実戦海外知財法務ノート

トロール/PAE、営業秘密、バイオシミラー、FRANDライセンス、反トラスト法 ...いま、グローバルな知財法務の現場で起こっていることをウォッチします

旧タイトルは『グローバルビジネスに活かす英語 - 海外法務・知財編』。 新タイトルの下、さらに実戦面に焦点を当て、グローバル知財法務の最新動向を追っていきます。

速報!FTC v. クアルコム反トラスト法訴訟、カリフォルニア北部地区連邦地裁の判決下される

ついにルーシー・コー判事の判決が出ました。
日経新聞を始めすでに日本でも速報されています。
当ブログでも、判決を前にしたDOJ、FTCの不和(?)などを紹介しつつ(第136話, 137話)この日を待っていましたので、速報しておきます。

判決日は2019年5月21日。FTC側の勝訴です。
クアルコムのライセンシング慣行が反トラスト法(本件ではFTC法第5条)に違反することを認定しました。(判決は21日の夜に公表されたそうです。現地報道や専門家レポートが1日遅れたのはそのせいかもしれません)

DOJ(司法省)反トラスト局が強い懸念を示した救済についても、かなりキツイ命令を出しているようです。... 判決文は全233頁。

クアルコムは今回の判決に強く反発。地裁命令の執行停止の要求と、判決に対する控訴の意向を表明しています。
特許法の事件ではないので、控訴先はCAFCではなく、カリフォルニア地区を管轄する連邦第9巡回区控訴裁(9th Cir.)となります。


とり急ぎ、外出先にてiPhoneで作成、投稿です。

5/23/2019 ヨシロー

第138話:欧州ジェネリック/バイオシミラー・メーカーの競争力強化へ。域外輸出目的の製造などに対するSPC適用除外規則採択される

2019年5月14日、EU理事会は、EU域外への輸出などを目的としたジェネリック薬やバイオシミラーの製造を、補充的保護証明書(Supplementary Protection Certificate: SPC)による先発ブランド薬保護の適用除外とする規則を承認した。この新たな規則は、EUを拠点とするジェネリック薬などのメーカーが、非EUメーカーと対等な条件で競争することを可能とするものである。"EU adopts measures in support of generic pharmaceuticals producers" European Council 5/14/2019)

先週は、欧州のSPC ”Manufacturing Waiver"(SPC製造免除)規則の採択に関するトピックが目につきました。"Manufacturing Waiver"については昨年半ばに初めて目にしていたのですが、記憶がかなり薄れていました。今回は正式採択ということですので、改めて内容確認しておきたいと思います

今回採択された規則とは、医薬等の特許期間延長について定めた規則(Regulation (EC) No.469/2009)の改正のこと。薬事当局の新薬承認審査などによって浸食された特許権利期間を補充するため、原特許の権利期間を延長する(patent term extension/restoration)日米などの方式と違い、EUでは原特許の満了後に保護期間を補充する新たな保護/証明書を発行する形をとっています(Supplementary Protection Certificate: SPC)。... たしか、EUにおける立法上の問題で(延長制度だと立法化に時間がかかる)この形をとったというかすかな記憶があります(最初にSPC制度が設置されたのは1992年)。

SPCによる先発薬保護が厳格すぎて、EUのジェネリック薬メーカーやバイオシミラー・メーカーが他国メーカーとの競争上不利になっている現状を是正する、というのが改正の趣旨ということです。EU消費者のジェネリック薬に対する早期アクセスを可能にするという目的も「備蓄を目的とした製造への適用除外」(下記)にはあるようです。


規則案の骨子

・EUを拠点とするジェネリック薬やバイオシミラーのメーカーは、次の二ついずれかを目的とする場合に、SPCによる保護期間中も先発ブランド薬のジェネリック版やバイオシミラーを製造することが認められる。
  1. EU域外国(特許保護が満了している、または存在していない国)への輸出を目的とする場合
  2. SPCの満了後初日からEU市場に出すための備蓄を目的とする場合(この場合、適用除外は当該SPCの満了前6ヵ月間に限定)

