営業秘密の不正流用について判断する際、中国の裁判所は、被告が営業秘密にアクセスしたという事実よりも、原告の営業秘密と、窃取した営業秘密が使用されている被告の技術との類似性に焦点を当てる傾向がある。したがって、中国で営業秘密を守るためには、類似性が争点になる前の不正流用初期段階で訴追することが重要ポイントとなる。

前回、営業秘密(トレードシークレット)不正流用事件をめぐる米中の摩擦について取り上げましたが(『第78話:米中営業秘密摩擦最前線 - 中国商務部(MOFCOM)が米関税法337条の域外適用に物申す』(3/13/2016))、今回は営業秘密不正流用(misappropriation)に対する米中裁判所の判断アプローチの違いについて取り上げます。

参照したのは、第78話で参照したMark Cohen教授ブログ記事の1ヵ月前に同教授が掲載していた記事です。"Of NDA’s and Smoking Guns: China’s Evolving Landscape of Trade Secret Protection"(China IPR 2/2/2016) 同一当事者間の、同一の営業秘密に関する不正流用訴訟において、米中裁判所が異なる判決を下したSI事件SI Group, Inc. v. Sino Legend, Sino Legend v. USITC)の米中裁判所それぞれの判決を題材にして、両国裁判所のアプローチの違いを説明しています。

この説明をここでも取り上げようと思うのですが、正直言って教授の手短なブログ記事だけだと、私には正確なところが理解できておりません。あくまで、Cohen記事の範囲内で、キーワードを拾いつつ、当ブログの一話として納めておくものです。(「アクセス」と「(実質的)類似性」ということばは、著作権侵害判断に使われる基準としてしか知りませんでした)


SI事件が示す米中裁判所アプローチの違い(Similarity approach v. Access approach

米企業SIグループが中国企業Sino Legendによる営業秘密の不正流用を主張して米中で提訴した事件では、中国で不正流用が否認され、米国で認められました。正反対の結果が出た理由として、両国の裁判所の判断手法の違いが以下のように指摘されています。

米中の根本的違い
米国:原告、被告間の(営業秘密対象)技術の類似度より、秘密対象情報へのアクセスの事実を重視。
中国:アクセス事実より、技術の類似度を重視


中国裁判所の傾向(
similarity-oriented approach)
中国裁判所の「類似性志向アプローチ」について少し詳しい説明。
 
特許訴訟と同様に、営業秘密を構成するそれぞれの「クレーム」を分析する。(営業秘密対象である)技術全体として見た場合に類似しているかを判断する、というアプローチはとりたがらない。流用された技術の類似性に過度に焦点が当てられることにより、不正流用行為の不公正さがぼやけてしまう恐れもある。 

中国最高人民法院(最高裁)が示した司法解釈では、リバースエンジニアリング(reverse engineering)は営業秘密不正流用の主張に対する抗弁となることを明記しているが、「類似性」アプローチは、これをさらに一歩進め、不正流用した技術の変更に基づく抗弁(non-infringement defense based on modifying misappropriated technology)を採用するもの。

知財専門の中国裁判官…特許侵害判断との混同あり(?)

技術が「類似」しているか否かという概念は、特許侵害判断に際しての「均等論(doctrine of equivalents:DOE)」を想起させる。しかし、特許法では、リバースエンジニアリングは侵害抗弁にならない。DOEも、広い保護を与えることにより、特許発明の早期開示を促すという政策目的がある。営業秘密にはそのような早期開示目的はない。あくまで不正流用から営業秘密を守ることが目的。

営業秘密事件を扱う中国の裁判官は知財事件専門の裁判官であり、特許訴訟も扱っています。そこで、上記のように、本来目的が異なる特許侵害判断のアプローチと混同したアプローチがとられているのではないか、と示唆しています。ただし、すべての裁判所(裁判官)がこのようなアプローチをとるわけではありません。

