京の萌え燃え日和

ユーフォはじめ京アニ作品と咲シリーズを応援するブログです。 咲シリーズは宮永咲ちゃん&清澄高校&シノハユ推しです。 その他に艦これも少しあります。旧ブログ名は咲クラ女子

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咲シリーズは宮永咲ちゃん&清澄高校&シノハユ推しです。
その他に艦これも少しあります。旧ブログ名は咲クラ女子

再放送されていた阿知賀編のアニメを見て、改めて思う

こんばんは。今年もよろしくお願いします。いぬもにです。

えー。今年も咲以外にも、ウマ娘のSSやユーフォのSSや記事を載せる雑多なブログになるかと思いますが。どうぞ、よろしくお願いします。ぺっこりん。


今回は、先日までBSで再放送されていた阿知賀編の感想です。

リアルタイムに見ていた時から、月日が流れて。「シノハユ」「怜 -Toki-」「染谷まこの麻雀メシ」などのスピンオフが始まったり。阿知賀編も連載再開したり一時休止したり。色々ありましたね。咲本編も五決を挟んでからの決勝戦の中堅まで進みましたし。(何か抜けてる?気のせいですよ。気のせいですってば。)

それで、これらのスピンオフや咲本編を経て見るアニメ阿知賀編は、私にとって号泣アニメになりました。

特に、千里山女子の回想シーンは泣きます。泣く。だって、5人中4人は小学生の時からの絆ですよ?しかも、残り1人も中学で知り合いますし。阿知賀女子に匹敵する濃い絆じゃないですか。新道寺の哩姫と同等かそれ以上レベルじゃないですか。

だから、リアルタイムの時は失礼ながら笑ってしまった竜華さんが枕神怜ちゃんを呼ぶシーン。こん積み重ね…を感じて、号泣ですよ。あと、シッカリと指を絡めているのも最高です…。最近、ほんの少しだけ、百合や女の子の激重感情を理解できるようになりましたから。

主人公学校の阿知賀女子も赤土先生のバックボーンが「シノハユ」で少し出ましたし。当時は名前のみ登場だった瑞原(はやり)プロについても、「シノハユ」や咲本編で少しずつ明かされたので、何か来るものがあります。

あと何と言ってもですね!
リアルタイムの時はテレビでしか知らなかった吉野山の春夏秋冬を実際に見に行ったので。

もう、
「あっ、吉野駅!」
「あっ、ケーブルカー!」
「あっ、憧ちゃんの実家の吉水神社さんだぁあああ!」
となりましたね。

ところで、来年のインハイ。憧ちゃんも永水を見習って、巫女姿で打ちませんかね?巫女姿で麻雀をする憧ちゃん。絶対に可愛いと思うので!

京都移住してから見ると。二条泉ちゃんのイントネーションが京都の若い女性店員さまんまなので。

「もしかして、泉ちゃんは幼少期は京都で過ごしていたのでは?苗字も京都にある二条城と同じ二条だし」

と思ったのですが。「怜 -Toki-」を読む限り、その可能性は低いですね……


などと。
数年振りに見返すと、新たな発見や感情が溢れてきて新鮮でした。

ちなみに、現在BSでは「咲 -Saki- 全国編」を放送中なので。

「咲ちゃん、きゎわわ!超きゃわわ!」

と見ています。


ではでは、この辺で今回はおしまいにします。今年も当ブログは、こんな感じでゆるっといこうと思いますので、お付き合い頂ければ幸いです。

【ウマ娘SS】フジキセキとリセットの魔法【フジグル】

こんばんは。桐野もにです。

9/18にぷらいべったーに投稿した「フジキセキとリセットの魔法」に加筆修正したものをブログに転載しました。
アニメ版の設定寄りなお話です。どうぞ~。


【ウマ娘SS】フジキセキとリセットの魔法【フジグル】



トレセン学園に入学する直前。
夢の中で髭が生えたおじいさんに言われた。

「君に3回だけ時間を巻き戻せる魔法を授けよう。3回だけだから、よく考えて使うんだよ。巻き戻す方法は……」

オカルトだ。
そんな魔法がある訳ない。

でも、時間を巻き戻せる魔法に興味があった。巻き戻す呪文を頭に叩き込み。翌朝、起きた時に、ノートに
【 リセット 】
と殴り書きした。

魔法を使う日なんて来る訳がないと思いながら。


******


トレセン学園に入学した私は、順調に担当トレーナーさんが見つかり。メイクデビュー、朝日杯、弥生賞と勝っていった。


皐月賞目前で、足に違和感があって、トレーナーさんと病院に行ったら、意外と大怪我だった。

クラシック期を走れない?
もしかしたら、レースから引退?

外科医とトレーナーさんの会話が頭に入って来ない。


そっか。
今こそ、時間を巻き戻す魔法を使う時か。

「違和感が起きた日まで。リセーットッ!」

教えてもらった呪文を唱えたら。目の前が眩しく光った。


******


あれ?
病院にいた筈の私は、トレーニング場にいた。

足が変だな?

痛いとか腫れてるとかじゃない。ただ、何となく、変。

「フジキセキ、どうしたの?」

トレーニング場に突っ立っている私が異様に見えたらしく、トレーナーさんが駆け寄ってきた。

「いや。何となく足に違和感があってね」

「すぐに、病院に行こう!」

血相を変えたトレーナーさんにおんぶされて、病院に連れて行かれた。大袈裟だな。ちょっと、足が変なだけなのに。

でも、トレーナーさんの判断は正しかった。
外科医は、

「この時点でよく気が付いたね。走り続けていたら大怪我になっていたよ」

とトレーナーさんに告げた。


全治2週間。
弥生賞にギリギリ間に合うらしい。

ん?
弥生賞にギリギリ間に合う??

1ヶ月近く時間を巻き戻したのか。とにかく、リセットに成功した。これで、クラシック期を走れるはずだ。


******


その夜。

「時間を巻き戻せるのは残り2回になった。よく考えて使うんだぞ」

入学する前に、夢の中に出てきた髭が生えたおじいさんが、再び夢に現れた。

「時間を巻き戻してくれて有難う。お陰でクラシック期を走れるみたいだ」

「そうか。だがな。レースに負けたぐらいでリセットを使うではないぞ。残り2回だけじゃからな」

「うん。肝に銘じるよ!」

「お前さんを信じとるぞ。じゃあの」

おじいさんは笑いながら、姿が薄れていった。これで、おじいさんと会うのも最後になると思いながら、深い夢も見ない闇に潜り込んだ。


******


足の故障は、弥生賞までに間に合い。
順調にレース出走でき、どんどん勝ち上がった。スタミナに自信がなくてマイル路線を選んだから、憧れのクラシック三冠ウマ娘にはなれなかったけど。NHKマイルもマイルチャンピオンシップも勝てた。

翌年も、高松宮記念こそ3着だったけど。安田記念は1着。押し潰されそうになったプレッシャーは、トレーナーさんとの二人三脚で乗り切れそうだ。

そんな年の秋。

1年遅れでデビューした同級生のエアグルーヴが、秋華賞に出走することになっていた。

毎日、門限ギリギリまで練習する彼女に掛ける言葉は見つからなかった。だって、私もレース前は同じように練習するから。

それに、私が出走する秋の天皇賞も目前に迫っている。彼女を気に掛けている場合ではない。



この判断を数日後に後悔することになる。


秋華賞のレース中、エアグルーヴは骨折した。


******


翌日、病院にエアグルーヴの見舞いに行くと。病室のドアから出てきたサイレンススズカにバッタリ会った。

「エアグルーヴの様子はどうだった?」

「普段通りに笑っていました。私の見舞いよりも早く練習に行けと、逆に檄を飛ばされて……」

困惑した表情でエアグルーヴの様子を教えてくれた。見舞いに来たサイレンススズカに檄を飛ばすなんて、エアグルーヴらしいな。思わず、クスリと笑ってしまう。

「そっか」

そんなに心配する必要なかったかな。会釈をするサイレンススズカと入れ違いで、

「エアグルーヴ、入るよ」

とドアを開けて入った。

「ふじ……?」

笑っていたと聞いた筈のエアグルーヴは、ポロポロと涙をこぼしていた。

「ゴメン。出直してくるね」

「いや。背中か胸を貸して欲しい」

「わかった」

エアグルーヴは私にしがみついて泣き出した。しばらくして、

「甘えて済まなかった。でも、これで最後だから見逃してくれないか?明日、転校手続きするんだ」

作り笑いで謝られた。彼女らしくない作り笑顔は下手くそだったけれど。それよりも、今、転校手続きと言わなかったか?掛ける言葉が見つからなくて、黙っていると、エアグルーヴが話し続けた。

「怪我の具合が相当酷くてな、レース引退は回避できない。走れない奴がトレセン学園に残っていても仕方ないだろう?」

「でも!」

「私は生徒会副会長だ。特例を作る訳にはいかない。最後に、大好きなフジに甘えられて嬉しかった。今まで有難う。さようなら」

「何を。何を言ってるんだい?」

何で、エアグルーヴが怪我をしてトレセン学園を去るポニーちゃんのような言葉を話してるんだ?
どうして……

「これでやっと、私もフジのポニーちゃんになれる。秋の天皇賞もこれからもテレビで応援するから」

エアグルーヴは全てを諦めきった寂しそうな笑顔を浮かべている。いつも、しかめっ面をしていたエアグルーヴに笑って欲しかったけど。こんな笑顔をさせたくない。

「だから、待ってよ!そんな……」

「気を付けて帰れよ。今まで本当にお世話になり有難うございました。さようなら、フジキセキ」

布団を被って泣き出したエアグルーヴに何も言えなかった。


あの時、走り過ぎだよと言っていれば?
こんなにも私を慕ってくれるのなら、忠告を聞いてくれたかもしれない。

だから。
エアグルーヴがいる病室なのに、私は

「秋華賞の2週間前まで、リセーット!」

と叫んだ。


******


気が付いたら、夜の栗東寮の前にいた。

そうか。時間を巻き戻せたんだ。

慌てて駆け込んで来るウマ娘が見えた。エアグルーヴだ。

「最近、根を詰め過ぎじゃないかな?」

「門限には間に合ったぞ」

「そうじゃなくてさ……」

「秋華賞が近いからな」

「でも、怪我をしたら元も子もないよ」

「……不安なんだ。想いを受け継いだ者のように骨折して10着と無様な結果に終わるのが」

「あのさ。君に想いを受け継いだ者は骨折して、それでも10着に入れたの?」

「ああ。フラッシュに怯えて骨折したらしい。そのフラッシュが苦手な弱点まで、私は受け継いでしまった」

「そうなんだ。でも、春の桜花賞はエアグルーヴは元気に出走して1着だったじゃないか。明日ぐらい、私とデートして、ゆっくり休まない?」

「うん。フジとデートできるなら」

意外と、素直に真っ赤な顔でデートに応じてくれた。
疲労骨折のフラグは回避したかな。あとは、秋華賞でフラッシュ厳禁にすれば、万全だ。会長に相談してみよう。


その日の夜。
また、夢の中で、あのおじいさんが現れた。

「時間を巻き戻せるのは、残り1回だぞ。あの娘のために使って良かったのか?」

「もちろんだよ。エアグルーヴと離ればなれになりたくなかったんだ。それに、エアグルーヴだって、あのままレースから引退じゃ無念だと思うしさ」

「そうか。お前さんの優しい気持ちに感動した。残り回数を増やしてやろう。今回のはナシじゃ。残り3回だ。良いな?」

今回のをナシにしても、残り2回では?と思ったけど。増やしてくれたんだ。

「有難う。残り3回も大切に使うよ」

「お前さんなら、大丈夫だ。信頼しておるぞ」

残り3回。全て、エアグルーヴのために使おう。彼女と共に長い一生を歩くためにも。私だって、大病や大怪我をする可能性があるのに。この時の私は、何故かエアグルーヴの心配しかしなかったんだ。


******


翌日。
エアグルーヴと初デートをした。

水族館でくらげを見て微笑んだり、クレープで笑顔になったりする彼女を見て、デートに誘って良かったと思った。

そして。
デートの帰り道。

「エアグルーヴが好きだ。私と付き合ってくれませんか?」

「はい」

私が一番見たかった心からの笑顔で返事があった。


10月からフラッシュ厳禁になったレース場で行われた秋華賞で、エアグルーヴは見事1着を取った。


******


エアグルーヴが秋華賞で1着を取ってから、半世紀以上が経過した。


たった今。病室で、長年連れ添ってきたエアグルーヴが息を引き取ろうとしている。

「エアグルーヴの危篤前にリセーット!」

若い頃、夢の中で4度会ったおじいさんが現れて、頭を横に振る。

「もう、無理じゃ。お前さんはリセットの回数を使い切ったのだよ」

「そんな……」

「彼女は寿命なんじゃ」

「……」

「心配するな。お前さんも直に寿命で天国に行く。天国でも2人がすぐに会えるようにしてやろう」

「長い間、見守ってくれていて有難う」

「ふははっ。リセットを正しく使える人間。いや、お前さんはウマ娘だったか。とにかく、リセットをキチンと扱える者に久し振りに出会えて嬉しかったお礼じゃ。さあ、最期は彼女の傍にいてやるんだ」

