特許期間が満了した後にブランド薬メーカーが直面する「特許の崖」(Patent Cliff)。この崖を回避するためActavisがとった行為は...。

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事案概要
Ⅰ. FDA要件、ハッチ・ワクスマン法、州医薬品代替法
Ⅱ. 関連市場 ⇐ 前回
Ⅲ. 被告によるNamenda XRの導入およびNamenda IRの引き揚げ
Ⅳ. 手続き経過

考察
Ⅰ. 仮差し止め命令の適用基準 ⇐ ここまで今回
Ⅱ. シャーマン法第2条に基づく独占および独占の企て
a. 反競争的行為および競争排除行為
i. 消費者への強制
ii. 競争に対する妨害
b. 競争促進効果に基づく正当化
c. 競争促進効果 v. 反競争的被害
Ⅲ. 責任に対する抗弁としての特許権
Ⅳ. シャーマン法第1条およびドネリー法
Ⅴ. 回復不能な損害
Ⅵ. 仮差し止め命令

結論

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*以下[ ]は原文にはありません。自分の便宜上つけた小見出しです。

. 被告によるNamenda XRの導入およびNamenda IRの引き揚げ(Defendants' Introduction of Namenda XR and Withdrawal of Namenda IR  

["soft switch" と "hard switch"]

「現在、Namenda IRとNamenda XRがメマンチン薬の全市場を占めている。ただし、IRのジェネリック薬5種がFDAの暫定承認を得ており、2015年7月11日に上市が予定されている。また、他に7種のジェネリック薬について2015年10月にも上市の予定がある。Namenda XRは強さと日々の投与計画がIRと異なるため、FDA規則に照らすと、上市予定のIRジェネリック薬はNamenda XRとの治療学的同等性がない。したがって、ほとんどの州で、薬剤師はNamenda XRに代えてIRジェネリック薬を調剤することは許されない」

2013年7月、Namenda XRの上市と同時にActavisは「 プロダクト・エクステンション」(product extension)戦略を実行。

  • Namenda IRとXRのいずれも販売するが、IRの積極的マーケティングはせず、医師、介護者、患者、薬剤師向けにXRの販促に集中。
  • XRをディスカウント販売してIRよりかなり安値にし、健康保険に対してはリベートを与え、XRを利用する患者の自己負担額がIRより高額にならないようにした。
「このように、IRを市場に存在させつつ患者をXRに移行させようとする被告の行為を、両当事者は「ソフトスイッチ」(soft switch)と称しており、当裁判所もこの用語を採用することにする」

2014年初頭、思ったようにIRからXRへの移行が進まず、2015年7月までに自発的にXRに移行するIRユーザーはわずか30%との社内予測が出た。
⇒ 強硬路線への転換

2014年2月14日 Actavisは2014年8月15日にNamenda IRの販売を終了することを発表、FDAにもその旨を通知。医療施設、介護施設は患者と「XRへの移行を話し合う」("discuss switching to Namenda XR")よう要請する書簡をウェブサイト上で公開した。

さらに最大の顧客基盤であるメディケア(高齢者向け保険)患者によるIRからXRへの移行を促すべく、メディケア・サービスセンターに対し、処方集リストからIRを削除するよう要求する書簡を送った。(その後、XRの生産遅れなどによりIRの中止はさらに2014年秋に延期)

「Namenda IRを市場から引き揚げようとする被告の行為を、両当事者はハードスイッチまたは強制スイッチ」(forced switch)と称しており、当裁判所もこの用語を採用することにする」


Ⅳ. 手続き経過(Procedual History)

Actavisが「ハードスイッチ」に戦略転換し、Namenda IRを市場から完全に引き揚げようとした2014年9月にニューヨーク州による反トラスト法訴訟が提起された。同時にNY州は、訴訟手続き中、Actavisが患者によるNamenda IRの入手を制限することを禁ずる仮差し止め命令の申立て(motion for preliminary injunction)を提出した。 State of New York v. Actavis PLC (1:14-cv-07473, SDNY, filed 9/15/2014) 

