書籍

January 31, 2016

月刊ショパン 2016年2月号 特集「フランス音楽史の"影の演出家”生誕150周年エリック・サティ」



月刊ショパンはハンナ社刊のピアノ音楽誌。

当巻では、副題「フランス音楽史の"影の演出家”生誕150周年エリック・サティ」の通り、サティの生涯、ピアノ曲小辞典、エピソード集、ピアニストによるエッセイ等、19頁に渡りサティが特集されている。

特筆すべきは「ピアノ曲小辞典」。サティの楽曲についてまとめてある文献で網羅性のあるものは多くない。秋山邦晴著「エリック・サティ覚え書」がそのような文献の筆頭と言えるが、1990年刊行と、いささか情報が古い。

そのため、本書の
「至高存在のライトモティーフ」(『「汎神」のライトモティーフ』と訳している)
「星たちの息子 全曲版」
「モデレ」
「フーガ・ワルツ」
「小さなソナタ」(「小ソナタ」と訳している)
「コ・クオの少年時代」
「ノクターン第6番」
「ノクターン第7番」
等についての言及は貴重。
ただし、雑誌のコンセプト上、あくまで「ピアノ曲」の辞典であり「ピアノ独奏、連弾、2台ピアノで演奏できる既刊の楽曲」についてのみ取り扱われていることに注意。

エピソードについての記述では、サティが所属した機関・組織の解説や、批評家との確執等、他者との関わり合いに重点が置かれている。対人的な振る舞いを知ることは、その人物のシルエットを掴むのにもってこいであり、サティについても例外ではない。一般的な文献で強調されがちな奇異な逸話についての記述は控えめとなっているが、その人物像がすっと浮かび上がってくる。

19頁という紙面の制限から、当然のことながら、単純な情報量はサティ専門書籍とは比較にならない。しかし、情報の新しさやまとまりは秀逸と言え、サティ・ファンなら持っておいて損はない。


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July 08, 2015

エリック・サティとその時代展




エリック・サティとその時代展
(商品リンクなし)



2015年7月8日〜8月30日にBunkamura、9月12日〜11月1日に浜松市美術館にて開催の展覧会、「エリック・サティとその時代展」の展示とその解説をまとめた図録。全171頁。図録部分は142頁でフルカラー(白黒写真は除く)。他に年譜や「スポーツと気晴らし」の邦訳が付録。株式会社アートインプレッションより2600円(消費税8%込)にて発売。

これまで、一般に「エリック・サティ展」と言えば、2000年に東京伊勢丹美術館及び大阪大丸ミュージアムで開催された企画展とその図録(→過去記事参照)を指す言葉であった。そして、図録は「サティを視覚的に理解する」という用途で卓越しており、長らく日本のサティ・ファンのバイブル的文献の一角を占めてきた。今回、新たに展覧会が企画され、それに伴い本項紹介の図録が発売されたわけであるが、こちらも情報の量・質ともに疑う余地もなく素晴らしく、同様のコンセプトの文献として極めて強力なライバルが出現したと言える。

内容は「エリック・サティ展」図録と同様に幅広く、サティの肖像画・自筆譜、楽曲に関する衣装から、同時代のポスターまで、多種多様である。その性質上、両者で重複する内容もかなり多いが、本書「エリック・サティとその時代展」には、本展覧会で初公開された曲の自筆譜等、コアなファン垂涎の新たな情報が少なからず掲載されており、差別化されている。反対に、一部の楽譜を除いてサティの自筆文章やイラストはほとんど掲載されておらず、その点は「エリック・サティ展」が優位と言える。

サティについて良質で情報量の多い文献が新たに発行されたことは大変喜ばしいことで、今後、サティ関連文献のスタンダードの一つとなりえよう。ただし、そのためには展覧会終了後も簡単に入手可能となることが必須であり、そのような環境が用意されることを期待したい。

(一応補足しておくが、視覚的に愉しむというコンセプトの文献としては他に「サティ イメージ博物館」が存在する。ただし、写真やイラストの掲載数は上述の2つの図録より少なく、また、1987年発行で絶版となって久しい。)



