この週末、「iPhone 6の販売停止命令が中国・北京で出された」という報道が目につきました。
「北京でiPhone 6 販売停止命令 現地企業の訴え認める」(日経 6/18/2016) 「中国、iPhone 6 に販売停止命令 『デザイン酷似』」(朝日 6/18/2016)、「『iPhoneは模倣』…北京市が販売中止命令」(読売 6/17/2016)他。

外国メディアでは、
"Apple's Challenges in China Underlined by Patent Dispute - iPhone patent case adds to increasingly tough environment for Western companies"(Wall Street Journal 6/17/2016)
"Apple iPhone Is Targeted in Beijing Patent Case" (New York Times 6/17/2016)他

これらに基づけば、大よそ以下のような出来事のようです。

[行政ルートでの救済請求]

  • 2016年5月、深圳(しんせん)の新興スマホメーカー、佰利(Baili)が、同社のスマホ "100C"に使用している意匠(デザイン)をアップルの"iPhone 6, 6Plus"が侵害していると主張して、北京市知識産権局に救済を求めていた事件で、当局は、アップルによる佰利の意匠侵害を認定。北京市内で iPhone 6, 6plusを販売することを禁ずる差し止め命令を下した。
  • これに対し、アップルは即座に北京知識産権法院(2014年に設置された知財専門裁判所)へ控訴。控訴手続き期間中、差し止め命令の執行は停止されることが認められた。法院での審理は2016年8月頃開始される見込み。

アップルにとって今回の侵害問題は突然起こったわけではありません。
報道によれば、Bailiは、100Cの外観意匠について2014年1月に中国特許庁(国家知識産権局)に登録申請し、同年7月に登録されました(中国では、意匠登録申請に対し実体審査は行われません)。
アップルは2015年3月にBailiの意匠登録の無効を特許庁に申し立てましたが認められず(2015.12決定)、この後Bailiと交渉を行ったのですが、結局合意に到りませんでした。


[権利主張をした中国の新興企業Bailiとは]

これについては、主にWSJが書いています。
それによると、Bailiは中国外では無名ですが、実は新興スマホメーカー、Xiaomi(小米)と同じくらい知られているDigione社の別名。そして、2013年には、中国インターネット検索最大手のBaidu(百度)がDigioneの最大株主になっているといいます。確かに、Baiduという大企業がバックについていれば、無名の中国企業がアメリカの巨人に権利侵害を主張して争うこともうなずけます。


[権利者有利に転ずる中国...米中逆転?]

それにしても、この事件が示すものは...。少なくとも、前出のW.S.JournalもN.Y.Timesも「どうせアップルのデザインを模倣したくせに...盗人猛々しい」などと批判的なことはいっていません。

The ruling is a hint of the growing challenges that Western companies are facing here, as Chinese companies mature into stronger competitors and regulators increasingly insist that foreign firms play by Beijing’s rules. (前出WSJ)


この事例は今後、中国でビジネス展開をする西側企業が直面することになる様々な課題を示すもの。かつて主流だったあからさまな模倣、ただ乗りであれば、司法ルート、行政ルート、あらゆるルートを通じてひたすら叩く、また、政府を通じて法整備を要求するなどの手段がありました。しかし、いまや中国の法整備はかなり進み、今回のBailiにしても、この法律に則って自ら意匠権を取得し、差し止め命令を請求しています。

皮肉なことに、米国がトロール対策に必死になり、特許権行使のハードルを極めて高くしている間、逆に中国は、特許権者にとって有利な場となったといわれます。


今回報道された差し止め救済にしても、米国ではeBay最高裁判決により、差し止めが認められることが困難になったのに対し、中国では、権利侵害が認定されれば、差し止め救済はほぼ認められる状況です。まさに、eBay判決前の米国の状態になっています。中国の法廷では 権利者側の勝訴率もかなり高くなっています。

このような状況の変化を見極め、しっかり中国の法律と中国企業の戦略を研究して対応しないと、「してやられる」ことになりかねない、ということなのでしょう。
(いま、出先で書いているため、差し止め救済の認められる割合や権利者勝訴率などのデータが手元にありません。後でもう少し詳しくデータを追記します)


同じく、この週末、日本のテレビでは上海で開業したディスに―ランドについて紹介しつつ、周辺で展開される相変わらずの偽キャラクター商売を取り上げ、アナウンサー、コメンテーター、ゲスト、皆で「困ったものだ」と嗤っていました。


確かに、このあからさまな模倣は、いまなお大きな問題です。しかし、一方で進む、国を挙げての知財戦略構築、先端企業の特許観、実行力などを見ていると、いずれ米国企業のみならず、日本企業にとっても、とんでもない事態が起こらないとも限りません。

(... 前記のとおり、手元にデータ、情報がないため、ダラダラとなりがちです。ここでやめておきます)
 


6/20/2016 ヨシロー


追記(6/23/2016): 中国知財訴訟データをいくつか追記しておきます。在中米国人弁護士Erick Robinson氏の昨年のブログ記事("CHANGING OF THE GUARD:  CHINA INCREASING PATENT RIGHTS WHILE THE US GOES THE OTHER WAY" Erick Robinson 11/11/2015)から抽出しました。上記WSJ記事にも同弁護士のコメントが掲載されています。

中国特許訴訟が有利な理由
  • 権利者の勝訴率の高さ(75%) (外国権利者の勝訴率はさらに高い)
  • 差止め救済がほぼ認められる(95%) 
  • 訴訟費用の安さ (米国の1/10)
  • 専門裁判所が機能
  • 第4次特許法改正案も後押し(間接侵害、3倍賠償 etc.)