独デュッセルドルフ高等裁判所(上級地方裁判所)は、欧州司法裁判所によるHuawei v. ZTE判決後、標準必須特許の権利行使とFRAND抗弁をめぐるドイツ初の事件として注目されたSISVEL v. Haier事件において、地裁が特許権者SISVELに認めた差し止め命令の執行停止を命じた。

デュッセルドルフ高等裁判所の執行停止命令が下されたのは、2016年1月13日。この命令は、控訴手続き中に下された暫定命令(interim order)であり、被告ハイアールによる特許侵害を認定した一審の判断が覆されたというわけではありません。 

この命令について紹介している専門家記事によると、高裁は次の旨を述べて執行停止を命じたといいます("German appeal court halts Sisvel injunction in key SEP litigation case" Joff Wild iam-magazine blog  1/21/2016)。

地裁が、被告ハイアールに対する原告Sisvelのライセンス申し出はFRAND条件に基づくもの、と仮定して審理を進めた点に誤りがある。実際にFRAND条件でのライセンス申し出であったか否かを最初に判断すべきであった。 - 特許権者の最初の申し出がFRANDであったか否かは関係ない、などということはあり得ない。FRAND条件の申し出が特許権者からなされた後に初めて、被疑侵害者の義務が生じてくるのだ。


デュッセルドルフ高等裁判所命令に到るまでの経緯

ここで、本ブログでも取り上げた直近の関連判決・命令を振り返ります。

  • 2015年11月3日 デュッセルドルフ地方裁判所判決(SISVEL v. Haier)
    欧州司法裁判所によるHuawei v. ZTE判決後、FRANDライセンスと権利行使に関するドイツ国内裁判所初の判決。イタリアの特許ライセンス会社Sisvelの特許が侵害されたことを認定し、被告ハイアールに対する差し止め命令を認める判決を下した。(『第68話:ドイツ裁判所がHuawei v. ZTE判決後初のFRAND判決 - NPEに差し止め救済認める』) ⇒ この判決を不服としてハイアールはデュッセルドルフ高等裁判所へ控訴。今回の暫定命令に。

特許使用者(被疑侵害者)に厳しい立証責任を課した地裁判決

欧州司法裁判所が指針を示した後、これを具体的事案に適用するドイツ国内裁判所の判断が相次いで下されたわけですが、いずれも特許使用者(被疑侵害者)側にかなり厳しいものでした。デュッセルドルフ地裁、マンハイム地裁がそれぞれ、この指針をどのように適用したか、もう一度みてみます。

欧州司法裁判所が示した指針
[FRAND宣言をしたSEP保有者が差し止め救済を求める前にとるべき5つのステップ] 
  1. 特許保有者は、被疑侵害者に対し、特許侵害について通知しなければならない。
  2. 被疑侵害者が当該特許についてライセンスを受ける意思を有する場合、特許保有者は、標準必須特許について、FRAND条件に基づく、書面による具体的なライセンス申し出を提示しなければならない。
  3. 被疑侵害者は、ライセンスの申し出に対し、誠実に遅滞なく回答しなければならない。
  4. 被疑侵害者が当該申し出を受諾しない場合、合理的時間内に、FRAND条件に基づく反対申し出を特許保有者に提示しなければならない。
  5. 特許保有者がこの反対申し出を受諾しない場合、被疑侵害者は、当該特許の過去の使用分を含め、利益計算をし、ロイヤルティ支払いの担保/保証金を提供しなければならない。

デュッセルドルフ地裁判決

 ≪...地裁はSISVELのライセンス申し出がFRAND条件によるものであるか否か(要件2)について詳細に触れておらず、ハイアールが遅滞なく申し出に対応したか(要件3)についても触れていない。いずれにせよ、ハイアールが要件5にある過去侵害分の利益計算と担保/保証金の提出を怠ったことを地裁は認定し、ハイアールによるFRAND抗弁を却下した......。≫ (前出「第68話」より)

マンハイム地裁判決
≪...原告のライセンス申し出に対し、被告ドイツテレコム自身はこれを受諾せず、業界の慣行として、サプライヤーであるHTCに対応させましたが、地裁はこのことの是非自体については一切触れていません。HTCが原告のライセンス申し出に同意できずに提出した「反対提案がFRAND条件になっていない」ことを認定し、この一点を理由に、被告側のFRAND抗弁を退けました
 
 ここで、マンハイム地裁は、SEP保有者が最初に提出したライセンス申し出がFRAND条件を満たしていたか否かを判断する前に、提示されたライセンス提案に対し被疑侵害者が提出した反対提案がFRAND条件を満たしているか否かを先に判断する。すなわち、SEP保有者が最初にある程度具体的条件を盛り込むライセンス申し出を提示すれば、FRAND条件に沿った反対提案を提出する義務が被告側に転換される、という手法を採用したというのです。≫  (前出「第70話より」)

一方的に特許使用者(被疑侵害者)に厳しいドイツ地裁の判断に対し、高裁がどのように判断するか注目される、と前回書きましたが、案の定(?)偏りが是正されることになりました。

ちょうど今朝の日経(2016.1.25)に、日本の公取によるSEP権利行使指針公表の記事が出ていましたね。
「標準特許」侵害巡り公取委、差し止め請求に指針 知財権の保護 念頭に
標準規格を満たす製品に不可欠な特許を侵害されたら、企業は販売差し止めを請求できるのか。公正取引委員会は21日、独占禁止法上の指針を公表した。昨秋の予定だった発表が遅れたのは、昨年7月公表の指針案に対して「特許保有者の権利を制限し過ぎてバランスを欠く」との批判が国内外から殺到したためだ。

当初案は特許保有者に厳しすぎたとは、ドイツとは逆ですね。


1/25/2016 ヨシロー

 

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