・ジェネリック薬やバイオシミラーのメーカーは、製造をする加盟国の当局およびSPC保有者(先発ブランド薬メーカー)に対し規則に基づく情報を事前に提出すること

・ジェネリック薬やバイオシミラーのメーカーは、(EU域外への)輸出用であること示す所定のロゴを当該薬のパッケージに貼付すること


立法経過

2018.5.28
欧州委員会が規則案を欧州議会とEU理事会に提出

"REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AN OF THE COUNCIL amending Regulation (EC) No 469/2009 concerning the supplementary protection certificate for medecinal products"

2019.2.14
規則案テキストについて欧州議会とEU理事会が合意


-- 委員会の当初案では、EU域外輸出を目的とした製造のみを適用除外としていましたが、欧州議会の提案により、EU市場でのSPC満了後初日から上市するための備蓄(stockpiling for "day-1 entry")を目的とした製造も適用除外対象に加えられました。さらに、EU域外で販売されたジェネリック薬やバイオシミラーがSPC有効期間中にEU市場に入り込むことを防止すべく、厳しいラベリングや通知義務が追加されています。

この辺りは、ブランド薬メーカー側、ジェネリック薬/バイオシミラー・メーカー側の利害を調整した結果のようです。... どちらにも不満は残っているようですが。
たとえば、「偏った規則だ。欧州の新薬開発意欲を減退させるもの」(ブランド薬メーカー団体)、「強化されたラベリングや通知義務は、後発薬の早期上市を妨害するために濫用される恐れがある」(ジェネリック薬/バイオシミラー・メーカー団体)


2019.4.17 
欧州議会が修正規則案を承認


2019.5.14
EU理事会が修正規則案を承認

-- これにより、"SPC Manufacuring Waiver"を定めた欧州議会・理事会規則が正式に採択されました。EU理事会承認に際し行われた加盟国投票の結果は、賛成22ヵ国、反対6ヵ国、棄権2ヵ国とのことです。


規則はEU官報での公表を経て、2019年7月1日に発効する予定


[参考資料]
  • "New developments in the SPC manufacturing waiver legislative process" (MIRIAM GUNDT, LUKAS SIEVERS,  Hogan lovells  LimeGreenIP News 1/15/2019)
  • "Agreement On SPC Manufacturing Waiver Reached, Benefitting EU Generic, Biosimilar Industry" (David Branigan, Intellectual Property Watch, 2/14/2019)
  • "SPC manufacturing waiver adopted by European Parliament" (Oswin Ridderbusch, Alexa von Uexküll (Vossius & Partner), Kluwer Patent Blog 4/17/2019)
  • "EU adopts SPC manufacturing waiver under protest from several member states" (Oswin Ridderbusch, Alexa von Uexküll (Vossius & Partner), Kluwer Patent Blog 5/14/2019)


5/19/2019   ヨシロー  


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第137話:FTC v. クアルコム反トラスト法訴訟 --- DOJの意見書に対しFTCが回答。SEPをめぐる米独禁当局間の食い違いが顕在化?

SEP(標準必須特許)のライセンス契約などをめぐり世界各国で法廷闘争を展開したアップル・クアルコム間の和解成立後、益々注目度が高まるFTC v. クアルコムの反トラスト法訴訟の行方。前回は、この反トラスト法訴訟が行われているカリフォルニア北部地区連邦地裁に対し、司法省(Department of Justice: DOJ)反トラスト局から意見書(Statement of Interest)が提出されたことを紹介しました(『第136話:アップルとの和解成立後、注目度が高まるFTC v. クアルコム反トラスト法訴訟の行方 ... 司法省も異例の意見書提出』5/10/2019)。

極めて異例といわれるDOJからの意見書提出(5/2/2019)からちょうど一週間後の5月9日、この意見書に対するFTCの回答書がカリフォルニア北部地区連邦地裁に提出されました。全2頁で本文は10行にも満たない短いものですが、DOJの意見書と同様、その行間に含みが込められています。