「わかった。そうするよ」

おじいさんの姿が薄れていく。
背後から、

「ふじ?」

弱々しいエアグルーヴの声が聞こえた。駆け寄って、エアグルーヴの痩せ細った手を握る。

「グル、ここにいるよ」

「今まで、有難う……。フジのお陰で、楽しかった……」

「ぐる?ぐるっ!?」

微笑んだ顔で息を引き取った。享年98歳は長生きで老衰だ。彼女が若い頃に大病した時に2回リセットを使ったから。

「グル。私も君が待つ所に行くらしい……」

あれ?
急に力が抜けた。そうだ。私も99歳。エアグルーヴの看病で気を張っていたから動けたのであって。本当は、もう体力も気力も限界だった。

「すぐに行くから、待っていて……」

目を閉じると。
学園時代のように、エアグルーヴが前を走っていた。引退する頃には追込路線だった私は、エアグルーヴを追い掛けて、追い越そうとするスタイルに変わっていた。レースでは、いつも追い付けなかったな。

でも、秋華賞後にリセットを使ったのは後悔しなかった。ずっと、エアグルーヴと笑い合う一生を選んで、その通りになったから。

今。やっと、君に追い付いたよ……



< Fin. >

【SS】文堂星夏と宮永咲の長野県大会個人戦

長野県大会個人戦。
団体戦で、風越女子高校の中堅を務めた文堂星夏も、風越女子ナンバー5のプライドを胸に参戦する。

そして、個人戦2日め。
中学時代の同級生、宮永咲と対戦することになった。

これは、文堂星夏の奮闘物語。



※文堂星夏ちゃんと宮永咲ちゃんが同じ中学出身なのは、作者の趣味による捏造設定です☆



【SS】文堂星夏と宮永咲の長野県大会個人戦

長野県大会個人戦1日め。


個人戦に出場するものの、全国大会に行けるベスト3に入るのは無理だと最初からわかっていた。

私は風越女子のナンバー5。学内だけでも、私より強い人が4人もいる。

吉留先輩と深堀先輩は手堅い打ち手で隙がない。
ナンバー2の池田先輩の火力にはとても敵わない。
そして、火力も防御力も兼ね揃えたキャプテン。

団体戦に共に出場した先輩たちに勝てる気がしない。実際、部の練習でも一度もトップを取らせて貰えなかった。


他校も強い人ばかりだ。
団体戦の中堅で対戦した清澄の竹井さん、龍門渕の国広さん、鶴賀女子の蒲原さん。清澄には昨年インターミドルチャンプの原村和もいるし、龍門渕のメンバーだって強い。鶴賀の大将も池田先輩より一枚上手に思えたし、鶴賀の副将もオカルト能力を持っていると深堀先輩から聞いた。

個人戦のみ出場する強い選手もいるから用心しろと久保コーチから注意もあった。


そして、何よりも。
咲ちゃん。中学生の同級生で、清澄高校の大将を務めた宮永咲ちゃん。

まさか、読書が趣味で麻雀の話を一度も振ってこなかった咲ちゃんが、あんなに麻雀が強いとは思わなかった。

いや、咲ちゃんが一度だけ、麻雀の話をしたのは私が風越女子に合格して、
「麻雀が好きな星夏ちゃんらしい進学先だね」
と合格お祝いの言葉を掛けてくれた時のみだ。


そんな咲ちゃんは、1年生なのに清澄高校の大将を任されていた。長野県決勝戦では、池田先輩を和了らせて窮地を凌ぎ。龍門淵高校の天江衣をまくり、大逆転して全国大会行きの切符を手にした。



咲ちゃんが池田先輩を和了らせたというのは、試合直後にキャプテンが教えてくれたことだ。

「あの子、華菜が点数を言う前に点棒を正確に用意してたの。間違いなく、差し込みだけれど、華菜の和了り役をキチンとわかっているのが怖かったわ」

いつも落ち着いているキャプテンが震えていた。


「こんな人たちを相手にして、全国大会なんて行ける訳ない」

思わず、本音を呟いてしまった。

でも。私は風越女子の部員だから。風越のナンバー5のプライドだってあるから。
今年は全国大会に行けなくても、来年に繋げる成績を残さなくては。自分に喝を入れて、試合会場に向かった。

東場だけの試合は目まぐるしく感じるも、長野県予選団体決勝戦で対戦した人たちと殆ど当たらなかった幸運もあって。私、文堂星夏は10番台で予選を通過できた。

風越女子はキャプテンを始め、団体戦を共に戦った先輩たちは、もちろん。風越女子麻雀部のランキング6位、7位の先輩も予選を通過された。


1日めを終えた時。
キャプテンと吉留先輩が嬉しそうな顔をして、戻って来られた。

ただ、吉留先輩が

「今、清澄の宮永さんと対戦したんですけど。個人戦だと調子良くないのか、団体決勝戦ができ過ぎたのか。あっさり勝てて拍子抜けでした」

と言った瞬間。
キャプテンの顔色が変わり、部員に彼女の牌譜を取り寄せるように指示をした。

そして、牌譜を見たキャプテンは震え出して

「明日。清澄でマークすべきは、東場が得意で現在トップの片岡さんよりも宮永さんよ。この子、どの試合も2着で、全てプラマイゼロだわ!」

半ば叫ぶように言った。
プラマイゼロ?勝つよりもスゴいことなんだろうか?でも、キャプテンの観察眼は絶対だ。何のために、トップを狙わずに2着なのかはわからない。

でも、団体決勝戦後も、キャプテンが彼女に対して何かを言っていた気がする。風越女子敗退の原因を作ったショックで忘れてしまったけれど……

「とにかく。宮永さんが、いつ覚醒するかわからないから、みんな気を付けて」

とキャプテンのアドバイスに、「はい!」と返事するしかなかった。


******


長野県大会個人戦2日め。

お昼ご飯を食べ終わった後、風越のメンバーと別れて、試合会場に向かう。

「ふぅ、なかなか順位は上がらないなあ」

私は歩きながら、会場の天井を見上げてため息をついた。

今日の本選に出場できたものの、午前中は長野県予選で対戦した人たちとの同卓もあって、順位を下げないのがやっとの体たらくだ。全国大会に行けるベスト3に入るのは、やはり無謀にしか思えない。

でも、風越のナンバー5の私が弱音を吐いてはいけない。これから順位を上げて来年に繋げなくては。自分に喝を入れて、試合会場に向かった。


******


「あ、咲ちゃん」

部屋に入ったら、咲ちゃんがいた。
呼びかけたら、中学時代と変わらず、穏やかな笑顔で振り向いた。あのギラギラした勝負師の表情だった団体決勝戦が嘘のようだ。

「星夏ちゃん、久しぶりだね」

声のトーンも中学時代とまるで変わらない。

「うん、久しぶり。個人戦で当たると思わなかった」

「私も……」

咲ちゃんは穏やかに微笑みつつ。一瞬、下を向いて顔を上げた。
私を正面に見据えた顔は、あの団体決勝戦の時と同じ表情になっていた。一見、笑顔だけど。目がギラギラしている勝負師そのものの表情に。

「星夏ちゃん、ごめん。私、本気で打つから」

現在の咲ちゃんの順位は、意外にも私と同じぐらいだった。まだ、覚醒していないのか。それとも、調子が上がらないのだろうか。とにかく、20番台にいる私たちが順位を上げるには、1着を取るのが手っ取り早いのはわかっている。
これは真剣勝負なのだから。

「もちろん、試合だから当然だよ。私も全力で打つから!」

だから、私も答えた。相手が元同級生の咲ちゃんでも手抜きなんかする訳ないと。

「ふふっ、よろしくね」

「こちらこそ」

咲ちゃんと握手をかわしてから、卓に着く。

しばらくして、残りの2人も部屋に入ってきた。
予選ギリギリ通過組のようで、現在の順位もビリに近い。これは咲ちゃんとの勝負になるなと試合前は思っていた。


「ツモ。2600、1300です」
「ロン。3200です」
「ツモ。2300、1200です」

試合が始まったら、咲ちゃんは速攻でどんどん和了った。少しでもミスしたらロンされる。何も出来ないまま、咲ちゃんの親番の東4局になった。

「ツモ。4000オールです」
「ロン。4800です」
「ロン。12000です。お疲れ様でした」

連続で3回和了り、同卓の子がトンで試合が東風戦で終わった。


「あ、有難うございました」

トンだ子はお辞儀はしたものの、声は出てなかった。狙い撃ちのように飛ばされたのだから当然だと思う。ギリギリ点棒が残った私達でさえ、声が震えていたのだから。


「星夏ちゃん、お互いにお疲れさまだね!」

試合終了後、咲ちゃんから声を掛けられた。
彼女がどんな表情をしていたのか、私には見る余裕もなかった。

「咲ちゃん、すごいね……」

やっと、これだけを言えた。

「星夏ちゃんも手強かったよ。本当は星夏ちゃんを飛ばしたかったんだけど、隙がなくて出来なかった」

「え?」

だから、試合前にごめんと言ったんだ。順位が近い私を飛ばす予定だったから!

狙い飛ばされて挨拶で声も出なくて、うな垂れて部屋を出たあの子。私があの立場にいた可能性もあったと思うと、体も震えてきた。

「無謀かもしれないけど、個人戦でも全国に行きたいんだ。お昼休みに原村さんに全力になれって怒られちゃったし」

舌をペロって出しながら話す咲ちゃん。

現在の順位も手加減していたからと暗に言っている。キャプテンが咲ちゃんをマークしろと言ったのは、真の実力を見せていなかったからか。

でも、残り試合は午後の分だけ。ここから順位を上げて全国大会行きの切符を手にするのは、無謀に思えた。

「咲ちゃんは、この順位から全国大会行きを狙うの?」

「うん。まだ試合は残っているから」

「う、うちのキャプテンも倒して?」

「総合得点で抜かすのは難しそうだけど、同卓したら全力で頑張るよ」

勝つと言わなかったのは、流石にキャプテン相手だからか。


「じゃあ、またね」

「うん」

咲ちゃんと別れて、次の試合会場に行く途中で、池田先輩に会った。


「試合が早く終わったんだな」

「咲ちゃん。あ、清澄の宮永さんが同卓の子を飛ばしたので」

「宮永らしいな!文堂は、次の試合から頑張ればいいし!」

「え?らしい?」

「ああ、やっとエンジンが掛かったんだな。あいつなら、同卓の奴を全員飛ばすぐらい朝飯前だ。そのぐらい、強い」

池田先輩がキャプテン以外を誉めるなんて意外だった。しかも、全員を飛ばすぐらいに強いと評価するほどに。

「池田先輩は、キャプテンと、さ……宮永さんだったら、どちらが強いと思いますか?」

だから、思わず聞いてしまった。

「キャプテンだし!と言いたいけど、難しいな」

「そうですか」

咲ちゃんはキャプテンと同等……。
そんなレベルだったんだ。


「とにかく、今は自分の順位を上げることだけ考えるんだ。まあ、私も厳しい戦いだけど全国を目指すよ」

池田先輩の順位は1桁台。私よりも全国大会行きは現実味がありそうだった。たしかに、今は人のことよりも自分のことだ。

「はい。わかりました!」

「よしっ。終わった時にお互いに笑顔で会おう!」

先輩は笑顔で次の試合会場に行った。

先輩の背中を見送って気が付いた。この時間に笑顔の先輩が私と通路で会ったということは、先輩も誰かを飛ばして試合を早く終わらせたという事に。

さすが、池田先輩の火力はすごい。絶好調になった先輩なら全国行きも十分に狙える。

私も全国は無理でも、今よりも順位を上げて笑顔で終わらせたい。
心から思って、私も次の試合会場に向かった。


******


「やっぱり、全国への壁は高かったな」

全ての試合が終わって、天井を見上げて一息ついた。

思ったよりも順位は上がらなかったけれど、上位のメンバーを見たら、今の私には抜かすのは無理だ。悔しいけれど、実力不足を認めるしかなかった。


「キャプテンはすごいなあ」

上位メンバーと同卓しても、総合1位を一度も譲らなかったキャプテンは本当に強い。長野県1位は、私たち風越のキャプテンだと思うと誇らしく思える。


「咲ちゃん、本当に個人戦でも全国に行くんだ……」

そして、咲ちゃん。
2日目の午後から常に1着を取り。どんどん順位を上げてギリギリとはいえ、個人戦3位で全国大会の最後の切符を手に入れた。


「何、ブツブツ言ってるんだし!」

気が付いたら、池田先輩が顔を覗き込んでいた。

「うわっ。池田先輩!お疲れ様でした!」

「文堂もお疲れだし。大健闘だったな」

「有難うございます」

先輩に何と声を掛けていいのかわからなかった。池田先輩の後ろには泣きじゃくっている吉留先輩の姿も見えたから。

「みはるんもそんなに泣くなし!」

「だって、私がもっと初日のように頑張ってれば。キャプテンから宮永さんをマークするように言われたのに負けて。私が勝てれば、華菜ちゃんが全国に行けたかもしれないのに……」

