に自信を持てるようになってもらいたいですね。

自信ってどうやったら得られると思います?

---うーん、社会人が自分に自信を持つのって、仕事とか地位とかだったりすることが多いんじゃないですかね。女の人に認められる前に。

男の人はそれですよね。私は仕事で認められても、仕事と自分は別だなって思うところがあって。そこらへんは土井亜紀篇に出てくるオム先生っていう漫画家のところでネタとして還元したいなと思うんですけど。

私はホントにネガティブなところでやってきたし、男の人にはフラれたことしかないし、でも中途半端に漫画が売れて、他の漫画家さんと仲良くなって、「久保さんと飲むと面白い」とか「飲み会やってください」とか、『モテキ』やってから確かに声はかけられるようになったけど、このモテ方は和田アキ子的だなって言うのが悩みです(笑)。

でも、男の人にとって女の人との理想的な関係って何なんだろうって思います。結婚じゃないような気もするし…。『モテキ』も最後どうなるかっていう部分で、どこを落としどころにするかずーっと悩んでいて。自分の人生の落としどころが分かる日が来たら描けるのか、でも来ないから描けるのかも知れないし。いまは模索中なので、いろんな人の話を聞いておこうと思ってるんです。

---今後の展開にも思いっきり期待しています。

幸世君が自分に自信を持って、世間にも期待しながらやっていけたらいいなあと思います。彼は奇跡に期待しちゃいけないとずっと思って生きてきたんですけど、案外期待してもいいんじゃないか、という気持ちになれたらいいな。

幸世君が誰かと付き合えるのかどうかはまだ分からないけど、でも「誰かと付き合うことだけが正解」みたいに捉えられるように描いちゃったら、『モテキ』を読んでくれている人が裏切られることも多いと思う。付き合わなくても人間関係って案外続いていく部分ってあるから、そのあたりを伝えることが読んでくれている皆に残せることかなって。それが漫画として面白くなるかどうかは別の話だけど、夢中になって読んでくれる人がいると、ああよかったなって思いますよ、つくづくホント。

売れるといいなあ、2巻(笑)。


モテキ (1) (イブニングKC)モテキ (1) (イブニングKC)
著者:久保 ミツロウ
販売元:講談社
発売日:2009-03-23
おすすめ度:4.0
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