PLAINTIFF FEDERAL TRADE COMMISSION'S RESPONSE TO STATEMENT OF INTEREST FILED BY UNITED STATES DEPARTMENT OF JUSTICE ANTITRUST DIVISION
Filed 05/09/2019    (FTC v. Qualcomm, NDCA, Case No. 5:17-cv-00220-LHK)

「FTCは、米司法省反トラスト局提出の時機を逸した意見書について、FTCとしてそれに参加することも要請することもなかったということを明らかにしておくために、この短い回答書を提出する1)。...」
注1) 意見書を認めるか否定するかは、地裁の裁量に委ねられている。e.g. LSP Transmission Holdings, LLC v. Lange, 329 F.Supp.3d 695, 703-04 (D. Minn. 2018)...
 
上記は回答書の最初の一文ですが、「余計なことはしないで欲しい」という感じがします。
この後も、「DOJの意見書は、すでに救済について地裁が行った命令や当事者のブリーフィングを無視している」、「適用法についての誤解がある」などピシャリと言っています。そのうえで「裁判所から要請がない限り、これ以上のコメントは控える」と。

*回答書原文は、トーマス・コッター教授のブログ記事でリンクを張ってくれています("FTC Tells DOJ to Back Off" Thomas F. Cotter, Comparative Patent Remedies 5/10/2019)。コッター教授によれば、FTC回答書の「最初の一文がすべてを語っている」ということですが、教授の記事タイトルもさらにコンパクトにすべてを語っていますね。
最初の一文(原文) --  "The FTC files this short response to the untimely Statement of Interest submitted by the Antitrust Division of the U.S. Department of Justice to clarify that the FTC did not participate in or request this filing."

さて、事態はどう展開してゆくのでしょうか...


5/12/2019  ヨシロー





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第136話:アップルとの和解成立後、注目度が高まるFTC v. クアルコム反トラスト法訴訟の行方 ... 司法省も異例の意見書提出

2019年4月16日、カリフォルニア南部地区連邦地裁における注目の陪審審理2日目の冒頭陳述後、突然「全面和解」の成立が発表されたクアルコムとアップルの特許/反トラスト法訴訟(Apple v. Qualcomm, SDCA)。(米国での主な訴訟の概略・経緯はここで少し整理しました → 『第134話:消えた(?)「公益」論争 (その2)-- 5G開発競争をめぐる「国家安全保障」上の「公益」懸念とは』4/14/2019)

アップルとの訴訟はすべて取り下げられることになったものの、FTC(米連邦取引委員会)がクアルコムに提起したSEPライセンシング慣行に関する反トラスト法訴訟は和解の対象外。
FTC訴訟を扱っているカリフォルニア北部地区連邦地裁(NDCA)では2019年1月に事実審理を行っており、本案判決(judgment on the merits)がいつ下されてもおかしくない状態といわれています。

しかし、4月が終わり、日本の長期連休が終わったいまもなお(関係ありませんが)、NDCA ルーシー・コー判事の判決は下されていません。判決までの時間が長引くにつれ、周囲の関心はますます高まり、様々な発言・コメントや報道が出てきます。


クアルコムが第2四半期(2019年1月~3月期)の決算発表 -- アップルとの和解額が明らかに
"Qualcomm Announces Second Quarter Fiscal 2019 Results" 5/1/2019 Qualcomm press release 

-- これについては日本でも広く報じられた通り(「クアルコム、アップルから5千億円 和解で大幅増収に   4~6月期見通し」日本経済新聞 5/2/2019) 。和解金としての一括払いで45億ドル~47億ドル。
ライセンス契約は2019年4月1日を発効日とする6年間のグローバル特許ライセンスで、アップルの選択により2年の延長可。 

ただ、和解によってクアルコムの強さが証明された、アップル・クアルコムともに明るい展望が開けたという、いいことずくめでないことは、日経自身も報じています(「クアルコム、勝利の代償 5G『スマホの先』見えず」日本経済新聞 5/2/2019)。