「無理だったよ。もし、みはるんが宮永や南浦を蹴落としてくれたとしても、私の順位が低すぎた。悔しいけど、私の実力不足だ」

「でも」

「また、来年に向けて頑張ろう」

団体戦の時は号泣していた池田先輩が、吉留先輩をあやすように慰めていた。池田先輩のように麻雀も心も強くなりたいと思った。

気が付いたら、表彰式で呼ばれているキャプテン以外の風越女子高校の麻雀部員が集まっていた。

「個人戦も団体戦も強敵だらけで、正直、来年の全国行きの奪還は厳しい。でも、まだ一年もある。明日から特訓だし!」

「はい!」

返事をしながら、池田先輩の喝を反芻していた。
そうだ、まだ来年の試合まで一年あるんだ。今日は全然歯が立たなかった相手でも一年間特訓すれば勝てるようになるかもしれない。

咲ちゃんにも。

だから、また明日から先輩達と一緒に頑張ろう。そう誓った。


<カン>

【響け!SS】ジャズが好きな秀一の誕生日

こんばんは。桐野もにです。

本日、9月18日は塚本秀一さんのお誕生日です。

秀一さん、お誕生日おめでとうございます!

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今回は、大学生になっても付き合っている。秀久美が、一人暮らしをした秀一さんの部屋で誕生日にケーキを食べて過ごすお話です。では、どうぞ~




 【響け!SS】ジャズが好きな秀一の誕生日


9月18日14時

一人暮らしを始めた秀一の部屋で、

「しゅーいち、誕生日おめでとう!」

「有難うな」

炭酸水が入ったグラスを軽く合わせて乾杯した。
ケーキと合わせて飲むのは紅茶だけど、乾杯するのには向いていないし。それに、秀一の誕生日の9月中旬はまだ暑くて喉が渇きやすくて、お洒落な紅茶だけでは物足りない。

秀一が好きなジャズのCDをBGMに、私が近所のパティスリーで買ってきたショートケーキを食べて、他愛ない話を秀一としていた。

近況報告とか、聞いたことはあるけど名前が出てこないジャズについてとか、高校時代の思い出話とか。そんなとりとめもない話をしている時間が楽しくて大好きだ。

ふと、高校の時によく聴いたあの名曲もジャズだけど。1時間経ってもあの名曲は流れて来ないことに気が付いた。一度、気になると、頭からなかなか離れない。思いきって、秀一に理由を聞くことにした。

「ねぇ。しゅーいちはシングは聴かないの?」

「シングを聴きたいなら、違うCDにあるから、入れ替えるぞ」

シングと聞いただけで「シング・シング・シング」と気が付くのは、流石だ。そして、いつもの間の抜けた話し方が、別に理由はないことを物語っていて、力が抜けてきた。

「なーんだ。心配して損した。ずっと、シングが流れないから、立華のマーチングでトラウマになったのかと思ったよ」

「そんな訳ないだろ。立華はマーチング。俺たち北宇治は座奏と目指す音楽の方針が違ったんだからさ」

秀一は笑いながら、「シング・シング・シング」が収録されたCDを何枚か見せてくれた。その中には、立華高校のマーチングのDVDもある。

「うん。しゅーいちの言う通りだね」

「正直さ。高校1年のサンフェスで聴いた立華のフニクリ・フニクラはスゲェ!と震えたし。合同演奏会で間近に見たシングにも圧倒された。でも。高校2年のサンフェスでボレロを聴いた時は、音だけなら俺たちが上だと確信した」

「自信家だなぁ」

「まあな。トロンボーンのファーストを担当しているプライドが崩れないように必死だったのもある」

苦笑する秀一を見て、立華高校のトロンボーンのファーストは梓ちゃんだったと思い出した。

佐々木梓ちゃん。
秀一と私と同じ北中出身で、1年からトロンボーンのソロを務めて、音大に進学した実力者。

秀一にとって、梓ちゃんは同じトロンボーン奏者として、ライバルでもあったんだ。

「何で、久美子が深刻な顔をしているんだよ。もう、昔の話だ。それに、シングは立華高校のファンキーな演奏と間奏のキャーって悲鳴のような歓声も含めて好きだぞ」

「うん。そうなんだ」

秀一には立華のシングのトラウマがないのはわかったけど。もうひとつ気になることが出てきた。立華高校のマーチングのDVDも買うぐらい、シングも好きなら。立華に進学すれば、好きなだけシングを演奏出来たのに、と。

「あのさ。今更なんだけど。何で、しゅーいちは立華じゃなくて北宇治に進学したの?立華なら、沢山シングを演奏出来るのに」

「立華だと、鬼のように練習させられて、自分の時間が全然なさそうだからな。実際、太一から聞いたら本当に自分の時間がないとボヤいてた」

太一って誰だっけ?と頭を傾げてたら、

「太一は、立華のトロンボーン担当で俺らと同学年でさ。合同演奏会で意気投合してから、LINE交換したんだ」

「しゅーいち。求君を懐かせたり、他校の子とLINE交換したりして、本当にスゴいね」

「普通だろ?それより、立華に進学しなかった理由は、まだまだあってな。トロンボーンは人数が多くてホルン担当のままだっただろうし。何よりも、立華は私立だから、金も掛かって親に悪い」

秀一が立華に行かない理由を延々と並べているのは、何となく違和感があった。練習量が多いからだけで十分なのに。
だから、もう少し突っ込んで聞いてしまう。立華に行かなかった理由じゃなくて。入学当時、吹奏楽部では全く無名の北宇治を選んだ理由を。

「でも、うちからなら北宇治より南宇治の方が近いじゃん。何で、立華でも南宇治でもなくて、北宇治に来たの?今は秀一と同じ北宇治でたくさん合奏も出来て嬉しかったんだけど、すごく気になって」

「立華も南宇治も久美子が絶対に行かない学校だからな。俺は久美子のユーフォニアムの演奏も大好きでさ。久美子のユーフォニアムを聴くと落ち着いて演奏が出来たんだ」

「なっ……!!!」

何それ。
秀一が私のユーフォニアムの演奏を好きだなんて、初めて聞いた。高校生の時に教えてよと思うけど。秀一が言い出せなかったのは、きっと私のせいだ。
高校2年の夏、私が距離を置こうと言わなければ、恋人のままだったら教えてくれてたかもしれない。

「だけどよ。久美子は中学で吹奏楽をやめると思ってた。先輩から虐められてたし。引退後は吹奏楽部の奴らと距離を置いてるように見えたしな。それなら、せめて、同じ高校に行きたいと思ってさ。こっそり、おばさんから聞いた」

「何それ、何それ、何それぇええっ!」

そんなの初めて聞いた。何で、お母さんも黙っていたのよ。

「ずっと昔から好きなんだよ、お前のことが」

真剣な瞳で見つめられて、急に恋人モードに入ってドキドキして、心臓の音が煩いぐらい。恋人なのは恋人だけど。幼馴染みの延長な付き合いだったし。

テーブルを挟んで座っていた秀一が、いつの間にか私の隣に立っていて、触らなくても顔が赤くなったのがわかった。そして、私の顎を持ち上げるから、慌てて目を閉じる。たぶん、キス……だと思うから。

やがて、予想した通り、唇に温かいものが触れた。


< Happy End. >


ではでは、ここまで読んでくださり有難うございました。感謝のぺっこりん。

【響け!SS】 ○○しないと出られない部屋に閉じ込められた秀久美

こんばんは。桐野もにです。

本日、8月21日は黄前久美子はんのお誕生日です。

久美子はん、お誕生日おめでとうございます!

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今回は、タイトル通り、
「○○しないと出られない部屋に閉じ込められた秀久美」
です。

ちなみに、このライブドアブログはアダルトカテゴリではないので、あーるじゅうはちな展開にはなりません。念のため。ではでは、どうぞ~。




 【響け!SS】 ○○しないと出られない部屋に閉じ込められた秀久美


8月21日17時

「ここで幹部会議をするんだよな?」

「そうだよ」

部長の黄前久美子と入った部屋はドアしかない。幹部会議をするには少し大きすぎるのが気になる。そして、やたら冷房が効いているのも。

「この部屋、少し寒いな。部長、コレでも着てろよ」

「あ、有難う……」

久美子に着ていたジャージの上着を掛けてやる。

「それにしても、れーな遅い。れーなが遅れるなんて……」

久美子が「れーな」と呼ぶ高坂麗奈は、北宇治高校吹奏楽部の音楽面を引っ張るドラムメジャーで、幹部の1人だ。北宇治高校吹奏楽部は部長の黄前久美子と副部長の俺、塚本秀一。そして、ドラムメジャーの高坂麗奈の3人が幹部となっている。
その高坂が来ないと、幹部会議は始まらないのだが……


『やっと、気が付いた?』

どこからか、スピーカー越しの高坂の声が聞こえた。

「え?れーな?」

『久美子と塚本を素直にならないと出られない部屋に閉じ込めたから。2人が素直になったと判断したら、鍵を開けてあげる。ちなみに、今日は幹部会議ないから、鍵が開いたら帰っていいから。そうそう。モニターで見てるから、演技はバレると思って』

ブツン

スピーカーからの音が聞こえなくなり、一段と冷房が強まった。

「寒い……」

「おい、部長」

腕を抱えて震えだした久美子を腕の中に抱き締める。

「ちょっ、ちょっと!な、何をするの!」

「悪い。部屋を出るまでの間、我慢しててくれ」

「が、我慢じゃ、ない……けど」

「素直になる、か。まだ、キスやハグの方がわかりやすい命令だったな」

「キス!?ハグ!?馬鹿バカばかっ!!!」

真っ赤な顔になった久美子が本気で叩いてきた。ユーフォニアムを長年抱えてきた久美子は腕力がある。本人に腕力がある自覚が全くないのが厄介だ。しかも、照れ隠しの時は、更に力が増す。

「いてっ!こんな寒い部屋に部長を長時間いさせたら、風邪を引かせてしまうと考えただけだ」

「あ、ゴメン。私、ちっとも協力的じゃなかったよね。部長なのに、副部長のしゅーいちには甘えてばかりで。今だって、しゅーいちの方が寒いのに色々考えてくれてるし」

「いいんだよ。それが副部長って奴だ。中川副部長も吉川部長を支えていたから、ああなりたいんだ。全然及ばないけどな」

「しゅーいちも夏紀先輩に憧れてるんだ」

「あんなに格好良くて男前の先輩に憧れない奴はいないって」

「だよねぇ。ふぁあ……」

寒い部屋にいるからか、答える久美子の声が眠そうで間延びしてきた。でも、ここで眠ったら、ずっと出られない。

「おい、寝たらダメだ!寝たら死ぬぞ」

久美子の頬を軽くペチペチ叩く。

「ふふっ。何それ。遭難ごっこみたい」

「実際、遭難してるようなものだろ。素直になるって何だ。素直になるって……」

「しゅーいち。私、心当たりがあるんだ。目を閉じてて」

言われた通りに目を閉じると、頬に温かいものが一瞬だけ触れた。

「くみこ?」

「えー。ドアが開かない。絶対にコレだと思ったのにな」

「な、なんだ。そういう事か」

一瞬でも、久美子が本気で恋人に戻りたいと思ったのかと勘違いした。まだ、関西大会も控えているのに、そんな訳ないよな。
それに、こんなに美人になった久美子だ。他に恋人が出来たっておかしくない。

「去年、縣祭の時にしゅーいちが近所でキスしようとしてきて、私が傘で叩きながら怒ったでしょ?」

「そんな事あったな」  

「実は、その時のことをれーなにも話したんだ。だから、キスをすればって……」

「そっか。キスでもダメなら、何をすればいいんだろうな」

久美子が真剣な顔で悩んでいる。俺もボヤいてる暇があったら、考えないと。キス以外の何か、何か……

「私。しゅーいちとなら、最後までしてもいいよ……」

「くみこさん?」

久美子がセーラ服の上着をまくり出す。引き締まった白いお腹が眩しい。そうじゃなくて!

