日韓両国の政府関係者が明らかにしたところによると、2012年6月、韓国側の要望で締結延期になった、日本と韓国の間で軍事秘密情報を包括的に保護するための協定(軍事情報包括保護協定=General Security of Military Information Agreement、GSOMIA)について、できれば年内に「覚書」として締結する方向で最終的な調整に入っているとのことである。

日韓間のGSOMIA締結に関しては、協定締結が延期された後、水面下も含めて交渉が行なわれてきた。たとえば、2013年11月、韓国ソウルで開かれた日韓防衛次官会談において、日本側はGSOMIAの重要性を説いて、韓国側に協定締結に向けた努力を促している。だが、韓国側は、「過去の歴史的真実をもとにした反省がなければならない」とし、相変わらず歴史問題を持ち出して消極的な態度を示し続けた。

実際のところ、韓国は、日本とGSOMIAを締結することにメリットがあることを理解している。たとえば、韓国のチェ・ユンヒ(崔潤喜)合同参謀本部議長は、2013年10月に開かれた韓国国会の人事聴聞会において、増大する北朝鮮の核やミサイルの脅威に効果的に対応するために、「日本との軍事的協力も必要だ」と述べており、「政治的なものとは関係なく、軍事的に必要な部分は(日本と)互いに協力できるように交流するべきだ」と指摘している。

そもそもGSOMIAは、日米韓でのミサイル防衛システムを一体的に運用するためのものであり、それによってもっとも恩恵を受けるのは、北朝鮮からの軍事的な脅威をどの国よりも間近にとらえている韓国にほかならない。合理的に考えれば、チェ氏のような認識に至るのは当然といえるだろう。

したがって、日本やアメリカは、韓国に対して一刻も早くGSOMIAを締結するように促してきた。ところが、韓国は、アメリカとの協定締結には応じるものの、日本に対しては、国内世論の反発を理由に締結に応じようとしなかった。通常、「協定」という形をとった場合、法的拘束力が発生するため、国会での承認手続きをとらなければならない。おそらく韓国側は、日本とGSOMIAを締結するにあたって、国内世論を説得し、その手続きをとる自信がなかったのであろうと推測される。

そこで、韓国側は、法的拘束力が発生せず、国会での承認手続きも必要としない、「覚書」という形で軍事秘密情報を保護する枠組みにできないかと打診してきた。この形であれば、政府機関同士で取り決めを交わすだけで済み、韓国側としては政治的なダメージを受けることがないというわけである。

しかし、「覚書」に法的拘束力がないということは、取り決めを破った場合に罰則を科すことができないということでもある。当然、日本側としては大いに不満である。日本から提供された軍事情報が韓国で漏洩したとしても罪に問えないのだから、こんな危なっかしい話はない。「協定」での締結にこだわる日本側の姿勢は、至極まっとうなものというべきだろう。

ただ、こうした状況が続く限り、締結の目処は一向に立たない。そのため、今回、「覚書」という形をとりつつも、枠組みのなかにアメリカを加え、さらに保護の対象を北朝鮮の核やミサイルの情報に限定し、調整を進めているようである。

だが、すでに韓国とGSOMIAを結んでいるアメリカを加えたとしても、それが日本にとって好都合に働くわけではない。日本からアメリカを経由し、韓国に提供される形であれば、日本の軍事情報を保護することができると考えているなら、相当甘いように思われる。まして韓国は、日本とのGSOMIA締結にあたって、中国に理解を求めるような国である。日本由来の情報であることが分かれば、韓国がそれを粗略に扱うことが懸念されるし、アメリカもまた、自国の情報ほど真剣に日本の情報を保護する姿勢はとらないだろう。

情報の共有や交換に関する話は、「まぁ、間をとって、この辺で」という中途半端な落とし所で決着を付けない方がよい。国際政治の力学上、「覚書」での締結が避けられないなら、日本から韓国への情報提供は、相応の水準にとどめておくべきだし、アメリカを経由して韓国に情報が提供される場合も、アメリカに対して、情報提供のプロセスや判断に日本が関与できるように強く要求することが必要だと思われる。

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