実際、アメリカでも、「アップルとの訴訟によってダメージを受けたクアルコムに対し、FTCがさらに追い打ちをかけるようなことは止めるべき」との論調も目につきました(「ファーウェイが漁夫の利を得ることになる!」とも)。興味深い議論が数多く展開されているのですが、ここでは、いま最も注目されている(多分)動きをとりあげます。

5月2日に、米司法省(DOJ)・反トラスト局(Antitrust Division) がFTCの訴訟についてカリフォルニア北部地区連邦地裁に意見書(Statement of Interest)を提出したのです。


極めて異例な司法省の意見書提出 -- 背景には5G開発競争への懸念(?)

"Statement of Interest"とは、米国裁判手続法第517条(28 USC §517)に基づくものであり、司法長官が連邦や州の裁判所に係属中の事件において合衆国の利益(interests of the United States)について考慮させることができる、ということのようです。
("Statement of Interest"は、とりあえず「(合衆国の利益についての)意見書」と訳しておきます)

しかし、今回のように司法省(反トラスト局)という独禁当局が、FTCというもうひとつの独禁当局の訴訟に対して意見書を提出するというのは、極めて異例だということです。そこまでして司法省が口を挟む事情は何なのでしょうか。
とにかく意見書の中身をみれば、その意向はかなり明らかな気がします(ただし、専門家によれば「行間や脚注に様々な含みがふんだんにある」とのこと)。一部みてみましょう。


“Statement of Interest of The United States of America”

 米国司法省 反トラスト局  5/2/2019提出

  

≪本意見書(Statement of Interest)は、米国法典第28517(28 USC §517)に基づき提出されるものであり、反トラスト法の執行と、消費者を利するための競争及びイノベーションの保護に関する合衆国の利益について、本件裁判所に伝えるものである…。

 

本件地裁がFTCの請求のいずれかについて被告の責任を認定する場合、救済(remedy)の争点についても新たにブリーフィングとヒアリングの開催を命ずるべきである。

どのような救済を命ずるかを判断するに当たり、地裁は、関連する問題点と影響について十分に配慮する必要がある。他の公共政策に対する悪影響を、可能な限り少なくするものでなければならない。≫
 (*太字・下線はヨシローによる)


意見書によれば、FTCがクアルコムの反トラスト法違反を認定した場合に予定している救済措置(是正・罰則)の影響をとくに懸念しているようです。


≪両当事者が提出した事実審理前共同供述書(Joint Pretrial Statement)によれば、クアルコムによる反トラスト法違反が認定された場合、(救済策として)FTCは現行のSEPライセンス契約の再交渉(見直し)を命じようとしている。これは本件において問題とされたライセンスに限定されない広い影響を及ぼし得る。


そもそも、反トラスト法事件において裁判所が被告に課す義務は、きわめて大きな影響を及ぼし、産業界全体を再構築する可能性さえある。したがって、適切な救済に関するヒアリングを開催することは、反トラスト法事件においては必須なのである。≫


意見書はさらに、その根底にある考えを具体的に示してきます。

≪(かつての反トラスト局長の指摘によれば) シャーマン法第2条に基づく救済は、トラの精神(tiger’s spirit)を押しつぶすものであってはならない。鍛錬すべきであり、手なずけるのではない。とりわけ、衡平法上の救済は、被告のイノベーション促進意欲を妨げるようなものであってはならない。

事実、本件において過度に広い救済が認められると、G技術とその川下の市場における競争とイノベーションが阻害されかねない、というもっともらしい見方がある*。そのような結果がもたらされるとすれば、それは反トラスト法における衡平法上の救済の適切な範囲を逸脱することになろう≫
 
*太字・下線はヨシロー)

 