「いやいやいや!さすがに、学校でそんな事をしたらヤバいだろ」

まくったセーラ服の上着を元に戻してやる。

「しゅーいちは、私とじゃセックスするのは嫌?他に彼女が出来た?真由ちゃんとか?真由ちゃんはおっぱい大きくて可愛いし、ユーフォの演奏も私より上手だし。それとも、葉月ちゃん?葉月ちゃんも可愛くて元気いっぱいで面倒くさくなくて、おっぱいだって私よりも大きくなってっ!」

キッと睨み付けた久美子は、猛スピードでまくし立ててきた。こんなに支離滅裂なことを言い出す久美子を見るのは初めてだ。

何で、俺が黒江真由と付き合うんだ?久美子の方がずっと可愛いし、ユーフォの演奏も上手いだろうが。それに、俺は久美子の程よいサイズが大好きなんだ!

ましてや、加藤葉月は滝野先輩と付き合っている。加藤も滝野先輩と付き合ってることを久美子に話せよ。親友だろ?
いや、加藤のことだ。俺たちが別れたのを知ったから、先輩と付き合っているのを久美子に言い出しづらいんだよな。ゴメン、加藤。

脳内で総ツッコミしたり、加藤に謝ったりパニックになったが。ふと、気が付くと、腕の中の久美子が体を丸めて泣き出していた。

今、俺がやるべきことは、泣いてしまった久美子を宥めて安心させることだ。久美子の頭を撫でながら、本心を話す。

「久美子、ゴメン。俺が素直にならないから、こんな部屋に閉じ込められたんだよな」

「しゅーいちは何も悪くない。私のせいで、しゅーいちまで巻き込んじゃって」

腕の中の久美子が頭を横に振るのが愛おしくて、ギュッと抱き締める。

「俺は今でも久美子を愛している。正直、学校じゃなければさ。さっき、久美子との約束を無視して、とっくに押し倒してた」

「しゅーいち?」

涙に濡れた顔で見上げてきて可愛いな。いつだって、どんな顔をしていたって、久美子は世界一可愛い。

「本当に情けない副部長で元カレでゴメンな。俺は全国大会が終わるまで、毎日コレを持ち歩いて待っているから」

ポケットから、イタリアンホワイトのヘアピンを見せた。

「なんで?」

「決まってるだろう?俺は久美子を世界一好きなんだ。久美子が恋人に戻りたいと言ったら、いつでも戻れる準備はしてある」

「しゅーいち、大好きっ!」

腕の中の久美子が俺に抱き着いた瞬間。


ガチャッ


ドアが開く音が聞こえた。

そっか。
素直にならないと出られない部屋は、恋人のような行為じゃなくて、お互いに心から好きと愛の告白をするのがキーワードだったのか。
高坂、せめて大好きのハグとかヒントを寄越せ。あのままだと、久美子は風邪を引いてたぞ。意外と、久美子は体が弱いんだから手加減してやれ。

「久美子、ドアが開いたぞ」

「うん。でも、もう少しだけ、しゅーいちに甘えてていい?今日だけでいいから」

「別に、今日から恋人に戻っても、いいんだぞ」

「ダメ。全国大会が終わるまでは我慢する。だって、今日みたいに、しゅーいちに甘え過ぎちゃうから」

「だから、とことん俺に甘えてくれていいんだけどな……」

「だってだって、しゅーいちに甘えちゃったら、北宇治の部長を出来なくなっちゃう」

小声で可愛い意地っ張りを言われたら、否定出来ないよなあ。俺は久美子の頑固なところも好きなんだ。久美子なら、何でも好きになってしまったのは、惚れた弱みだ。最後まで、久美子に付き合うしかない。

「わかった。久美子の好きなようにやれよ。でも、どうしてもダメな時は俺を頼ってくれ」

「もう。しゅーいちは私を甘やかすんだから。でも、有難う」

あー、とびっきりの笑顔でお礼を言うのは反則だろうが。久美子、鞭と飴の使い方が本当に上手いよな。本人が無自覚でやってるのが怖い。
本人は自信なさげだが、北宇治の部長は俺たちの代では久美子が最適だ。演奏や人柄のカリスマ性だけでなく、助けたり手伝ったりと部員たちが手を差し伸べたくなる一面も、久美子が部長たる所以だ。

「さて。今日だけは一緒に帰るか。何か温かい飲み物でも奢るぞ」

「うーん。じゃあ、ホットココアがいい。すっかり冷えちゃったし」

「わかった」

笑い合いながら、冷房が効き過ぎた部屋を出る。

「うわっ、外あっつー。しゅーいち、コレ返すね」

慌てて、ジャージの上着を脱いだ久美子から渡される。久美子の温もりが残ってて最高だな。決して、口には出さないが。

「ああ」

「しゅーいち、あのね。ホットココアじゃなくて、一緒にケーキ食べるの付き合ってくれない?」

「もちろんだ。久美子、誕生日おめでとう!」


< Happy End. >

ではでは、ここまで読んでくださり有難うございました。感謝のぺっこりん。

【ウマ娘SS】フジグルのバニーの日【フジグル】

こんばんは。桐野もにです。

8月2日と今日8月21日はバニーの日です。

8月2日に、SS文庫メーカーで書いていたフジグルがバニースーツを着るだけの話に、フジキセキさん視点を加筆したものをブログとpixivにも載せました。どうぞ~。




< side エアグルーヴ >


夏合宿も後半に入った8月2日。

「エアグルーヴ、ちょっといい?」

フジキセキに手招きされて、部屋に入った。

「今日は何の日か知っているかな?」

「いや、知らん」

「バニーの日だよ」

ジャーン!と効果音を自分で言いながら、ジャージの上着を脱いだフジキセキはバニーガールの姿だった。

「結構、似合うな」

思わず、正直な感想を口にしてしまった。長身でスタイルもいいフジキセキに黒のバニーガールの姿は似合う。端正な姿勢なのもあって、いやらしさよりも美しいとさえ、思う。

「有難う。まさか、エアグルーヴに褒められるとは思わなかったよ」

少し頬を染めながら照れる姿は新鮮でドキリとしてしまう。きっと、夏のせいだ。

「実はさ、エアグルーヴの分もバニーガールの衣装を用意しているんだ」

訂正。
夏のせいで浮かれているのは私ではなく、フジキセキの方だ。夏合宿にバニーガールの衣装を2セットも持ってきて、馬鹿なのか?間違いなく、馬鹿だよな?

「着ないぞ」

「夏の思い出に着て、ツーショットを撮ろうよ!」

本当に大馬鹿だ。たった1日のために、私が着る保障もないバニーガールの衣装を2セットも持ってきたとは。

「絶対に着ないからな?」

「残念だな。私よりもエアグルーヴの方がバニーガール向きのスタイルなのに」

そういう問題じゃない。いや、コイツは私をバニーガールが似合うとか、そんな目で見ていたのか。でも、スタイルがいいコイツに褒められるのも悪くはない。

「念のために聞くが。まさか、今日だけのために、バニーガールの衣装を2セットも買ったのか?」

「もちろん!しかも、オーダーメイドだよ!」

笑顔で、もちろんと言わないで欲しい。頭痛がしてきた。オーダーメイドと言うことは、私が着ないと無駄になるじゃないか!

「わかった。コレを着ればいいんだよな?」

「有難う!」

ええい!満面の笑みでお礼を言うな。将来の黒歴史確定をやる羽目になった私の身にもなれ。

「はい。エアグルーヴの分。着るのを手伝おうか?」

「たわけ!1人で着る!お前は壁でも見てろ」

「わかった。もし、わからなかったら、いつでも聞いてね」

フジキセキが壁を向いたのを確認してから、体操服からバニーガールの衣装に着替える。私のは白か。フジキセキと同じ黒い方が締まって見えるのに、よりによって膨張色の白とは。カフスとウサ耳代わりの白いメンコを着けて完成した。

「おい、これでいいのか?」

完成したら、かなり恥ずかしい格好だと気が付いた。さっさと着替えたい。

「うわぁ!やっぱり、エアグルーヴにはバニーガールの衣装が似合うよ!ほら、鏡を見て」

見させられた鏡には、バニーガールの衣装を着た私が映っているが、特に似合っている気はしない。むしろ、フジキセキと違って、衣装に着られている感じなのが少し悔しい。

「誰にも見つからないうちに、記念に写真を撮ろう!」

「絶対にウマスタにあげるなよ?」

「あげる訳ないよ。だって、こんなに可愛いエアグルーヴのバニーガール姿はわたしが独り占めしたいんだから」

「なっ!?」

「はい、スマホを見て笑ってー!」

言われるがままに、自撮り棒を付けたスマホを見る。

「うん。いい感じに撮れたね。じゃあ、名残惜しいけど、誰かに見つかる前に着替えよう!」

「一瞬のために大掛かりなことをしたんだな」

「夏だからね」

「何だ、その理由は」

でも、本当は少し納得もしてた。夏は無性に馬鹿なことをやりたくなる。理由は全くわからないが、衝動的に馬鹿なことをしてしまう。それが、黒歴史確定とわかっていても。


[newpage]
< side フジキセキ >


トレセン学園を卒業して3年。
今年も8月2日がやって来た。

「おい、今年もコレを着るのか?」

私とルームシェアをしているエアグルーヴが嫌そうな顔をして、テーブルの上に置いてあるバニーガールの衣装を指差す。

「もちろん ♪ 」

「しかも、今年は編タイツとピンヒールまで買ったのか?年に2回しか着ないし、他の誰にも見せないのにか?」

エアグルーヴが年に2回と言うのは、昨年から8月21日もバニーの日と知ったからだ。

「でも、エアグルーヴはさ。文句を言いながら、毎年付き合ってくれるよね。何でかな?」

エアグルーヴの顔を覗き込みながら聞くと、顔を真っ赤にしている。

「だって、お前がオーダーメイドしたって言うから、勿体ないし。それに……」

あー、ゴメン。
オーダーメイドは何としてでも着てもらうための嘘なんだ。オーダーメイドだと言えば、代役はいないと騙されてくれそうだったから。
でも、今さら種明かしする訳にもいかないよね。

「……夏ぐらい、お前の馬鹿騒ぎに付き合ってやってもいいと思ったから」

ボソっと付け加えられた言葉が本音かな。
何だかんだと付き合ってくれるし。彼女が、この半月ぐらい大好きなにんじんアイスとはちみーを我慢していたのも、バニーガールの衣装を着てくれるためだ。
最高の仕上がりになった状態の彼女がバニーガールの衣装を着ると、ますます素敵になる。

「有難うね。バニーガールの撮影が終わったらさ。先週オープンしたアイス屋さんに行こう。付き合ってくれたお礼に奢ってあげるから」

頭を撫でながら言えば、尻尾をブンブン振って喜んでいる。

「早く着替えて撮影を済ませないとな!」

意気揚々とバニーガールの衣装一式を手にして、自分の部屋に入って行って、チョロかわ。
わざわざ、自分の部屋で着替えるのは、私とキスまでの仲だからかな。そんな恥じらいを持つところも大好きだけど。


******


エアグルーヴが着替える間に私も自分のバニーガールの衣装に着替える。うん。今年も何とか着られたね。この服を着る名目があるお陰で、現役時代の体型を保っていられる。

着替え終えると同時に、手にピンヒールを持ったエアグルーヴが部屋に戻ってきた。

「うわぁ。今までで最高の仕上がりだね」

バニーガールの衣装から零れ落ちそうな胸。キュッと引き締まったウエスト。柔らかそうなお尻。体操着で出走した札幌記念の時から変わらない見事な美脚。素肌も光り輝いていて、完全無欠なバニーガールがそこにいた。

「毎年、スタイルがいいお前の隣に並ぶ私の身にもなれ。大体、何で白いバニーガールの服にしたんだ。私も黒が良かった」

機関銃のようにまくし立てるのは照れているからだ。それにしても、スタイルがいい、か。エアグルーヴは私をそんな風に見てたんだ。胸が大きくてウエストも細いエアグルーヴの方が断然スタイルいいのに。