【付録CDについて】

非売品のCDが付属していたので紹介する。
(限定品であるのか、あるいは今後も全ての図録に付属するのかは不明。)

1.ジムノペディ第1番
2.ジムノペディ第2番
3.ジムノペディ第3番
4.グノシエンヌ第1番
5.グノシエンヌ第2番
6.グノシエンヌ第3番
7.薔薇十字会の鐘 修道会の歌
8.薔薇十字会の鐘 大司教の歌
9.薔薇十字会の鐘 修道院長の歌
10.ジュ・トゥ・ヴ
11.スポーツと気晴らし
12.メデューサの罠
13.パラード (コラール、赤い幕の前奏曲、中国人の奇術師)
14.パラード (アメリカの少女)
15.パラード (軽業師たち、終曲、赤い幕の前奏曲の続き)
16.びっくり箱

NAXOSレーベル。1〜12, 16はケルメンディによるピアノ。13〜15はカルタンバック指揮、ナンシー歌劇場交響楽団による演奏。標記はないが、演奏時間を確認した限り、恐らくこれまでに同レーベルから販売された「SATIE Piano Works Vol.1~4」や「SATIE Piano Works Selection」と同一の録音がメインと思われる。
(現状、実際に聴き比べてはいないため、あくまで推測の域を出ないことを了承いただきたい。また、ジムノペディやグノシエンヌはこれらとは演奏時間が異なる。現在調査中。)



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March 24, 2012

磯田健一郎 / 近代・現代フランス音楽入門 サティのように聴いてみたい


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近代・現代フランス音楽入門―サティのように聴いてみたい

磯田健一郎


近現代のフランスの作曲家について軽い文体でわかりやすく解説。音楽之友より1991年第一刷発行。全235ページ。

サティ, ラヴェル, 六人組などは勿論、デュカス, ルセル, ケクランや、メシアン, ブーレーズまで幅広く取り上げられており、各作曲家のエピソード、代表曲・名曲、推薦CDがテンポ良くまとめられている。

サブタイトルに「サティのように聴いてみたい」とあるが、サティに関して特別に重きをおいた書籍ではなく、サティに関し割かれているページも12ページほど。しかし、サティについてよく知るためには同時代のフランスの作曲家についての知識も重要といえ、サティに関する文献(エリック・サティ覚え書, エリックサティ文集 等)でよく名前が挙がる音楽家が、どのような人物であったかを知っておいて損は無い。

例えば、ポール・デュカスやアルベール・ルセルは、サティが曲名に使用しているくらい関わりの深い人物であるが、彼らについてすらすらと答えられる人は、サティ・ファンでもごくわずかであろう。比較的有名な6人組についても、サティ関連書籍そのものではほとんど触れられていないことが多いため、各人の個性や特徴が平易に理解できるのはありがたい。

注意点は、間違いが多いこと。サティの誕生日が5月18日となっていたり(正しくは17日)、ジムノペティと表記されていたり(正しくはジムノペディ)。ひどいものでは、シレソの和音からドレミの和音への機能和声との表記があり、誤植以前の問題と言わざるを得ない。

あくまで、近現代のフランスの作曲家にはどのような人物がいて、どのように活躍していたかを表面的になぞる程度にとどめ置くべきであり、詳細に関する正確な情報を得たければ他の文献を利用すべきだろう。

"続きを読む" 以下に、とりあげられている作曲家を日本語表記で羅列する。

続きを読む

inubuyo at 18:41|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

October 17, 2010

Ornella Volta / エリック・サティ文集


エリック・サティ文集

エリック・サティ文集

Ornella Volta 編, 岩崎力 訳



サティ自身の文章をまとめた書籍。全490頁。7800円。

サティが書いた手紙、批評は勿論、落書きに類するものまで広く収録。音楽・芸術やそれに関する人物に対する私見、批判が盛り沢山。詩的文章やショート・ショートに類するもの、冗談に近い文章も大量に記載。"すべて目を通すことができれば"、サティという人物の実像に深く迫ることができる。