*ここで司法省意見書は脚注を付し、2019419日付ワシントンポストの論説を紹介しています。

「最近公開されたアップルの社内文書は、アップルが『クアルコムに支払うべき正味実施料(net royalty)を減らす』ために、どのような策を立てたかを明らかにしており、それにはFTCの本件請求と同様の訴訟を提起することなども含まれている」 Reed Albergotti, Apple Said Qualcomm's Tech Was No Good.  But in Private Communications, It Was 'the Best.', Wash. Post, Apr. 19, 2019, ... 「ある論評者によれば、これらの社内文書は、『反トラスト法執行機関に対しても、裁判所に対しても、クアルコムの特許発明の本当の価値と性質について不誠実な主張をしていた可能性を示しうる』ものといえる」 前出 Wash. Post



意見書紹介はここまでとしておきます。原文も7頁と短いので、関心がある方はお読みください。
意見書について解説してくれている専門家記事中で原文へのリンクを張ってくれています。"U.S. Dept. of Justice poised to provide leadership in FTC v. Qualcomm case" (David Long,  Essential Patent Blog, 5/3/2019) 

なお、この意見書を提出した司法省反トラスト局のメイカン・デルラヒム(Makan Delrahim)局長のことも付け加えておく必要があると思います。トランプ大統領の指名を受け反トラスト局長となったデルラヒム氏は、まさにオバマ政権時からの方針転換を推進しているといわれています(反トラスト局長としては初の特許弁護士でもあります)。
ことにSEPに関しては、2017年11月10日に 南カリフォルニア大学 Gouldロースクールで行った講演が有名です。
  • 「これまで実施者側(インプリメンター)の懸念への対応に偏り過ぎ、新技術クリエーター(SEPホルダー)のインセンティブを削いでしまった」
  • 「ホールドアップ問題よりも、深刻なのはホールドアウト問題」
  • 「FRANDを強制実施にすり替えてしまってはならない」など
その後もデルラヒム局長の「揺り戻し」発言はますます盛んになっており、DOJとFTCのSEPに関するスタンスにズレが生じているという指摘を耳にするようになりました。


今後ルーシー・コー判事の判決がどのような形で、いつ出るのか、出ないのか(FTCも和解するのか)... いずれにせよ、アップルとの全面和解後も、まだまだ目を離せない状況が続きます。


5/10/2019  ヨシロー 




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第135話:米FTCとテバ社が「リバースペイメント」反トラスト法訴訟でグローバル和解

≪2019年2月19日、米連邦取引委員会(Federal Trade Commission: FTC)は、Teva Pharmaceuticals Industries Ltd.の子会社に提起していた3件の反トラスト法訴訟において、グローバル和解に達した。 当事者間の合意に基づき提出された裁判所命令案(stipulated order)がそれぞれの裁判所に承認されれば、テバは、消費者による低価格ジェネリック薬へのアクセスを妨げる「リバースペイメント」特許和解をすることが禁じられることになる≫
("FTC Enters Global Settlement to Resolve Reverse-Payment Charges against Teva"  Feb. 19, 2019 FTCプレスリリース


前回記事(『第134話:消えた(?)「公益」論争 (その2)-- 5G開発競争をめぐる「国家安全保障」上の「公益」懸念とは』 4/14/2019)では、クアルコムとアップル、FTC間の主だった特許・反トラスト法訴訟の整理をしながら、間もなく下されるであろう重要判決などに備えようとしていたのですが、ご承知の通り4/16にクアルコム・アップル間での全面和解が成立し、両者間の訴訟はすべて取り下げられることになりました(FTCがクアルコムに提起している反トラスト法訴訟は和解の対象外であり、カリフォルニア北部地区連邦地裁のルーシー・コー判事の判決が間もなく出される状況に変わりはないと理解しています。実際上、アップルとの全面和解の影響がどういう形で出るのか、出ないのか、わかりませんが)

海外知財法務(事件)ウォッチャーとしては残念ではありますが、こうなった以上、引き続きコー判事判決の動きには留意しつつ、別件<ブランド薬・ジェネリック薬メーカー間の「リバースペイメント契約」に対するFTC訴訟〉に目を向けたいと思います。このテーマもまた当ブログでしばしばとりあげながら、アップデートが滞っていました。