「じゃあさ。来年は2人で黒いバニースーツを着ようか?」

「待て。来年もこの馬鹿騒ぎに付き合うのか?」

「もちろん。エアグルーヴなら、付き合ってくれるよね?」

わざとらしくウインクして聞けば、

「……フジキセキのそういうとこ、ズルい……」

真っ赤な顔になって、小さい声でボヤかれた。

急に名前呼びしてきて、どっちがズルいんだか。突然、乙女モードになるのは本当にズルい。本音がかき乱れされそうになる。

「ほら、さっさと撮影しろ。撮影して着替えたら、高級アイスを奢って貰うんだからな」

本当にもう。
急に、乙女モードになったかと思えば、ニヤリと笑って悪友のノリに切り替えるのは反則的なズルさだよ。

この先、エアグルーヴの意外な一面をいくつ知ることになるんだろう。一生、退屈はしなさそうだ。

「わかった。じゃあ、撮影しよっか。スマホを見て」

今年もエアグルーヴと並んで、バニーガールのツーショットを撮った。
スマホを見れば、バニーガール姿のエアグルーヴと私がニカッと笑っていた。




< Fin. >

【ウマ娘SS】天の川にキセキを【フジグル】

こんばんは。桐野もにです。

アプリ版のフジキセキさんの七夕ボイスを聞いたら、書きたくなってしまった卒業後のフジグルSSです。

前に、SS文庫メーカーで書いていた話にフジキセキさん視点を加筆したものを7/25にpixivにアップしたので、ブログにも転載しました。どうぞ~。




【ウマ娘SS】天の川にキセキを【フジグル】



< side エアグルーヴ >


「今日は七夕か」

仕事帰りに買い物に寄ったショッピングモールにある笹飾りで、七夕だと気が付いた。
学生時代は、生徒会で笹飾り用の竹を調達したり、短冊の用意をしたりしたものだ。懐かしいな。

ふと、

「天の川がなくても、私は織姫に会いに行くよ。キセキを持ってね」

などと気障ったらしく言っていたウマ娘を思い出した。

「お前はウマ娘だから、織姫側だろうが!」
と反論しても

「私の未来の可愛いポニーちゃんは織姫に決まっているからね。だから、私は彦星側さ」

なんて、ウインクする仕草まで決まっていた私の初恋のウマ娘。

短冊に、初恋のウマ娘と結ばれるようにと書けば、願いは叶ったのだろうか。いや、今日だけでも天の川に願いを掛けてもいいだろう。このショッピングモールを使う知り合いはいない。もし、いたとしても残り1時間で、笹飾りの役目は終えて処分されるのだから、私の短冊を見られる可能性は非常に低い。

笹飾りの近くに行き、緑の短冊を選び、願い事を書いた。短冊を笹飾りに結ぼうとした時。

「やあ。まさか、こんな所で君に再会できるとは。まさにキセキだね」

後ろから懐かしい声が掛けられた。振り返ると、懐かしい声のウマ娘は黄色い短冊を持っていて。その短冊に書かれた文面を見た瞬間、彼女に飛び付いた。私に飛び付かれた彼女は驚きながらも抱き止めてくれて。

「だから、私は彦星側だと言ってたでしょ?エアグルーヴ」

耳元で囁かれた言葉に頷くのが精いっぱいだった。


[newpage]
< side フジキセキ >


仕事帰りに寄ったショッピングモールには、笹の葉が飾られていた。
笹の葉を見ると、生徒会の業務でフラフラになりながらも、ポニーちゃんたちのために大量の短冊を用意していたウマ娘を思い出す。

「皆の願いが叶えばいいな」

と珍しく優しい顔で微笑んで、笹の葉の願いを眺めていて。そんな彼女の願い事は

【 お母様のようなウマ娘になれますように 】

だったから。

「君は、とっくにお母様を追い越しているんじゃないかな?トリプルティアラも達成したんだしさ」

と言ったら、

「母を侮辱する気か!?母はレースを去ってからも偉大で、今も沢山のウマ娘を導く存在なのだ」

って叱られたっけ。
お母様しか見えていないようで。私がコッソリ追加した短冊に、シッカリ気が付いていて。

「短冊作りを助けてくれて有難う」

素直にお礼を言われて。気が動転して、

「どういたしまして。ポニーちゃん」

としか返せなくて。何で、短冊を追加したのが私だとバレた理由を聞けずじまいだった。


そして、告白も出来ないまま、卒業した。
告白したところで、彼女が敬愛するお母様を侮辱するような発言をしてしまった私と付き合ってくれる望みは、限りなく薄いけれど。


ふと、ショッピングモールの笹の葉の後ろ側に、見覚えのあるウマ娘がいた。

卒業して数年間、ずっと忘れられなかったエアグルーヴ。

彼女が願いを書いた短冊は緑色だ。かつての私の勝負服の差し色。黒い短冊がないから、緑を選んだとしたら?

でも、単なる偶然かもしれない。
卒業後に付き合い出した恋人の好きな色の可能性だってある。だって、卒業以来、初めて見るエアグルーヴは更に綺麗になっているから。

卒業した彼女に一目会えただけでも、十分に奇跡だ。それでも、短冊には、学生時代の彼女に突っ込まれた一文を書きたくなった。

後は、彼女が短冊を飾って立ち去ってから、自分の短冊を笹の葉に付ければいい。そう思っていたのに。

ウマ娘の視力はレースから引退しても、数メートル先の短冊まで読めてしまう。彼女の短冊を読めてしまった時。

「やあ」

と声を掛けてしまった。
驚いて振り返った懐かしい顔は、私が手にしていた短冊を見た瞬間に飛び付いてきた。

「だから、私は彦星側だ、と言ってたでしょ?エアグルーヴ」

飛び付いて、私の胸に顔を埋めて、声を押し殺して泣いているエアグルーヴに声を書けると。無言で頷いている。

「私は欲張りだからね、私の織姫を手放す気はないんだ」

耳元で囁けば、更に泣かせてしまったけど。私は君が想像する以上に欲張りだからね。年に1回しか会えない仲にはなりたくないんだ。

さて。
エアグルーヴが泣き止んだら、落ち着いた場所で近況やこれからの事を話そうか。お店よりも私の家の方がゆっくり話せるかな。
話し込んで終電がなくなったなら、私のパジャマを貸して泊まって貰えばいい。久し振りに寮で生活してた時のように、パジャマでお休みを言い合うのも悪くないな。

エアグルーヴが泣いている間、これからの事を考えていた。



【 フジキセキと再会して結ばれますように 】

【 私の織姫エアグルーヴにキセキを届けられますように 】


< Fin. >

【ウマ娘SS】ねっ ちゅうしょう?【フジグル】

こんばんは。桐野もにです。

エアグルーヴさんとフジキセキさんがアプリ版のホーム画面で喋る夏ボイスを合体させたら、こんな話になりましたのフジグルSSです。

※作者は史実1歳差概念萌えなので、エアグルーヴさんは飛び級設定です。ついでに、フジグルは同室設定でもあります。

回想シーンに出てくるナリタタイシンさんは何だかんだと面倒見のいいクラスメイトポジションなので、純度100%フジグルです。

7/21にpixivにアップしたので、ブログにも転載しました。どうぞ~。


【ウマ娘SS】ねっ ちゅうしょう?【フジグル】



エントランスを歩いていると、エアグルーヴが彼女の担当トレーナーに話しているのが聞こえてきた。

「走ることに夢中で、水分補給を疎かにする者がいてな……。徹底して指導してやれねばならん」

盗み聞きする気はなかったんだけど。
エアグルーヴの声はよく通るから、全て聞こえてしまった。もちろん、聞こえてないフリをして、彼女の後ろを通り過ぎる。

ふふっ。

それにしても、エアグルーヴも言うようになったなあ。いや、身をもって体験したからこその言葉の重みと言うべきかもしれないね。

数年前の中等部1年の初夏を思い出す。


私が熱中症で介抱した最初のポニーちゃんは、エアグルーヴだ。




―――――――――――――――




中等部1年の7月。


多くの先輩たちは夏合宿に行き、寮に残っているのは、帰省しなかった新入生と専属のトレーナーがいないけどやる気がある数人のウマ娘だけだ。


今日も、私と同室のエアグルーヴはトレセン学園のトレーニング場に向かっていた。少し暑いとはいえ、先輩たちがいないチャンスを逃したくなかったから。

でも、トレーニング場に向かうエアグルーヴの水筒が1つしかないことに気が付いた。私は念のために水筒を3つ持ってきたから、1つ貸してあげることにした。

「今日は昨日よりも更に暑くなる予報だから、水筒を1つ貸すよ」

「全然、大丈夫!昨日も飲みきらなかったし、水筒1つで十分足りるから」

そう答えるエアグルーヴの顔色は、どことなく悪い。

「あのさ、顔色悪いよ?トレーニング休んだ方がいいんじゃないかな?」

「平気!フジだって、先輩たちがいないチャンスを狙ってトレーニング場に向かってるでしょ?私も同じだから!」

そう言うなり、トレーニング場に向かって駆け出して行ったけど。何となく、フラついている気がした。

北海道出身のエアグルーヴは関東の暑さに慣れていない。関東で暮らしてきた私ですら、今年の夏の暑さには少し参っている。初めて、関東の夏を体験するエアグルーヴには、更に過酷な状況になっていそうだ。

それに、寮で食べるご飯の量もかなり減った。前は大食いまでいかなくても、しっかり食べるタイプだったのに。

顔色が悪くて食欲不振。そして、明らかな水分不足。嫌な予感しかしない。


背中に拳を突き付けられて、振り返るとナリタタイシンがいた。

「アンタ、塩タブレット持ってる?」

「何それ?」

「だと思った。大量に汗をかくんだから、塩分不足になるよ。アンタはスポドリ飲めないんだから、塩タブレットを幾つか持って行きな」

ナリタタイシンが私の手に拳の中にあった塩タブレットを何個か押し付けてきた。

「有難う。でも、こんな大量に貰うのは悪いよ」

「アンタだけじゃなくて、エアグルーヴの分もあるから。きっと、あの子も塩タブレット持ってないし。たぶん、今日あたり倒れると思う」

冷静な分析に言葉を失う。

「倒れると思ってるのに止めなかったんだ?」

「だって、あんなにフラフラでトレーニングに行くぐらいだから、聞く耳を持たないよ」

「たしかにね」

さっき、水筒を断られたのを思い出して苦笑した。

「だから、同じコースを走るアンタがエアグルーヴの面倒を見てやって。私は長距離の練習で、違うコースを走るから」

「……わかった。塩タブレットを有難う」

「万が一、アンタの手に負えない状態だったら、携帯でアタシを呼んでいいから」

「ああ、そうするよ」

蒸し暑いのに、寒気がしてきた。ナリタタイシンが誰かを心配して、ここまで言うのは初めてで。やたらと確信めいて話すから。

「頼んだからね」

ナリタタイシンが走り去るのを見送った。ボーッとしている場合じゃない。早く、私もトレーニング場に行かなくては。


******


急ぎ足でトレーニング場に着くと、フラフラになりながら走っているエアグルーヴが見えた。芝のマイルコースを走っているのはエアグルーヴだけで、誰もエアグルーヴの異変に気が付いていない。

ルール違反になるけど、荷物を持ったまま、トレーニングコースに入った。

「エアグルーヴっ!!」

近くで大声で叫んでも、気が付いていない。相当に危険な状態だ。エアグルーヴの前に出て、フラフラしている小さな体を抱き止めた。
既に、意識もないのか、抱き止められても反応はない。エアグルーヴを抱き上げて、涼しい木陰に向かった。


******


木陰に寝かせて、ナリタタイシンから貰った塩タブレットをエアグルーヴの口の中に放り込む。

「しょっぱ……」

「気が付いた?水も飲んで」

「ん……」

私の水筒を彼女の口に近付ける。[[rb:朦朧 > もうろう]]としているのか、ちゃんと飲めなくて、口の端から零れる方が遥かに多い。これじゃあ、満足な水分補給が出来ない。

