『特許の権利期間が満了した後もロイヤルティ(実施料)支払いを要求する契約は「即(それ自体)、反トラスト法違反」(unlawful per se)』というルールを確立し、現在も維持されている50年前の米連邦最高裁判決が見直されることになりました。見直し対象となるのは、1964年に下された「Brulotte判決」(Brulotte v. Thys Co., 379 U.S. 29 (1964))という最高裁判決です。

私がこの判決のことを知ったのはもう20年以上前。アメリカの特許ライセンス契約と反トラスト法に関する解説を読んでいるときに、この判決が出てきました。Brulotte判決自体を読んだことはなく(読もうとする気持ちも力もありませんでした)、単純に「権利が切れた後もロイヤルティ支払いを要求するのは当然違法という、至極当たり前の判決だ」という程度の認識しかありませんでした。

...実際は、そんな単純なものではなかったのですね 。 つい最近になり、認識を新たにすることになりました。2014年11月前後から、懐かしいBrulotte判決の文字を専門家ブログ、ニュースサイトで目にするようになりました。たとえば、 

①Supreme Court: A Web of Post-Issuance Licensing Restrictions (Patently-O 10/31/2014 Dennis Crouch)

②Postexpiration patent royalties (Comparative Patent Remedies 11/5/2014 Thomas F. Cotter)

③The Supreme Court, Spider-Man and Stare Decisis (12/12/2014 Law Blog - WSJ) 

④Supreme Court to test its Spidey-Sense in Patent-Antitrust Case (Patently-O 12/12/2014 Dennis Crouch)

⑤Will The Supreme Court Remove Brulottes Shadow Over Patent Licensing? (mondaq.com 12/30/2014   Sean P. Gates and Jeny M. Maier  Morrison & Foerster LLP)


それぞれのタイトルには、「特許期間満了後のライセンスやロイヤルティ支払い」(postexpiration patent royalties/licensing *①のPost-Issuance「特許認可後」はミスだと思いますが)、「先例の拘束力」(Stare Decisis)、「特許-反トラスト事件」といった、Brulotte判決を連想させる用語や法的争点に関する用語が含まれています。

その一方で "web" "Spider-Man" "Spidey-Sense"といった「スパイダーマン」絡みのことばが出てくるのはなぜ? と思ったら、今回最高裁へ上告された事件が、「スパイダーマン」の武器を模した玩具"Web Blaster"(手の中に隠し持つことができる小さな容器からクモの糸状の泡を噴射できるもの)を対象とする特許のライセンス契約に関するものなのでした。(*ちなみに "Spidey-Sense"とはスパイダーマンがもつ独特の「危険予知能力」のことらしいですね)

いずれにせよ、どの記事も、「スパイダーマン玩具の特許ライセンスをめぐる訴訟をきっかけに、連邦最高裁が50年前に自身で下したBrulotte判決を見直すことになった。特許満了後のロイヤルティ支払い要求を一律に反トラスト法違反とするルールは取引の現実を無視したもので、いまでは経済学者だけでなく、独禁法当局でさえ、異を唱えている」といった論調なのです。もう少し具体的に見ます...


[最高裁への上告対象となった今回の事件]

Kimble v. Marvel Enterprises Inc.
(9th Circuit 2013)
原告Stephen Kimbleが発明し、取得した米国特許の製造販売ライセンスを被告Marvelに供与したのですが、そのライセンス契約によると、Marvelが当該製品(Web Blaster)を販売し続ける限りロイヤルティの支払い義務が発生する規定になっていました。その後、特許期間が満了した後のロイヤルティ支払いを巡り、両社が対立。特許侵害と契約違反を主張するKimbleに対し、Marvelは、特許期間満了後のロイヤルティ支払い義務は存在しない旨の確認判決(declaratory judgment)を求める反訴(counterclaim)を提起したのです。

第一審となったアリゾナ地区連邦地裁は、被告Marvel側の主張を認め、控訴審となった第9巡回区連邦控訴裁判所もこれを支持しました。いずれもその根拠を1964年に下された連邦最高裁のBrulotte判決にあるとしたのです。2013年12月13日、これを不服としたKimbleが最高裁へ上告請求を提出しました(Petition for a writ of certiorari filed)。Kimbleは、契約の現実とかけ離れ、経済合理性に欠ける硬直的なルールと批判し、Brulotte判決の見直しを求めたのです。
合衆国訟務長官(Solicitor General)の意見を求めるなどして検討を加えた最高裁が、Kimbleの上告請求を受理したのが2014年12月12日でした。


[不評だったBrulotte判決。控訴審判決もあからさまに仕方なしの先例踏襲]

それにしてもBrulotte判決は結構評判が悪かったのですね。Brulotte判決に基づいて特許権者Kimbleの控訴を退けた第9巡回区控訴裁は、あからさまに「嫌々ながらの判決」であると述べています。まずは冒頭で、

...We acknowledged that the Brulotte rule is counterintuitive and its rationale is arguably unconvinsing.  Nonetheless, recognizeing that we are bound by Supreme Court authority and the strong interest in maintaining national uniformity on patent law issues, we have reluctantly applied the rule.
≪Brulotte判決のルールが直観に反し、説得力に欠けるものであることは承知しているのだけど、最高裁の先例には従わざるを得ないし、特許法問題の統一性を維持する必要性がある以上、嫌々ながらこのルールを採用せざるを得ない≫とはっきりいっています。"We have reluctantly ..."という表現が出てくるのはここだけではありません。私は決して多くの判決文を読んでいるわけではないのですが、それにしてもここまであからさまな表現を見たのは初めてです。

今後の予定(見込み)ですが、最高裁は春ごろに口頭弁論を行い、判決は2015年6月末までに下されることが見込まれています。

*なお、内容をかなり端折りましたが、実際のKimble v. Marvelの事実背景はより複雑で、両社のライセンス契約は一度侵害訴訟を経た後の和解契約(Settlement Agreement)の形をとっています。また、ライセンス対象も特許だけでなくその他のノウハウも含む、「ハイブリッド」ライセンスです。ただし、Kimbleは、特許の権利期間満了後もロイヤルティ・レートを減額しなかったため、特許とノウハウが一体化した不可分のライセンスと認定されてしまったのです。特許とノウハウを明確に分け、特許期間満了後のロイヤルティーを減額していれば、Brulotte判決ルールの下でも違った結論に到っていたはずです(Aronson v. Quick Point Pencil Co.判決(440 U.S. 257 (1979)の適用による)。
このブログではここまで踏み込みませんが、第9巡回区控訴裁判決文はボリュームも23頁と「手頃」ですので、勉強会の材料などにいいかもしれません。

1/2/2015 ヨシロー    あけましておめでとうございます。


*追記: 2015年6月22日に連邦最高裁はBrulotte判決を維持する判決を下しました。『第51話:速報! 米連邦最高裁、50年前のBrulotte判決を維持』(6/23/2015) ご参照ください。


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