冒頭に記した通り、この訴訟はFTCとジェネリック薬品世界最大手Teva Pharmaceuticals Industries Ltd.(「テバ」)との和解が少し前に成立しています。

以下、FTCのプレスリリースに基づいて、和解骨子をみてゆきます。


2016年の和解に基づく裁判所命令を改訂 -- 「no-AG協定」の禁止も明記

今回の和解に基づき、裁判所には ”(PROPOSED) STIPULATED REVISED ORDER PERMANENT INJUNCTIONAND EQUITABLE MONET ARY RELIEF”というタイトルの命令案が提出されました。裁判所が承認すれば、そのまま正規の裁判所命令となり、訴えも取り下げられることになります。命令案の内容は、2016年のFTC v. Cephalon事件和解に基づく現在も有効な裁判所命令を改訂し、これを現在係争中の3件の訴訟にも適用することとしています。

1) FTC v. Cephalon (08-cv-2141 EDPenn)

この事件は、Cephalon, Inc.の睡眠障害治療薬"Provigil"に関するCephalonとジェネリック薬メーカー間のリバース・ペイメント取決めが反トラスト法に違反するとして、2008年にFTCがペンシルベニア東部地区連邦地裁に提起したもの(Cephalonは2012年にテバに買収されています)。

2016年5月にFTCとテバの和解が成立。リバースペイメントを含む和解契約を禁ずる永久差し止め命令と、訴訟和解ファンドへの12億ドルの支払いが盛り込まれた裁判所命令案が同年6月に地裁に承認され、訴えは取り下げられました。

Cephalon事件は、2013年にリバースペイメントについて扱ったFTC v. Actavis最高裁判決が下された後初めてFTCが提起したリバースペイメント事案だっただけに注目されていました。当ブログでも取り上げています。(『第47話:テバ社、「リバース・ペイメント」反トラスト法訴訟で12億ドルの和解成立 ... もう少し詳しく知りたい』5/31/2015)

今回の改訂命令案では、永久差し止め命令の対象に「no-AG協定」も明記されました。「no-AG協定」とは、ブランド薬メーカーが、ジェネリック薬上市を遅らせる見返りとしてジェネリック薬メーカーに直接的に金銭を支払うのではなく、オーソライズドジェネリック(AG)の販売を一定期間控えるという形の見返りを与えることであり、これも一種の「ペイメント」ではないかという議論になっていました。当ブログでもとり上げています。(『第69話:最新「リバースペイメント」論争 - 和解案を提出されたFTCが異議を唱えなかったことの効果は?/金銭支払いなくとも「リバースペイメント」に該当する?』11/23/2015)

また、今回の改訂命令案は、命令の有効期間を裁判所承認・登録の日から10年間としています。そして、リバースペイメント、no-AG協定を禁ずる永久差し止め命令について、現在も係争中の以下3件についても適用されるものとしています。


FTC v. Actavis (09-cv-955 NDGa) 
2009.1.27提訴 

医薬メーカー当事者および対象医薬
・Solvay ... ブランド薬メーカー(現AbbVie Products LLC)
・Watson ... ジェネリック薬メーカー(現Actavis Holdco --テバ子会社)
・対象医薬:テストステロン補充療法ジェル剤"AndroGel"のジェネリック薬品

2010.2.22 ジョージア北部地区連邦地裁命令 -- FTCの訴え却下
2013.6.17 最高裁判決 - リバースペイメント契約は反トラスト法違反を構成しうる。
ただし、適用される判断基準は"rule of reason"であるべき。

(2019.3.4) 原審(ジョージア北部地区連邦地裁)での差し戻し審トライアル期日が設定されていた。
2019.2.19 グローバル和解成立により、テバに対する訴えは却下される。Solvayに対する訴えは継続


FTC v. Allergan plc (17-cv-321 NDCA) 
2017. 1.23 提訴 

医薬メーカー当事者および対処医薬
・Endo Pharmaceuticals ... ブランド薬メーカー(partnered with Teikoku)
・Watson Laboratories ... ジェネリック薬メーカー(現在はテバ部門)
・Watson Pharmaceuticals ... ジェネリック薬メーカー(現Allergan Finance)
・対象医薬:帯状疱疹後神経痛治療貼付剤"Lidoderm"のジェネリック薬品