「ゴメン!」

水筒の水を口に含んで、彼女の唇をこじ開けて飲ませるのを何回か繰り返した。水筒が空になるまで飲ませたけど、これで足りるか不安だ。

思いきって、ナリタタイシンに電話をした。

『あ、フジか。やっぱり、エアグルーヴは倒れたんだね』

「うん。塩タブレットを1つ放り込んで、水筒1つ分の水を飲ませたけど。後は何をしたらいいかな?」

『塩タブレットは、もう1つ口に入れてあげて。アンタがエアグルーヴをおんぶできるようなら、寮に連れて帰って、医務室まで運んで。その方が確実だから』

「わかった」

『エアグルーヴの荷物はアタシが見つけて、後で届けるから。エアグルーヴを頼んだよ』

「任せて!」

ナリタタイシンとの電話を切った後、塩タブレットを追加でエアグルーヴの口の中に放り込む。

グッタリしているエアグルーヴをおんぶして、寮に戻った。


******


「軽度の熱中症だね」

医務室で、開口一番に言われた。

「今日は涼しい部屋でゆっくり寝かせれば治るよ。水分と塩分補給をシッカリさせてあげて」

「有難うございます」

医務室のベッドは、この暑さで体調を崩したウマ娘で満員だ。エアグルーヴは、部屋でゆっくり眠らせた方がいいだろう。

再び、エアグルーヴをおぶって、私たちの部屋に連れて行った。


*****


私たちの部屋、エアグルーヴを連れてきて、彼女のベッドに寝かせた。しばらくすると、

「頭が痛い……」

目を覚ましたエアグルーヴが頭を抑えていた。

「口の中の塩タブレットを噛んでから、水を飲んで」

「うん」

私に言われた通りに、エアグルーヴは塩タブレットを噛んで塩辛さに顔をしかめながらも、文句も垂れずに水を飲んでいる。

「そうだ。エアグルーヴなら、スポドリ飲めるよね?スポドリは冷蔵庫に入ってる?」

「ううん、ない……」

「じゃあ、コンビニで買ってくるよ!ついでに、何か食べたい物も買って来ようか?」

「大丈夫……」

遠慮するエアグルーヴに軽くデコピンした。

「いたっ」

「こーら。病人は変な遠慮しちゃダメだよ。正直に言って」

「えっと……。にんじんアイス食べたい、です」

「うん。よく言えたね。にんじんアイスも買ってくるよ」

「有難う」

体調不良なのに、無理してトレーニングしようとして倒れたことを叱りたいけど。しおらしい姿を見たら叱れなくて、甘やかしてしまう。

飛び級で1歳下のエアグルーヴは、何だかんだと目を離せない妹のようだから。


だから。
コンビニで、スポーツドリンク5本、経口補水液も3本、リクエストされたにんじんアイスに、にんじんゼリー、プリンまで買ってしまった。


******


寮に戻ると、私が両手に持ったコンビニのビニール袋を見て、エアグルーヴが目を丸くしていた。

「すごい沢山……」

「まずは、これを1口飲んで感想を教えて」

経口補水液のアップル風味のペットボトルをエアグルーヴに渡す。

「冷たくて、すごく美味しい!」

目をキラキラさせて喜んでいて。想像以上にダメな奴だ。

「それ、全部飲み干すんだよ」

「うん!」

無邪気に頷いて、美味しそうに経口補水液を飲んでいるエアグルーヴには、後で教えてあげよう。経口補水液が美味しく感じるのは、かなり危険な状態だってことを。

「全部飲んだ」

「じゃあ、今度はスポドリを飲んでね」

「うん。スポドリも冷たくて美味しい。有難う」

スポドリも美味しいじゃあないんだよ……と突っ込みたいけど。まだ、弱ってるし。有難うと笑顔でお礼を言われたら、強く叱れない。


コンコン


ドアがノックされて

「どうぞー」

と声を掛けると、エアグルーヴの荷物を持ったナリタタイシンが入ってきた。

「荷物を届けに来たんだけど。エアグルーヴの水筒が1つしか見つからなかった。ゴメン……」

ナリタタイシンは済まなそうに話しながら、エアグルーヴの机に荷物を置いた。

「あー。それなんだけどさ。エアグルーヴは元から1つしか水筒を持ってきてなかったんだ」

私が代わりに説明した途端に、ナリタタイシンの表情が心配しているものから怒りに一気に変わった。

「この馬鹿っ!何で、こんな暑い日に水筒1つしか持って行かないの!だから、倒れちゃってるじゃん!エアグルーヴが倒れなかったら、フジキセキは今日の自主トレーニングを出来たんだよ!アンタが倒れると同室のフジキセキにも迷惑を掛けるのわかってる?」

想像以上にガチでキレている奴だ。ナリタタイシンの剣幕にエアグルーヴも固まっている。普段はエアグルーヴだけには優しいから。

「あっ……」

「タイシン、少し言い過ぎじゃないかな」

「言い過ぎじゃない!ここでキチンと叱らないと、また同じ馬鹿を繰り返すよ」

「ごめんなさい……」

「アタシが怒ってる理由をわかって謝ってる?あと、エアグルーヴが謝る相手はアタシじゃなくて、フジキセキだからね」

「でも、タイシンにもある筈ない水筒を炎天下で探させてしまったから」

ひっくひっく泣き出したエアグルーヴの頭をナリタタイシンが撫でる。その顔はさっきまで鬼の形相で叱っていたのが嘘のように優しくて、

「エアグルーヴはちゃんと周りも見える賢い子なんだからさ。無茶して身体を壊すなんて馬鹿じゃん」

ナリタタイシンの言葉にエアグルーヴが頷くと、また頭を撫でてあげている。

「これ、差し入れ。食欲がない時、アタシはこれで凌いでる。今日はフジキセキが沢山買ってきたみたいだから要らないと思うけどさ。よかったら、明日にでも試してみてよ」

「有難う」

ゼリータイプの栄養食を3つ、エアグルーヴに渡していた。

「今日と明日はシッカリ休むんだよ。もし、トレーニング場で見掛けたら、エアグルーヴでも蹴飛ばすからね!」

「う、うん」

「大丈夫。アンタなら2日ぐらい休んでも遅れを取り返せるから」

「タイシン、有難う」

「お礼なんて別に。それに、エアグルーヴがお礼を言う相手は私じゃなくて、フジキセキでしょ。後で、ちゃんとお礼を言うんだよ」

「うん!」

部屋を出る前にも、ナリタタイシンはエアグルーヴの頭を撫でていた。エアグルーヴもナリタタイシンに頭を撫でられるのが嬉しいらしくて、笑顔になっている。少し羨ましいな。

私はあまりスキンシップが得意じゃないから、緊急時しか動けない。そんな自分の融通の効かなさが嫌で、心から変わりたいと願いながら、2人のやり取りを見ていた。


******


寝る前。

「フジ、今日はごめんなさい。あと、たくさん看病してくれて有難うございました」

振り返ると。エアグルーヴがお礼を言ってくれていた。ナリタタイシンに言われたことを実践してて可愛いな。もう、さっきから何度も謝罪とお礼を言ってくれていたのに。

「どういたしまして、ポニーちゃん」

「あのね。口移しで水を飲ませてくれたのは……」

「そんな事してないよ。エアグルーヴは倒れた時に朦朧としてたから、幻覚を見たんじゃない?」

「でも、フジがゴメン!って……」

「だから、幻覚だってば!」

「しつこく聞いてごめんなさい」

目に涙を溜めて謝るエアグルーヴが痛々しくて、正面から見られない。

「私こそ強く言い返してゴメン。今日はゆっくり休んでね。お休み」

「うん。お休みなさい」

少し落ち込んだ声でお休みを言ったエアグルーヴは、布団の中に潜って嗚咽を漏らしていた。

泣かせるつもりはなかったんだ。
ただ、あんな形で彼女のファーストキスを奪ったのは、なかったことにしなくては。将来、彼女に好きな人が出来る時のためにも。




―――――――――――――――






「暑さで倒れないように気を付けて。気づいたら私の腕の中……なんてことになりかねないからね!ははっ!」

「きゃーっ。でも、フジ先輩にならいいかも」

「私もー」

「そうだね。私の腕の中で済むならね?ふふっ。ちゃんと2本以上の水筒と塩タブレットを持って、トレーニングに行くんだよ」

「はーい!」

エントランスで後輩ポニーちゃんたちと話して別れた直後だった。

「相変わらず、気障なことを言うんだな」

呆れ顔のエアグルーヴが話し掛けてきた。

「こうやって茶化した方が忠告を聞いてくれるポニーちゃんが多いからね ♪ 」

「わざと熱中症のフリして、フジに介抱される奴がいる可能性は考えないのか?」

何で、泣きそうな顔をするんだ。嫌でも、エアグルーヴが熱中症で倒れたあの日の夜を思い出す。

「そうだね。今のところ、わざと熱中症のフリをする子はいないよ」

「もし。フリでも本当でも、フジが介抱する時は口移しで水を飲ませている、のか?」

だから、何で泣きそうな顔で、とんでもないことを聞くんだ。

「そんな事は誰にもしてないから」

「そうか。さすがに、フジでも口移しまではしないよな。聞かなかった事にしてくれ」

エアグルーヴは無理やり作った笑顔で早口で話すと、駆け出して行った。

妙にフラフラしながら走る姿は、数年前の7月を思い出して、追い掛ける。

しばらく走ると、階段に躓いてるエアグルーヴが見えた。普段、彼女が階段で躓くのは有り得ない。無言で近付いて、抱き上げた。

「転んだだけで大袈裟な」

「捻挫したかもしれないから、医務室に連れて行くよ」

数年前よりも背も伸びて胸も大きくなったのに、あまり重くなったと感じない。メイクで誤魔化してて気が付かなかったけど、至近距離だと頬が少しこけていたり、目の下に隈が出来ていたりとわかる。


******


医務室に着くと、先生も誰もいなくて、空いているベッドにエアグルーヴをそっと降ろした。

「足は痛くない?」

「だから、階段で転んだだけで大袈裟だ」

「あんなフラついた走り方を見たら、大袈裟にもなるよ!」

「フジには関係ない!」

「クラスメイトがフラついてたら心配するのは当たり前じゃないか!」

つい、怒鳴り返してしまって。我に返ると、エアグルーヴが声を出さずに涙を流していた。

「ゴメン!こんなに強く言うつもりはなかったんだ。ただ、すごく心配してることを伝えたかっただけでさ」

「大丈夫、全然大丈夫だから」

下手な作り笑顔で、大丈夫を繰り返しても説得力がないよ、エアグルーヴ。

「最近、何かあった?すごい痩せちゃってるし、寝れてなさそうだしさ。私で良かったら、相談に乗るし。何でもするよ」

「本当に何でも?」

 だから、何で泣きながら聞くんだ。しかも、喋り方が同室だった中等部の頃のになってるし。つられて、私も

「いいよ。本当に何でもするから、言ってみて」

って、あの頃の口調に戻る。

「口移しで水を飲ませて欲しい」

「なっ!」

「なんて、嘘。フジを困らせたくて言っただけ、だから」

嘘なら、何で泣きながら言うんだ。

「わかった。口移しで水を飲ませるよ。後悔しない?」

「うん」

「じゃあ、行くよ」

持っていたペットボトルの水を口に含んでから、エアグルーヴの頬に手を添えて、唇を舌でつついて開けさせて水を流し込んだ。

「これで良かった?ゴメン!たくさん、水をこぼして濡らしちゃった」

唇を離した後にエアグルーヴを見たら、口からこぼしてしまった水で、彼女の顔や制服を濡らしてしまった。ハンカチで拭こうとしたら、抱き付かれた。

「すぐ乾くから平気……」

また、ひっくひっく泣き出してるから。いつかのナリタタイシンを思い出しながら、エアグルーヴを抱き寄せて頭を撫でる。

「売り言葉に買い言葉じゃないんだからさ、口移しで飲ませて欲しいとか簡単に言っちゃダメ。ファーストキスは好きな人のために取っておくものだよ」

「私のファーストキスは中等部1年の夏……」

「熱中症で倒れた時のなら、幻だよ」

「どうして、私の好きな人とのファーストキスを幻にしちゃうの。フジは私に口付けしたの、そんなに嫌だった?」

泣きながら訴えられて、固まった。
エアグルーヴの好きな人は私なんだ?

待って?
そんな素振りを見せていな……いや、何度もエアグルーヴは好きだと態度で教えてくれていた。

私に幻だと切り捨てられて布団の中で泣いたし。今だって、泣いて訴えている。レースや学園生活で辛いことがあっても涙を見せない彼女が。

ずっと、彼女に好かれている現実を見て見ないフリをしてきたんだ。

参ったな。

世話が焼ける目が離せない妹分だと思い込みたかったのに。可愛いだけじゃなくて、いつの間にか赤いアイシャドウが似合う美人に成長していて、私の心を占拠していた。

「エアグルーヴ」

名前を呼んで、両手で顔を上向かせる。エアグルーヴも何をされるのか察して、目を閉じてくれた。まず、目尻に残っている涙を吸い取ってから、桜色の唇に自分のを重ねる。

「愛している」

唇を離してから、告白するのはズルいかな。でも、言葉よりもキスの方が伝わると思ったんだ。

「こ、これでちゃんとしたファーストキスになった、かな?」

肝心なところで噛んで格好つかないな、私は。でも、やっとエアグルーヴが笑顔になって頷いて、体を預けてきた。
あれ?やけに体が熱いような?フラフラしながら走ってたし、真っ赤な顔なのは、恋愛感情だけじゃなくて。まさかね……

「あのさ、エアグルーヴ。今、頭が痛かったりしない?」

「うん。頭がズキズキしてる」

ダメだ。熱中症になっている。

「口移しで飲ませる前に水分を摂ったのは、いつ?」

「朝食の時にお味噌汁とコップの水を飲んでからは……」

「私の飲みかけで悪いけど。まず、このペットボトルの水を飲み干してね」

「うん」

ペットボトルを渡すと、すごい勢いで飲んでるんだけど。何で、水筒もペットボトルも持ち歩いてないかなあ。後輩ポニーちゃんに注意している場合じゃないよ、エアグルーヴ。

「塩タブレットは持ってる?」

「教室になら……」

まったく。何で、こんなにポンコツなんだ。さっき、エントランスで、担当トレーナーに偉そうなことを言ってたけどさ。まず、自分の水分補給を見直そうよと突っ込みたい。

「私のをあげるから、塩タブレットも舐めて」

「しょっぱ……!!」

「熱中症、だからね。少しベッドで寝ていくといいよ。私も付いてるから」

「うん」

聞き分け良く頷いてくれるのはホッとするけどさ。何で、エアグルーヴは目を閉じて、少し唇を付き出しているのかな?

