注目のVringo v. ZTE訴訟は、ベテランPIPCO投資家の予想(1億2000万ドル)をはるかに下回る2,150万ドルのライセンス料で和解した。この数字は、しかし、昨今の米国特許市場の現実に鑑みれば、決して悪い数字ではない。

まずは第71話のおさらいです。

2015.12.7 米Vringoと中国ZTEが世界各国で係争中の特許訴訟で和解成立
  • ZTEはVringoへ2,150万ドルを一括払い(和解契約締結後15日以内)
  • Vringoは全額受領後10日以内に全訴訟を取り下げる
  • VringoはZTEへ、係争対象特許のワールドワイド・非排他的ライセンスを供与
  • 両者は世界中の特許訴訟を取り下げる

前回紹介した、この和解に対するJack Ellis氏の視点をみたいと思います("Vringo's $21.5 million global settlement with ZTE reflects the IP market's new realities"(Jack Ellis, iam-magazine 12/8/2015) 。


2,150万ドルという額が示す米特許市場の現実

今回の係争対象特許は第3世代移動体通信に関する3GPP標準の必須特許であり、Vringoがノキアから買い取ったもの。VringoとZTEの和解額については、複数のPIPCO投資家や特許ディーラーがかなりの高額を予想していたといいます。例えば、David Hoff氏(IP Hawkブログを運営するベテランPIPCO投資家)は、「1億2000万ドルはいくだろう」と予測していました。

では2,150 万ドルという額は、少なくともPIPCO投資家達にとって「まったく話にならない額、不可解な額」なのかというと、そうでもない。1億2000万ドルを予想していたHoff氏にしても、現実の和解額を聞いたときの反応は、「ポジティブ」だったそうです。
 
要するに、この額は「patent manetizationがかなり難しくなってきている」現状を反映するもの。とりわけ米国においては、「トロール対策」の名の下に、司法、立法だけでなく、社会一般に「アンチパテント」環境ができあがってしまった。このような環境下では、2,150万ドルという額も決して悪いものではない、というわけです。

ー 「トロール対策」の名の下で広まる「アンチパテント」環境の問題については、2015年に入り、トロール問題以上に広く目にするようになりました。たとえば、”第67話:「大企業による『効率的侵害』を助長しかねない特許改革法案」- NYタイムズの痛烈な批判に専門家の評価は?”(11/8/2015)ご参照。

そして、このような「アンチパテント」の環境下、そのターゲットとされるトロール/NPEも従来型スタイルの変更を余儀なくされているといいます。
 
 
スタイル変更を迫られるトロール/NPE/PIPCO

現環境下では、旧来型の権利主張・ライセンシングオンリーの形態では立ち行かず、事業会社的要素をとり入れ、R&Dや生産を行うトロール/NPEが増えてきたといいます(NPE=Non-Practicing Entityでなくなる)。本件Vringoも複数の事業会社とのコラボを展開しています。

他に、日本企業がよく利用するカナダのNPE、WiLANについて興味深い記事をやはりJack Ellisが書いています。"When it comes to monetising Japanese patents, WiLAN seems to have the special sauce" (Jack Ellis, iam-magazine 6/23/2015 )

この記事では、ご多分に漏れず、厳しい環境下で低迷する株価により投資家を失望させているものの、特許取引は活発なWiLANの近況を報告しています。

独半導体メーカー、インフィネオンから3,300万ドルで購入した約7,000件の特許(元々は破産したQuimonda社の特許)について、サムスンと広範なライセンス契約を締結し、特許の残存期間中に1億ドルのライセンス収入の見込み(6/2/2015 WiLAN発表)。その直後に日本の電気メーカーとマイクロフォン技術に関する特許ポートフォリオのライセンシング受託が成立(6/10/2015発表)。これはWiLANと契約した日本企業として3社目だそうです。

いまだNPEとパートナーを組むことを懸念する日本企業が多い中で、なぜWiLANが日本企業に選ばれるのか? Ellis氏は以下4点を挙げています。
  • 確かな成約実績
  • 財務的安定性
  • 自身のR&D投資
  • 公開企業(PIPCO)としての透明性

これまで何度も出てきたPIPCOとはPublic IP Companyのこと。株式を公開しているNPEのことです。本ブログでも一番最初に取り上げました(「第1話:NPEはどこへ行くのか - PIPCO第3四半期決算が示すもの」 11/4/2014)。あるPIPCOのCEOは「日本企業は我々が公開会社であることで安心してくれる。シェルカンパニー(隠れ蓑会社)を使うような会社は敬遠していたね」と言っていました。 


さて、第1話に言及できたところで、この話はお終いとします。2015年内に書くつもりが年越しになってしまいました。このVringo v. ZTE事件、他にも特許市場の移り変わり(「本訴訟は、米国NPEが世界各国で主要な訴訟を展開した(米国はone of themに過ぎない)初のケース」)、ZTEによる独禁法反訴など興味深いテーマが満載ですが、関連トピックをいくつか挙げておきます。



1/1/2016 ヨシロー  謹賀新年 


 
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本件ではZTEがVringoとの守秘契約に違反して制裁を受ける可能性があった….ZTE弁護士はホッとしているのではないか…