週末ですので、ちょっとお料理を離れてバレエ鑑賞ネタ♩ 地元トロントのバレエ団、ナショナル・バレエ・オブ・カナダの2018−19シーズンが開幕しました! シーズン・オープニングはノイマイヤーの新作、”アンナ・カレーニナ”、ハンブルグで初演、その後モスクワのボリショイ・バレエで上演、続いてカナダで北米のプレミア公演です。 


初日はドラマ・バレエには最強の主演陣、主役のアンナにスヴェトラーナ・ルンキナ、夫のカレーニンにピヨートル・スタンチェック、恋人ヴォロンスキーにハリソン・ジェームズ、スティーヴァに江部直哉、ドリーにシャオ・ナン・ユウの豪華キャスティング!

この先はネタバレしますので・・・ご注意を。 

アンナ・カレーニナはトルストイの原作では1870年代のロシアの物語、随分昔に原作を読んだものですが、トルストイ調の長い長い物語、登場人物も多様です。 これを劇場版バレエにどう反映させるのか? アンナ・カレーニナは過去にマリインスキー、エイフマン・バレエ等でも創作されたようですね。 今回のノイマイヤー版は15分の休憩を挟んで3時間、バレエとしては長い上演時間でしたが初演のハンブルグよりもスリムダウンして今の形になったようです。 

2018 Anna K 3
ノイマイヤー版はいわゆる”読み替え”で、現代のロシア。 カレーニンは政治家です。 選挙運動に邁進するカレーニンとその妻、アンナと息子は絵に描いたような美しい家族ですが、カレーニンは妻を思いやる余裕もない日々、アンナは幸せな家族を演じつつ孤独を抱えています。 
2018 Anna K 4
この辺の微妙な心のニュアンスを絶妙に表現するルンキナ。 彼女は現在、現役のダンサーでは最高峰の女優バレリーナではないでしょうか? アンナの衣装はファッション・ブランドのアクリス、ルンキナはアクリスの素敵なドレスが良く似合います。 対するピヨートル君、彼はいわゆる王子様タイプではありませんが、踊り手としては秀逸なプリンシパル、カレーニンというキャラクターにピッタリで、キレのいい踊りと美しいポーズでカレーニンを見事に表現しています。 ノイマイヤーの振付は巧いダンサーが踊ると美しい。 
2018 Anna K 2
心に孤独を抱えるアンナが惹かれたのはヴォロンスキー、ノイマイヤー版ではラクロスの選手として登場、ラクロスの試合のシーンが華やかに登場します。 ハリソン君は少々重たい印象でしたが、この作品の中ではステレオ・タイプというかある種、形骸的に描かれているヴォロンスキーをさらりと嫌味なく表現していてそれはそれで良かった。 
2018 Anna K 1
アンナはヴォロンスキーに惹かれつつも、最愛の息子と別れて暮らす淋しさに耐えられず、倫理、愛情、家族の問題に神経を蝕まれていきます。 

この本筋に対して伏線として夫の浮気と家族への愛に悩むドリーをシャオ・ナン・ユウが好演、バレエの芸術監督が設定の夫のスティヴァを、普段は清廉な踊りが印象的な江部さんがドラマティックに踊りました。 江部さんは別キャストでヴォロンスキーも踊ります! もうひとつの伏線、レヴィンとキティの物語は音楽もポップになって農村の情景、この辺りはノイマイヤーさんの故郷、ウィスコンシンの風景が彷彿されます。

振付自体はノイマイヤー振り、という感じですが、演出が素晴らしい。 大河ドラマを3時間以内に抑え、複雑な人物群が明確に表現されていてエピローグでひとつに結びつきます。 アンナの息子のお気に入りである機関車の玩具が非常に効果的に使われている辺り、ノイマイヤーの演出的な才気が光ります。 ロシア女性の生き方は”アンナ・カレーニナ”か”タチアナ(オネーギン)”の2択、なんて言われますが、クライマックスはオペラ劇場で展開し、演目はオネーギン、この辺さすがっ!な演出です。 
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原作では真の主人公は夫のカレーニン、という印象を受けた私ですが、ノイマイヤー版はアンナが主人公と言って良いかと思います。 映画などではどうしてもアンナとヴォロンスキーの恋物語に走りがちですが、このノイマイヤー版、恋のロマンチックだけには流されていません。 何故人は倫理を重んじて生きる必要があるのか、男と女の愛、子供への愛、人生の選択を観客が問われる辺り、文学青年ノイマイヤー氏はトルストイの原作を深く理解してのバレエ作品。 

別キャストではナショナルの花形、エヴァン・マッキー君がカレーニンで登場します。 この人もドラマティック・バレエを得意とする人ですので、こちらも楽しみです。