「あのさ、目を閉じるのはベッドに横になってからの方がいいよ。熱中症でフラついてるんだからさ」

「え?チュウしようと言ってくれたんじゃないの?」

あー、熱中症をゆっくり話すと
「ねっ、チュウしよう」
になる古典ギャグを真剣に言う子がいるとは思わなかった。現に、目の前にいるんだけどさ。

これ、キスをしなかったら再び泣き出しちゃうだろうなあ。数年前の救助活動をファーストキスだと言って聞かないエアグルーヴだし。

なんてね。
私もエアグルーヴと何度もキスをしたいから、願ったり叶ったりだ。

「うん。そうだよ」

彼女の頬に手を添えて、キスをした。


< Fin. >

【ウマ娘SS】○○をしないと出られない部屋に閉じ込められたフジグル【フジグル】

こんばんは。桐野もにです。

今回は「○○をしないと出られない部屋に閉じ込められたフジグル」というベタベタなネタのフジグルSSです。

推しには、一度は「○○をしないと出られない部屋」に閉じ込められて欲しいですからね ♪

という訳で、どうぞ~。




【ウマ娘SS】○○をしないと出られない部屋に閉じ込められたフジグル【フジグル】



< side フジキセキ >


エアグルーヴと部屋に入った瞬間に、ドアの向こう側から鍵を掛けられる音が聞こえた。

「これはこれは、ベタベタな展開の部屋に閉じ込められちゃったねぇ」

ドアに
【 ○○をしないと出られない部屋 】
と大きく印刷された紙が貼ってあるのを見て、苦笑した。噂では聞いてたけど。まさか、自分がエアグルーヴとこの手の部屋に閉じ込められるとはね。

「たわけ!笑い事じゃないだろうが!」

一緒に閉じ込められたエアグルーヴは震えている。それもそうだ。この部屋は冷房が効き過ぎだ。半袖の制服姿の彼女には辛いだろう。着ていたジャージの上着を脱いで、彼女に羽織らせた。

「この部屋にいる間だけでも着てて」

「有難う」

「大丈夫だよ。そんなスゴい事はガイドラインもあるから要求されないさ」

「何だ、そのガイドラインとやらは」

「エアグルーヴは知らなくてもいい話だよ。まだ寒いなら、こっちにおいで」

ジャージの上着を羽織らせても震えているエアグルーヴを抱き寄せた。

「暖かい……」

「良かった。しばらく、私の腕の中で我慢していてね」

「我慢という訳じゃな……」

何かを小声で呟いてるエアグルーヴが可愛いくて、頭を撫でてしまう。

「大丈夫だよ。必ず、この部屋から出ようね」

コクンと頷くエアグルーヴを抱き締め直しながら、部屋を見渡す。窓はない。部屋にあるのはソファとエアコンと天井のスピーカーのみ。ドアも1つだけ。まるで、
【 ○○をしないと出られない部屋 】
にするためだけに用意されたんだね。

こんな大きな仕掛けを出来るウマは限られている。

「さて、私たちを閉じ込めた君は何をお望みかな?」

天井のスピーカーに向かって話し掛ける。

「そうだな。大好きのハグをして貰おうか」

ん?
音声はボイスチェンジャーで変えているけど。この話し方は、あの人だな。てっきり、アグネスデジタルかアグネスタキオンの仕業だと思っていたけど。

しかし、あの人が私たちに大好きのハグをさせたい理由がわからない。でも、腕の中のエアグルーヴは寒さで歯を鳴らし始めてる。大好きのハグをさせたい理由を考えている時間はなさそうだ。

「わかった。私たちが互いの好きな点を抱き合って言えば、すぐにドアを開けてくれるんだね?」

「その通りだ。君が見ているスピーカーには隠しカメラも付いているから、本当に抱き合っているかもチェックしている」

「OK!」


エアグルーヴの腕を私の背中に回す。

「さあ、大好きのハグをして、この寒い部屋から早く出よう!」

「でも、私は大好きのハグのを知らない。どうしたら……」

「大丈夫だよ。先に私がやるから、エアグルーヴは真似をすればいいから」

「うん……」

「じゃあ、行くよ。エアグルーヴ、大好き!」

「ひゃっ!?」

「いつも一生懸命に頑張ってて偉いなと思ってる。後輩の面倒見も良くて尊敬している。好き嫌いなく食べてるのも偉いなと思う」

「はわわ……」

「って感じでね。大好きと宣言してから、好きな点を挙げていくんだ。まあ、エアグルーヴが私の好きな所なんてある訳ないけどさ……」

「沢山ある!」

「エアグルーヴ?」

「今も訳わからない状況なのに守ってくれて有難う。困っていると、すぐに助け船を出してくれて感謝している。母の話を親身に聞いてくれて嬉しい。寮長なのに、生徒会にまで気を配ってくれて感謝してて……」

「有難う、こんなに君に好かれているとは思わなかったよ」

感極まって泣き出したエアグルーヴの頭を撫でながら、ドアが開く音を待っていたけど聞こえない。エアグルーヴが大好きと言ってないからかな。それなら、私が彼女の声色を真似て……

「フジ、大好き!閉じ込められたからとか、大好きのハグとかじゃなくて、本当に好き……!」

ドアがガチャッと開いた音が聞こえたけど。今、それどころじゃない。エアグルーヴに本気で告白されたんだから。

私もエアグルーヴを好きだ。大好きのハグで伝えたことは全て本心だし。何よりも、この部屋に閉じ込められて不安そうな彼女を守りたいと思った。

「私もエアグルーヴを大好きだよ」

「うそ、だって……」

「さっき、君が好きと言った瞬間にドアが開いた音が聞こえたんだ。つまりね、私も本当に君を好きなんだよ」

「フジ……!!」

今、腕の中でワンワン泣き出しちゃったエアグルーヴを連れて、部屋の外に出るのは難しいな。生徒会副会長で女帝の異名を持つ彼女が泣いている姿を他の生徒に見せたくない。あまりにも可愛くて、ギャップ萌えしかしないから。

スピーカーの方に向かって、小声で話す。

「あのさ。エアコンの温度を上げてくれない?君もエアグルーヴに風邪を引かせるのは不本意だろう?」

スピーカーの向こう側にいるのは、恐らく、あの方で。私が「君」と呼べる人物ではないのだけど。エアグルーヴに、スピーカーの主の正体を悟られない方が、今後の生徒会のためにもいいだろう。

「わかった。エアコンの温度を上げておこう。ドアの鍵は解除されているから、いつでも出られる」

「有難う。すぐに対応してくれて助かるよ」

「いや、君たちを部屋に閉じ込めて済まなかったね。少しだけ試したかったんだ」

あー。
今のやり取りで、エアグルーヴにもスピーカーの主がバレちゃったかな。と冷や汗をかいてるのは私だけで。未だに、エアグルーヴは私の腕の中で泣き続けてるし。

「エアグルーヴをよろしく頼む」

スピーカーの主からはエアグルーヴを頼まれるしさ。もう、正体をバラしてるよねぇ、これ。それでも、スピーカーの主について、全く聞いてこないエアグルーヴの鈍感力もある意味すごい。

「わかりました」

と答えちゃっていいかな。
未だに、エアグルーヴは私の腕の中で泣き続けてて、たぶん聞いていないから。



< side シンボリルドルフ >


フジキセキからの
「わかりました」
の返信を聞いた後、スピーカーをオフにした。ドアも開け、エアコンの温度も上げた。これ以上、やり取りする必要もないだろう。

「あらあら。最後、フジキセキちゃんが敬語に切り替えちゃったわねー」

「おい。アンタの正体がフジキセキにバレたんじゃないのか」

「いいんだ。フジキセキは最初から私が仕掛けたと気付いてたさ」

マルゼンスキーとナリタブライアンから言われたけど。別に正体を隠す必要はない。

ただ、2人に。いや、フジキセキに試練を与えただけだ。

私の右腕エアグルーヴを託しても良いウマ娘かどうかを。


最近、エアグルーヴがフジキセキに恋をしているのに気が付いた。フジキセキと一緒にいるエアグルーヴは幸せそうな笑みを浮かべたり、少しだけ浮き足だっていたりしたから。

同時に、フジキセキがエアグルーヴを他のウマ娘と別格の扱いをしていることも、エアグルーヴを観察しているうちに理解した。

なかなか恋人になれない2人の背中を押しつつ。フジキセキがエアグルーヴの恋人に相応しいかを確認するには、【 ○○をしないと出られない部屋 】は便利だった。

【 ○○をしないと出られない部屋 】でモニタリングした結果、あまりにも完璧な対応で、ケチを付ける要素が1つもない。
寒い部屋からエアグルーヴを守り、パニックになりそうな彼女を落ち着かせて、大好きのハグを教える。
何よりも、部屋から出ることよりもエアグルーヴの気持ちを最優先しつつ。しっかり、部屋の温度を上げるように、こちらに指示を飛ばした。

私の右腕エアグルーヴの恋人として、申し分ない対応で。エアグルーヴを託してもいいと思える。

なのに。
何故、心にポッカリ穴が開いた気分になるのだろうか。私には将来を約束した恋人がいるのに、だ。

「あらあら。フジキセキちゃんは貴女のお眼鏡にかなった筈のに、元気ないわねぇ」

「あはは。まるで、娘に初めての彼氏が出来た父親みたいな顔をしているよー」

娘に彼氏が出来た父親か。

まさに、その通りだ。エアグルーヴには私の右腕として、チェスやフィッシングにビリヤードなど、色々と教えてきた。彼女が入学式で新入生代表の挨拶をした頃から見守ってきたんだ。彼女の母親からも
「エアグルーヴをよろしくね」
と頼まれた。まさに、彼女の後見ウマ娘と言って……

「ねぇ。エアグルーヴちゃんがフジキセキちゃんと結婚する日が来たら、絶対に教会で号泣するわよ」

「結婚!?まだ、早すぎる!」

「アンタは女帝サマの親父か?」

ナリタブライアンに突っ込まれたが、私がトレセン学園での父親代わりだ。父親同様の態度を取って、何が悪い。

「へぇ。フジキセキの奴、女帝サマには手を出さないんだな。意外だ」

「そうよね。前に、スペちゃんがフジキセキちゃんに手の甲にキスをされたって大騒ぎしてたけど。泣いてるエアグルーヴちゃんを受け止めてるだけでつまらないわね」

「それだけ、エアグルーヴが大事なんじゃなーい?あと、下手に手を出したら、そこの親父が怖いしさ。ね、ルドルフ?」

隠しカメラでエアグルーヴとフジキセキの様子を見ている3人が好き勝手言ってくれている。たしかに、隠しカメラを見ると、まだ泣いているエアグルーヴの背中を擦っているだけのようだ。

「これ以上、見守っているのも野暮よね。さて、隠しカメラのスイッチも切っちゃいましょ」

「うんうん。この後、2人がキスでもしたら、ルドルフが卒倒しちゃいそうだしね」

「ああ。私は帰るぞ」

3人がワイワイ言いながら部屋から出て行った。

まさか、本当にキスをしていないだろうかとカメラのスイッチを入れ直した時。

スピーカーに向かって、フジキセキがウインクした。完全にこちらがカメラを見ていることをわかって動いているんだな。たぶん。スイッチのオンオフも聞こえている。フジキセキは抜群の聴力を持つウマ娘だから。

そして、やっと泣き止んだらしいエアグルーヴに耳打ちして、スピーカーを指差した。まだ、涙が残っているエアグルーヴがスピーカーに向かってお辞儀をした。

涙が残っていても、今までで一番綺麗な笑顔で。

「フジキセキと幸せになってくれ」

とカメラに向かって呟いた。


< Fin. >

【ウマ娘SS】エアグルーヴとフジキセキのハッピーアイスクリーム【フジグル】

こんばんは。桐野もにです。

同じ言葉をハモったら
「ハッピーアイスクリーム!」
と続けて言って。先に言った方がアイスを奢ってもらう遊び。
でも、フジグルの場合は、エアグルーヴが必ず勝って、フジキセキがアイスを奢る側になるらしく…?