「類似性自体は抗弁ではない」とした数少ない中国判決
Chongqing Long Life Xinxieli Chemical Company Ltd vs. Hu Xiantang et al.
「不正に取得した営業秘密に対して変更を加えても、営業秘密侵害に変わりはない」

中国の営業秘密訴訟で有利な判決を得る秘訣 
一部の例外があるにせよ、被告が実施している技術の「類似性」を重点的に見る中国裁判所の傾向を踏まえ、Cohen教授は次のようにアドバイスします。

カギは、「銃口から煙が立ち上っている(gun still smokes)」間に手を打つこと。すなわち、窃取された(営業秘密対象)技術が、実際に被告によって使用(応用)されてしまう前に、訴追した方が成功率が高まる。
 
例:上海イーライリリー事件
事件発覚(元従業員が営業秘密を持ち去った)直後の仮差止命令が認められた事例。裁判所が、(ライバル社で応用された後の)「類似性」について検討する必要がなかった。
このような "early stage" access caseであれば、米中が同様のアプローチをとることになる。

smoking gun = 発砲後立ち上る煙のように、隠すことのできない決定的証拠 

米国裁判所の傾向(access-oriented approach)

実際に利用されている技術の類似性よりも、秘密情報へアクセスしながらそれを不正流用した行為の不公正さにより強く焦点が当てられる米国では、秘密情報の受領者側は厳しい立場におかれることになるといいます。

「アクセス志向」の法廷では、NDA(Non-Disclosure Ageement)がしばしば「smoking gun」になります。このことを示す最新事例として、2015年末、カプラ(coupler)技術に関するサプライヤーの営業秘密を不正流用したとして、米キャタピラー社に7,360万ドルの支払いを命ずる陪審評決が下されたMiller UK Ltd. et al v. Caterpillar Inc.事件(ND Ill, 12/18/2015 jury verdict )が紹介されています。

*なお、このキャタピラー事件は、「アクセス志向」アプローチを示す事例とは別の点で大きな注目を集めた事件ですので、末尾に追記しておきます。


中国で厳しいNDAを要求されたら準拠法・管轄裁判所を中国に
さらに、Cohen教授のブログ記事にはこんな助言もあります。

米国弁護士が中国で厳しい守秘義務契約を強要するため、共同開発案件などにおいて、中国企業側も同様の厳しい条件を米側に要求してくることもよく見られるようになってきた。このような要求に直面した米企業は、上述した中国裁判所の傾向を逆手にとって、契約の準拠法を中国法にし、紛争発生時の管轄裁判所を中国裁判所にするのもひとつの手だ。(記事の締めくくりは、「米中制度のハーモナイゼーションを望む」、となっています)


- キャタピラー事件 -

原告は従業員100名の英国中小企業Miller UK Ltd.。キャタピラーとの供給契約(Supply Agreement)に基づき、自社の営業秘密を開示しつつ、キャタピラーの要求するカプラを供給してきたが、数年後、キャタピラーは独自にカプラを開発したと告げて契約解除を通告した。 供給契約にはキャタピラー側の秘密保持義務条項も含まれていたため、Millerは、キャタピラーによる契約違反と営業秘密の不正流用を主張して、イリノイ北部地区連邦地裁に提訴した。

通常、このような弱小サプライヤーであれば、巨大顧客の一方的解約(および営業秘密窃取)に対し、なす術もなく泣き寝入り、というパターンになるところ。 Miller UKが巨人キャタピラーに立ち向かうことを可能にしたのが、「訴訟ファイナンス(litigation finance)」という新たな訴訟資金調達手段ということです。

関連報道:
"Caterpillar hit with $73.6 million trade secrets verdict in U.S." (Reuter 12/21/2015)
"Should You Be Allowed to Invest in a Lawsuit?" (NYTimes OCT. 22, 2015)他多数


3/21/2016  ヨシロー 営業秘密訴訟における"access"アプローチと"similarity"アプローチ...まだモヤモヤしてます。

 

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