問題とされたリバースペイメントの形態
1. Endo, TeikokuおよびWatson Labo., Watson Pharmaceuticals間の「no-AG協定」
2. "Lidoderm"ブランド薬9600万ドル分をWatson側に無償提供

2019.2.19 グローバル和解により、Endo, Teikokuは同様の契約(no-AG協定含む)を締結することが10年間禁じられる


FTC v. AbbVie, Inc. (14-cv-5151 EDPa) 
2014. 9.8 提訴 

医薬メーカー当事者および対象医薬
・AbbVie, Inc., Besins Healthcare Inc.、Unimed(AbbVie子会社) ... ブランド薬メーカー
・Teva ... ジェネリック薬メーカー
・対象医薬:テストステロン補充療法ジェル剤"AndroGel"のジェネリック薬品

リバースペイメント以外の訴追対象行為
-- AbbVieとBesinsがジェネリック薬メーカーによる上市を遅らせるために根拠のない/みせかけの訴訟(”sham" litigation)を提起した

2015  ペンシルベニア東部地区連邦地裁命令 -- FTCのリバースペイメント請求について却下命令
-- FTCはこれを不服として第3巡回区連邦控訴裁判所へ控訴
2019.2.19 グローバル和解により、FTCはテバに対する訴えは取り下げるが、ブランド薬メーカーに対する控訴は継続


今回の和解の意義、FTCの今後のターゲット

今回の和解の意義や今後の展望については、以下の専門家記事が解説してくれています。
"FTC And Teva Reach Global Settlement Of Reverse-Payment Charges"(C. Scott Lent, Peter J. Levitas and Seth J. Wiener,  Arnold & Porter, mondaq.com 3/29/2019)
一部抽出します。
  • 2019年のグローバル和解は、リバースペイメントに「no-AG 協定」が含まれることを明確にした。ブランド薬メーカーからの供給契約など、各種の裏取引(side deal)も禁止対象とされた。
  • また、業界最大手であるテバがリバースペイメント取り決めを禁じられたことによる市場への影響が極めて大きいといえる。
  • リバースペイメントに対するFTCの取り締まりがひと段落したことにより(決して終わりではない)、安価な医薬による競争を阻害する他の様々な行為(REMS プログラム、市民請願など)に対してFTCの目が向けられることになろう。

安価な医薬の競争を阻害するという他の各種行為についても、以前当ブログでとり上げました。(『第111話:米FDAが注目のパブリックミーティング開催 - 「新薬開発イノベーションと低コスト薬アクセス促進のバランス』 7/23/2017)
  • ジェネリック薬競争を阻止するための"REMS"利用
  • ジェネリック薬メーカーへのサンプル提供拒否
  • 「プロダクト・ホッピング/スイッチング」
  •  市民請願(citizen petition)手続きの濫用

2017年の記事でしたが、その後もこれらの行為に対する注目が高まりこそすれ、低下することはありません。とくに2018年からは "バイオシミラー"もこのテーマにおける重要要素となっています。たとえば、

  • FDAが「バイオシミラー・アクションプラン」開始("FDA Issues Plan for Further Facilitating Biosimilar Development" Kevin E. Noonan, Patent Docs, 7/31/2018)
  • バイオ医薬とバイオシミラーの平等な競争を求めファイザーが市民請願("Is Fairness in the Eye of the Beholder? Pfizer Citizen Petition Looking for Fair and Level Playing Field Between Biologics and Biosimilars" Sara W. Koblitz, FDA Law Blog, 8/29/2018)


アップデートを怠ったために随分とダラダラ長くなってしまいましたが、今後は小まめに、コンパクトにとりあげてゆきたいと思います。


4/30/2019  ヨシロー  10連休、四日目。... 挽回、取り戻しの日々。休日を楽しみつつ、頑張ろう。



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