2015年11月27日、独マンハイム地裁は、AMR-WB規格に関する欧州特許(EP1 125 284)の侵害を理由にSaint Lawrence社がドイツテレコムを訴えていた事件で、ドイツテレコムの侵害差し止めを命ずる判決を下した(Saint Lawrence Communications GmbH v. Deutsche Telekom, LG Mannheim, 11/27/2015)  

標準必須特許(Standard Essential Patents: SEP)の権利行使とFRANDライセンスの関係について指針を示した欧州司法裁判所判決後、欧州国内裁判所としては初となった独デュッセルドルフ地裁の判決を少し前に紹介しました(「第68話:ドイツ裁判所がHuawei v. ZTE判決後初のFRAND判決 - NPEに差し止め救済認める」11/22/2015)。
 
このデュッセルドルフ地裁判決(2015年11月3日)から3週間余り後の11月27日に、マンハイム地裁でも同様の争点を扱う判決が下されました。ここで知りました⇒ ”DE – Saint Lawrence Communications v. Deutsche Telekom” (EPLAW PATENT BLOG 12/22/2015) 


SEP保有者の差し止め請求と被疑侵害者のFRAND抗弁

本件の原告で、HD Voice通信に使用されるAMR-WB標準技術の特許保有者であるSaint Lawrence Communications GmbHは、アメリカの代表的NPEであるAcacia Research Group LLCの欧州法人です。ドイツテレコムが販売する携帯電話等が侵害請求の対象ですが、これら携帯電話はHTCその他の端末メーカーがドイツテレコムに供給したものであるため、HTC他が本件訴訟の参加人(intervener)となっています。

マンハイム地裁でも、先のデュッセルドルフ地裁と同様、差し止め救済を求める原告に対し、FRAND宣言に反するという被告の抗弁について、先の欧州司法裁判所判決(Huawei Technologies Co. v. ZTE Corp., CJEU, 7/16/2015)が示した指針に沿って判断しています。


FRAND宣言をした標準必須特許の保有者が差し止め救済を求める前にとるべきステップ
  1. 特許保有者は、被疑侵害者に対し、特許侵害について通知しなければならない。
  2. 被疑侵害者が当該特許についてライセンスを受ける意思を有する場合、特許保有者は、標準必須特許について、FRAND条件に基づく、書面による具体的なライセンス申し出を提示しなければならない。
  3. 被疑侵害者は、ライセンスの申し出に対し、誠実に遅滞なく回答しなければならない。
  4. 被疑侵害者が当該申し出を受諾しない場合、合理的時間内に、FRAND条件に基づく反対申し出を特許保有者に提示しなければならない。
  5. 特許保有者がこの反対申し出を受諾しない場合、被疑侵害者は、当該特許の過去の使用分を含め、利益計算をし、ロイヤルティ支払いの担保/保証金を提供しなければならない。

マンハイム地裁の判断 - ポイントは被疑侵害者による反対申し出の内容

実は本件原告による侵害の通知は、訴状を地裁に提出した後だったといいます。もっとも、実際に訴状が被告に送達される前に侵害通知書間(訴状の写し添付)は被告弁護士に届けられ、地裁としては(その他の理由もあり)実害はないとして、この点は問題にしていません。

次に、原告のライセンス申し出に対し、被告ドイツテレコム自身はこれを受諾せず、業界の慣行として、サプライヤーであるHTCに対応させましたが、地裁はこのことの是非自体については一切触れていません。HTCが原告のライセンス申し出に同意できずに提出した「反対提案がFRAND条件になっていない」ことを認定し、この一点を理由に、被告側のFRAND抗弁を退けたました。(判決原文がどのような表現をしているのかは確認していません。あくまで、上記EPLAW PATENT BLOGでの英文紹介に基づいています)

ここで、マンハイム地裁は、SEP保有者が最初に提出したライセンス申し出がFRAND条件を満たしていたか否かを判断する前に、提示されたライセンス提案に対し被疑侵害者が提出した反対提案がFRAND条件を満たしているか否かを先に判断する。すなわち、SEP保有者が最初にある程度具体的条件を盛り込むライセンス申し出を提示すれば、FRAND条件に沿った反対提案を提出する義務が被告側に転換される、という手法を採用したというのです。

マンハイム地裁にしても、先のデュッセルドルフ地裁にしても、被疑侵害者側にかなり厳しい(侵害通知の遅れなど原告の不備については甘い?)姿勢を示していますが、この後、高等裁判所レベルで判断や判断手法がどうなるかが注目されるとのこと。


新たな「テキサス東部」?

それにしても、注目の欧州司法裁判所判決の後、ドイツの注目訴訟で相次ぎNPEが差し止め命令を勝ち取っています。

最近では、NPE/トロールのみならず、多くの特許者にとって権利行使のハードルが非常に高くなっている米国に比べ、中国の法廷がますます特許権利者に有利になっていると聞きます(特許権者の勝率が75%、侵害が認定された際に差し止め救済が認められる率は95%。「いまや中国の裁判所こそ『テキサス東部地裁(権利者に有利な米国トロール御用達裁判所』だ」)。 

中国と並び、ドイツもトロールにとって魅力的なフォーラム(forum, 裁判地)になっていくのでしょうか。...もうなっている?


12/24/2015  ヨシロー


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