反トラスト法違反を主張するニューヨーク州側の理論:

「Namenda IRがもっていた排他期間の終了に近づくや、被告(Actavis)はNamenda XRを導入し、IRのジェネリック薬が上市される前にNamenda IRを市場から引き揚げ、患者がIRからXRに移行せざるを得ないようにした(XRに対してはほとんどの州でIRジェネリック薬が代替調剤されることが許されない)。この行為により被告は、メマンチン薬市場へのジェネリック薬の参入および同市場における競争を妨害し、同市場における自らの独占を維持しようとした」

*この後の詳細な手続き経過については省略します。 32話: 注目のActavis社「プロダクト・スイッチング(ホッピング)」反トラスト法訴訟、最新動向 (3/15/2015) 』などご参照ください。

2014年12月11日 地裁命令はNY州の申立てを認容し、Actavisに対する仮差し止め命令を下す。

命令内容:
  1. 差し止め期間*中、...被告はNamenda IR錠剤を2013年7月21日以降の条件と同様の条件で市場に出し続けること。
  2. 被告は、医療機関、薬剤師、患者、介護者、医療保険に対し、本差し止め命令について ... Namenda IRが引き続き利用可能であることを知らせること。
  3. 被告は、差し止め期間中、Namenda IRの処方箋記載において"medical necessity"要件やフォームを課してはならない。
*差し止め期間(Injunction Term) = 仮差し止め命令の発効日(12/15/2014)から、ジェネリック・メマンチン薬が最初に上市される日(2015年7月11日)の30日後まで


考察(Discussion)

Ⅰ. 仮差し止め命令の適用基準(The Applicable Preliminary Injunction Standard)

[通常の基準 vs. 高められた基準]

「被告は、仮差し止め命令について判断する際に、仮差し止め命令により『実質的に請求されたすべての救済』をNY州に与えることになるにもかかわらず、『高められた基準』を採用することなしに、通常の基準を採用したことに地裁の誤りがある、と主張する。当裁判所は『高められた基準』の採用に同意する」
(Defendants argue that the district court erred by applying the ordinary tandard for a preliminary injunction, rather than a heightened standard, because the injunction provides New York with "substantially all the relief southt."  We agree that heightened standard applies.)

通常の基準:
  1. 回復不能な損害(irreparable harm)
  2. (a)本案勝訴の蓋然性(a likelihood of success on the merits)、または(b)本案の審理に付すべき重要な疑義が存在し、仮差し止め命令の認否による各当事者の困難度を比較衡量すると、差し止めを認めない場合の申立人の困難度の方が大きくなる
  3. 仮差し止め命令が公益に資する

高められた基準:
  1. 回復不能な損害の「強い証明」(strong showing)
  2. 「明確または相当な」本案勝訴の蓋然性(clear or substantial likelihood of seccess)
  3. 仮差し止め命令が公益に資する

本件において地裁が下した差し止め命令は、ジェネリック薬が上市された後30日間効力を維持。これは永久差し止め命令(permanent injunction)と同じ効果をもたらすものであり、原告が最終的に求めているすべての救済を実質的に認めるものといえる。
したがって、本件での仮差し止め命令の可否は、「高められた基準」で判断されるべき。

NY州はシャーマン法第2条に基づく独占および独占の企てに関する請求の本案において勝訴する「相当な蓋然性」を示し、かつ被告の行為がメマンチン薬市場における競争と消費者に対する回復不能な損害をもたらす強い証明をした。ゆえに、地裁は仮差し止め命令を認めた際に裁量権を濫用したとはいえない。

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ということで、次回より本論に入ります。仮差し止め命令を認める際の基準などは省略するつもりでしたが、"hightened standard"のことなど初めて知ることができ勉強になりました。正確に情報武装するための知識をひとつ増やすことができました。

6/15/2015  ヨシロー



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