という7/4にpixivにアップしたフジグルSSです。


途中に登場するBNWは気のいい同級生ポジションです。
また、作者は史実1歳差概念萌えなので。この話のエアグルーヴさんは飛び級してます。では、どうぞ~。




【ウマ娘SS】エアグルーヴとフジキセキのハッピーアイスクリーム【フジグル】



< side エアグルーヴ >


「「今日は暑いな(ね)」」

同じ言葉をハモって喋った直後。

「「ハッピーアイスクリーム!」」

と、「ハッピーアイスクリーム」を素早く言って。先に言えた方がアイスを奢って貰える遊び。

暑くなると、このハッピーアイスクリームを言い合う姿をトレセン学園や合宿所で、よく見掛ける。


ただ。
フジキセキとハッピーアイスクリームの遊びをすると、決まって

「また、私の負けだよ。ポニーちゃんの好きなアイスを買いに行こうか」

と言われ。私の好きなにんじんアイスを買ってくれて、フジキセキが見守る中、にんじんアイスを食べている。

フジキセキが甘いものが苦手だから、わざと負けているような気もして。一度、全く甘くないアイスを選んで、フジキセキに食べさせようとしたけど。

「うん。これはサッパリしていていいね。ところで、エアグルーヴには、このアイスだと物足りないんじゃないかな?」

と、どこからか取り出したシルクハットから、私がよく選ぶにんじんアイスを渡してくれた。

「私はね、エアグルーヴが笑顔でアイスを食べる姿を見るのが好きなんだ。だから、遠慮しないで♪ 」

どこまで本気かわからないことを言われて、頭を撫でられる。同級生なのに、子ども扱いされているようで悔しい。

事実、私は飛び級でフジキセキの1歳下だから、後輩か妹にしか見られていないのだろう。


******


放課後。


「はぁ」

フジキセキとのハッピーアイスクリームを思い出して、ため息を付いてしまった。いかんな。教室で、こんな体たらくでは。

「エアグルーヴ!ため息をついて、どうしたの~~!?」

同級生のウイニングチケットが話し掛けてきた。優しいウイニングチケットの声に、つい本音を漏らしてしまう。

「フジキセキと本気でハッピーアイスクリームをしたい」

「えええーーっ!!!フジキセキはエアグルーヴとなら、ハッピーアイスクリームをするんだぁああっ!!!アタシとは一度もしてくれたことがないよぉおおっ!!!」

ウイニングチケットが大声で叫んだ。でも、同級生のウイニングチケットとハッピーアイスクリームの遊びをフジキセキがしていないのは意外だ。フジキセキはこの手の遊びを喜んでやりそうなのに。

「チケットうるさい。でも、アタシもフジキセキとハッピーアイスクリームをしたことない。絶対に勝って、高いアイスを奢って貰う気でいるのに」

ウイニングチケットの大声で、ナリタタイシンとビワハヤヒデもこちらにやってきた。お人好しで優し過ぎる同級生たち。

「ははっ、タイシンらしいな。でも、私もフジキセキとハッピーアイスクリームをしたことがないな。おそらく、フジキセキとハッピーアイスクリームをしているのは、エアグルーヴだけじゃないか?」

ビワハヤヒデに指摘されて、気が付いた。
たしかに、フジキセキが私以外とハッピーアイスクリームをしているのを見たことがない。やっぱり、私は後輩か妹にしか見られていないんだ。

「別に、落ち込む必要ないじゃん。アタシたちとはハッピーアイスクリームをしないフジキセキが、エアグルーヴとだけしてる理由を考えた?」

耳がペタリと垂れたらしくて、ナリタタイシンが優しく聞いてくれる。

「それは私が飛び級で子どもだから……」

「もし、仮にエアグルーヴを子ども扱いしているなら。わざわざハッピーアイスクリームの遊びをしなくとも、普通にアイスを買い与えればいいだけの話だ」

ビワハヤヒデに冷静に諭されて、気が付いた。アイスを買ってくれるだけなら、わざわざハッピーアイスクリームという回りくどい遊びをする必要はない。

「え?」

「フジキセキはエアグルーヴを……むぐっ!」

途中まで言い掛けたウイニングチケットの口をナリタタイシンが素早く抑えた。

「馬鹿!そこから先は当事者が考えたり、直接聞いたりするとこっ!」

ウイニングチケットを叱りつけたナリタタイシンは、私には優しい瞳で頭を撫でてくれる。入学した時から、仲間扱いしてくれて。時には、こうして優しいお姉さんにもなってくれる。

「だからさ。エアグルーヴ、フジキセキに直接聞いてきな。きっと、悪いことは言われないし。もし、本当に子どもみたいだとかアイツが言ったら、アタシが蹴ってやるから」

「ああ。フジに聞いてみる」

「それがいいな」

「エアグルーヴ、頑張って~~!!」

「相談に乗ってくれて有難う」

「水くさいな、私たちはクラスメイトだろう?」

ビワハヤヒデからも頭を撫でられて、くすぐったい。
あれ?
何で、ナリタタイシンやビワハヤヒデから頭を撫でられると、くすぐったく思うだけなのに。フジキセキだと、子ども扱いされていると落ち込んでしまうんだろう。

そっか。フジキセキを好きなんだ。だから、子ども扱いされたくないんだ。対等でいたいから。


******


栗東寮に戻ると。ちょうど、玄関先でフジキセキと中等部の子が

「「今日も暑かった(です)ね」」

と同時に言っている所だった。中等部の子は

「ハッピーアイスクリーム!」

と素早く言ったけど。フジキセキは何も言わない。笑顔で

「それは新しい遊びかな?ポニーちゃん」

とだけ、中等部の子に尋ねている。何で、私とはハッピーアイスクリームを何度もしているのに、他の子とはしないなんて。

フジキセキに「新しい遊びかい?」と聞かれた中等部の子は

「何でもないです!失礼しました」

と泣きそうな顔をして、寮の中に入って行った。


「フジ、何で、さっきの子とハッピーアイスクリームをしなかったんだ?」

「エアグルーヴ!?見ちゃったんだね……」

振り返ったフジキセキは苦笑していた。私には、中等部の子とのやり取りを見られたくなかったんだ。

「ああ」

「ちょっと、寮長部屋に来てもらってもいい?正直に話すから」

「わかった」

何を話されるのか怖くて、足がすくみそうになる。でも、聞かなくては。きっと、私とだけハッピーアイスクリームをする理由もわかるから。


******


「椅子をどうぞ、ポニーちゃん」

「有難う」

寮長部屋に入って、椅子を勧められて緊張してきた。やけに喉が渇く。
フジキセキはテーブルの対面に座る。面接のようで、ますます緊張する。

「あのさ。ハッピーアイスクリームの遊びはエアグルーヴとしか、していないんだ」

さっき、教室でナリタタイシンたちが話していて、気になっていたことを本人の口から直接聞けた。

「何で、私とだけ?」

聞き返した言葉は掠れ声になってしまって。でも、フジキセキは普段よりも更に優しい瞳で私を見ながら話し出す。

「入学した年の夏にさ、エアグルーヴが水分補給を怠って、熱中症手前になったのを覚えてる?」

「ああ。あの時は迷惑を掛けた」

そう。
入学した年。走ることに夢中になりすぎて、水分補給をしないでトレーニング場を周回していたら、フラフラしてきた。
フラフラした私を介抱してくれたのがフジキセキだった。彼女が素早く応急措置をしてくれたから、熱中症手前で済んだんだ。

「あれから、エアグルーヴが水分補給できてるか気になってね。どうしたら、自然に水分補給させて熱中症を回避できるかなと考えていた時に、ハッピーアイスクリームの遊びを知ったんだ。これなら、遊びと称して、エアグルーヴに水分補給させられるなって」

想像以上に子ども扱いをされていた。
いや、水分補給を怠った昔の私が悪いし。正論を言っても聞かなそうだから、フジキセキも色々と考えてくれたんだろうけど。

「でもさ。アイスを嬉しそうに食べるエアグルーヴがすごく可愛くてさ。もう、私が水分補給を考えてあげる必要はなくなったのに、ついつい今もハッピーアイスクリームの遊びをしてしまうんだ」

顔が赤くなるのが触らなくてもわかる。

「それが理由?」

「うん!これからもアイスを食べるエアグルーヴを見たいんだけど。ダメ、かな?」

目の前のフジキセキの顔が真っ赤になっていって。耳も前方に垂れていく。まさか、これは告白もされているのか?すごく回りくどいが。

「じゃあ、本気でハッピーアイスクリームの遊びをして欲しい。フジが勝ったら、アイスの代わりに、胡瓜の一本漬けを奢るから」

好きと言う前に。これだけはハッキリさせておきたい。ちゃんと、アイスの代替えも用意するから、本気でハッピーアイスクリームをしたいと。

「ゴメン。胡瓜の一本漬けは、そんなに好きじゃないしさ。私が勝ったら、高級アイスやパフェをエアグルーヴに食べさせたい」

でも、私の提案は却下されて。更に甘やかされる提案が返ってきた。

「勝っても負けても私が甘やかされるだけだろうが」

「だから、いつも頑張っているエアグルーヴを可愛がりたいんだよ。エアグルーヴが好きだから、とことん甘やかして可愛がりたいんだ!」

「へあっ!?」

さっきの回りくどい告白でもドキドキしたのに、ストレートに好きと言われた破壊力は大きくて。奇声をあげてしまった。

「子ども扱いじゃなかった?」

違う、言いたいのは、そうじゃない。何で、肝心な時に素直に好きだと言えないんだ、私は。

「エアグルーヴを子どもなんて思ったことは一度もないよ。私より1歳下なのにシッカリしていて、いつも尊敬している」

「私もフジを尊敬している。大好き!」

テーブル越しに、フジキセキに飛び付こうとして、躓いてテーブルに突っ伏した。

「大丈夫かい?」

肝心なところで転んで、もうみっともないな、私は。駆け寄ってきたフジキセキは、私を後ろから起こしてくれる。

「ん……」

「意外とドジなところも好きだよ」

後ろから抱き締められた状態で、耳元で艶のあるアルトボイスで囁かれて。目の前がグルグル回ってきた。

「エアグルーヴ!?」

フジキセキが私を呼ぶ声が遠くに聞こえる。おかしいな。こんなに近くにいるのに……


[newpage]
< side フジキセキ >


腕の中のエアグルーヴが気絶してしまった。告白しただけで、気絶させてしまうんじゃ、恋人同士のアレコレは当面先かな。

でも、今は想いが通じ合っただけで嬉しい。

入学式で一目惚れしたエアグルーヴは可愛くて、何かにつけて率先して面倒を見てきた。空回り気味で、意外とドジなエアグルーヴは目が離せなくて、とにかく可愛いから。

初めて、彼女にアイスを奢った日。
目をキラキラさせて、にんじんアイスを選んで、何度も有難うを言う姿。アイスを口に頬張った瞬間の幸せそうな顔。食べ終わった後に「ご馳走様でした」と合わせる小さな手。

あまりにも可愛くて。その日はハッピーアイスクリームの遊びの攻略を徹夜で研究した程だ。私の場合は勝つよりも自然に見える負け方だけど。


腕の中のエアグルーヴを私のベッドに横たえた。

「少しお休み。晩ご飯の時間になったら、起こすから」

頭を撫でると嬉しそうな顔になった。
起きている時も、頭を撫でると笑顔になって尻尾も大きく揺れて全身で喜ぶ姿が可愛いて。ついつい、頭を撫でてしまう。

「子ども扱いしているつもりはなかったんだけどね。可愛いくて甘やかしてしまうから、そう受け取られちゃったかな」

彼女が飛び級だから子どもっぽいとは思ったことないのに。負けん気が強いエアグルーヴには、頭を撫でる仕草も子ども扱いに見えたかもしれない。

でも、これからも彼女の頭を撫でると思う。喜ぶ姿を見たいし、彼女を撫でていると何となく落ち着くから。それでも、彼女が子ども扱いすると言ってきたら、半分冗談半分本気で提案しよう。

「口移しで食べさせる大人のハッピーアイスクリームをしようか?」

ってね♪


< Fin. >
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