22年連続で米特許取得ランキング首位を維持したIBMは、取得した特許を「捨てる」件数もスゴイ。... 第20話末尾で触れたこのトピックについて少し補足しておきます。

IBMの特許放棄件数の多さは、2014年ランキングについて書かれたiam-magazineブログで触れていました。New numbers confirm IBM’s never-ending US patent carousel (iam-magazine 1/13/2015 Richard Lloyd)
≪....年によっては取得した特許の45%近くを認可後4年以内に放棄しているというデータがある。これはまさに、IBMにとって特許を取得する目的(の一部)は、マーケットを意識した数のゲーム、すなわち年明けのプレス発表で定位置のランキング首位を声高に伝える機会、という見方のもととなっている≫

...... According to analysis by Patently O, in some years Big Blue has allowed almost 45% of its patents to lapse within four years grant. That adds grist to the view that for IBM patenting is, partly, a marketing-driven numbers game – an opportunity to put out a press release at the start of each year proclaiming its number one position. ...

ここでiam-magazineが引用するデータは、ミズーリ大ロースクール・Dennis Crouch教授が自身のブログ記事で紹介したものです。"IBM's Patent Abandonment Strategy" (Patently-O 3/1/2012 by Dennis Crouch) 2012年に発表されたもので、当時私も読んだ覚えがあります。改めて読み返してみると、Crouch教授はIBMの特許を発行年ごとに分け、最初の特許維持料金の納付期限内(半年の追納期間と併せて特許発行日から4年)に放棄された割合を、過去20年にわたって示しています。

記事タイトルとは異なり、教授自身はIBMの「放棄戦略」について特に述べてはいません。データを示したほかは、「アップルやキヤノンがほとんど放棄せずに維持しているのに対し、IBMの放棄の裏にはどのような考えがあるのか?」といった問いかけのみです。しかし、この問いかけに対するコメントが非常に盛り上がっているのです。

[早期に放棄しても価値ある特許取得の目的とは]

真っ先に寄せられたコメントが、「主たるファクターは、"PR value"」。iam-magazineの指摘と同じです。
≪やはり数多くの特許を保有していることは、高い株価に値するハイテク企業の証、として株式市場で説得力をもつと多くの企業が考えている。一度特許を取った後は、維持料金を払わずに失効しようが、もはやマーケットではあまり注意を向けなくなる≫というわけです。

さらにこのコメント投稿者によれば、≪IBMは、特許維持料金の支払いを体系的にカットすることにより出費を削減する極めて効果的なシステムを構築している。他の企業はこんなシステムは持っていないし、せいぜい、「有効に存続する我が社の特許をライバル達が監視し、その数に圧倒されているに違いない」と自らに言い聞かせているのだろう≫といいます。 

これが口火を切って、様々な議論が展開されました。「PR効果」だけでない、「防衛公開」の効果がある。いや防衛公開だけのために1000ドルの特許発行料(当時)は高すぎる。・・・そもそも、IBMがそれほど体系的な特許放棄システムを確立しているなど、聞いたことがないが本当か?(...結局、これに対する回答なし) 等々。


[従業員発明者へのインセンティブ]

議論は発明者へのインセンティブにも及んでいます。「IBMの従業員発明者は、特許が発行(認可)される時点で報償を得る。後に放棄されるか否かは関係ない。発明者というものは、報償金だけでなく、自分が発明者として特許が発行されることにプロフェッショナルとしての誇りを感じるもの。おそらくIBMは、金銭的報償や認可特許の発明者となる機会を否定することにより、発明者のやる気をそぐようなことはしたくないのだろう」

こうして議論の中心が「発明者のインセンティブ」へと移っていきます。「従業員発明者への動機づけという観点からいえば、特許発行を待つより、出願時の方が効果的。発明者も協力的になる...」 その意味でいうならば、「なるべく早期に、発明開示の時点である程度の報酬を与えた方がいい。我々が最も気を使うのは、忙しいエンジニアに対し、いかに多くの発明開示を促すことができるかだ......」  ⇒ これはコメント原文を抽出しておきます(No.27がふられているLeopold Bloomという方のコメントです)。

Fair points, our primary concern was encouraging lots of disclosures from very busy engineers, so we also paid a small award just for the disclosure. The last thing we wanted was to have the engineers making patentability judgments on their own – we had a pretty experienced patent team make the filing decisions. We also wanted strong cooperation with the patent attorneys during the preparation phase – the carrot of a substantial immediate payment was quite effective there. Somehow I don’t see that an uncertain payment at an uncertain time as much as 5 years in the future is very motivating.

なるべく早期のアイデア開示・届出を促すインセンティブ制度の話は、中国でもよく聞きます。やはり技術人材の流動性が高い関係で、出願や特許登録時に報酬を払うより、さらに早く開示してもらう(開示させる)必要性が考慮されているようです。

特許放棄の戦略というテーマが、従業員発明者へのインセンティブ策の話へと展開してしまいました。どちらも、企業知財実務における極めて重要なテーマですが、各社それぞれの規模に応じたやり方、考え方があり、普遍的な戦略を語ることもなかなか難しいテーマなのだと思います。

1/23/2015 ヨシロー



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