特許が無効とされた後もロイヤルティ支払いを義務づける契約は、欧州競争法に反するのか? - 欧州司法裁判所は、パリ控訴院からこの争点について判断を求められていたGenentech Inc. v. Hoechst GmbH事件において、間もなく判決を下すことを明らかにした。

この事件は米ジェネンテック社と独ヘキスト社が1992年に締結した欧州・米国を含むワールドワイドの特許ライセンス契約をめぐる争いに端を発しています。まずはその経緯を見ておきましょう。

[紛争の経緯]

1992年8月6日 独ヘキストと米ジェネンテックがライセンス契約を締結。

ライセンス対象は、ヘキストが有する特定のDNAシーケンス("HCMV enhancers")に関する技術で、タンパク質の生産に使用される細胞プロセスの効率を高めることを可能にする。1992年4月22日にはヨーロッパ特許EP173177号が認可され、1998年12月15日には米国特許5,849,522号、2001年4月17日には米国特許6,218,140号が認可された。

ジェネンテックはこの特許技術を使用して研究を行い、得られた製品(医薬など)を生産、販売するワールドワイドの非排他的ライセンスを許諾された。その対価として、契約締結時の一時金払い、年間の固定額払い、さらにライセンス対象製品を販売する場合は、その純販売額(Net Sales Price)の0.5%のランニング・ロイヤルティを支払うこととされた。契約の準拠法は、ドイツ法とされている。

その後ジェネンテックは、いくつかのガン治療薬を開発したが、これをライセンス対象外と自ら判断し、ランニング・ロイヤルティは一切払っていなかった。

1999年1月12日 EP173177号は、新規性欠如を理由として欧州特許庁に無効とされた。

2008年6月30日 ヘキストの子会社Sanofi-Aventis Deutschland(「サノフィ」)がジェネンテックに書簡を送付。ジェネンテックが開発し、販売しているガン治療薬"Rituxan"他とライセンス対象特許との関係について、情報提供を求めた。

2008年8月27日 ジェネンテックは、ヘキストとのライセンス契約を2008年10月27日付で解約する旨の通知を送付。

ヘキストは、ジェネンテックによる契約違反を主張して、ライセンス契約の紛争解決条項に基づき、ICC仲裁裁判所(International Court of Arbitration of the International Chamber of Commerce)に仲裁の申立てをした。

2009年7月2日 ICCが仲裁人Pierre A. Karrer氏を指名


[アメリカでの特許訴訟]

2008年10月27日 *2件の訴訟が同日に提起された

・テキサス東部地区連邦地裁 - サノフィがライセンス対象米国特許の侵害を主張してジェネンテックを提訴
・カリフォルニア北部地区連邦地裁 - ジェネンテックが同特許の無効、非侵害の確認判決を求め提訴
⇒ その後、2つの訴訟は併合され、カリフォルニア北部地裁で一括審理されることになった。

2011年3月11日 カリフォルニア北部地裁判決 - ジェネンテックの"Rituxan"による特許侵害なし

2012年3月22日 連邦巡回区控訴裁判所(CAFC) - 地裁判決を確認 

米裁判所における特許訴訟の過程で、ジェネンテックは仲裁手続きの中止を命ずるよう申し立てが、地裁、CAFCともに、米国での非侵害判決は外国の仲裁対象である契約違反争点に影響を及ぼすものではない、として申立てを却下。CAFCは、「米国訴訟における侵害製品の定義は、契約中のライセンス対象製品の定義とは同じではない、すなわち両事件の争点は異なるもの」と述べている。


[仲裁裁定⇒パリ控訴院]

2012年9月5日 仲裁人裁定: 契約の準拠法であるドイツ法に照らし、ジェネンテックには "Rituxan"その他ライセンス対象物質を用いた医薬品について、ロイヤルティを支払う責任があったことを認定。
仲裁人は、ドイツ法を準拠法とする本件ライセンス契約は、ジェネンテックが当該医薬を生産する国において対象特許が無効と認定された場合であってもロイヤルティの支払いを要求している、と結論づけた。

ジェネンテックはこの裁定を不服として、パリ控訴院(Cour D'Appel De Paris)に上訴した。

ジェネンテックの主張: ライセンス契約では、侵害となる場合にのみロイヤルティを支払うことが定められていた。したがって、特許侵害の認定なしに我々の責任を認定した仲裁人の裁定は、欧州連合域内で生産・販売されている我々の製品が自由に域内を移動することを制限する効果をもたらすものであり、「欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of European Union)」第101条(競争制限的協定・協調的行為の規制)に反する。

2014年9月23日 パリ控訴院決定: 次の争点につき判断を得るべく事件を欧州司法裁判所に付託する。
*英語ブログとして、最後のここを原文引用とします。

"Should the provisions of Article 81 of the Treaty, now Article 101 of the Treaty on the Functioning of the European Union, be interpreted as an obstacle to giving effect, in case of invalidation of the patents, to a licence agreement which imposes on the licensee royalties for the sole use of the rights attached to the patents under licence?"

欧州司法裁判所の判決が具体的にいつ出されるのかは具体的指摘が見当たらないのですが、ウォッチしていくつもりです。

今回の記事に利用した元ネタは以下の3つです。
Will the European Court of Justice Conclude that Antitrust Law Prohibits Royalties for Invalid Patents?(Antitrust Update 3/9/2015 J. TAYLOR KIRKLIN | ROBERT P. LoBUE) 
FR - Genentech v. Hoechst and Sanofi-Aventis Deutschland / Referral CJEU(EPLAW Patent Blog  10/17/2014)
・パリ控訴院9/23/2014判決原文 ...上記EPLAWブログ記事にリンクが張られています 


最後に、このGenentech v. Hoechst事件、以前ここでも紹介したアメリカ連邦最高裁で審理中の事件と似ています。「 第15話: 特許期間満了後のロイヤルティ支払い要求は違法? 米連邦最高裁がBrulotte判決の見直しへ」  このアメリカの注目事例についても最近注目の動きがありました。これについても次回(なるべく早く)取り上げるつもりです。

3/21/2015  ヨシロー  春分の日 ... 休日1日分損した気分ですね


*3/23/2015 追記: Brulotte判決の見直しをしているアメリカ事例の注目の動きを別途取り上げようと思いましたが、手短にここに記しておきます。

2015年3月6日、本件(Kimble v. Marvel Enterprises Inc.)を審理中の連邦最高裁の要請を受けて、合衆国訟務長官が意見書(amicus brief)を提出。Brulotte判決は「競争法」に根ざすものではなく、特許の権利期間が満了した後は公衆が制限なしに利用できることを可能にする特許政策を重視するもの、との考えを示し、Brulotte判決を覆すべきではないと主張しました。
最高裁での口頭弁論は3月31日に予定されているとのことです。
⇒ 参照情報: Solicitor General Argues that Antitrust Principles Do Not Warrant Overturning Brulotte (Antitrust Update 3/12/2015  J. TAYLOR KIRKLIN | ROBERT P. LoBUE )

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