また、計121ページにわたり、サティの手による落書きがページ左上に記載されているのも大きなポイント。サティの視覚的理解には「エリック・サティ展」(当ブログ過去記事参照http://blog.livedoor.jp/inubuyo/archives/966622.html)という優れた書籍が存在するが、当書籍に記載の落書きの多くは「エリック・サティ展」にも未記載なものであり、隠れた魅力の一つとなっている。自画像(自画イラストと言うべきか?)も複数収録されているなど、一見の価値あり。

後半140ページほどは、著者による分析、解説、補足。こちらも高密度かつ大容量。関連人物の動向や当時の社会情勢なども捕捉されており、サティがその文章を書くにいたった根拠や経緯をつかむことができる。巻末には人物名による索引も付属している他、文章の引用元や、その引用文献とそれを所蔵する図書館(パリがほとんど)の情報も記載されているなど、研究資料的な価値は非常に高い。

上記のように、一見、サティについての知識・理解を増やすのに恰好な書籍のように見える。しかし、実際は膨大な情報量に圧倒され、斜め読みでポイントをつかむような読み方はなかなか困難。価格も7800円と、サティ関連書籍の中でも群を抜いて高価。

「エリック・サティ覚え書」(http://blog.livedoor.jp/inubuyo/archives/621443.html)や「エリック・サティ」(http://blog.livedoor.jp/inubuyo/archives/736381.html)、「卵のように軽やかに」(http://blog.livedoor.jp/inubuyo/archives/580740.html)などを読破した上で購入しても決して遅くはない。


inubuyo at 19:33|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

March 01, 2010

ユリイカ 昭和49年5月号 特集エリック・サティの奇妙な世界

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ユリイカ 昭和49年5月号 特集エリック・サティの奇妙な世界
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ユリイカは青土社刊の総合芸術雑誌。月刊誌で、毎号特定のテーマを特集。

当巻では全198頁中、92〜135頁がサティの特集となっている。以下、記載順に内容を紹介させていただく。

1.サティ小文集
「ひからびた胎児」等の曲中の詩的書き込みの紹介。「ページ上の配列は、曲のなかで文章があらわれる個所に対応する」よう文字を配置しているそうだが、縦書き三段組であり、編者の意図を理解するのは困難。

2.サティ論争
ケージ(現代音楽作曲家)によるサティ論。サティに批判的であったスカルスキーという人物に宛てた、サティを擁護する内容の手紙を2通紹介している(諏訪優訳)。

3.「挑発としての芸術」
高橋悠治と山口昌男による対談。高橋悠治はピアニストで、サティのCDを何枚か録音している。恐らく現在の日本で最も手に入れやすいサティの録音は彼のものである。サティ論、というよりは包括的に音楽論を扱っており、ピアニストがどのような考えのもと演奏をしているかを垣間見ることができて興味深い。ただし、対談という性質上、記載されているのは個人の考えに基づくものであり、一般的な認識とどこまで整合しているかは不明である。一方、客観的事実も豊富に含まれるため、巧く情報を取捨選択したい。(※)

4.エリック・サティとその世界
山口昌男による論述。サティと言えば、一般的にとかくピアノ曲が興味・議論の対象となりがちだが、ここでは一風変わってパラードについての言及がかなり詳しい。他にもソクラテスやメルクリウスについても触れられているなど、他の文献で得がたい情報が得られる。

上記1.及び2.は他の書籍にも同様の記載がある。(例えば「エリック・サティ覚え書」など。→当ブログ過去記事参照http://blog.livedoor.jp/inubuyo/archives/621443.html

しかし、3.及び4.については当書籍ならではといえ、資料的価値が高い。30年以上昔に発行された雑誌ではあるが、発行部数が多いためか、インターネット上の古本屋等で比較的簡単に手に入るようである。(当ブログ筆者は1000円程度で購入。)



(※当ブログ筆者は特に対談内容に反対意見は無く、よって取捨選択の「捨」に当たる部分も存在しなかった。ただ、対談という「個人の考え」に反対意見を持つことは何ら差し支えが無い。どのような事象に対しても言えることだが、「権威がある」ということを理由に全てを無条件に受け入るのは避けたいものである。)

inubuyo at 20:40|PermalinkComments(0)TrackBack(0)